【2023年6月の自動運転ラボ10大ニュース】デジタル庁が新ロードマップ策定に着手

沖縄で空飛ぶクルマの無人飛行実証



2023年も上半期を過ぎた。業界を揺るがすようなビッグニュースは飛び出していないものの、国内・国外ともに着々と自動運転開発・実用化が進められている印象だ。


2023年6月の10大ニュースを振り返り、下半期に向けた展望を広げていこう。

自動運転タクシー中国で完全無人&有料化!日本は周回遅れ?(2023年6月2日付)

複数都市で完全無人の自動運転タクシーなどが実用化され始めている中国。一方、日本は法整備面でレベル4環境を整えたものの、混在交通の一般車道における完全無人レベル4は未達成だ。記事では、この両国の差に言及している。

中国開発勢は、日本と比べ公道実証量が段違いに多い。それを可能とする走行環境と資金力が背景にあるが、この差を埋めない限り中国勢に追いつくことは困難かもしれない。

ただ、日本はこれまで自動運転バスに注力していた節もあり、法環境も万全だ。今後の取り組み次第によっては猛追することも不可能ではないはずだ。改めて今後の取り組みに期待したいところだ。



■自動運転を含む日本の新「モビリティロードマップ」策定へ(2023年6月5日付)

デジタル庁主導のもと、モビリティ関連の新たなロードマップ作りが進められているようだ。2023年度末までに「モビリティ・ロードマップ2024」を策定し、新たな取り組み方針・ビジョンを明確化する。

方針としては、自動運転車やロボット、ドローンなど総体としてモビリティとして捉え、移動需要に対する新たなモビリティ政策を検討していく。アーリープログラムとして、2024年度に新東名高速道路に100キロ以上の自動運転車用レーンを設定する計画なども進められている。

レベル4実装環境を整えた前計画から、今後は普及拡大とビジネス性や需要を踏まえた事業継続性などにしっかりと着目し、自動運転技術の有効活用を図っていくことになる。本年度末までの議論をまずは見守りたい。

■GMトップ、自動運転車で「将来は年間7兆円の利益」と宣言(2023年6月12日付)

米メディアによると、GMのメアリー・バーラCEO(最高経営責任者)が「自動運転車は2030年までに市場に登場する可能性が高く、年間500億ドル(約7兆円)の利益をもたらす」と語ったようだ。

自動運転タクシーサービスを開始したばかりのCruiseはまだ赤字の段階であり、強気な見通しに感じられる。

ロイターによると、バーラCEOは2020年代末までにパーソナル用途の自動運転車が市場に送り出されるほか、Cruiseの年間売上高が2030年までに500億ドルに達すると強調したようだ。

Cruiseの自動運転車は今後、ドバイや日本などで導入する計画が進んでおり、大きなトラブルがなければ右肩上がりの成長を続けることが予想される。また、自家用車への自動運転技術の導入については、レベル3、レベル4の両方が考えられるが、どのような戦略で自動運転化を進めていくのか、要注目だ。

空飛ぶクルマ、沖縄でアジア初「海上の2地点間」飛行に成功(2023年6月13日付)

建設技術研究所、日本空港コンサルタンツ、空港施設、AirXの4社が、沖縄県伊平屋島で空飛ぶクルマの試験飛行に成功した。

AirX所有が所有する中国EHang製「EHang216」を使用し、米崎キャンプ場から野甫港までの往復約2キロの海上を飛行した。パイロットが同乗しない無人飛行だ。

各社は、ビジネスモデルの検討や飛行にまつわる騒音や風速の計測・評価、離着陸場の運営・運用に関する検討、運航・安全に向けたオペレーションなどをそれぞれ検証し、空飛ぶクルマの社会実装につなげていく構えだ。

2025年開催予定の大阪・関西万博が目下の目標となるが、それまでに各社の取り組みは大きく加速していくことが予想される。今後、どのような実証が行われていくのか注目が集まるところだ。

■自動車メーカーの開発予算、「UI/UXに30%以上」が半数超え(2023年6月14日付)

フィンランドに本拠地を置くソフトウェア開発企業Qt Groupの調査によると、自動車メーカーの製品開発予算においてUIとUXが占める比率が伸びつつあるようだ。

開発予算の0%以上をUI/UXに割り当てた自動車メーカーは昨年25%にとどまったが、今後12カ月の製品開発予算において割り当てる予定のメーカーは52%に達したという。

投資が増えている技術としては、デジタルツイン技術やバーチャルアシスタント、コンパニオンデバイス・アプリ、拡張現実・仮想現実などが挙げられている。

近年、コネクテッド化や電子化・コンピュータ化を背景にデジタルコックピット・インフォテインメントシステムなどの進展が著しく、各社の試行錯誤が続いている印象だ。

どういった機能をスマートフォン連携すると利便性が高まるのか、旧来の自動車操作において何がストレスとなっているか、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術により車内環境がどのように変わっていくか……などさまざまな観点があるが、UI/UXでしっかりと差別化を図っていくことがより重視される時代が到来したようだ。

■自動運転車のせいで「人類は太る」!?無人デリバリー普及で懸念浮上(2023年6月20日付)

オーストラリアを拠点とする独立系医療研究機関が、自動運転車による健康への影響を指摘しているようだ。

自動運転技術の普及により無人デリバリーが一般化すると、その需要増大とともに外出機会が減少し、運動量も減る――といった調査結果のようだ。ジャンクフードの入手が容易になる点も指摘している。

無人デリバリーに限らず、自動運転サービスによって移動の利便性が大きく向上すれば生活上「歩く」という行為が減少する可能性は高い。

どれほどの影響を及ぼすかは定かではないものの、そのうちフィットネスマシーンを積んだ自動運転サービスが登場するかもしれない……。

■自動運転タクシー普及で、自家用車の利用率「10年後に30%割れ」(2023年6月21日付)

コンサル大手McKinsey & Companyの次世代モビリティ研究部門McKinsey Center for Future Mobility(MCFM)の調査によると、自動運転タクシーの普及に伴い自家用車の割合は低下し、世界の交通機関に占める自家用車の割合は、2021年の45%から2034年には29%まで下がるという。

代わって、自動運転タクシーの利用率は、現在のほぼ0%から2035年には8%まで増加すると見込んでいる。

他の公共交通に比べ、タクシーはパーソナルな移動を可能にするサービスだ。将来、自動運技術によって無人タクシーが大量導入され、運賃が大幅低下した場合、自家用車を手放し必要な時だけ自動運転タクシーを利用する――といった使い方は大いに考えられる。

現時点では、完全無人の自動運転タクシーサービスはごく一部地域に限られているが、2035年ごろまでにどこまで普及し、どのような存在となっているのか。要注目だ。

テスラに隠し機能「イーロンモード」!?有名ハッカーが暴露(2023年6月24日付)

テスラのADAS「FSD」に隠しモードが見つかった。発見者はその機能に対し「Elon Mode(イーロンモード)」と名付けたようだ。

そのネーミングから先入観のみで推測すると怪しさ極まりないモードに感じるが、実際はテスラのドライバー・モニタリング・システム「ナグ」を高度化したもののようだ。

通常のナグ機能は、ドライバーがADASを過信して運転操作から離れることがないよう、定期的にハンドルを操作しているかを検知するが、イーロンモードでは車内カメラでドライバーの目線などを監視しているという。また、イーロンモード使用中は、平時に比べFSDが安定して作動したとも語っているようだ。

情報の正確性は定かではないものの、もしかするとイーロンモードは近い将来実装予定のアップグレード・ベータ版かもしれない。

いずれにしろ、テスラのADASが少しずつ進化を遂げていることに間違いはない。完全自動運転、もしくはレベル3相当の機能がどのタイミングで実現するか、要注目だ。

トヨタ、コンビニ事業参入か 自動運転シャトル活用を示唆(2023年6月24日付)

トヨタのサービス専用自動運転車「e-Palette」の一仕様として、「移動コンビニ」仕様が公開された。その名も「トヨタコンビニ」だ。

実際にトヨタがコンビニ事業を直営するかどうかは置いておき、自動運転車の使用用途を考える際に「小売」は必ずと言ってよいほど頭に浮かぶ選択肢だ。比較的自由に商品を構成できるコンビニは、その象徴と言えるだろう。

本家本元の建物形式のコンビニと比べ品ぞろえでは敵わないものの、自動運転車であれば販売する場所や時間をピンポイントで選ぶことができ、需要に合わせた商品構成で効率よく売り上げを伸ばすことも可能となる。

Woven Cityなどで実際に実証されそうだが、コンビニ事業者などと手を組み、その他のエリアでもさまざまな取り組みが行われることになっていくのか、各社の動向に注目したい。

■自動運転シャトル、AIの意思を「表情」で提示 茨城県で公道実証中(2023年6月30日付)

市光工業とBOLDLYが、自動運転車と歩行者らのコミュニケーション手段となる外向けHMIの実証に乗り出した。

茨城県境町で定常運行中のARMA1台に市光工業が開発したディスプレイを設置し、「発進」「横断者あり」「停車」「右折」「左折」「あいさつ」などを意味するサインを文字や表情で表示するという。

これまでの運行を通じ、車内オペレーターの役割として、乗客のフォローなどの車内サービスと周囲の交通参加者とのコミュニケーションが重要であることが明らかとなった。今後、車内無人のレベル4へ移行するにあたり、こうしたオペレーターの役割を代替する手段が必要となるため、新たな実証に着手した。

当面は車内オペレーターが表示内容を直接操作するが、将来的にはコンピュータが周囲の状況から自動で判断することが求められる。

無人の自動運転車に必須となるだろう外向けHMIの進展に期待が寄せられるところだ。

■【まとめ】新ロードマップを契機に再度アクセルを

国内では、モビリティ関連の新たなロードマップ策定に向けた取り組みが本格化したようだ。レベル4法施行で一息ついた感があるが、これを契機に再びアクセルを踏み込む形になれば幸いだ。

海外では大きな話題が飛び出さなかったようだが、各社がブラッシュアップを図っていることは間違いない。

下半期にはどのようなビッグニュースが出てくるのか、引き続き注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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