自動運転を含む日本の新「モビリティロードマップ」策定へ

時期は2023年末まで、アーリープログラムにも着手



「官民ITS構想・ロードマップをモビリティ・ロードマップとして再起動する」──。国の自動運転関連施策に新たな動きが出たようだ。デジタル庁が「モビリティ・ロードマップのありかたに関する研究会」を設置し、新たな計画や目標策定に向け会合を開いた。


前ロードマップでレベル4の実用化に区切りをつけ、大きな節目となるマイルストーンを達成したが、今後は岸田文雄内閣が推し進めるデジタル田園都市国家構想のもと、持続可能なサービスとして本格普及させるべく新たにアクセルを踏み込む格好だ。

モビリティ・ロードマップはどのようなものになるのか。その概要を解説していく。

▼「モビリティ・ロードマップ」のありかたに関する研究会(第1回)
https://www.digital.go.jp/councils/mobility-roadmap/7af11a88-1eef-4691-bb87-3506537bcbbe/
▼事務局資料
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/7af11a88-1eef-4691-bb87-3506537bcbbe/baa393cf/20230531_meeting_mobility_roadmap_outline_04.pdf

■モビリティ・ロードマップ策定の経緯
官民ITS構想・ロードマップが自動運転開発をけん引

日本では、2014年に初策定された「官民ITS構想・ロードマップ」のもと、自動運転技術の社会実装目指し研究開発が進められてきた。同ロードマップは毎年度改訂され、レベル4実用化に向けたさまざまな取り組みの指針となってきた。


こうした動きのもと、2020年にレベル3、2023年にレベル4を可能にする改正道路交通法や改正道路運送車両法が施行されるなど、環境面やルールの整備などが進められてきた。サービス面では、レベル3による遠隔型自動運転による無人移動サービスが始まり、自動運転専用走行区間におけるレベル4相当の運行などにも一定のめどが立った。

事業がマイルストーンに達し、同ロードマップが1つの役目を終えたことから、2022年度には今後の検討の方向性について改めて協議を行うこととなった。

デジタル庁が2022年8月に発表した「デジタルを活用した交通社会の未来2022」では、デジタル田園都市国家構想など政府全体の方向性を踏まえ、デジタル交通社会として考えるべきデジタル・インフラシステムといった視点で全体最適化を図りながら事業展開していく方針を示している。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

自動運転関連では、これまでのITS・自動運転を中心とした枠組みからスコープを拡大し、「自動運転・運転支援」「道路空間」「モビリティサービス・MaaS」「ドローン」「空飛ぶクルマ」「モビリティ分野協調領域」といったカテゴリーに分類しそれぞれ取り組みを整理していくこととしている。


また、国は約10カ年の中長期計画となる「デジタルライフライン全国総合整備計画」の策定を進めており、この中でも自動運転やAIイノベーションなどの社会実装に向けたと取り組みが明記される予定だ。

デジタル庁はこうした新たな動きを踏まえ、自動運転に限定することなくドローンやサービスロボットなどモビリティサービスを支える技術全般に対象範囲を広げ、供給側・需要側双方の事情を加味した上で、今後必要となる技術開発や制度改革事項などの取り組みをまとめた「モビリティ・ロードマップ」の策定作業として事業を再起動することとした。

【参考】デジタル庁の取り組みについては「1日1台767TB!?自動運転車のデータ処理で「驚愕の数字」」も参照。

■モビリティ・ロードマップの概要
2023年度末までに「モビリティ・ロードマップ2024」策定

「モビリティ・ロードマップ」のありかたに関する研究会は、筑波大学名誉教授の石田東生氏を座長に、東京電力パワーグリッドや情報処理推進機構、日本無人機運行管理コンソーシアム、人日本自動車工業会、ITS Japanなどがメンバーに名を連ねている。

SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の「スマートモビリティプラットフォームの構築」や、政府や民間における検討などを踏まえ、モビリティ分野におけるデジタルに関係する関係府省庁・民間でのさまざまな取り組みについてビジョンを明確にし、2023年度末までに「モビリティ・ロードマップ2024」として取りまとめて初版を策定する。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
需要と供給サイドを一体的に検討

新たなロードマップでは、車両技術を中心とした供給側の視点を中心とした整理に加え、暮らしのシーンを想定した需要サイドの課題を一体的に検討していく。供給側の視点を中心とした整理についても、車両技術中心の取り組みに加え、道路環境や三次元空間情報基盤の整備など周囲の社会システム全体の課題を捉えていく方針だ。

サービスを供給するために必要となる基本的技術や、それを実現するための最低限の制度整備はすでに終了しており、今後は持続可能な形で事業を定着させる必要がある。これには需要との一体的な検討が必須で、以下の観点について協議を詰めていかなければならないとしている。

  • 地方では、各輸送・交通サービス単体で事業採算性を確保することは難しく、需要側と一体的に事業設計してモビリティサービスを産業として支えていくための政策の設計が必要
  • 交差点のデジタルツインや運行制御を支えるインフラの効率的なインフラシェアリング、自動制御されるモビリティ同士の協調制御技術やそれを支えるルールなど、車両・ロボット・機体側で担うべき機能と、それを支えるモビリティ・インフラ側が担う機能との役割分担を決めることが必要
  • モビリティ管理の自動化が進めば進むほど従前の運行者による個体の運用管理を前提とした社会的責任の分担では事業リスクの確定が困難になるため、モビリティサービスをめぐる社会的責任のあり方やモビリティ・インフラのあり方について改めて検討を行う必要

これらの検討を各府省連携して進めていくため、デジタル庁からの声がけによって新たな検討体制を整備し、5年程度をめどに必要な取り組みのロードマップ化を進めていく。

検討手順としては、まず同研究会での検討を通じて今後整理が必要と思われる論点を関係者間で共有し、検討を深めるべき事項、ロードマップ化すべき事項について一定の整理を行う。

その後、デジタル社会の実現に向けた重点計画の決定を経て、デジタル社会推進会議の下に新たに検討の場を設置し、同研究会で整理した論点を基にロードマップの素案策定に向けた正式な検討を開始する。

また、デジタル技術を活用したサービス提供に必要となるハード・ソフト・ルールにわたるデジタルライフラインの全国的な整備を目指す「デジタルライフライン全国総合整備計画」の具体的な取り組み内容を検討する「デジタルライフライン全国総合整備実現会議」に対し論点を提案する。

2023年度末には、モビリティWGやデジタルライフライン全国総合整備実現会議における検討、SIP「スマートモビリティプラットフォームの構築」、その他政府や民間における検討などを踏まえ、モビリティ分野におけるデジタルに関係する関係府省庁・民間でのさまざまな取り組みについて、モビリティ・ロードマップ2024の初版を策定する。

出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
出典:デジタル庁公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■デジタルライフライン全国総合整備計画における事業
モビリティ運行の観点とモビリティサービスの観点の両面から検討を推進

重複するが、デジタルライフライン全国総合整備計画の実現に向けては、自動運転車やロボット、ドローンなどをトータルにモビリティとして捉え、移動需要に対する新たなモビリティ政策を検討していくことが必要としている。

また、自動運転サービスなどの全国展開にあたっては、単なる実証ではなく社会実装につながるよう持続可能性を担保するための要件を明確化することが必要となる。

そして、異なる事業者が提供する車両やロボット、ドローン間で、空間情報の共有や協調制御の実装など、地域の実情に合わせた運行管理・事業体制を検討していくことが必要となる。

これらに必要となるハードや制度の整備も含め、モビリティ・ロードマップとして国の施策を再起動し、デジタル全総の実現をサポートしていく方針だ。

モビリティ分野におけるデジタルサービスの早期実装に向けた検討方針としては、自動運転車やドローンなどを運行させるモビリティ運行の観点と、これらを活用してサービスを提供するモビリティサービスの観点の両面から検討を進めていくこととしている。

運行の観点では、ハード・ソフト・ルールといったインフラを充実させることで、自動運転車などの開発から運行までの安全性・信頼性の向上やコスト低減・ビジネス機会創出を促す。その際に必要となるハード・ソフト・ルール・モビリティの役割分担についてまず検討を深めていく。

サービスの観点では、需要と供給力を踏まえ、人やモノの移動が最適となるオペレーションや需給を最適化するシステムの検討を行う。合わせて、移動先のサービスや人流・物流サービス、自動運転運行サービスの役割分担についても検討を深めていく。

モビリティサービスの需給最適化に向けては、ヒトやモノの移動ニーズに関するデータをもとに、最適な輸送サービスが自動的に決まり提供される仕組みを検討する。

物流分野においては、労働力不足の顕在化や担い手の高齢化が進んでいることから、中長期的な人口減少の中でも効率的かつ持続的な物流を維持するため、デジタル化・標準化などを通じた共同輸配送システム「フィジカルインターネット」の実現に向けて取り組むこととしている。

アーリープログラムにも着手

早期に取り組むアーリーハーベストプロジェクトとしては、以下の3つを挙げている。

  • ①ドローン航路の設定
  • ②自動運転支援道の設定
  • ③インフラ管理のDX

①では、ドローンの目視外の自動飛行による点検や物流自動化を普及させるため、点の取り組みを線で結んでいく。

送配電網などの既存インフラを活用し、将来的には地球1周分(約4万キロ)を超えるドローン航路の設定を目指す目標を掲げており、まず2024年度ごろまでに埼玉県秩父エリアの送電網などにおいて150キロ以上の航路を設定して利用を開始する。

②では、2024年度に新東名高速道路において100キロ以上の自動運転車用レーンを設定し、自動運転トラックの運行の実現を目指す。また、2025年度までに全国50カ所、2027年度までに全国100カ所で自動運転車による移動サービス提供を目指す。

新東名の自動運転車用レーンは駿河湾沼津から浜松間で、当面は深夜時間帯における専用レーン化を図る方針だ。

③では、2024年度ごろに関東地方の都市(200キロ平米)で、地下の通信や電力、ガス、水道の管路に関する空間情報をデジタル化し、空間ID・空間情報基盤を介して相互に共有できるようにすることを目指す。

■【まとめ】自動運転は新たなフェーズに突入

デジタルとリアルが効果的に融合した社会形成に向け、新たな舵を切った格好だ。自動運転に関しては、技術開発や法整備などがすでに一定段階に達し、今後は継続的にサービス提供可能な仕組みや環境が求められることとなる。

新たなフェーズに突入した自動運転は、社会の中にどのように溶け込んでいくのか。今後の検討の方向性に注目したい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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