トヨタ「知能化技術」の方向性判明!新車載OS、移動コンビニも

重要性が増すソフトウェア領域



e-Paletteの移動コンビニ仕様車も披露された=出典:トヨタ公開資料

「クルマの未来を変えていこう」──。トヨタが技術説明会「Toyota Technical Workshop」を開催し、モビリティカンパニーへの変革に向けたさまざまな新技術を公表した。

社長の座を豊田章男氏から佐藤恒治氏へバトンタッチしたトヨタは、新体制方針説明会において目指すモビリティ社会のあり方を「トヨタモビリティコンセプト」としてまとめ、その実現のカギを握る3つのアプローチとして電動化、知能化、多様化を挙げていた。


今回の技術説明会では、この電動化、知能化、多様化に関する新技術を公開したようだ。自動運転が関わってきそうな知能化では、どのような技術が発表されたのか。公開資料をもとに、「知能化」領域の新技術を紹介していく。

▼トヨタ、クルマの未来を変える新技術を公開
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/39288466.html
▼知能化技術:クルマの新価値を提供する知能化
https://global.toyota/pages/news/images/2023/06/13/0500/intelligence_technology_jp.pdf

■クルマの新価値を提供する知能化
重要性が増すソフトウェア領域

自動車のスマート化が進展し、開発の軸はハードウェアからソフトウェアに移り始めた。自動運転やADAS(先進運転支援システム)のみならず、さまざまな機能にソフトウェアの質が求められる時代が到来したのだ。

トヨタは、先進安全技術やマルチメディアをはじめ、時代の進化に合わせた機能のアップデートをすべてのクルマに順次拡大していくという。


同社は、その核となるソフトウェアプラットフォーム「Arene(アリーン)」をはじめ、車両と乗員がコミュニケーションを図るうえでカギを握る次世代音声認識、車両の乗り味のカスタマイズ・パーソナライズといった観点から知能化を図り、クルマを進化させていく構えのようだ。

Arene OS

トヨタにおけるソフトウェア戦略の中核となるのがAreneだ。クルマの知能化を加速する各種モビリティソフトウェアの開発と活用を向上させるソフトウェアプラットフォームとして機能するほか、車載OS「Arene OS」として自動車のコンピュータ化のベースとしても活用される。

Areneによって、さまざまなモデルにおけるソフトウェアの再利用性を高め、開発の主要部分を自動化していっそう効率化を図ることができるという。

このAreneをトヨタのハードウェアプラットフォームと組み合わせることで、新車開発のスピードアップとコスト削減を両立し、より安全でパーソナライズされたモビリティを実現できるようだ。


Areneにおける知能化は、以下の3つを柱に据えている。

  • ①TOOLS
  • ②Software Development Kit(SDK)
  • ③User Interaction(UI)

TOOLSはクルマのソフトウェアを効率的に開発・評価するためのツール群で、SDKは最先端のソフトウェアを容易にクルマに搭載するための開発キット、UIは人とクルマ、クルマと社会が相互に作用するための仕組みとして活用される。

これら各種機能を備えたAreneが電子プラットフォーム・ソフトウェアプラットフォームとなり、ハード部分を構成する最新の車台プラットフォームと組み合わさることで、ソフトウェア更新による車両の高度化やパーソナル化を実現していく。

Areneは2025年に実用化し、2026年に次世代BEVへの搭載を目指す方針だ。

出典:トヨタ公開資料
次世代音声認識

最新のAI(人工知能)技術を活用し、まるでオペレーターと対話しているような高速かつ高性能なレスポンスや、場面や好みに合わせた提案を実現し、利用者により快適なキャビン体験を提供する。

トヨタはコネクテッドサービス「T-Connect」の中で、話しかけるだけで音声で応答し、目的地や情報の検索をしてくれる会話形式のサービス「エージェント(音声対話サービス)」をすでに提供しているが、今後はArene OSによって200以上の車両機能を操作可能にし、クルマの知能化を加速するという。次期グローバル量産モデルに搭載予定としている。

自動運転車では必然となるクルマと乗員とのコミュニケーション手段「HMI(ヒューマンマシンインタフェース)」は、ADAS車においても利便性を高めるソリューションとなる。音声認識はこのHMIを構成する要素技術だ。

出典:トヨタ公開資料
AIサポートによる「かっこいいデザイン」

人間のデザイナーとAI(システム)がコラボレーションすることで、デザイン発想力を無限に拡張し、同時に意匠開発スピードを抜本的に改善するツールも開発しているようだ。

AIシステムが空力などの工学的制約を考慮した画像を生成することで、空力性能と意匠性を両立したデザイン作成をサポートするという。

マニュアルBEV

BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)のハードとソフトに「クルマ屋」ならではのアップデートを施すことが可能になるという。駆動制御やクラッチにより、BEVでもMT車のような車を操る楽しさを提供していくようだ。

走りをオンデマンドで変更可能な車

BEVのソフトウェアをアップデートすることで、乗り味やエンジン音などをオンデマンドで変更可能にする。昔乗っていた懐かしの車や走りを追求したスポーツタイプ、将来乗ってみたい車など、1台のBEVで無限の可能性を追求するという。

出典:トヨタ公開資料
ステアバイワイヤ搭載レクサスRZ

ドライバーのステアリング操作を電気信号に変えてタイヤをコントロールするステアバイワイヤも目玉の1つのようだ。

機械的なつながりがないため操作量を大幅に低減でき、従来の円形ステアリングホイールと比べ車両の取り回しが容易になり、ステアリング配置の自由度も増す。

中国市場向けのbZ4Xや、レクサスの新型「RZ」などにすでに採用されている。

■社会とつながり、社会課題解決にも貢献する知能化
モビリティと社会や生活を結びつけていく時代に

クルマがインフラやまちとつながり、サービスや社会を通じて社会課題の解決に貢献していく知能化技術もさまざまな観点から開発を進めている。

モビリティのテストコースに位置付けているWoven Cityでは、人、クルマ、社会をつなげるさまざまな実証を行っていく方針で、例えば物流領域においてコネクテッドサービスを社会実装し、そこで明らかになった課題を再びWoven Cityで改善し、再度社会実装する――といったサイクルを進めることで、社会の知能化を加速させていくという。

高効率輸送オペレーション支援システム(E-TOSS)

車両データやコネクテッド技術を活用し、リアルタイム輸配送の仕組みを実現するという。正確な輸送・配送計画を通じ、①CO2排出量②作業人員③物流コストの約15%低減に寄与する。

すでにトヨタコネクティッドがアプリ「E-TOSS」をサービスインしている。

出典:トヨタ公開資料
地図自動生成(Geo)

トヨタの膨大な車両データを活用し、道路勾配情報の解像度を飛躍的に向上させるとともに、3D地図の更新頻度を6カ月から即日へ短縮する。

トヨタのADAS「Toyota Safety Sense(TSS)」の第3世代を活用して画像データなどを収集し、高精度三次元地図に統合・更新してOTAにより各車両にアップロードする――といったことが可能になるようだ。

恐らくだが、自動地図生成プラットフォーム「AMP(Automated Mapping Platform)」の本格実装と結びついていくものと思われる。

出典:トヨタ公開資料
新たな次世代自動駐車機能

登録した駐車パターンをベースに、自動運転技術によって障害物などのイレギュラーな事態にも対応可能な駐車機能を開発しているようだ。

詳細は不明だが、駐車場におけるレベル4相当の機能となるか注目したいところだ。

e-Palette

トヨタの自動運転車の代名詞的存在となっている「e-Palette(イー・パレット)」だが、多用途向けの運転席なし(自動運転)のモデルと、手動運転も可能な運転席ありの2タイプを公開したようだ。

トヨタ、ウーブン・バイ・トヨタ、デンソーで開発中の自動運転システムを搭載しており、大量データによる知能化と、長年蓄積してきた安全に関する知見をベースに、クルマ屋ならではの自動運転で「Mobility for All」への貢献を目指すとしている。

ちなみに以下は公開されたe-Paletteの移動コンビニ仕様車の画像だ。「トヨタコンビニ」と名付けられている。

出典:トヨタ公開資料
■【まとめ】手動運転対応e-Paletteで利用シーンが増加

2025年に実用化予定のAreneにより、クルマがどのように変わっていくのか、そしてトヨタのクルマづくりがどのように変化いくのか、要注目だ。

自動運転関連では、次世代自動駐車機能とe-Paletteがトピックに上がっていたが、手動運転可能なe-Paletteの存在は初出だ。ODD内外を誰もが容易に走行できるようにすることで、さまざまな利用シーンに対応できる現実的なモビリティとなる。

レベル4法施行により実証も増加するものと思われ、今後の活用シーンに引き続き注目していきたいところだ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「トヨタ新社長が掲げた「モビリティコンセプト」ゴールは?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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