自動運転タクシー、最新の市場規模予測まとめ【国内・世界市場別】

CAGR90%超の予測も!日本でも計画が次々具体化



出典:Waymo公式サイト

米国、中国を筆頭に開発競争の熱が高まり続けている自動運転タクシー。日本でも具体的な計画が持ち上がり、官民ともども温度が高まり始めている。

自動運転サービスの象徴でもある自動運転タクシーは、今後どのように市場を拡大していくのか。各リサーチ事業者のレポートに触れつつ、現在の国内外の動向について解説していく。


■「自動運転タクシー」の定義

ライドシェアやカーシェアなどもほぼ同義

自動運転タクシーは、自動運転技術によって既存のタクシーサービスを無人化したものだ。海外ではロボタクシーと呼ばれることも多い。ドライバーの役割を自動運転技術が担うことでドライバーレスを実現し、2地点間の自由かつ柔軟な移動を実現する。

自動運転システムがあらかじめ定めたODD(運行設計領域)エリア内において、利用者が望むA地点からB地点までの移動をドライバー不在の無人車両が担うサービスだ。利用者がアプリで乗降地をそれぞれ指定すると、無人タクシーが迎えに来る仕組みだ。

こうした自動運転タクシーには、将来さまざまな移動サービスが統合されていく可能性が高い。例えば、自動運転化されたライドシェアやカーシェアサービスだ。


これらのシェアサービスが無人走行を実現すると、事実上自動運転タクシーと同サービスとなる。ライドシェアは自家用自動運転車を活用するイメージだが、利用者視点ではタクシーと変わらない。プロドライバーと一般ドライバーの区別がなくなるためだ。

【参考】関連記事としては「自動運転タクシーとは?」も参照。

カーシェアも、移動可能エリアが制限されるものの自動運転タクシーとほぼ同一のサービスとなる。しいて違いを挙げるならば、A~B地点の距離で課金されるのではなく、利用時間に対して課金される点だろうか。片道だけのワンストップ利用も可能になるため、自動運転タクシーに統合されていく可能性も高そうだ。

ODDに収まりにくい長距離移動などを除けば、自動運転サービスはタクシーとシャトル・バスのような乗り合い型に収束していくのかもしれない。


このほか、自動運転タクシーに近いサービスとして、自動運転シャトルサービスの進化版を挙げることができる。特定路線の運行ではなく、特定エリア内に複数の乗降スポットを設定し、スポット間の柔軟な移動を可能にする仕組みだ。

ピンポイントでの移動を可能にする自動運転タクシーに対し、最寄りのスポットからの移動となるが、実用化の観点で言えば現実解となり得る。こうしたサービスの動向にも注目したい。

■自動運転タクシーの世界市場調査

富士キメラ総研:2045年に545万台規模に

富士キメラ総研が2023年9月に発表した「2023 次世代カーテクノロジーの本命予測」によると、自動運転タクシーは2045年に545万台規模に達すると予測している。

出典:富士キメラ総研プレスリリース

法規制が絡むため実用化に関しては各国政府が慎重な姿勢を示している一方、2023年の市場は米国での限定的サービスや中国で実証地域の拡大などが進められており、セーフティドライバー付き商用サービスや実証向けで数百台程度が見込まれるとしている。

今後、世界各地でセーフティドライバーなしの本格サービスを視野に入れた検証が重ねられ、欧州や中国、北米などで、国・エリアの規制範囲内で商用サービスが開始されるとみている。

今後、欧州ではゼロエミッション実現に向け積極的な展開が期待され、中国では各都市の当局の許可を受けた限定的なロボットタクシーの走行が認められており、販売台数は増加し始めているという。改正道交法が施行された日本では、2025年以降の本格展開が期待されるとしている。

▼注目の自動車搭載技術の世界市場を調査 ADAS/自動運転、ロボットタクシー、e-fuel などに注目|富士キメラ総研
https://www.fuji-keizai.co.jp/file.html?dir=press&file=23102.pdf

ARK Investment Management:移動コストの低下で市場拡大

ARK Investment Managementが2023年1月に発表した「BIG IDEAS 2023」によると、自動運転タクシーの収入は2027年に4兆ドル(約590兆円)、2030年には9兆ドル(約1,300兆円)に達する可能性があるとしている。

出典:ARK Investment Management公開資料

自動運転配車サービス(自動運転タクシー)はすでに世界約15都市で乗客の支持を得ており、今後10年以内に商業利用に拍車かかる規模に拡大する見通しという。

同レポートは「移動コスト」にもスポットを当てており、興味深い調査結果を示している。個人所有車の1マイル当たりの移動コストは自動運転タクシーの普及によって2030年には0.25ドルまで低下するという。

このコストの低下によって配車サービスはより幅広い層の利用者をひきつけ、市場規模を拡大していくという見方だ。

自動運転関連の企業価値も、現在は自動運転開発事業者が占める割合が約9割と圧倒的に高いが、2027年には配車サービス・プラットフォーマー系が約86%を占める可能性があるとしている。

▼ARK Investment Management
https://www.nikkoam.com/files/sp/ark/docs/bigideas2023/10-Autonomous-Ride-Hail_BigIdeas2023_J.pdf

Fortune Business Insights:2029年までCAGR80.8%で成長

Fortune Business Insightsが2024年7月に発行したレポートによると、世界の自動運転タクシー市場規模は2021 年に 12 億 3,000 万ドル(約1,800億円)と評価されており、その規模は 2022 年に 17 億 1,000 万ドル(約2,500億円)、 2029 年までに 1,080 億ドル(約15兆9,000億円)に成長すると予測している。予測期間中のCAGR(年平均成長率)は 80.8%に上る。

2021 年のロボタクシー市場シェアはアジア太平洋地域が独占しているとし、購買力上昇やハイエンド技術の採用増加などのマクロ経済的要因がこの地域の市場の成長を促進するとしている。

北米では、政府が実施する多数の開発プロジェクトによって市場が良好な成長を示すことが予想されるという。

▼ロボタクシー市場規模、シェア、成長|予測レポート【2029年】|Fortune Business Insights
https://www.fortunebusinessinsights.com/jp/ロボタクシー市場-103661

MarketsandMarkets:2030年までCAGR91.8%で成長

MarketsandMarketsが2023年6月に発行したレポートによると、自動運転タクシーの市場規模は2023年の4億ドル(約590億円)から、2030年には457億ドル(約6兆7,200億円)に成長し、CAGRは91.8%に達すると予測している。

共有交通機関への高い需要や車両技術の進歩、燃費の良い公共交通機関への関心の高まり、インフラ改善などが市場成長の原動力になると予測する一方、渋滞地域での自動運転タクシーのシームレスなナビゲーションや技術進歩に必要となる多額の技術革新コストが成長の障壁となる可能性があることも指摘している。

▼ロボタクシー市場|市場規模予測 2030年まで|MarketsandMarkets
https://www.gii.co.jp/report/mama1300949-robotaxi-market-by-application-goods-passenger.html

The Business Research Company:2023年までCAGR 68.0%を記録

The Business Research Companyが2024年5月に発行したレポートによると、自動運転タクシー市場は2020年の1億4,700万ドル(約210億円)から2023年までCAGR 68.0%以上で成長すると予測している。コネクテッドカーの増加が自動運転タクシー市場の成長をけん引するという。

また、世界のロボタクシー市場は集中的で大手企業が進出しており、同市場における競合上位10社が2022年の市場全体の72.7%を占めているとしている。

▼ロボタクシーの世界市場:機会と戦略(~2033年)
https://www.gii.co.jp/report/tbrc1478549-robo-taxis-global-market-opportunities-strategies.html

■自動運転タクシーの日本市場について

自動運転タクシーの日本市場についてを予測した調査レポートは見当たらないが、日本における官民の動きから、将来的な自動運転タクシーの日本市場の形成について、見通しを立てることはできる。

国は2027年にも自動運転サービスの本格事業化目指す

出典:首相官邸

自動運転タクシーをはじめとする自動運転サービスについて、政府は2027年度を本格的事業化ステージの始まりと位置付けている。

岸田文雄首相は2024年6月開催のデジタル行財政改革において、「一般道での自動運転については、2024年度に約100カ所で計画運行を行い、2025年度に全都道府県での通年運行の計画・実施を目指す。さらに、2027年度に自動運転などの新たな技術を用いたサービスの本格的な事業化開始を目指し、専門事故調査体制の整備など、モビリティ・ロードマップ2024に即した取り組みを進める」と発言した。

モビリティ・ロードマップ2024では、2024 年度を短期的な取り組みを行う総括的事業実証ステージとし、自動運転やデジタルを利用した新たな運行管理サービス・アプリなどを事業実証的に導入し、運行の担い手をイメージできるようにするステージに位置付けている。

自動運転事業化に向けた技術の習熟化・高度化や社会受容性向上などを図っていく段階だ。

続く2025~2026 年度は中期的取り組みを行う先行的事業化ステージで、継続的な事業実施の結果、先行的事業化の見込みがあるところに集中的に政策資源を投入し、事業継続や広く事業化を進めていくための課題を抽出する。

インフラ整備などの道筋も検討しつつ、業態にまたがる自動運転車両の活用に係る取り組みも含め本格的な事業化に向けた施策のラインアップを整え、複数地域での事業化実現を図るステージとしている。

そして2027 年度以降を本格的事業化ステージと位置づけ、先行的事業化ステージで抽出した事業継続課題を解決しつつ、事業成立が見込める地域で広く自動運転をはじめとした新たな技術を導入し、技術活用範囲の積極的拡大を図るステージとしている。

業態を支える制度の活用・普及と新たなモビリティサービス市場の確立や、新たな技術をさらに積極的に取り込むための事業改善サイクルの確立、オーナーカーなど他形態への展開を図っていく方針だ。

「自動運転タクシーはいつから」――と明言はしていないが、この2027年度が国としての一つの目標となっている印象だ。

ホンダは2026年初頭、日産は2027年にサービスインを計画

出典:日産プレスリリース

一方、開発者サイドはどうか。国内自動車メーカーとして最初に自動運転タクシー計画を発表したホンダは、2026年初頭に東京都内でサービスインする計画を明かしている。

パートナーシップを結ぶ米GM、Cruise陣営とともに共同開発した自動運転専用モビリティ「Origin」を導入し、お台場エリアを皮切りに徐々にサービス提供エリアを拡大し、500台規模のフリートを構築する方針だ。

ただ、Cruiseは2023年に起こした人身事故をきっかけに無人サービスを中止しており、GMがOriginの開発中止を発表するなど暗雲も立ち込めている。導入車両や時期など、計画変更を余儀なくされる可能性がありそうだ。

日産は、自動運転タクシーと称していないものの、ドライバーレス自動運転モビリティサービスを2027年度にも地方を含む3~4市町村でサービスインするロードマップを発表している。

同社がこれまで実証を重ねてきた自動運転サービス「Easy Ride」を踏まえれば、一定エリア内に設置した複数の乗降ポイント間を自由に移動可能なオンデマンドサービスとなる可能性が考えられる。さまざまなルートを選択可能なシャトルサービスだ。

今後、手を挙げた自治体や詳細なサービス内容などが明かされていくものと思われる。続報に注目したい。

【参考】国内自動車メーカーの取り組みについては「トヨタ、自動運転タクシーの参入見送りか 日産は2027年、ホンダは2026年に展開へ」も参照。

ティアフォーが2024年11月にも事業化へ

新興勢では、ティアフォーの動向に注目が集まる。同社は2019年、KDDIやアイサンテクノロジーなど5社共同で自動運転タクシー事業化に向けた取り組みに着手し、東京都内で実証を重ねてきた。

2024年5月には、レベル4水準の自動運転タクシーによる新たな移動サービスの提供を発表した。まず東京都お台場の複数拠点間でサービス実証を行い、2024年11月から交通事業者と共同で事業化を目指す方針だ。

その後、段階的にサービス提供エリア・拠点数を拡張し、2025年にお台場を含む東京都内3カ所、2027年に都内全域を対象に収め、既存の交通事業と共存可能なロボットタクシー事業を推進するとしている。

タクシー配車が困難な時間帯・経路を対象とする計画で、既存タクシーとの共存を前提としている。まずは2024年11月、どのようなパートナー企業とどのような取り組みに着手するのか、必見だ。

【参考】ティアフォーの取り組みについては「東京に自動運転タクシー!トヨタ車で11月事業化へ ティアフォー発表」も参照。

■開発・実用化のマクロ的状況

開発メーカーは?

自動運転タクシーのパイオニア的存在は米グーグル系Waymoだ。Waymoは2018年12月、世界に先駆けて米アリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーの有料サービス「Waymo One」の提供を開始した。当初はセーフティドライバー同乗のもと運行していたが、翌年には無人車両の導入を開始している。

2022年にはCruiseがカリフォルニア州サンフランシスコでサービスを開始し、Waymoを追いかけ始めた。

米国ではこのほか、アマゾン傘下Zooxがオリジナルの自動運転車を活用し、ネバダ州ラスベガスで2024年中にサービスインする計画となっている。

EV大手テスラも10月に自動運転タクシーに関する発表を行う予定だ。「Cyber cab(サイバーキャブ)」のお披露目をはじめ、イーロン・マスク氏が構想するオーナーカーを活用した自動運転タクシーサービスなどの詳細が明かされるのか、大きな注目が集まるところだ。

米国ではこのほか、Aurora InnovationやMotionalなども自動運転タクシー事業を計画している。

中国では、百度(Baidu)を筆頭に、WeRide、AutoX、Pony.ai、Didi Chuxing(滴滴出行)などが意欲的に事業展開している。

新興EVメーカーXpengも自動運転タクシーへの参入を表明しており、2023年5月に広州市から公道走行許可を取得している。同年後半に一般向けのサービス実証を開始する計画としている。

このほか、イスラエルのモービルアイが欧州や日本などの交通事業者とパートナーシップを結び、自動運転タクシーの広域展開を計画している。日本ではWILLERと提携しており、2023年度の愛知県の実証に参画している。

クロアチアのRimac Group(リマック・グループ)も自動運転専用設計の自動運転タクシーを発表済みで、2026年にもクロアチアをはじめ欧州で展開していく計画を発表している。

米国ではWaymoの独壇場、中国は競争ヒートアップ

Google系Waymoが展開している自動運転タクシー=出典:Waymo公式ブログ

米国では、Waymoがフェニックスとカリフォルニア州サンフランシスコで無人運行サービスを提供している。カリフォルニア州ロサンゼルス、テキサス州オースティンでも近くサービスインする予定としている。

Cruiseもフェニックスやサンフランシスコでサービス提供していたが、2023年に起こした人身事故をきっかけに無人走行ライセンスや商用運行が停止されている。現在は初心に帰り、テキサス州ヒューストン、ダラス、フェニックスでセーフティドライバーが同乗した実証を積み重ねている。

Cruiseはドバイ当局と自動運転タクシー展開に向けた大型契約を結んでおり、こちらの動向も気になるところだ。

中国では、Baiduが北京や深セン、武漢、重慶などの5都市で無人運行を実現しており、セーフティドライバー付きを含めると10数都市でサービス展開している。武漢では中国初の24時間サービスを実現したという。

AutoXは北京、上海、深セン、広州、WeRideは広州、Pony.aiは広州と北京など、都市単位でサービス提供エリアを拡大中だ。

米中以外で自動運転タクシーの無人運行を実現している国は今のところないものと思われる。

【参考】中国の動向については「中国の自動運転タクシー事情」も参照。

■【まとめ】自動運転タクシー市場は望外な成長

各社の市場予測を見ていくと、自動運転タクシー市場は望外な成長を遂げていくことが予想されている。バスに比べフリート台数が圧倒的に多く、サービス化した際の規模も大きくなりやすいのだろう。

また、大半が自家用車ベースの自動運転タクシーは、その技術をオーナーカーに応用しやすい点も利点となる。開発スタートアップの多くは自動車メーカーと提携しており、今後、車両の供給のみならず自動運転システムの提供面でも大きな動きが見られるかもしれない。

自動運転タクシーで培われた技術を自動車メーカーがどのように生かしていくか。こうした点にも注目したい。

【参考】関連記事としては「自動運転車の市場調査・レポート一覧(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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