自動運転の社会実装が着々と進んでいる。多くは移動サービス向けの自動運転タクシーやバスだが、物流をはじめ警備や清掃、小売りなど、移動とさまざまな業種・サービスを結び付けた多目的な活用に期待が寄せられる。
その1つが無人で移動するコンビニだ。自動運転技術を活用した小売革命の代名詞的存在として今後注目が高まる可能性がある。
国内では今のところ実証例がないと思われるが、近い将来実現可能な素材は揃っている。トヨタの多目的自動運転EV(電気自動車)「e-Palette(イー・パレット)」だ。
東京五輪の選手村で事故を起こしたe-Palette。原因解明をしっかりした上で安全性をさらに向上させることが大前提として求められるが、新しいテクノロジーの社会実装のためには同時並行的に取り組みを前進させることも重要で、ユースケースの1つとしてコンビニへの活用は十分にあり得る。
この記事では、e-Paletteを活用した自動運転コンビニの可能性に迫っていく。
記事の目次
■e-Paletteとは?
e-Paletteは自動運転技術を搭載したモビリティサービス専用EVで、低床・箱型デザインによる広大な室内空間が特徴だ。人の移動やモノの輸送をはじめ、ホテル仕様やリテールショップ仕様など、サービスパートナーの用途に応じた設備を搭載することができる。
サイズはある程度変更可能なようで、参考までに東京2020オリンピック・パラリンピック仕様モデルは全長5,255×全幅2,065×全高2,760ミリとなっている。最大20人乗ることができる仕様だ。
一般的なコンビニと比べると狭いが、車内を有効活用すれば相当数の商品を陳列することができそうだ。自動運転レベル4相当の無人走行が可能で、巡回型の自動運転コンビニとしての活用も将来実現しそうだ。
【参考】e-Paletteについては「トヨタのe-Palette(イーパレット)とは?多目的自動運転EV、MaaS向けなどに」も参照。
【最新版】トヨタのe-Palette(イーパレット)とは?多目的自動運転EV、MaaS向けなどに https://t.co/42PVDQKslu @jidountenlab #トヨタ #e-Palette #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) December 26, 2019
■自動運転コンビニの実現に必要となる要素
需要予測システムで売上アップを図る仕組み
無人で巡回可能な自動運転コンビニの実現は、自動運転技術だけではなし得ない。さまざまな技術や環境が必要となる。
運行管理面では、曜日や時間、天気などに合わせて最も大きな需要を見込める場所を探す需要予測システムを運行管理システムに統合し、柔軟に販売場所を変えながら売上アップを図る仕組みが求められる。
新型コロナウイルスの影響もあって移動販売車の注目が高まっており、こうした車両を停車させるスペースを設ける動きが今後広がる可能性もある。こうした新たな小売の仕組みが浸透すれば、空きスペースの予約決済プラットフォームなども発展し、より効果的な販売を行う仕組みが確立されるかもしれない。
バッテリー面のフォローや無人販売・決済システムも必要に
設備面では、電源の確保も必要となるかもしれない。販売には多かれ少なかれ電気が必要となる。EVの車載バッテリーに依存するだけでは長時間の運用は困難となるため、販売スペースに非接触型の充電設備が備わっていると重宝しそうだ。
また、必須となるのが無人で販売する仕組みだ。店員が存在しない自動運転コンビニでは、誰がどの商品を購入したか(持ち帰ったか)を正確に把握し、自動決済しなければならない。
シンプルな仕組みとしては、自動販売機のシステムを応用する手法がある。商品数は限られるが、スマートフォン決済のほか現金決済にも対応できる。ただ、多数の商品を取り扱う本格的なコンビニ形態としては向いていない。
こうした自動決済の好例が、米アマゾンが展開する小売店「Amazon Go」だ。店舗入り口のゲートでスマートフォンを利用して個人認証すると、店内に設置された各種センサーが自動で追跡し、動向を把握する。商品を手に取るとスマートフォン所のバーチャルカートに商品が追加され、棚に戻すとバーチャルカートからも削除される。退店した際にバーチャルカートに入れられた商品が自動決済される仕組みだ。
セルフレジの導入が進む日本では、RFIDを活用した決済システムが増加傾向にあるが、このシステムに個人を識別するシステムと、レジなしで自動決済する仕組みを付加すれば、自動運転コンビニにおいても活用できそうだ。
自家用車タイプの自動運転車による小売は、基本的に車外にいる人に向けて商品を販売するため、自動販売機システムがマッチする。一方、e-Paletteクラスの広さがある自動運転車であれば、車内に足を踏み入れた人を対象に商品を販売することができるため、後者のシステムがマッチしそうだ。
レベル4に向けた法改正や道路空間の有効活用も
国内で自動運転コンビニを導入するためには、当然ながら自動運転レベル4に対応した法整備も必要となる。あわせて道路法なども改正し、道路空間を有効活用できる施策の展開などにも期待したいところだ。
【参考】道路の有効活用に向けたビジョンについては「【資料解説】「2040年の道路」はこうなる!国交省最終ビジョン 自動運転実用化も」も参照。
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— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 29, 2020
■トヨタがコンビニ分野に参入?
仮にe-Paletteで自動運転コンビニ事業を展開する場合、トヨタ自らが小売業に本格参入するのか。仕入れなども考慮すると、さすがに新規参入は難しいように思われる。
トヨタは2017年、セブン‐イレブン・ジャパンと店舗および物流における省エネルギー・CO2排出削減に向けた検討を進めていくことに合意し、2018年には定置式のFC(燃料電池)発電機やリユース蓄電池の導入といった共同プロジェクトをスタートさせている。
また、一部報道によると、トヨタは2018年、セブン-イレブン・ジャパンやヤマトホールディングスなどとEVを活用した新サービスの開発に向け提携交渉を進めていることが報じられている。交渉の中では、無人の移動コンビニや移動カフェといった自動運転サービスも検討するという。
公式発表はなくその後の交渉の行方は不明だが、2018年はe-Paletteが発表された年でもある。一方のセブン‐イレブンも販売設備付きの軽トラックを用いた移動販売サービス「セブンあんしんお届け便」の数を着々と増やしており、2020年2月時点で1都1道2府33県の102店舗で運用している。
次世代型コンビニの一形態として、ここに自動運転車を投入する余地はありそうだ。
■海外の事例
海外では、米Robomartが店舗型の自動運転車両の開発を進めている。ライドヘイリングならぬ「ストア・ヘイリング」という発想のもと、おそらくドライバー付きではあるものの要請に応じ利用者の元に車両を配送する販売サービスをすでに行っているようだ。
一方、スウェーデン企業と中国の合肥工業大学の共同プロジェクトとして展開されているMoby Martは、モビリティであることを感じさせず店舗そのものが移動するかのような自動運転コンビニの開発を発表している。
また、自動走行ロボットの開発を手掛ける中国スタートアップのNeolixは、無人販売に特化したやや小型の自動運転車の開発を進めている。2021年5月に北京市から公道走行免許を取得しており、実証後、150台以上の車両を導入してコンビニエンスストアサービスを展開する計画を明らかにしている。
【参考】無人コンビニ・自動運転コンビニについては「「無人コンビニ」の開発状況まとめ 自動運転技術で「移動式」も」も参照。Neolixについては「自動運転コンビニ、中国Neolixが150台超展開へ!北京が免許交付」も参照。
中国でブーム勃発!「無人コンビニ」最前線 AI自動運転技術で「移動式」も https://t.co/PgIO61QkRQ @jidountenlab #無人 #コンビニ #自動運転
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) May 17, 2019
■【まとめ】「移動×小売×無人」ビジネスに注目
本格的な移動コンビニを実現するためには大型バスやトラック、トレーラーなどを自動運転化する必要がありそうだが、社会実装を図る第一段階としてはe-Paletteのサイズ感がちょうど良さそうだ。
自動運転車をリテール用途に活用するビジネスは近い将来間違いなく産声を上げる。「移動×小売×無人」という新たな小売の形態がどのように進化していくか、要注目だ。
▼トヨタ自動車公式サイト
https://global.toyota/
▼進化したe-Palette、その全貌を公開|トヨタイムズ
https://toyotatimes.jp/insidetoyota/115.html
【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略とは?2021年も大変革へ前進、e-PalleteやWoven Cityに注目」も参照。