トヨタ、コンビニ事業参入か 自動運転シャトル活用を示唆

e-Paletteの移動コンビニ仕様を公開



出典:トヨタプレスリリース

「トヨタコンビニ」がまもなく開店するのか。トヨタの技術説明会「Toyota Technical Workshop」の中で、サービス専用自動運転車「e-Palette(イー・パレット)」の「移動コンビニ仕様」が紹介された。

モビリティカンパニーへの道を探るトヨタにとって、近い将来「自動運転×サービス」は重要な事業領域となるが、果たして「トヨタコンビニ」は実現するのだろうか。


トヨタのコンビニ・小売り関連の取り組みをもとに、自動運転技術を活用した移動コンビニの可能性に迫る。

■トヨタコンビニの概要
e-Palette活用手法の一例として「移動コンビニ仕様」を公開

技術説明会では、トヨタが目指すモビリティ社会のあり方「トヨタモビリティコンセプト」実現のカギを握る3つのアプローチとして、「電動化」「知能化」「多様化」を挙げた。

【参考】トヨタモビリティコンセプトについては「トヨタ新社長が掲げた「モビリティコンセプト」ゴールは?」も参照。

このうち、知能化技術を紹介する中で、ソフトウェアプラットフォーム「Arene(アリーン)」などとともにe-Paletteも登場した。多用途向けに運転席なしの自動運転仕様と、運転席付きで手動運転も可能な2タイプが公開され、広い車内空間を有効活用することでさまざまなサービスが実現可能としている。


その一例として「移動コンビニ仕様」が公開されたのだ。ディスプレイ機能を備えた側面扉には「トヨタコンビニ」の文字がはっきりと映り、車内にはスナック類やドリンク類などが陳列されている様子がうかがえる。

詳細な説明は行われておらず、あくまで多様なサービスの一例として仕立て上げただけかもしれないが、トヨタの頭の中に「自動運転コンビニ」が存在することは間違いない事実と言えるだろう。

【参考】トヨタの技術説明会については「トヨタ「知能化技術」の方向性判明!」も参照。

■トヨタの過去の取り組み
自動運転コンビニの検討は過去にも?

トヨタによる自動運転コンビニは、過去にも取り沙汰されたことがあった。e-Paletteが発表された2018年の6月、トヨタとセブン‐イレブン・ジャパンが省エネルギー・CO2排出削減に向けた検討に合意した際だ。


公式リリースは、店舗や物流における省エネルギー化などを目的に燃料電池小型トラック(FC小型トラック)の導入などを進めていく――といった内容だったが、同時期に報道された日本経済新聞や毎日新聞の記事によると、両社とヤマトホールディングスなどが自動運転車を活用した新サービス開発に向け検討を開始したと発表している。その中で、「無人の移動コンビニ」といった文字が躍っているのだ。

記者会見における質疑などの際に判明したのか、あるいは別ルートの独自取材で明らかにしたのかなどは定かではないが、トヨタの関係者、あるいはその周辺で自動運転コンビニの存在が肯定されたことになる。

【参考】セブン‐イレブン・ジャパンとの協業については「トヨタの秘策….自動運転技術で「移動型」の無人コンビニ実現へ」も参照。

「トヨタコンビニ」という名称は東京モーターショーでも登場

自動運転モビリティではないが、トヨタコンビニは東京モーターショー2019でも登場していた。同ショーではe-Paletteをはじめとした最新・将来技術が展示され、トヨタブースではさまざまな体験スポットが用意された。この体験を行うとポイントが貯まり、ポイントに応じてトヨタコンビニでグッズと交換できる――といった内容だ。

自動運転コンビニではないものの、トヨタは「トヨタコンビニ」を意外と気に入っているのかもしれない。また、深読みし過ぎかもしれないが、従来の単純な小売形態ではなく、体験をはじめとしたポイントを活用する新たなコンビニ展開などを模索している可能性もありそうだ。

トヨタグループがスーパーをオープン

コンビニではないが、トヨタグループがスーパーを開店させた例もある。岩手トヨペットやネッツトヨタをはじめとするグループ7社が包括連携協定を結ぶ岩手県葛巻町では、2019年に町内の集落で唯一の商店が閉店した。そこでグループが地元と協議を重ね、他地区の商店から商品を集めた「スーパーくずまき」を開店させたのだ。

過疎化が進行する地方では、地域におけるライフラインとなっているスーパー・商店の閉店は珍しいものではない。ビジネス性は薄いかもしれないが、こうした場面で自動運転コンビニが社会貢献することも考えられるだろう。

自動運転サービスの可能性を訴求するソリューションに?

現時点において、トヨタが自動運転コンビニを直営するような内容のリリースはなく、モビリティカンパニーを目指す観点においてもこうした小売事業に手を出す必然性もない。

しかし、「トヨタがコンビニをやるわけがない」というのも先入観に過ぎない。移動×小売や、過疎地における無人移動コンビニの有用性検証などを理由に、パートナー企業とともに自動運転コンビニ事業に着手する可能性は十分に考えられるのではないだろうか。

少なからず、Woven Cityではe-Paletteを活用した小売が行われるはずだ。また、レベル4解禁とともに加速する自動運転実証の中で、移動×小売の可能性を検証する場面も多くなるはずだ。

何より、「トヨタコンビニ」の実現は、自動運転サービスの可能性を社会に訴求する格好のソリューションとなり得る。その意味でも、コンビニ事業へのトヨタの参入に期待したいところだ。

自動運転サービスの象徴モデル「e-Palette」

e-Paletteはモビリティサービス専用の自動運転EVで、低床・ボックス型デザインによる広大な室内空間が大きなウリとなっている。ボディサイズは数パターン用意される可能性が高く、車室内をカスタマイズすることでコンビニをはじめとした小売や移動サービス、飲食、ホテルなど、さまざまな用途に活用することができる。

トヨタ独自の自動運転システムに加え、他社製システムを導入して冗長性を高めることも可能としている。技術説明会では、手動運転可能なモデルの存在も明らかにされた。ユーザーがODD(運行設計領域)に左右されることなくe-Paletteを手動運転で移動し、ODD内で自動運転サービスを提供――といった自由度の高い使い方が可能になりそうだ。

■自動運転コンビニの事例
京セラが移動販売サービスを実証

国内では、京セラコミュニケーションシステムが自動運転による移動販売サービスの実証を行っている。同社は2022年7月から8月にかけ、イオンリテールなどの協力のもと千葉県千葉市で無人自動走行ロボットを活用した移動販売サービスの実証を行っている。

車両はおそらく中国Neolix製のモデルを使用している。車道走行可能な小型タイプで、コンビニと呼ぶには積載量が少な過ぎるものの、取り回しが良く公園など施設内での販売にも向いている。自動運転×小売の取っ掛かりとして適したモデルと言えるかもしれない。

当のNeolixは、2022年に開催された北京冬季オリンピックなどの場で自動運転車両を用いた無人移動販売を本格化させている。当初計画では、150台以上のロボットを導入し、移動コンビニとして稼働させるとしていた。

【参考】京セラコミュニケーションシステムの取り組みについては「京セラ子会社が「ミニ無人コンビニ」!自動運転技術を活用」も参照。

海外では大型モデルも…

米Robomartは、ミニバンなどを改造した自動運転車両による「ストアヘイリング」事業を目指し開発を進めている。好みの商品を積んだRobomart車両をアプリで呼び出し、買い物する仕組みだ。

スウェーデンの企業Wheelysなどは、大型バスサイズの低速自動運転モデル「Moby Alpha」の開発を進めている。一見すると自動車には見えず、店舗が移動しているように見える、まさに「移動するコンビニ」だ。大型サイズのため、商品数も豊富だ。ただ、ここ数年はリリースが出されていないため、開発停止している可能性もある。

大型モデルなどは、小型モデルと比べクリアすべき法規制や技術水準などのハードルが高い。まずはNeolixのような小型モデルやe-Paletteのような乗用車サイズで実績を積みながらビジネス性を探っていく方が得策なのかもしれない。

【参考】Robomartなどの取り組みについては「「無人コンビニ」の開発状況まとめ 自動運転技術で「移動式」も」も参照。

■【まとめ】自動運転移動販売サービスのポテンシャルは未知数

自動運転車を活用した移動販売サービスはまだまだ手探りの状況が続いているが、ビッグデータをもとに需要のある場所や日時を予測し、効果的に収益を上げる手法や、オンデマンド型サービスによる新たな需要喚起などポテンシャルもまだまだ眠った状態と言える。

トヨタが自動運転コンビニに着手すれば、触発されるかのように自動運転×小売の取り組みが広がっていく可能性も高い。

業界のリーダーとしてトヨタがどのように動いていくのか、また開発・サービスパートナーとして本腰を入れる企業が出てくるのかなど、今後の動向に注目したい。

【参考】関連記事としては「トヨタと自動運転(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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