ライドシェア、解禁5年でオワコン化か 安価な自動運転タクシーの普及で

2030年までに状況は一変、無人化技術が凌駕



ライドシェア解禁をめぐる議論が熱を帯びている。タクシー事業者の介在なく一般ドライバーが移動サービスを提供できるようにすべきか否か……が主な争点で、この論点の決着は長期化する恐れもある。


その動向に注目したいところだが、長い目で見ればこうした議論はナンセンスなものとなるかもしれない。その理由は、「自動運転タクシー」だ。

自動運転タクシーが実用化されれば、ドライバー不在の無人車両が移動サービスを提供することが可能になり、人間のドライバー云々の問題はもはや意味をなさなくなるためだ。詳しくは後述するが、高い利益率で運行できるため、運賃も低く設定されていくとみられている。

自動運転タクシーの本格的な普及は2030年ごろから始まるとみられている。現在から数えるとあと5年だ。ライドシェアサービスにどのような影響を及ぼしていくのか。その動向に触れていこう。

■自動運転タクシーの動向
利益率高い自動運転タクシー

自動運転タクシーは、自動運転レベル4以上の技術によって人間のドライバーなしで運行することができるサービスだ。まだまだ開発途上ではあるものの、米国や中国ではすでに複数社が無人運行を実現している。


現時点においては、世界の全タクシーサービスに占める自動運転タクシーの割合は1%未満に過ぎないが、技術が熟成するにつれ導入する動きが大きなものとなっていき、将来的には手動運転タクシーを上回りスタンダードな存在へとなっていくことが予想される。

車両導入時のイニシャルコストは高くなるものの、人件費が営業費用の7割超を占めるタクシー事業においてこの人件費を削減できる効果は非常に大きい。事業の利益率向上をはじめ、運賃を低下させることで価格競争力を発揮することもできる。

タクシー事業者は、しばらくは雇用済みのドライバーに配慮する形で手動運転ファーストの立場をとりそうだが、遅かれ早かれ開発事業者とパートナーシップを結び、計画的に自動運転タクシーへシフトしていくことになるだろう。

自動運転自家用車によるタクシー構想も

一部では、レベル4化した自家用車を自動運転タクシーとして活用する構想も発表されている。EV大手の米テスラを率いるイーロン・マスクCEOは、自家用車が自動運転化された際、使用していない時間帯のマイカーを「TESLA NETWORK」に接続することで、マイカーが勝手にタクシーサービスを提供し、お金を稼いでくれる……というものだ。稼いだ額は、手数料などを除き車両リース代から割り引く仕組みだ。


ODD(運行設計領域)の問題もあり、簡単に実現できるサービスではないのも確かだが、将来的に実用化されてもおかしくはない。マイカーの1日当たりの運転時間は大半が3時間未満であると言われており、多くの時間を駐車場や車庫で過ごしているのだ。こうした時間を有効活用する案として非常に優れたものと言える。

マイカーが勝手に副業をしてくれると考えれば、自分自身が空き時間とマイカーを使って働くライドシェアの上位互換となり得る。ODDに明確な差がなければ、一般ドライバーの手動運転に頼る必要はなくなる。

また、安全面でも自動運転が上回る。事故率の低下はもとより、一部ライドシェアで問題視されているドライバーが加害者・被害者になる事件の存在だ。自動運転で無人化されれば、こうしたドライバーに関わる事件・犯罪は事実上なくなるのだ。

【参考】自家用車による自動運転タクシーサービスについては「自動運転時代、マイカーが勝手にタクシー営業 自ら維持費稼ぐ、テスラも構想」も参照。

既存サービスは自動運転タクシーが上位互換?

自家用車を活用した自動運転タクシーを置いておいても、事業者による自動運転タクシーが普及すれば手動運転によるライドシェアのメリットはなくなる。

無人化によりタクシー事業は人手不足に悩まされることなく需要を満たす台数を市場に投入することが可能になる。運賃を下げることもでき、価格面でも手動ライドシェアより優位に立つことが可能になる。

つまり、自動運転タクシーの普及が進むにつれ、現在のライドシェア事業が縮小していくことはほぼ間違いない。過疎地など自動運転タクシーの導入が遅れそうなエリアも時間の問題に過ぎない。

走行可能エリアが広がり、悪天候下でも安定した自律走行ができるなど、ODDが拡大すればするほど、ライドシェアも既存タクシーも自動運転サービスにそのシェアを奪われていくことになるのだ。

こうした点を踏まえると、一般ドライバーによるタクシーサービスをタクシー事業者管理のもと解禁する自家用車活用事業や、その後のライドシェアをめぐる議論は短期的なものに過ぎないと言える。

長期的視点に立ち、自動運転サービスのベースになるプラットフォーマー各社がどのように自動運転車を管理するのかなど、自動運転車の開発者、所有者、サービス事業者らがそれぞれどのような責任を負い、多様なサービスを実現していくか……といった議論に早期着手すべきなのかもしれない。

■自動運転タクシーの普及期
徐々にサービスエリアを拡大中

では、自動運転タクシーの普及期はいつ訪れるのか。2018年末にWaymoが米アリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーを実用化してから丸5年、無人サービスに着手して以来丸4年が経過したが、この間、サービス実証含む無人サービスはカリフォルニア州サンフランシスコ、ロセンゼルス、テキサス州オースティンに広がった。

中国では、IT大手百度を筆頭にWeRideやAutoX、Pony.aiといった新興勢力が台頭し、北京や上海、深セン、重慶、武漢など各都市で無人化を果たしている。特に百度は2030年までに100都市で自動運転タクシーサービスを実用化する目標を掲げるなど、意欲的な取り組みが目立つ。

今後、Motionalやモービルアイといった有力勢をはじめ、ZooxやMay Mobilityといった開発各社が本格参入することが予想される。競争が激化すれば、実装エリアの拡大にも弾みがつく。

ライドシェアサービスを世界各国で展開する米Uber Technologiesも、アリゾナ州でWaymoの自動運転タクシーを自社プラットフォームで利用可能にするなど自動運転サービスの導入・連携を開始している。

自動運転タクシーの導入が進めば、プラットフォーム上における従来のタクシーとライドシェアサービスの垣根は事実上なくなることが想定される。

ライドシェアの代名詞的存在のUberだが、将来は自動運転サービスプラットフォーマーの代名詞へと進化を遂げるのかもしれない。

【参考】自動運転タクシーについては「自動運転タクシーとは?」も参照。

2030年ごろには市場規模が数十倍に?

インドのリサーチ企業SNS Insiderが2023年3月に発表したレポートによると、自動運転タクシーの市場規模は2022年に17億6,000万ドル(約2,600億円)で、2030年までに985億9,000万ドル(約14兆8,000億円)に達すると予測している。予測期間中の年間平均成長率(CAGR)は65.3%に及ぶ。

MarketsandMarketsが2023年6月に出版したレポートでは、同市場は2023年の4億ドル(約600億円)から2030年には457億ドル(約6兆8,000億円)に成長し、CAGR91.8%で成長すると予測している。

Fortune Business Insightsが2022年7月に発表したレポートでは、2022年に17億1,000万ドル(約2,500億円)から2031年までに1,186億1,000万ドル(約17兆8,000億円)に達し、CAGR80.8%としている。

ARK Investが2023年7月に発表したレポートよると、自動運転タクシーがGDPに与える影響も大きく、同市場は2030年までに世界全体のGDPを年間26兆ドル(約3,600兆円)押し上げると予測している。

数字こそ違えど、各社ともに自動運転タクシー市場の大幅拡大を予測しているのだ。

【参考】自動運転タクシー市場については「自動運転タクシーの世界市場、2030年に15兆円規模!年65%成長と驚異的伸び」も参照。

サービス実装には高いハードルも……

急成長が期待される自動運転タクシー市場だが、一方では米GM傘下Cruiseのように、事故をきっかけにサービス停止を余儀なくされるケースも出ている。現在、エリアを絞ってサービス再開に向けた調整を進めている段階だ。

また、各報道によると、韓国ヒョンデとともにMotionalを設立したAptivや、Cruise親会社のGMはそれぞれの開発企業への出資を抑える方針を明かしているようだ。期待通りに開発やサービス実装が進捗せず、戦略が二転三転している印象だ。

国の方針や社会受容性の影響を避けて通ることはできないため、勢い任せのイケイケドンドンな展開には必ずストップがかかる。各社とも、積極戦略と慎重戦略が交互に顔を出すような展開が今しばらく続くのかもしれない。

技術向上とともに実装は加速していく

とは言え、自動運転タクシーが急拡大する転機はそう遠くない将来必ず訪れる。自動運転システムの精度が一定水準に達し、かつマッピング技術の向上によりエリア拡大の障壁が低くなった時だ。

一定エリア内を柔軟に自律走行する技術が試される自動運転タクシーは、新規エリアに進出するのに現状数年を要する。セーフティドライバー同乗のもとマッピングを兼ねながら同エリアにおける自律走行の精度を高め、一定レベルに達すれば乗客を乗せるサービス実証に移行し、その後無人化を図っていく流れだ。

こうしたルーティンとも言える開発・サービス実装にかかる各フェーズは、自動運転システムやマッピング技術の向上・万能化によりそれに要する時間を短縮することができる。

つまり、サービス拡大は加速度的に進展していくのだ。現状、その速度は緩やかであり立ち止まることもあるレベルだが、一定水準に達すれば目に見える速さで対象エリアの拡大が進んでいくことが想定される。こうした転機がいつごろ訪れるかが大きなポイントとなりそうだ。

■日本における自動運転タクシーの動き
自動車メーカーが徐々に本腰

日本では、GM、Cruiseとパートナーシップを結ぶホンダが2026年に東京都内で自動運転タクシーサービスを開始する計画を発表している。自動運転向けに専用設計された車両「クルーズ・オリジン」を導入し、徐々にエリア拡大を進めて500台規模のフリートを構築していく方針だ。

トヨタはMONET Technologiesを通じて2024年夏ごろに東京都内で自動運転サービス実装に向けた取り組みを開始するようだ。タクシーではなくバス・シャトルサービスになりそうだが、トヨタの出資先やパートナー網にはAurora InnovationやPony.aiといった有力企業が名を連ねる。各社と連携し、日本国内で自動運転タクシー実装に向けた取り組みを開始してもおかしくないだろう。

日産は、自由な移動をコンセプトに掲げる「Easy Ride」の実証に神奈川県内でいち早く着手している。進捗がやや緩やかに感じられるが、機運が高まり再度本腰を入れることも考えられる。

新興勢力の中では、ティアフォー勢に注目が集まる。2019年にアイサンテクノロジーやKDDIなど各社と共同開発に着手し、東京都内などで実証を重ねている。

モービルアイと手を組むWILLERも有力だ。モービルアイも自動運転システムは冗長性が高く、Waymoら先行勢を一気に追い抜くほどのポテンシャルを有しているとも言われる。日本をはじめとする世界各国での展開を計画しており、今後の動向に注目が集まる一社だ。

【参考】日本国内における自動運転タクシーの動向については「自動運転タクシー、日本第1号は「米国から7年遅れ」濃厚に 最短で2026年か」も参照。

■【まとめ】2030年までに環境が一変?サービス実装が大きく加速する可能性も

どのタイミングで自動運転タクシーがライドシェアを凌駕することになるかは何とも言えない情勢だが、遅かれ早かれその時が訪れるのは間違いない。

自動運転タクシーで先行する米国ではやきもきする状況が続いている感を受けるが、これも一つの過渡期と言える。もう一段階、二段階技術が向上すれば、サービスは目に見える速さで拡大していくことが予想される。

この5年間の進化を考えれば、今後の5年間で技術水準が一定レベルに達し、明らかな加速が始まるかもしれない。2030年までに取り巻く環境が一変している可能性は十分考えられるのだ。ライドシェア議論が不要とは言わないが、こうした未来を見据え、多様な自動運転サービスが円滑かつ安全に提供される体制・ルール作りに早期着手することも肝要だろう。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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