自動運転シャトル「300円以下では事業化困難」 マネタイズに必要なことは?

東京都町田市の報告書から考える



出典:JKK東京プレスリリース

東京都住宅供給公社(JKK東京)と群馬大学は、2022年9〜10月に東京都町田市で自動運転車両を活用した実証実験を実施し、その結果報告書をこのほど公表した。

報告書では、アンケート結果を踏まえた考察として「大多数を占める希望運賃水準(1乗車300円以下)では事業性の確保が困難」という記載がある。自動運転技術を商用サービスで展開する際には、こうした視点は非常に重要だ。


早速、報告書の詳細を読んでいこう。

▼報告書(概要版)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000102.000057497.html

■高齢者の移動を自動運転車両がサポート

実証実験は、2022年9月22日から14日間、町田木曽住宅地域で行われた。

JKK東京が運営する郊外型の住宅では、入居開始から40年以上が経過し、同時期に入居した世代が一斉に高齢化しているという。大規模団地では各住棟から団地内の商業施設やバス停留所などへの距離が遠いため、高齢者の外出を控えさせる要因となっており、団地内における外出機会の創出が課題となっている。


課題解消に向け、主に高齢者の移動を自動運転車両がサポートし、日用品などの配送や外出のきっかけとなるイベントの開催により外出の支援を行い、郊外型団地における「距離のバリア」解消に向けた課題の洗い出しと検証を行った。

実証全体の進行・統括をJKK東京が、自動運転車両の提供・管理を群馬大学と同大発ベンチャーの日本モビリティが担った。また生活関連サービスの提供・乗車受付をヤマト運輸が、自動運転車両の運行を神奈中グループが担当した。

実証で使われた車両は「レベル2」相当の自動運転車2台だ。車両にはドライバーが乗車し、必要に応じて手動運転を行った。同住宅内に22カ所の乗降場所を設置、利用者の希望する日時に乗降場所間を走行した。期間中の運行件数は111件、乗車人数は206人だったようだ。

【参考】関連記事としては「自動運転レベルとは?(2023年最新版)」も参照。


■希望運賃水準(300円以下)では事業性確保が困難

報告書では、「サービス導入については概ね賛成だが、自動運転技術に対する懐疑的な意見も多い」という社会受容性についての課題や、「通路の幅員や段差など、古い団地の設計が自動運転車両の運行に適さない」、「団地内よりも、病院や商業施設など団地外への移動ニーズが強い」といった検証結果が出ている。

注目すべきは「大多数を占める希望運賃水準(1乗車300円以下)では事業性の確保が困難」、「更なる技術革新によるコスト削減や運賃以外の収入源の確保などの検討が必要」という事業性においての考察だ。(なお今回の実証は、乗車料金は無料で行われた。また実証実験にかかる事業費の一部は、東京都が負担したという)

もちろん自動運転車といえど、公共のモビリティや特定エリア内の移動手段として用いる場合、車両本体の費用や運営費、サポート役や監視センターにおける人件費などが発生するため、運行コストは一定程度かかる。しかし、運賃を安くできなければ、結果として利用者が増えず、マネタイズが難しくなる。

ではどういった対策が考えられるのか。一例を挙げると、以下のような方法が考えられる。

  • 車内向けのデジタルサイネージ広告や外向けのラッピング広告から収益を得る。
  • 車両の各種センサーを搭載し、道路の路面状況や渋滞状況、天候の情報などのデータの取得を代行する。
  • 顔認証によって乗客の乗降データを可視化し、人流に関するデータとして販売する。
  • 運行時間外における自動運転車の活用(例:物品の無人搬送サービスなど)により追加で収益を得る。

例えば、利益が出る水準の運賃が1乗車400円だとして、乗客の運賃を100円に設定したい場合、その差の300円分を上記のような方法で穴埋めするといった視点が求められる。

■負担ゼロで導入に成功している自治体も

ちなみに日本国内では、「負担ゼロ」で自動運転車の導入に成功している自治体もある。

茨城県境町は、自動運転バスの運営を「町の持ち出しゼロ」で行っているという。2022年4月に開催されたデジタル庁の「デジタル交通社会のありかたに関する研究会(第1回)」で提出された資料によると、「運営コストはどうしてるの?」という質問に対し、「ふるさと納税と補助金を活用しています。町の持ち出しは0になる境町モデルによる運営方式です」と回答している。

ふるさと納税と補助金を活用するアイデアは、さまざまな運行事業者による自動運転バスで持続的に導入・適用することは難しい面も否めないが、こうした工夫の末に低価格の自動運転移動サービスが実現することが期待される。

ちなみに境町は2020年11月に自動運転バスの定常運行を国内で初めて開始し、現在は1日18便を運行している。乗車料金は無料。2023年5月16日現在の累計走行便数は1万4,466便、累計乗車人数は1万7,041人となっている。

この取り組みは注目されており、公的機関や民間企業、大学・研究施設などによる視察も多数行われているようだ。なお運行にあたり、ソフトバンク子会社のBOLDLYと、自動運転ソリューションプロバイダーのマクニカが協力している。

■前例がないからこそ商機あり

鉄道の赤字路線の廃止や人材不足によるバス路線の縮小などもあり、今後ますます日本の地方や首都圏の郊外で、高齢者などの交通手段確保の問題は浮き彫りになっていきそうだ。

その救世主となるかもしれない自動運転車の事業化をどう成功させるかは、決してハードルが低いわけではない。一方で、まだ前例がほぼない領域だからこそビジネスチャンスがあるとも言えることは、記事の締めくくりとして書き添えておきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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