自動運転タクシー、日本第1号は「米国から7年遅れ」濃厚に 最短で2026年か

国内サービス展開を見込む各社の動向は?



2025年をめどに50カ所で自動運転サービスを実現する目標を掲げる日本。目標達成に向け、各所で自動運転バス実用化に向けた取り組みが加速している。


一方、自動運転タクシーは遅れをとっている印象が強く、実現に向け継続的かつ大掛かりな実証を行う取り組みはなかなか見えてこない。自動運転タクシーの開発が盛んな米国・中国との差は開く一方だ。

このまま進めば、国内における自動運転タクシーはホンダが計画する2年後の2026年までお預けとなりそうだ。仮に日本で2026年初頭にローンチされる場合、アメリカでGoogle(Waymo)が世界初の商用化が実現した2018年12月から数えると、7年以上の遅れとなる。

日本における自動運転タクシー事業はいつ実を結ぶのか。ホンダをはじめとした各社の動向をもとに、その展望に迫る。

■ホンダの取り組み
GM、Cruiseと3社体制で自動運転サービス実用化へ

自動運転サービスに向けたホンダの取り組みは、米GM、Cruiseとの協業に始まる。ホンダは2018年10月、自動運転技術を活用したモビリティ変革に向け両社と協業すると発表した。


さまざまな使用形態に対応するCruise向けの無人ライドシェアサービス専用車を共同開発する内容で、無人ライドシェアサービス事業のグローバル展開も視野に収める。

2020年1月には、無人ライドシェアサービス専用車「Cruise Origin(クルーズ・オリジン)」を発表した。運転席を備えない自動運転専用設計で、対面6人乗りのゆとりのある車内空間で乗客に心地よい移動を提供する。

2021年1月には、3社が日本での自動運転モビリティサービス事業に向けた協業を行うことに合意したと発表した。クルーズ・オリジンを活用した事業展開を目指すこととし、モビリティサービス事業を担うホンダモビリティソリューションズが事業運営を担う内容だ。

同年9月には、栃木県内で技術実証を開始し、2022年内に宇都宮市・芳賀町で公道実証に着手する計画を発表した。GM・ボルトベースの自動運転車両「クルーズAV」を用いて高精度3次元地図の作成を行い、公道実証を通じて日本の交通環境や関連法令などに合わせた開発を進めていくという。


ホンダのオウンドメディア「Honda Stories」によると、米国と日本における交通環境やルールの違いに対応させることをはじめ、アメリカナイズされた自動運転を日本仕様に直していく作業もあるという。車線の捉え方や曲がり方などが日本に比べアバウトなため、技術実証を通じて日本の交通マナーに合わせた運転になるよう修正しているようだ。

2022年4月には、タクシー事業を手掛ける帝都自動車交通と国際自動車が、ホンダモビリティソリューションズと協業を進めていくことに合意した。

2020年代半ばに東京都心部で自動運転モビリティサービスを開始するため、関連法令やサービス設計、事業者間の役割・責任分担の在り方など検討を進めていくとしている。

同年9月には、クルーズ・オリジンの日本仕様量産モデルの試作車が完成し、テスト走行の様子を収めた映像を公開した。自動運転モビリティサービスを2020年代半ばから東京都心部で開始することを目指し、今後、東京での実証やクルーズ・オリジンを使った実証など検討を進めていくとした。

【参考】ホンダによる自動運転タクシー事業については「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。

お台場を皮切りに自動運転タクシー実装へ

東京都心部で2020年代半ばに自動運転モビリティサービスを開始する計画を掲げていたホンダは2023年10月、自動運転タクシーサービスを2026年初頭に開始すると正式発表した。まず、GM、Cruiseと3社でサービス提供を担う合弁を2024年前半に設立する方針だ。

計画では、2026年1月から東京都内のお台場エリアに数十台規模のフリートを構築し、有償サービスを開始する。その後、中央区、千代田区、港区及び江東区の一部へと順次エリアを拡大し、最大500台規模まで拡大を図っていく。

発表当日には、ホンダの三部敏宏社長とCruiseのカイル・ヴォクトCEO(最高経営責任者:当時)らが斉藤鉄夫国土交通大臣を表敬訪問し、自動運転タクシーサービスについて意見交換を行っている。

手動運転装置を備えない車両によるタクシー運行には各省庁が所管する法令との整合が必要で、ホンダは未経験の内容も含む許認可を必要としている。

このため、新たな法律にのっとってどのように業務を進め責任を分掌していくかについて、国土交通省を中心とした関係省庁とディスカッションを進めているという。

国土交通省・経済産業省も事業者と関係省庁間の情報共有を促進するため、自動運転開発・実装プロジェクト「RoAD to the L4」の下に「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」を新たに設置した。直近の議題としてホンダの自動運転タクシー事業を取り上げている。

【参考】レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティについては「自動運転レベル4、日本が国を挙げて「出遅れ解消」へ新組織立ち上げ」も参照。

サービス実装進めるCruiseが大ブレーキ

明確なロードマップを示したホンダだが、その取り組みは順風満帆とはいかないようだ。クルーズAVで一足早く自動運転タクシー事業を開始したCruiseは、米カリフォルニア州サンフランシスコ皮切りにアリゾナ州フェニックス、テキサス州オースティンと拡大路線を歩んだが、現在自動運転サービスを停止する事態に陥っている。

サービス実証を通じて順次細かな欠陥を改善していく手法で事業化を加速していたが、相次ぐトラブルの発生で社会受容性が向上しているとは言い難く、2023年10月には人身事故を起こした。

カリフォルニア州当局から営業停止と無人走行試験許可の即時停止措置を受け、Cruiseは自主的に同州以外の自動運転サービスを停止し、自動運転ソフトウェアのリコールを発表した。カイル・ヴォクトCEOは今回の件を受け辞任した。

社長兼CTO(最高技術責任者)に就任したMohamed(Mo)Elshenawy氏は2023年12月、従業員の約4分の1を削減し、事業計画を改める旨発表した。

当初計画では2024年中に10都市以上で自動運転サービス展開を目指すこととしていたが、1つの都市で優れたサービスを提供できるよう取り組みを簡素化・集中するとしている。拡大路線を見直し、信頼回復と確実な技術向上を図っていく方針だ。

この影響は、ホンダにも降りかかってくる。Cruiseの立て直しがうまくいかない限り、日本のサービスにも疑問の目を向けられるためだ。

おそらくCruiseは早期にサービス復帰を図るものと思われるが、これまでの押せ押せの事業展開から慎重路線へ舵を切ることになるだろう。この戦略転換が日本での展開にどこまで影響を及ぼすことになるのか、要注視だ。

■各社の取り組み
ZMP:いち早く自動運転タクシー開発に着手

国内ではホンダのほか、ZMPや日産、ティアフォーなどが自動運転タクシー実用化に向けた動きを見せている。

ZMPは2017年、国内でいち早く自動運転タクシー実現に向け動き出した。日の丸交通との提携のもと、同年末までに日本初となる遠隔型自動運転システムによる公道実証を東京都内で実施したほか、東京都の事業のもと2018年に乗客を乗せて走行する営業実証にも着手している。

2020年には空港リムジンバスと自動運転タクシー、自動運転モビリティを連携させるMaaS実証も行った。

その後、自動運転タクシーに関する取り組みは聞こえてこないが、同社は新規事業創出に積極的だ。昨今の社会情勢を踏まえ、改めて事業化を推し進める可能性もありそうだ。

日産:新交通サービス「Easy Ride」を実証

自動運転タクシーとは謳っていないものの、日産も自由な移動を可能にする新しい交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の開発に早期着手している。

Easy Rideは、「もっと自由な移動を」をコンセプトに掲げ、誰もが自由に移動できる交通サービスだ。ほぼ自動運転タクシーと捉えることができる。

DeNA(ディー・エヌ・エー)を開発パートナーに迎え、2017年に共同開発を開始した。車両が走行している交通環境を把握する日産の技術「Seamless Autonomous Mobility(SAM)」に、DeNAのサービス設計と運営ノウハウを融合させた遠隔管制システムで無人走行とサービスを実現する試みだ。

2018年3月に神奈川県横浜市のみなとみらい地区で一般モニター参加のもと公道実証に着手した。2021年9月には、NTTドコモとの協業のもと自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証も行っている。Easy Rideに、AIを活用したドコモのオンデマンド交通システム「AI運行バス」を組み合わせた取り組みだ。

その後の動きは見えないが、ホンダ同様自動車メーカー直結の取り組みのため、いざスイッチが入った際の事業展開は迅速かつ大がかりなものとなる。今後の進展に注目したい。

【参考】日産勢の取り組みについては「【インタビュー】日産×DeNA、自動運転タクシー「Easy Ride」の進化に迫る」も参照。

ティアフォー:パートナー企業と自動運転タクシー事業化

スタートアップ勢では、ティアフォーにも期待だ。ティアフォーは2019年11月、JapanTaxi(現GO)、アイサンテクノロジー、損害保険ジャパン日本興亜、KDDIとともに、自動運転タクシー事業化に向け車両開発やサービス実証を共同で進めていくと発表した。

ユニバーサルデザイン仕様のトヨタ製JPN TAXIに自動運転ソフトウェア「Autoware」の統合を図っていくほか、配車アプリや地図データ、サポートセンターを含むサービス実証を共同で進め、2020年夏ごろを目処に東京都内でサービス実証に着手する計画であった。

2020年11月に西新宿で実施した公道実証では、一般試乗者の参加のもと特定ルートを走行する実証や、オペレーターが助手席に座り運転席無人の状態で遠隔自動走行させる取り組みなどを行った。

2023年8月には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業のもと、半導体開発を手掛けるアクセルとともに完全自動運転に特化したSoC(システムオンチップ)のプロトタイプの有効性を実証したことも発表している。

既存装置の10分の1の消費電力を実現する独自開発したハードウェアアクセラレータを搭載するなど、低消費電力で自動運転を実現する試みだ。

ティアフォーは、自動運転システム「AIパイロット」が道路運送車両法に基づくレベル認可を受けたほか、自動運転車量産化に向けた取り組みも加速している。2023年に提携を交わしたWILLERとの取り組みでは、2025年度には10エリアで自動運転サービスを実現する計画を掲げている。

自動運転バスが主体となる見込みだが、事業展開の勢いとポテンシャルはピカイチだ。パートナー企業とともに自動運転タクシー事業化に向けた取り組みが一気に加速する可能性も考えられそうだ。

【参考】ティアフォー勢の取り組みについては「西新宿での自動運転タクシー実証、再び!東京都事業で採択」も参照。

モービルアイ:日本進出、国内勢を追い上げる

海外勢では、米インテル傘下のイスラエル企業モービルアイにも注目したい。LiDAR主体の自動運転システムとカメラ主体の自動運転システムの両方を備えた「MobileyeDrive」を武器に世界展開を図っており、日本では高速バス大手のWILLERとのパートナーシップのもと自動運転サービスを事業化する計画だ。

愛知県の2023年度の自動運転実証事業に採択され、名古屋市内の混在空間化で最高時速60キロの自律走行を行うなど取り組みに本格着手している。

世界トップクラスとも言われる自動運転技術を有するだけに、国内勢を一気に追い越すことも考えられるだろう。

【参考】モービルアイの取り組みについては「Mobileye(モービルアイ)と自動運転(2023年最新版)」も参照。

■【まとめ】本命ホンダにティアフォーやモービルアイが迫る?

先行する米国・中国は自動運転タクシーの開発意欲が高く、すでに複数都市で完全無人走行を実現している。Waymoが初めて自動運転タクシーを事業化したのは2018年で、すでに丸5年が経過した。

一方、日本では早期着手していた企業は現実路線に転換した印象が強い。本命のホンダに対し、ティアフォー勢やモービルアイ勢が今後どのような動きを見せるか……といったところが焦点になりそうだ。

2024年にはどのような動きが飛び出すのか。必見だ。

【参考】関連記事としては「自動運転タクシーとは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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