1日1台767TB!?自動運転車のデータ処理で「驚愕の数字」

国がデジタルインフラ構築に本腰



出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

「1日1台あたり767TB(テラバイト)」──。これが何の数字かわかる人はいるだろうか。答えは、自動運転に必要とされているデータ処理量だ。自動運転車は、1日1台あたり767TBを処理する必要があるという。

この数字は、経済産業省所管の「デジタルインフラ(CD等)整備に関する有識者会合」で発表された、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の資料「デジタルライフラインの整備に向けたデジタルインフラの重要性」の中で示されたものだ。


膨大な量のデータを生成・処理する自動運転時代には、デジタルインフラが欠かせないものとなる。この記事では、デジタルインフラ構築に向けた動きについて解説していく。

▼デジタルライフラインの整備に向けたデジタルインフラの重要性
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/digital_infrastructure/0006.html
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/digital_infrastructure/0006/03.pdf

■デジタルライフライン・デジタルインフラ構築に向けた取り組み
国策のもとデジタルライフライン構築事業が前進

IPAの資料は、デジタルインフラの重要性を説く内容となっている。各種社会課題の解決に必要となる自動運転車やドローンなどの活用・普及においてはデータの信頼性が重要で、さらに低遅延・機敏なデータ処理が求められることから、国産クラウド・データセンターの構築や、政府・産業界連携による運営事業体の特定・設置、データに関する需給ギャップが大きい地域から順次整備計画を策定することを呼び掛けている。

整備計画については、デジタル田園都市国家構想実現会議で「デジタルライフライン全国総合整備計画」の検討を進めていくことが決定しており、自動運転やドローンの実装と面的整備に向け、デジタルアーキテクチャの策定や、推奨仕様やスペックの具体化、先行地域の特定、役割の特定が行なわれていくという。同計画については後述する。


IPAが設立したデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)を中心に政府や民間、大学などのプロフェッショナルが連携し、デジタルライフラインを構成するソフトインフラやハードインフラ、ルール、担い手、クラウド、情報処理・情報通信インフラなどの具体化を行っていく。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
低速自動運転車は2TB?高速自動運転車は767TB?

自動運転に関しては、現在数多くの実証が行われているものの、低速においても事故が発生している状況としており、高速走行による自動運転を社会実装するためには、ハードインフラやソフトインフラによる支援が必要不可欠で、1日1台あたり767TBものデータを処理する必要があると結んでいる。

現状の時速20キロ程度の自動運転では、データの要求処理量は2TB程度という。これが将来、時速60~100キロの自動運転になると383倍相当の767TBになるというのだ。スムーズな自動運転を実現するためには莫大な量のデータ処理能力が求められるが、こうした処理を自動車単体で行うのは難易度が高い。

仮に5万台の自動運転物流トラックが運行すると仮定した場合、1日あたり36.6EB(エクサバイト)のデータ処理を自動運転車とインフラ側で分担して処理する必要があるとしている。これは、サーバーラック約1万2,000台の処理量に相当するという。なお、エクサバイトはテラバイト、ペタバイトに次ぐ単位で、テラバイトの約100万倍に相当する。


出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■デジタルライフライン全国総合整備計画の概要
共通的なサービス基盤となるデジタルライフラインを整備

経済産業省が2023年3月に発表したデジタルライフライン全国総合整備計画の検討方針によると、2023年度内に約10カ年の整備計画を策定し、官民で集中的に大規模投資を行うという。

自動運転やAI(人工知能)によるイノベーションを線・面で社会実装することで働き手の賃金向上を実現するとともに、人手不足や災害激甚化といった社会課題の解決を図る狙いだ。

共通的なサービス基盤となるデジタルライフラインの整備や、これを活用する自動運転車・ドローン・AIなどの普及によって新たなデジタル産業の興隆を促し、国内投資・イノベーション・所得拡大の好循環にもつなげていく 。

モビリティ分野では、自動運転車やドローンなどを運行させる「モビリティ運行」の観点と、自動運転車やドローンなどを活用してサービスを提供する「モビリティサービス」の観点の両面から検討を進めていく。

モビリティ運行では、ハード・ソフト・ルールといったインフラを充実させることで、自動運転車の開発から運行に至るまでの安全性や信頼性の向上をはじめ、コスト低減やビジネス機会創出を促す。実現に向け、まずはハード・ソフト・ルール・モビリティの役割分担について検討を深めていく方針だ。

モビリティサービス関連では、需要と供給力を踏まえヒトやモノの移動が最適となるオペレーションや、需給最適化を実現するシステムの検討を行うとともに、移動先のサービスや人流・物流サービス、自動運転運行サービスの役割分担について検討を深めていくとしている。

需給最適化に向けては、ヒト・モノの移動のニーズに関するデータをもとに最適な輸送サービスが自動的に決まり提供される仕組みを検討する。

物流分野においては、デジタル化・標準化等を通じた共同輸配送システム「フィジカルインターネット」の実現に向け取り組むこととしている。

出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
アーリーハーベストプロジェクトも始動

早期実施するアーリーハーベストプロジェクトとして、2024年度に新東名高速道路の一部区間などにおいて、距離100キロ以上の自動運転車用レーンを設定し自動運転トラックの運行実現を目指す。

また、政府目標である自動運転移動サービスを2025年度までに全国50カ所、2027年度までに全国100カ所で実施できるよう支援を行っていく。

自動運転車用レーンは、駿河湾沼津から浜松までの区間を想定し、当面は深夜時間帯の自動運転を目指す考えだ。本線車両の検知や合流支援情報、落下物、工事規制情報など、路側センサーなどで検知した道路状況を車両に情報提供することで自動運転を支援する。

ドローン関連では、2024年度ごろまでに埼玉県秩父エリアの送電網において150キロ以上の航路を設定し利用開始する。

こうした自動運転支援道やドローン航路、さまざまなモビリティが人の乗換や荷物の積替、駐車、充電などを行う拠点となる「ターミナル2.0」といったフィジカル空間を、さまざまな運営主体が有する各種データを検索・統合するためのデータ連携基盤や3D地図といったサイバー空間と接続することでデジタルライフラインを構築していく構えだ。

■自動運転におけるデータ
膨大なデータを生成する自動運転車

IPAの資料ではデータ処理量767TBの根拠が示されていないが、米調査会社のGartner(ガートナー)が同様の数字を提示している。同社によると、自動運転車1台あたりのデータトラフィック量は年間280PB(ペタバイト)超という。1日に換算すると767TBだ。

過去に米インテルが試算した結果によると、自動運転車は1日当たり4TBのデータを生み出すという。

データ生成量と処理量の違いや算出根拠が不明確なため、こういった数字にばらつきが出るのは必然だが、膨大な量のデータを生成・処理することに間違いはない。将来、何らかのイノベーションによってさらに桁違いのデータが生み出される可能性も考えられる。

データ処理はエッジ側だけでは対応しきれない

自動運転車は、カメラやLiDARなどの車載センサーで周囲の状況を検知しながら走行する。高精細な映像データなどを常に生成し続けているのだ。

サービス用途の車両の場合、こうしたセンシングデータはリアルタイムで遠隔監視センサーなどに送信される。万が一の際、車両内外の状況をすぐに把握できるようにするためだ。

あわせて、走行速度やGPS情報といった従来のプローブ情報や、運行管理に関するデータ、道路交通に関する情報なども随時やり取りを行う。

交差点情報など道路のリアルタイムの情報は、道路に設置されたセンサーなどと自動運転車が通信(V2I)を行い、随時情報の送受信を行う。

さまざまな情報を生成・処理する自動運転車は、常に高精細映像をライブ配信しながら、その裏で膨大なデータ処理を行っているのだ。

こうしたデータの処理や保管は、エッジ(自動運転車サイド)とクラウドで分散して行うことが理想となる。

膨大なデータの処理や保管には相当な負荷がかかるため、即時性を求められるデータはエッジ、蓄積や加工、共有が必要なデータはクラウド……といった感じで効果的に分散し、全体最適化を図る。

将来、自動運転車が何十台、何百台といったフリートで人やモノを運ぶようになれば、各地にデータセンターが必須となることが言うまでもないことだ。

自動運転車に限らず、工場や倉庫などもIoT化・自動運転化され、多くのデータ処理を必要とする時代が到来する。こうした未来を見据え、デジタルインフラの早期整備を進める動きが活発化しているのだ。

■【まとめ】自動運転対応デジタルインフラの進捗に注目

移動通信事業者によると、移動通信のトラヒック(トラフィック)は近年、1年間に1.2~1.3倍の水準で伸び続けているという。

コネクテッド化が進む一般乗用車も含めれば、移動通信に求められる通信技術・環境もさらなる進化が必須となりそうだ。

IoT化が進む社会においては、こうした通信技術やデジタルインフラの重要性はますます大きなものへと変わっていく。その象徴の1つが自動運転車だ。

自動運転に対応したデジタルインフラが今後どのように整備されていくのか、要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでいる?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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