大日本印刷(DNP)とUltimatrust(アルティマトラスト)社はこのほど、AMR(自律走行搬送ロボット)の経路を最適化するアルゴリズムと、その導入効果を検証できるシミュレーターを開発したことを発表した。
Ultimatrustは、多様なデバイスから取得したデータを集約し、AI(人工知能)で高精度な解析を行うデジタルツインプラットフォーム「Wisbrain(ウィズブレイン)」を手掛けている。
印刷大手のDNPとUltimatrustが開発したアルゴリズムとシミュレーターとは、どんなものなのだろうか。
■AMRの経路を最適化するシミュレーター
DNPとUltimatrustは、両社の技術を掛け合わせ複数のロボットを同時に効率よく制御することで、AMRのさらなる有効活用を目指している。
今回の取り組みでは、Ultimatrustのシステム「Wisbrain」にDNPが開発した「DNPアニーリング・ソフトウェア(DAS)」を搭載した。
DASは、膨大な選択肢から最適な解を抽出する「組合せ最適化問題」を高速で処理するソフトウェアで、量子コンピューターで用いられるアニーリング手法をGPU(Graphics Processing Unit)を利用した並列計算により高速化したものだ。
高価な量子コンピューターやスーパーコンピューターを使用しなくても、工場の生産計画や人員計画の最適化、物流や運送便の経路の最適化、複数エリアでの最適なセールス経路の決定などの最適解を高速で導くことができるという。
AMRについては、常に変化するAMRや障害物などの位置を把握し、最適な移動経路を短時間で計算することで、稼働率を高めることを可能にした。
さらに、シミュレーターにAMRの台数や稼働領域マップ、経由地などの条件を設定することにより、このアルゴリズムの効果を検証することができるという。
■開発したアルゴリズムとシミュレーターの特徴は?
今回開発したアルゴリズムとシミュレーターには、主に3つの特徴がある。
1つ目は、AMRの移動距離を従来手法と比べ約3分の2に短縮したことだ。DASを活用することで、現場の環境やロボットの稼働状況などの膨大な選択要素の中から「AMR同士の衝突回避」や「現場全体での高効率なロボットの動作順序」などの条件を加味し、最適な搬送経路を提示することができる。
2つ目は突発的に発生した障害物などにもリアルタイムで対応可能なことだという。今回のアルゴリズムではWisbrainを通じ、カメラやセンサーから得る障害物の情報を活用しており、経路をリアルタイムで再探索可能となっている。それが衝突や停止の事前防止につながる。
3つ目は、物流倉庫や製造工場、飲食店などのAMRが導入されるさまざまな作業環境に幅広く対応可能な点だ。
■Ultimatrust「あらゆるデータを融合し、未来を創る」
2015年設立のUltimatrustは「あらゆるデータを融合し、未来を創る」をビジョンとして、Wisbrainの開発をメインに手掛けているスタートアップだ。2023年1月には、総額7億6,000万円の資金調達を実施したことを発表している。
ロボットに関する技術開発のほか、量子コンピューター時代に対応したルーター開発、無人店舗システムの開発、深層学習計算基盤の開発、スマートシティー設計基盤の開発など、さまざまなプロジェクトに携わっている。
■両社の今後の取り組みに注目
DNPとUltimatrustは、物流倉庫や製造・物流関連の企業、飲食業界などに向け、PoC(概念実証)などを通じてロボット導入による効果検証を行っていく。また、2023年度中にこのアルゴリズムを用いたAMRの経路最適化システムを開発し、提供開始する予定だという。
両社の今後の取り組みにも注目だ。
【参考】関連記事としては「フィリピンでMaaS!?大日本印刷の気になる海外事業」も参照。