【2024年1月の自動運転ラボ10大ニュース】車載半導体開発が国内でも加速

自動車メーカー連合が取り組み、Turingも独自開発



出典:トヨタプレスリリース/NVIDIAプレスリリース

官民ITS構想・ロードマップが初めて策定された2014年から丸10年となる2024年。この10年間で自動運転を取り巻く状況は大きく変わった。

この勢いは新年を迎えてもとどまることはなく、国内では自動運転実証や半導体開発に関するニュースなどが飛び交っている。


自動運転開発や社会実装はこの1年でどこまで伸びるのか。2024年1月の10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。

■Turing、完全自動運転EV「2030年10,000台」宣言 半導体チップも製造へ(2024年1月3日付)

国内自動運転開発スタートアップの中で最も勢いのあるTuringが、半導体チップと車載LLMアクセラレーターの開発チームを立ち上げたようだ。

「2030年に完全自動運転EV10,000台を生産」する目標達成に向け、生成AI(人工知能)の活用などさまざまな観点から開発を促進する同社。今回の発表では、自社製LLM推論アクセラレーターにより、現行の自動運転向けSoCが持つ推論能力の500倍の処理能力を目指すという。

EV(電気自動車)メーカーの確立と自動運転開発という、まさに米テスラが歩んできた道を猛追する同社。創業20年を超えたテスラの現在地にどの時点で達し、そして追い越していくのか。推進力を失うことなくまだまだ走り続けてもらいたい。



■ANA、東京・大阪圏で空飛ぶタクシー展開へ 全国で数百機展開も(2024年1月3日付)

ANAホールディングスによる空飛ぶタクシー事業のビジョンが、総務省関連の懇談会資料により明らかになった。米Joby Aviationとともに大阪・関西万博を起点にサービス化に着手し、東京圏と大阪圏で展開していく計画だ。将来的には全国で数百機規模まで拡大する可能性にも言及している。

ANAとJoby Aviationは2022年にパートナーシップを結び、日本における新たなエアモビリティ事業の共同検討に着手した。地上交通との連携面でトヨタも加わり、シームレスな移動の実現を図っていく方針だ。

万博では、関西国際空港や神戸空港、大阪中心部から会場となる夢州を結ぶ計画だ。東京では、現在都から事業採択を受け、陸・海・空でのMaaS実現に向けたシステムの構築や運行実証を進めている。この事業の延長線でサービスインする可能性が高そうだ。

未だリアリティを感じにくい空飛ぶクルマ事業だが、万博にまでにどのように認知度や社会受容性の向上を図っていくか、その後どのように事業化・商用化を進めていくのか、各社の動向に引き続き注目したい。

■米加州の無人自動運転タクシー、違反の「免除」状態続く 車内無人で切符切れず(2024年1月4日付)

自動運転実証が盛んな米カリフォルニア州では、ドライバーレスの自動運転車が交通違反を犯した場合、違反切符を切ることができないそうだ。

同州では、実際にドライバーが車に乗っている場合にのみ交通違反切符を切ることができ、無人の場合は切符を切ることができないという。世界有数の実証の地でありながら交通法規が未整備…というお粗末な話ではあるが、この問題を突き詰めれば、事故時の責任の所在の在り方などに繋がっていく重要な課題と言える。

テキサス州やアリゾナ州では交通法が改正済みで、基本的に所有者が違反の罪に問われるという。自動運転車が意図的に交通違反を犯すことはないが、システムの作動状況や精度により、何らかの違反を犯すことは十分考えられる。

事故に限らず、こうした違反の責任を誰がどこまで負うべきかもしっかりと検討しなければならないようだ。

■自動運転、トヨタ・日産ホンダらが「一時休戦」!半導体SoCを共同開発(2024年1月5日付)

国内自動車メーカーなど12社が半導体開発で協調路線に踏み出した。高性能デジタル半導体(SoC)の車載化研究開発を行う「自動車用先端Soc技術研究組合」(ASRA)を設立し、自動車の知能化・電動化の進展を図っていく構えだ。

ASRA設立には、トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダの5メーカーをはじめ、デンソー、パナソニック オートモーティブシステムズ、ルネサスエレクトロニクスなどが参画している。チップレット技術を適用した自動車用向けのSoCを研究開発し、2030年以降の量産車への搭載を目指す。

現在の自動車には1台あたり1,000個程度の半導体が使われているが、CASE領域の進展により、その数は今後さらに増加する。また、自動運転をはじめとする先端テクノロジーを搭載するためには、半導体そのものの処理能力を引き上げ、高機能化していく必要がある。

この開発分野においては、NVIDIAやモービルアイなどの半導体開発企業が突出しており、日本国内企業は置き去り感を否めない。

次世代に通用する競争力を発揮するには、ラピダス然り、ASRA然りで、業界の結束と国策的な事業展開が必要不可欠なのかもしれない。かつての半導体大国の地位をどこまで挽回できるか、要注目だ。

■国内初!公道で「連節バス」が自動運転 広島県東広島市(2024年1月11日付)

広島県東広島市で進められている自動運転・隊列走行BRTの実証において、国内初の自動運転連節バスの公道走行が行われているようだ。

広島大学と東広島市、西日本旅客鉄道(JR西日本)は2022年11月、公共交通の機能強化と魅力向上に向け連携協定を交わしており、専用の走行空間を活用したバス高速輸送システム(BRT)の導入や自動運転などを活用したBRTの導入、BRTと鉄道・路線バスなどを連携させた「拠点及びネットワークの形成」の検討などを進めている。

この中で、連節バスや大型バスによる自動運転や2台の自動運転バス車両による隊列走行などに取り組むこととしている。自動運転化された連節バスは国内で1台だけという。世界的に見ても非常に珍しい取り組みだ。

同市ではこれまで、MONET TechnologiesによるMaaS・自動運転実証なども行われている。公共モビリティの変革に力を入れる同市の取り組みに引き続き注目だ。

■自動運転、刑事責任の「免責規定」が焦点に デジタル庁、有識者から意見聴取(2024年1月15日付)

デジタル庁所管のワーキンググループで、自動運転車の社会的ルールや責任の在り方を明確にする検討が始まった。有事の際の責任の在り方や、トロッコ問題に代表される倫理的課題をクリア―にしていく内容だ。

自動運転車はAIが判断を下すが、そのAIは人間が開発したものだ。ディープラーニングなどで学習し続けるAIに対する責任を、開発者はどのように負うべきなのか。さまざまな観点から意見が出されることになりそうだ。

事故時においては、過度に開発者サイドに責任を押し付けると開発停滞を招きかねないとする意見も多く、自動運転システムの瑕疵や過失をどのように判断し、免責すべきラインをどのように設定・線引きするのかなどに注目が集まる。どのような結論・方向性が導き出されるのか必見だ。

■ホンダの新EVコンセプトは「ハンドルあり」 自動運転レベル4は当分先か(2024年1月15日付)

ホンダが世界的な技術見本市「CES 2024」で、グローバル展開を目指す次世代EV「Honda 0(ゼロ)シリーズ」を公開した。北米市場を皮切りに2026年から市場化していく計画だ。

自動運転技術としては、2021年発売のレジェンドに搭載された「Honda SENSING Elite」で培った技術を活用したADAS(先進運転支援システム)に加え、2020年代後半に自動運転システムを採用し、より多くのユーザーの手が届く自動運転車として展開していくという。

レベル3がベースとなりそうだが、高速道路渋滞時に限定された現行レベル3からの進化が見どころとなる。制限速度を満たすレベル3が実現すれば、実用域で利用可能な自動運転機能として利便性が大きく増す。

ODD(運行設計領域)をどこまで拡大するのか、また、2020年代後半に他社含めどこまでの自動運転技術が自家用車に搭載されることになるのか、要注目だ。

■NVIDIA株、一段高へ期待感!車載半導体、自動運転向けで採用加速(2024年1月16日付)

生成AIブームの波に乗り、NVIDIA株は2023年中に3倍強まで株価を伸ばした。高性能半導体の需要がさまざまな業種に広がったことなどが背景にあるが、AI開発需要はまだまだ眠っており、同社のさらなる躍進に期待が寄せられるところだ。

自動運転分野では、各種センサーによるオブジェクトの認知・特定や予測、判断などでAI開発が盛んだ。まだまだ伸びしろが多く残された分野であり、半導体需要も高まる一方だ。

同分野で勢力を伸ばし続けるNVIDIAは自動運転向けソリューションの開発に余念がない。売り上げ全体の3%未満の事業にもかかわらず、早くからオートモーティブ事業をセグメント化し、自動車産業やスタートアップらとのパートナーシップ拡大に努めている。

こうした戦略は、自動運転市場のポテンシャルを高く評価しているためだ。当然未知数な部分も多いが、数億、数十億台規模の道路上のさまざまなモビリティが将来の顧客になり得ると考えれば、そこに投資していく価値はある。

自動運転実装が本格化する頃、同社の価値はどこまで膨れ上がるのか、今のうちから注目しておきたい。

■【計画判明】大阪メトロ、万博で自動運転バス計10台を運行!総ルート長は8.1km(2024年1月18日付)

大阪・関西万博における大阪メトロの自動運転運行計画の概要が明らかになった。会場外3.3キロ、会場内4.8キロのルートをそれぞれ大型・小型の自動運転バス計10台で運行するという。

同社は万博までにEVバス150台を導入する計画で、このうち10台を自動運転化するという。100台を国内新興メーカーのEVモーターズが受注し、順次納入が始まっている。

万博後は、府内各地域の路線バスなどに転用していく。南河内地域など公共交通が不足する地域では積極的に自動運転バスの導入を図っていく方針だ。

自動運転システム開発において最終的にどういった企業が参画するかは不明だが、万博時にドライバー不在のレベル4を達成できるか、その後の利活用計画をどのように具体化していくかなど、注目すべき点は多い。

空飛ぶクルマとともに、国内における無人のレベル4普及の起爆剤となるか、こうした観点から取り組みを見守りたい。

■自動運転銘柄に「上場廃止ドミノ」の兆し 苦戦続くTuSimple、非公開化へ(2024年1月23日付)

自動運転トラック開発を手掛けるTuSimpleが、米ナスダック市場からの撤退を決定したようだ。資本市場に大きな変化が生じ、投資家心理が変化したことで自社の評価額と流動性が低下したため、上場廃止と登録抹消が最善の利益になるとしている。

同社の株価低迷に関しては、外部要因のみならずさまざまな内部要因も影響していそうだが、Aurora Innovationなどすでに上場済みの各社が株価低迷に苦しんでいることは共通している。

上場が早過ぎた……と言えばそれまでだが、商業化前のテクノロジーを先行上場させるケースは珍しいものではなく、一般投資家の目には、まだ自動運転のビジョンが映っていないのかもしれない。

今回のケースは自主廃止となるが、場合によっては市場から追い出されることもある。今後、上場廃止の動きが広がる可能性があり、注意が必要だ。また、事業売却を図る動きが活発化することも十分考えられる。

統廃合により開発勢力のグループ化が一段と進む可能性もあるため、各社のパートナーシップなどにも注目しておきたいところだ。

■【まとめ】半導体開発で復権なるか?2024年の動向に注目

国内外とも、半導体関連のニュースが特に多かったように思われる。国内ではTuringや自動車メーカー連合がそれぞれ開発に着手し、海外ではNVIDIAが業績を伸ばしている。自動運転の処理能力を左右する重要な要素だけに、今後も大きな注目を集めることは間違いなさそうだ。

一方、自動運転の責任の所在に関する検討も本格化している。交通分野に大きなイノベーションをもたらす自動運転だが、その変革を受け止める社会の体制もまた整備していかなければならないのだ。

2024年は開発・実用化面でどのような動きが出てくるのか。引き続き業界の動向に注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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