コロナ禍においても前進し続ける自動運転開発。サービス実装が進む米国、中国を筆頭に各国の開発プレイヤーが依然として激しくしのぎを削っている。
現在はスタートアップ系の取り組みが先行している印象が強いが、自動車メーカーも実用化に向けた取り組みを本格化させている。
この記事では、日本の自動車メーカートップ3であるトヨタ、日産、ホンダに焦点を当て、各企業の取り組みに迫っていく。
■トヨタ
e-Paletteを五輪選手村で活用
東京五輪2020オリンピック・パラリンピックのワールドワイドパートナーを務めるトヨタは、選手村内における関係者の移動にe-Palette(イー・パレット)を導入し、送迎を行うサービス実証を行った。
オペレーションの問題により事故が発生するなど反省点もあったが、世界的な注目を集めるビッグイベントで技術を披露する意義は大きい。インフルエンサーたる各国の選手がSNSでイー・パレットを紹介するなど、近未来を予感させる効果もあったはずだ。
多目的な利用が可能なイー・パレットは、人の移動をはじめ宅配ロッカーや小売りなど各種サービスに活用できる。また、自動運転システムとしてトヨタのガーディアンが搭載されているほか、他社システムの搭載も可能にしている点もポイントで、MSPF(モビリティサービスプラットフォーム)の活用とともに、より広範な利用・導入に期待が寄せられる。
【参考】e-Paletteについては「トヨタのe-Palette(イーパレット)とは?自動運転EV、東京オリンピックでは接触事故も」も参照。
Woven City着工
トヨタは2021年2月、先端技術が集結する実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」の建設を静岡県裾野市で開始した。
当初は米ミシガン州にあるM-Cityのような自動運転開発に向けた試験場の建設を検討していたが、「リアルなまちであらゆる技術を安全に実証してみるのはどうか」と思い至り、一からまちを建設する大規模プロジェクトに発展した。言わば将来技術の「畑」だ。
現在はまだ土を耕している段階だが、自動運転技術をはじめとしたさまざまな将来技術の種がまかれ、収穫を迎えるとまた別の種をまき、新たな技術の検証を参画企業とともに進めていく場となる。
既存の都市と比べ各種規制を受けにくく、スピード感あふれる実証が可能になるものと思われる。すでに、地下の物流専用道を走行する物流用途の自動走行ロボット「S-Palette」の構想や、水素エネルギーの利活用に向けENEOSと具体的な検討を進めるなど動きが出始めている。続報に要注目だ。
▼TOYOTA WOVEN CITY
https://www.woven-city.global/jpn
【参考】Woven Cityについては「トヨタのWoven City着工!自動運転やAI技術の「ショーケース」にもなる!?」も参照。
ウーブン・プラネット・グループが開発を加速
自動運転開発などを手掛けるTRI-ADがウーブン・プラネット・グループとして新体制に移行し、研究開発を本格化させている。
2021年3月にウーブン・キャピタルの第1号案件として米Nuroへの出資を発表すると、4月には米配車サービス大手Lyftの自動運転開発部門「Level 5」の買収、6月にはフリート事業のデジタル・トランスフォメーションを手掛ける米Ridecellへの出資、7月には高精度地図を中心とした次世代道路情報解析技術を有する米CARMERAの買収をそれぞれ発表するなど、技術の吸収やパートナーシップの拡大に余念がない。
一方、国内ではいすゞや日野、三菱ふそうと自動地図生成プラットフォーム「AMP」の活用に向け共同研究などを開始している。高精度3次元地図はレベル3以降の自動運転をはじめ、ハンズオフ運転を可能にする高度なレベル2での活用も見込まれ、広範囲の整備と手軽な更新技術が求められている。こうした情報インフラ分野での取り組みにも注目したい。
▼ウーブン・プラネット・ホールディングス
https://www.woven-planet.global/jp
【参考】ウーブン・プラネット・グループについては「トヨタの前線部隊「ウーブン」が本格始動!自動運転に投資、「地図」にも注力」も参照。
海外ではAurora Innovationと協業
海外では、出資する米Uberを介するような形で自動運転開発を進めるAurora Innovationとつながり、配車サービス向けの自動運転車の開発を進めている。
具体的には、トヨタ車にオーロラの自動運転システムを搭載し、2021年中に実証に着手する計画が明かされている。
世界各国にネットワークを持つUberの配車システムへの実装が実現すれば、自動運転分野における業界地図が一変する可能性も考えられそうだ。
【参考】Aurora Innovationについては「自動運転開発企業「Aurora」(オーロラ)を徹底解剖!トヨタとも提携」も参照。
自家用車では高度なレベル2を実用化
自家用車においては、2021年4月に新型のLS(レクサス)とMIRAIにハンズオフ運転を可能にする新機能「Advanced Drive」を搭載すると発表した。
レベル3については実用化の話は出ていないものの、新型LSなどにはセンサーを後付けするスペースが設けられているようで、OTAによるソフトウェアアップデートともにハードウェアもアップデートする本格的なバージョンアップを見越している可能性もありそうだ。
【参考】トヨタのレベル2については「トヨタの新型LS、「人とクルマが仲間」な自動運転レベル2搭載」も参照。
■日産
ドコモ、自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証実験を開始
日産とNTTドコモは2021年7月、自動運転車両を用いたオンデマンド配車サービスの実証実験を開始すると発表した。日産とDeNAがこれまで研究開発を進めてきた自動運転交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」の新たな展開だ。
実証実験は同年9月から横浜市内のみなとみらいや中華街エリアで一般モニター参加のもと行う。いっそう進化したEasy Rideと、新たに自動運転車両の配車に対応したドコモの「AI運行バス」を組み合わせ、将来の完全自動運転による交通サービスをイメージさせる最新技術やサービスを実際に提供し、その実用性を検証する。
Easy Rideは、「もっと自由な移動」をコンセプトに日産がDeNAと共同開発した自動運転モビリティサービスで、2017年度から実証を進めている。
一方、ドコモのオンデマンド交通システム「AI運行バス」は、リアルタイムに発生する乗降リクエストに対し、AIが効率的な配車とルートをリアルタイムに算出する機能を有する。ドコモの「リアルタイム移動需要予測」の技術と、未来シェアが有する配車システム「SAV(Smart Access Vehicle)」の技術を組み合わせ、効率的な交通社会を実現するモビリティサービスプラットフォームとして2019年度に提供を開始している。
Easy RideとAI運行バスを組み合わせることで、乗りたいときに乗りたい場所で、誰もが簡単に利用可能なモビリティサービスの実現を目指す構えだ。
▼Easy Ride – もっと自由な移動を
https://easy-ride.com/
【参考】日産とNTTドコモの取り組みについては「2018年から4度目!日産が自動運転タクシー「Easy Ride」実証」も参照。
日産中国が蘇州市でインテリジェント交通システム構築へ
日本以外でも新たな動きを見せているようだ。日産は2021年3月、同社の中国関連企業が蘇州高鉄新城管理委員会と「蘇州市におけるインテリジェント交通システムの構築を目指す基本協定」を締結したと発表した。
商用化や他市町村への展開を視野にインテリジェント交通モデルの開発プロジェクトを推進するほか、自動運転技術を用いたサービスの導入を見据え、自動運転車両によるテスト走行なども行う。
協定では、インテリジェントネットワークとインテリジェント交通システムの発展を加速させる実証実験や、コネクテッドカーのエコシステムの開発と更なる発展に向けた検証などを行う。日産は、CASE領域における技術開発のノウハウや国内外における実証実験の経験を生かし技術提供を行う。
福島県の自治体や企業が連携し、まちづくりに着手
日産は2021年2月、福島県内の3自治体と8企業で「福島県浜通り地域における新しいモビリティを活用したまちづくり連携協定」を締結したと発表した。各社が持つ資源や先進技術、ノウハウを生かしながら、新たな移動手段となるモビリティサービスの構築などを進めていく。
同月に実証実験を行った浪江町では、道の駅をモビリティハブに設定し、主要な場所をつなぐ巡回シャトルと自宅やハブと郊外の目的地を結ぶスポーク車両を組み合わせたハブ&スポーク型の「町内公共交通」や、貨客混載を行うモビリティ「荷物配達サービス」などに取り組んだほか、将来的な導入を見据え自動運転車両による巡回シャトルの走行実証なども行った。
多様化するモビリティサービスに向けた取り組みも
日産は2020年10月、京浜急行電鉄と横浜国立大学、横浜市とともに乗合型移送サービスの実証実験を開始した。同年11月には、インクリメントPとの協業のもと利用者の行動データの分析を元にした旅行提案「トラベルトリガー」の実証実験に着手した。利用者の趣向やライフスタイルを分析し、好みに合った旅行先の提案を行うサービスだ。
2021年6月には、大日本印刷やゼンリン、ソフトバンク、クワハラとともに車の中で快適にWeb会議ができる「移動会議室」の実証実験も行っている。
多様化するモビリティサービスの実用化に向け、取り組みの幅を大きく広げている印象だ。
■ホンダ
自家用車の自動運転化で世界をリード
ホンダは2021年3月、レベル3を可能にする「トラフィックジャムパイロット」を搭載した新型LEGENDを発表した。レベル3を実装した量産車としては世界初となる快挙だ。
最新の「Honda SENSING Elite」は、高速道路などでハンズオフ運転を実現する高度なレベル2システムを搭載するほか、一定条件下でドライバーの常時監視を必要としないアイズオフ運転を可能にしている。
システムからの要請があればドライバーは直ちに手動運転に切り替えなければならないが、運転の主体・責任が人から機械に移行する重要な変革を内在しており、その意味でも偉大な第一歩と言えるだろう。
今後、自動運転を可能にする条件となるODD(運行設計領域)の拡大などにも要注目だ。
▼Honda SENSING Elite 特設サイト
https://www.honda.co.jp/hondasensing-elite/
【参考】ホンダのレベル3については「ホンダが自動運転レベル3車両を3月5日発売!新型「LEGEND」がデビュー」も参照。
GM陣営と国内自動運転サービス展開へ
ホンダは2021年9月、GMクルーズホールディングス、ゼネラルモーターズと共同で展開予定の自動運転モビリティサービス事業に向け、自動運転技術に関する技術実証を栃木県内で開始すると発表した。
3社は2018年から自動運転の開発やサービス化に向け協業を進めており、2020年初頭にはステアリングやペダルなどを備えていないモビリティサービス向けの自動運転車「Origin(オリジン)」を発表している。
ホンダは、このオリジンを活用した自動運転モビリティサービス事業の日本国内展開を目指しており、今回の実証では高精度3次元地図を作製した後、クルーズが開発した自動運転車「クルーズAV」で公道走行を重ね、国内の交通環境や関連法令などに合わせた自動運転技術の開発・検証を進めていく方針としている。
自動走行ロボットの開発も
社会実装に向け取り組みが加速する自動走行ロボットの分野でも、自動車メーカーが本領を発揮し始めた。ホンダと楽天グループは2021年7月、筑波大学構内などで自動配送ロボットの走行実証実験を開始したことを発表した。
ロボットは、ホンダが世界最大の技術見本市「CES 2018」で発表したプラットフォーム型ロボティクスデバイスをベースにした車台に、楽天が開発した商品配送用ボックスを搭載したもの。電力源にはホンダの交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack」を採用しており、充電を待つことなく配送サービスを継続することができる。
【参考】ホンダの自動走行ロボットについては「トヨタとホンダ、「無人配送」でもガチンコ勝負 自動運転技術を応用」も参照。
トヨタとホンダ、「無人配送」でもガチンコ勝負 自動運転技術を応用 https://t.co/VWvzm6DA9N @jidountenlabより
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 6, 2021
AutoXと提携、自動運転タクシーフリート構築へ
中国では、ホンダの現地法人がAutoXと手を組み、ホンダ車にAutoXの自動運転システムを搭載して自動運転タクシーのフリートを構築していく計画を進めているようだ。海外では量販車をベースに自動運転化する技術開発が進んでおり、こうした動向にも注視したいところだ。
■【まとめ】イー・パレット vs イージーライド vs オリジンの構図に?
トヨタはイー・パレット、日産はイージーライド、ホンダはオリジンを軸に、自動運転技術を活用した未来のモビリティサービスの在り方を模索している印象だ。
また、トヨタとオーロラ、ホンダとAutoXといった海外の動向にも要注目だ。サービス実装では国内よりも先行する可能性が高く、そこから得られる経験値は計り知れない。
自家用車関連では、レベル3で先行するホンダにトヨタや日産が追随するかがポイントとなりそうだ。今のところ静観しているトヨタ・日産も、遅かれ早かれレベル3戦略の在り方を明確化しなければならない。複数メーカーのレベル3車が出揃う2022年に新たな動きを見せるか、こちらも要注目だ。
【参考】関連記事としては「自動運転とは?技術や開発企業、法律など徹底まとめ!」も参照。