トヨタ、自動運転タクシーの参入見送りか 日産は2027年、ホンダは2026年に展開へ

お台場の実証はモネ主体?トヨタは腰を据えたまま?



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

自動運転サービス実装をめぐる自動車メーカーの動きが活発化し始めた。ホンダに次ぎ、日産も自動運転モビリティサービス事業化に向けた新たなロードマップを公表したのだ。

ホンダは2026年に自動運転タクシー、日産は2027年度に自動運転モビリティの提供を開始する計画だ。トヨタも公表していないものの、2024年夏にサービス実証に着手することが報じられている。


国内自動車メーカー3社が揃い踏みとなった格好だが、各報道を見る限り、トヨタは自動運転バス・シャトルサービスを考えているように感じる。自動運転サービス化に向けたアプローチが異なるようだ。

ホンダ・日産が自動運転タクシー系のサービス展開を目指す一方、トヨタはタクシーを見送り、別の路線を歩むのかもしれない。各社の動向に触れながら、自動運転の最新動向と戦略に迫る。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2024年最新版)」も参照。

■ホンダの取り組み
自動運転タクシーサービス計画を具体化
出典:ホンダプレスリリース

ホンダは2023年10月、日本国内で自動運転タクシーサービスを2026年初頭にも開始する計画を発表した。パートナーシップを組む米GM、Cruiseと協力し、東京都心部でサービスを展開する。


関係当局の承認のもと、サービス提供を担う合弁を2024年前半に設立し、実証に着手していく。サービス車両には、運転席などを備えない自動運転専用モビリティ「クルーズ・オリジン」を導入する。

実証段階では、乗用車ベースの「Cruise AV」を用いてドライバー同乗のもと走行検証を重ね、その後オリジンで保安員乗車による走行検証や車内無人による無償・有償運行などを行うものと思われる。

サービス提供エリアは、東京都内のお台場エリアを皮切りに、中央区や港区、千代田区へと順次拡大を図っていく。最大500台までオリジンを導入する本格的な計画だ。

パートナーのCruiseは米カリフォルニア州などで自動運転タクシーを実用化済みで、走行・サービス実績とも豊富だ。くしくもホンダが計画を発表した同月中にサンフランシスコで起こした事故をきっかけにサービスや自動運転走行の中止を余儀なくされたが、今後は拡大路線を変更し、エリアを絞って安全性を重視したサービス提供を行う方針としている。


一悶着あったものの、自動運転タクシーに関するCruiseの豊富な経験は大きなアドバンテージとなる。自動運転システムの向上と日本仕様への変更など着実なステップアップがカギとなるが、日本初の自動運転タクシー商用化の先陣として取り組みのさらなる加速に期待だ。

【参考】ホンダの取り組みについては「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。

■日産の取り組み
いち早くEasy Rideの実証に着手

日産は、3社の中でいち早く自動運転サービスに向けた取り組みに着手していた。「もっと自由な移動を」をコンセプトに据えた「Easy Ride(イージーライド)」だ。

ディー・エヌ・エーと共同開発したサービスで、自動運転タクシーとはうたっていないものの「誰もがどこからでも好きな場所へ自由に移動できる新しい交通サービス」としており、その内容から自動運転タクシーに類似するサービスになると思われる。

2018年に神奈川県横浜市内で実証を開始し、2021年にはNTTドコモとともにオンデマンド配車サービスの実証を行っている。この時は、横浜市内のみなとみらい・中華街エリアに計23カ所の乗降ポイントを設置し、ポイント間の自由な移動サービスを提供した。

新たなロードマップを発表、2027年度に複数地域でサービスイン目指す
出典:日産プレスリリース

2024年2月には、国内におけるドライバーレス自動運転モビリティサービスの事業化に向けたロードマップを発表した。

2024年度にみなとみらい地区でセレナをベースとした自動運転車両で走行実証を行い、2025~2026年度にかけてみなとみらい地区や桜木町、関内を含む横浜エリアでセーフティドライバー同乗のもと20台規模のサービス実証を行う。

2027年度には、地方を含む3~4市町村において、車両数十台規模のサービス提供開始を目指す。現在、サービス開始に向け複数の自治体と協議しており、準備が完了した市町村から事業を開始していく方針という。

この計画におけるサービスがEasy Rideのようなものとなるかは不明だが、数十台規模のフリートを構成するということは、自動運転バスではなくタクシー系のサービスに近いものと思われる。

自動運転ではないが、日産が福島県浪江町で実施しているオンライン配車サービス「なみえスマートモビリティ」は、約250カ所に及ぶ停留所を設け、タクシーに近いポイント間移動サービスを提供している。

日産が計画している自動運転サービスも、こうした形式になる可能性が高そうだ。

中国や英国でもサービス化や実証に協力

なお、日産は海外でも自動運転のサービス実装に取り組んでいる。中国現地子会社の日産(中国)投資(NCIC)は2022年11月、新会社「日産モビリティサービス(日産出行服務)」を設立し、蘇州高鉄新城と連携しながらモビリティサービスへの投資と自動運転タクシーサービスの事業展開に取り組むことを発表した。出資先のWeRideが技術を提供するという。

2023年9月には、欧州日産が支援する自動運転モビリティ研究プロジェクト「evolvAD」が英国で始動したことも発表している。英国政府が出資する最新の自動運転研究プロジェクトで、自動運転モビリティの大規模採用に向けたサプライチェーンの準備を技術的に支援していくという。

【参考】関連記事としては「日産の自動運転タクシー、商用化は中国から!?」も参照。

■トヨタの取り組み
お台場の計画はMONET Technologiesが主体?

トヨタは2018年、モビリティサービス専用の自動運転EV(電気自動車)「e-Palette(イー・パレット)」を発表した。リアルな自動運転専用モデルの発表は3社の中で最も早かった。

イー・パレットは自動運転シャトルのような移動サービスをはじめ、移動コンビニやホテルなど多用途に活用できるのが特徴で、他社製の自動運転システムを統合することもできる。この多用途性が、ある意味でトヨタの自動運転戦略を象徴しているのかもしれない。

イー・パレットは2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックの選手村で選手や関係者の送迎車両として導入され、レベル2運行を実施した。

2022年に東京臨海副都心・お台場エリアにおける自動運転実証で使用され、2024年1月には愛知県豊田市がパークトレイン用車両として走行させるサービス実証に着手するなど、徐々にサービス実装を目指す動きが顕在化している。

2024年2月には、東京都内のお台場エリアで2024年7月に自動運転モビリティのサービス実証に着手することも報じられた。正確には、トヨタとソフトバンクの合弁MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)が実証を行うようだ。

トヨタやソフトバンクがパートナーシップを結ぶ米May Mobilityの自動運転システムを利用するという話も出ているようで、トヨタの自社技術がどこまで導入されるかは未知数だ。

実証当初は実質レベル2の状態か

実証当初は、セーフティドライバー同乗のもと実質レベル2の状態で2地点間の移動サービスを無償提供し、安全性や収益性などの検証を進めるという。

May Mobilityは基本的に自動運転シャトルを主体としているが、サービス提供中のミシガン州アナーバーやテキサス州アーリントン、ミネソタ州グランドラピッズなどでは一定エリア内に複数の乗降スポットを設定し、比較的自由な移動を提供している。

日産同様、こうした乗降スポットを細かく設置できれば、そのサービスは疑似的に自動運転タクシーとなり得る。東京都内での取り組みがどのようなものになるか、公式発表に要注目だ。

なお、現時点における情報を精査すると、東京都内でのサービスはモネ・テクノロジーズが主体となり、May Mobilityの自動運転システムを活用するようだ。これは、トヨタ主体の取り組みとは言えない気がする。

仮に都内での取り組みが自動運転タクシーであったとしても、May Mobilityの技術を活用したモネ・テクノロジーズのサービスとなる。トヨタが自らの技術を駆使して主体的に関わる取り組みとなるかは現状不明だ。

【参考】トヨタの取り組みについては「やはりトヨタが大本命!ついに「自動運転レベル4」、お台場で展開か」も参照。

自動運転も全方位戦略?自動運転タクシーは後回し?
出典:トヨタプレスリリース

トヨタはこのほか、静岡県裾野市で建設中のWoven City(ウーブン・シティ)でイー・パレットをはじめとしたさまざまな自動運転モビリティの実証を行う予定だ。

トヨタの自動運転開発は、多用途のイー・パレットが示す通り、配送ロボットやさまざまなサービス向けの自動運転モビリティなど非常に幅が広い。全方位の展開を見据え、1つに絞ることなくさまざまな可能性を追求しているイメージだ。

それ故、自動運転バスやタクシーなど、サービス実装に向けた具体的な取り組みの面では他社に先行を許してしまうのかもしれない。

最終的にトヨタ自らがサービス実装を推し進める領域はどこか、またどのようなサービスから着手するかは何とも言えない状況だが、自動運転タクシーは後回しに考えている可能性がある。

トヨタのパートナー企業には、May Mobilityのほか米Aurora Innovationや中国Pony.aiなどの有力スタートアップがおり、各社が自動運転タクシー実用化に向けた取り組みを進めている。

トヨタとしては、ベース車両の開発・供給などを進めながら各社の動向を見守り、場合によってはこれら海外企業の日本進出を支援することも考えられる。その方が効率的だからだ。

ホンダの自動運転タクシーも、自動運転システムの主たる開発者はCruiseだ。ベースとなる開発はCruiseに任せ、それを効率的に改良しながら日本に持ち込むスタンスと言える。トヨタがパートナー各社と同様の戦略を採ってもおかしくはない。

次世代モビリティサービス領域におけるビジネスを考えた場合、自社技術にこだわるよりも別なアプローチで収益化を図ったほうが良いケースは多々あるはずだ。もちろん、自社開発を放棄するわけではない。自社技術の導入はその後でも良い――とする考え方だ。逆に、他社があまり力を入れていない領域の自動運転化を促進し、業界全体の底上げを図っていくことなども考えられる。

いずれにしろ、トヨタの自動運転戦略の全貌はいまだ見えない……というのが実情だ。自動運転サービスにおいてトヨタ自らが前面に出てくる取り組みはいつごろになるのか。まずは、2024年夏予定の東京都内における取り組みの公式発表を待ちたいところだ。

■【まとめ】各社の自動運転戦略が徐々に明らかに

国内自動車メーカー3社が自動運転サービスに向けた動きを加速しているのは間違いなく、今後目に見える形でサービス実装に向けた取り組みが進められていくことになる。こうした動きとともに、各社の自動運転戦略も鮮明になっていくのだろう。

ホンダが先行したレベル3の時と同様、トヨタは変わらずマイペースを貫くのか。満を持して動き出すのか。各社の動向に引き続き注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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