Turing、完全自動運転EV「2030年10,000台」宣言 半導体チップも製造へ

自動運転向けSoCの500倍の推論能力実現へ



出典:Turingプレスリリース

完全自動運転車の開発・生産に挑むTuring株式会社(本社:千葉県柏市/代表取締役:山本一成)=チューリング=が、半導体チップと車載LLMアクセラレーターの開発チームを立ち上げたと発表した。

「2030年に完全自動運転EV10,000台の生産」という目標達成に向け、自社による開発領域をさらに拡大するようだ。







全速力で走り続ける同社は、どのような戦略のもとで、このロードマップを達成するのか。その展望に迫る。

■導体チップと車載LLMアクセラレーターを開発
自動運転向けSoCの500倍の推論能力目指す

Turingは最新の発表で、自社製LLM推論アクセラレーターの開発を行うことを決定した。現行の自動運転向けSoCが持つ推論能力の500倍の処理能力を目指すとしている。この開発に向け、さらなる組織の拡大と人材採用を行うという。

マルチモーダルAIモデル・AI基盤モデルを車両内で動かすためには専用チップが必要不可欠――と判断し、半導体チップの開発に踏み切った。

技術で世界を前進させるため、最先端の車載LLM推論アクセラレーターを作りたい半導体設計エンジニアや完全自動運転を実現したい半導体エンジニア、AI(人工知能)・自動運転・半導体の全領域で世界ナンバーワンを目指したいエンジニアを広く募集する。

出典:Turingプレスリリース
妥協許さず内製化を促進

AI技術を駆使した自動運転ソフトウェアの開発をはじめ、自動車そのものの開発・生産を行い、ソフトウェアとハードウェアが相互連携する次世代モビリティで令和の自動車メーカーを目指す同社。今度は、LLM推論アクセラレーターや半導体チップの開発にも力を注いでいくようだ。

推論アクセラレーターは、ニューラルネットワークなどにおける特定のモデル推論処理を高速化するハードウェアを指す。LLM(大規模言語モデル)による自然言語処理を自動運転開発に用いるアプローチを最大限有効なものとするため、一から内製するようだ。

この妥協を許さない取り組みがTuringのスタンスであり、このスタンスを貫き通した先に完全自動運転があるのだろう。

以下、Turingのこれまでの軌跡をたどってみよう。

■Turingの概要
自動運転は新たな挑戦の場

Turingは2021年8月、2人のエンジニアによって設立された。世界で初めて将棋名人を倒したAI「Ponanza」の開発者・山本一成氏(CEO:最高経営責任者)と、米カーネギーメロン大学で自動運転研究を進め博士号を取得した青木俊介氏(CTO:最高技術責任者)だ。

山本CEOは、将棋に次ぐステージとして自動車・自動運転に照準を定めた。「ハードウェアとソフトウェアが協調すればもっと良いクルマを作ることができる」とし、「We Overtake Teslaテスラ越え)」をミッションに掲げ開発に乗り出した。

一方、青木CTOはこれまでの多くの時間を自動運転と学術研究に捧げてきたという。「後世に誇れる仕事はなにか」という自身への問いに対し、完全自動運転EV(電気自動車)の量産メーカーを創り上げるという結論に達し、山本CEOと意気投合したようだ。

CASEの波が押し寄せる自動車業界だが、電動化と自動運転の領域で日本からまっすぐチャレンジするスタートアップを――との思いから、Turing創業に至った。

既存の自動車に自動運転システムを統合すれば完全自動運転車は構築可能だが、Turingは完全自動運転EVは表面上はクルマの形をしているものの、従来のものとは全く異なる商品になると考えている。そのため、ソフトウェアのみならずハードウェア・車体開発も手掛け、次世代に向け自らEV生産を行うこととした。

目標は2030年に完全自動運転EV1万台を生産

同社は目標に「2030年に完全自動運転EV10,000台生産」を掲げる。まず2023年に100台生産に向け自社工場建設に着手し、2025年に工場設立・100台のEV納車を完了する。そして2027年に完全自動運転EVの量産をスタートする計画だ。

彼らの言う「完全自動運転」は、特定条件下で無人走行を可能にする自動運転レベル4ではなく、基本的に制限なく自律走行が可能なレベル5を指す。

レベル5実現を口にすると大風呂敷を広げているように捉えられがちだが、Turingは「悲観的に見積もっても2030年には完全自動運転は十分に実現可能」としている。

LLMが自動運転を進化させる

ハードルは高そうだが、Turingが実現に向けよりどころの1つとしているのがLLM(大規模言語モデル)だ。OpenAIの「Chat GPT」に象徴されるチャットボットのイメージが強いが、その本質はAIの理解力にある。

Turingの自動運転における認知はカメラ方式で、運転の判断機構を重視しているという。人間の目と同様の認知機能を有するカメラを用い、人間の運転学習と同様のアプローチでAIを開発するのだ。その際、複雑な文脈理解を可能とするLLMを活用することで理解力が増し、判断に柔軟性も生まれる。

一般的な機械学習ベースAI開発では、基本的に事前に教えられたこと以外をAIが判断することはできない。しかし、LLMは言語ベースのためその判断に説明力を持ち、初めて遭遇した状況や指示に対しても一般常識を駆使して柔軟に対応できるポテンシャルを有するという。

レベル5実現には、不確実性の高い道路交通環境に対応するため、柔軟に判断しながら走行する人間同様の能力が求められる。機械学習などで不確実要素を1つずつ取り除いていくよりも、LLMによって言語を交えながら柔軟な判断能力を養わせるほうが確かに効率的かつ効果的なのかもしれない。

TuringはこうしたLLMのポテンシャルに目を付け、大規模基盤モデルが現実世界を理解し、制御できるようになることでレベル5実現に道筋をつけたのだ。

同社は、自動運転AIが状況に応じた適切な判断と行動を行えるよう、視覚情報や音声データなど現実世界の情報を効果的に取り込み、理解する能力を持ったマルチモーダルAIの開発を目指すとともに、運転中の瞬時の判断に対応できるよう、モデルの圧縮や車載ハードウェアへの最適化などの技術によってリアルタイム性と計算効率を上げる。

また、外部環境やシステムへの攻撃に対する堅牢性や予期しない状況に適切に対応できるよう、安全性と堅牢性にも着目して開発を進めていく方針としている。

2023年11月には、LLMやマルチモーダルモデル向けの専用計算基盤としてGPUクラスタシリーズ「Gaggle Cluster」の構築に着手したことを発表した。

最初のクラスタ「Gaggle-Cluster-1」はNVIDIA H100 GPUを96基搭載し、総計算能力190ペタFLOPSを誇る国内企業が専有するGPU計算基盤として最大規模のGPUクラスタとなる。

2024年前半の稼働開始を目指す計画で、稼働後は飛躍的にAI開発が進展する可能性が高そうだ。

■Turing関連のトピック
シードラウンド10億円に続きプレAで5.2億円を調達

Turingは2022年7月、資金調達シードラウンドでANRI、グローバル・ブレイン、DIMENSION、HEROZを引受先に総額10億円を調達したと発表した。

2023年8月には、プレシリーズAラウンドとして5人のエンジェル投資家と共同創業者2人の計7人からJ-KISS型新株予約権で5.2億円の資金調達を行ったと発表した。

開発速度が速く、かつハードウェア生産まで見込む同社においては、今後も資金を要する場面が次々と出てくるだろう。仮に既存自動車産業の大手が提携とともに大型スポンサーを申し出た場合、Turingはどのような判断を下すのか、要注目だ。

【参考】Turingの資金調達については「打倒テスラ狙うTuring、自動運転EV「100台生産」へ5.2億円を追加調達」も参照。

自社工場稼働、製造パートナーシップも

生産面では、2023年6月に自社工場「Turing Kashiwa Nova factory」の操業を開始している。自社製造する自動運転EVの初期生産拠点となるほか、研究開発拠点としても活用する予定という。

一方、製造面では2023年3月に研究車両の受託開発などを手掛ける東京アールアンドデー(東京R&D)と戦略的パートナーシップを締結した。TuringのAI・ソフトウェア技術と、東京R&Dが有する車両開発に関する豊富な経験をかけ合わせ、2025年に製造・販売を予定する自動運転EVの共同開発を進めていくとしている。

LLM×自動運転関連の特許2件を出願

LLMを活用した自動運転システムは、すでに特許出願の域に達している。Turingは2023年6月、自動運転に関する特許を2件出願したと発表した。

1つは「軽量モデルと大規模モデルを組合せて素早い車両制御と複雑な状況判断を両立した自動運転を実現する仕組み」だ。

総合的な認知・意思決定を行う大規模モデルで、人の自然言語指示や背景知識に基づき総合的な判断を行うモデルと、センサーを中心に認知・推論を行う軽量(高速)モデルを組み合わせ、後者が前者の指示に従って車両を運行することで自動運転を実現するというものだ。

もう1つは「言語モデルを用いた自動運転入出力システム」で、車自身が車載カメラから取得した画像をリアルタイムで解析し、自然言語を通じてドライバーに状況の解説や提案などを行う内容だ。人間と同等以上の判断や交渉ができるAI開発において、「言語を通じて状況を描写する」という非常に重要な要素技術としている。

【参考】特許出願については「テスラ越え目指すTuring、自動運転の特許を2件出願」も参照。

■【まとめ】新たな発想や着眼点で先行勢を追い抜く!?

ロードマップの実現に向け、2024年も走り続けることは間違いないだろう。新たな開発領域へ足を踏み出したり、新たな発想で自動運転にアプローチしたりする可能性も高い。

すでにレベル4を商用化している先行各社に追い付き追い越すためには、その開発手法をトレースするだけでは間に合わない。業界を震撼させるようなAI開発・着眼点が必要不可欠になる。

2024年はどのような発表が飛び出すのか。引き続きTuringの動向に注目したい。

【参考】関連記事としては「米アマゾン、日本の自動運転EVベンチャーTuringを支援」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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