関西電力などが、EV(電気自動車)向けのワイヤレス給電の普及・事業化に向け「EVワイヤレス給電協議会」を設立した。
設立時の会員は55社で、産官学連携のもと、EVワイヤレス給電の制度化・標準化・事業化・社会実装・普及活動などを進めていく方針だ。
一息ついたEVブームを再燃させる起爆剤となるか注目したいところだが、同技術はカーシェアや自動運転においても非常に有用なもので、近い将来スタンダード化していく可能性が考えられる。
協議会の概要とともに、ワイヤレス給電技術の展望に触れていこう。
記事の目次
■EVワイヤレス給電協議会の概要
関西電力ら5社が発起人、自動車メーカーも参加
EVワイヤレス給電協議会の発起人は関西電力、ダイヘン、シナネン、三菱総合研究所、WiTricity Japanで、この5社が幹事会員となって取り組みを主導する。
また、アイシンや本田技研工業、マツダ、三菱自動車、EVモーターズ・ジャパン、ビーワイディージャパン、住友商事、損害保険ジャパン、豊田合成、モリタホールディングスなど50社が正会員として名を連ねているほか、環境省や経済産業省、国土交通省、大阪府、東京大学、京都大学などもオブザーバーとして参加する。
従来のEVは充電のたびに充電口を開け、充電ケーブルのコネクターを挿し抜きしなければならない。これが意外と手間だ。
しかし、EVワイヤレス給電であれば、所定の位置にクルマを置くだけで充電が可能になる。地上側のコイルとEVに搭載したコイルとの間で、電磁誘導の原理で電力伝送する技術により、自動で双方向の電力伝送を可能とする。技術的には走行中でも給電可能だ。
同協議会によると、EVと電力系統との常時接続を可能にすることで、再生可能エネルギーの最大活用や電力需給バランス調整に役立つ有望な社会インフラとして期待されているという。
同協議会はこのワイヤレス給電の社会インフラ化を目指すこととし、産官学が協力して制度化・標準化・事業化に資する各種検討に取り組んでいく。実用化・普及に向けては、各ステークホルダーが経済的合理性を確保し、収益をあげられる産業構造を目指す。
また、環境、都市、交通などの課題解決に向け、自動運転などの先端技術におけるEVワイヤレス給電技術の有益性の理解促進も目指す方針だ。その上で技術トレンドなどを調査・研究し、業界全体の発展を支援する。
標準化関連では、EVワイヤレス給電技術の相互運用性やセキュリティ確保のための標準化活動を行い、相互利益のある基準・規格の確立を目指すこととしている。
こうした目的達成に向け、導入普及シナリオやロードマップの策定・提言、実用化・普及に向けた実証実験の支援、設置や運用に関するガイドライン、規制緩和などの要望、充放電器やシステムなど給電ネットワーク化に必要な規格・仕様の検討などを進めていく。
▼「EVワイヤレス給電協議会」設立の発起について
https://www.kepco.co.jp/corporate/notice/notice_pdf/20240417_1.pdf
▼EVワイヤレス給電協議会の設立
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2024/pdf/20240610_1j.pdf
存在感増すWiTricity
幹事会員に名を連ねるWiTricity Japanは、EV向けのワイヤレス充電システムの開発・製造を行う米WiTricity(ワイトリシティ)の日本法人だ。マサチューセッツ工科大学で同技術開発を進めていた研究室のメンバーがスピンアウトし、2007年に設立した。
同社は2023年6月、電力事業などを手掛けるシナネンホールディングスと協力関係の構築に関する基本合意を締結し、日本進出に向けた取り組みを本格化させた。両社は2024年1月までにオフィシャルパートナー契約を結び、WiTricity製品の日本国内への輸入や一般販売などに取り組んでいる。
WiTricityは以前からワイヤレスEV充電システムに関わる技術提携や導入推進に向けトヨタや日産などと提携を交わしていたが、協議会の設立などもあいまって、日本での事業展開を加速・サポートするため日本法人を設立したようだ。
同社のワイヤレス充電システム「WiTricity Halo」は磁界共鳴方式を採用し、地上に設置された送電パッドとEVに取り付けられた受電パッド間で磁界を共鳴させることで電力を供給する。
地上に設置、または地中に埋設した送電パッドの上にEVを停車し、パワースイッチを切れば自動で給電が開始される。標準伝達電力は11kwで、ケーブルが必要なレベル2充電システムと同等の電力転送効率を実現しているという。車両側レシーバーはPHEVにも搭載することができ、車種によっては既存車両に後付けすることができる。
V2H(Vehicle to Home)やV2G(Vehicle to Grid)の技術を用いて、常にEVをワイヤレスで繋げておくことで可能にする分散電源・非常電源としての活用も可能としている。
▼WiTricity、日本のエネルギーリーダーと共にEVワイヤレス給電協議会を設立、WiTricity Japan株式会社を設立予定
https://witricity.com/media/press-releases/witricity-日本のエネルギーリーダーと共にevワイヤレス給電協議会を設立-witricity-japan株式会社を設立予定
【参考】WiTricityについては「ワイヤレス充電の自動運転eバス登場へ!トヨタ出資の米WiTricity」も参照。
ダイヘンはAGV用ワイヤレス充電システムを製品化済み
国内では、ダイヘンがAGV(無人搬送台車)用ワイヤレス充電システム「D-Broad」を製品化している。工場や倉庫などで稼働するAGV向けの磁界共鳴方式ワイヤレス充電は世界初という。
コイルの位置ずれ許容範囲が広く、AGVの停止位置が少々ずれても安定した充電を実現し、急速充電も可能にしている。人の手を介することなく、AGVを24時間稼働させることができ、ランニングコストも低減することができるという。
新電元工業はワイヤレス充電システム開発中
正会員に名を連ねる新電元工業は、EV向けの非接触充電システムを開発中だ。WiTricityと非接触電力伝送技術に関するライセンス契約を締結しており、磁界共鳴方式により3.7kVA~11.1kVAの充電能力を実現するという。
同社によると、充電能力(最大入力電力)はSAE(米国自動車技術会)によってWPT1(3.7kVA)、WPT2(7.7kVA)、WPT3(11.1kVA)に規格化されており、駐車時における送電コイルと受電コイルの位置ずれにも一定以上の電力伝送効率が求められるという。
また、送電コイルと受電コイル間の距離(車高空間)についてもZ1~Z3と規格化されている。車高の異なる車両に対応するためで、SUVのように車高の高い車種ほど技術的ハードルが上がるという。
同じく正会員の島田理化工業はワイヤレス給電用インバータを製品化しており、走行中給電の実証などにも参加している。大日本印刷はワイヤレス給電用の薄型・軽量なシート型コイルを開発した。ワイヤレス給電における要素技術もいろいろあるようだ。
【参考】ワイヤレス給電については「ワイヤレス充電、20億ドル市場へ!自動運転車と相性抜群」も参照。
注目の走行中給電技術、万博で実用化?
走行中給電の実用化を進める取り組みも進められている。車道に送電コイルを敷設し、その上を走行する不特定のEV車両が自動で受電する仕組みだ。
100台を超すEVバスを導入する計画の大阪・関西万博では、ワイヤレス給電はもちろん走行中給電システムも導入される予定だ。
関西電力、Osaka Metro、大林組、ダイヘンは、2025年大阪・関西万博で走行中ワイヤレス給電によるEVバス運行を行う計画を掲げている。
千葉県柏市の柏の葉スマートシティでは2023年10月、東京大学などが日本初となる公道実証を開始した。
東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本・清水研究室やブリヂストン、デンソーなどは2018年から走行中給電システムの研究を進めており、このほど、国土交通省の公募事業のもと柏の葉キャンパス駅西口至近の市道で走行中給電技術の実証を行う運びとなった。実証期間は2025年3月までを予定している。
同研究室によると、60秒間の充電で約6キロ走行できると試算している。単純計算で1秒当たり100メートル相当だ。走行速度などで数値が変化するのかなど詳細は不明だが、信号待ちが長い交差点などに埋設すれば大きな効果が得られることは間違いない。
トヨタは走行中給電で航続距離2,000キロを実現
海外では、ワイヤレス充電テクノロジー開発を手掛けるイスラエルのElectreonとトヨタが、送電コイルを埋設したテストコースでRAV4のPHVを走行させる実証を行い、100時間走行し続けることに成功している。RAV4のPHVはバッテリーの航続距離は本来95キロだが、なんと約2,000キロ走行できたという。
米国では、ミシガン州やインディアナ州などで公道に送電コイルを設置する取り組みがすでに始まっているという。
こうした走行中給電インフラが整えば、EVは航続距離を気にすることなく走行可能になる。車両に搭載するバッテリーも小型なもので足りるようになり、小型軽量化、低価格化に貢献するほか、充電待ち時間を気にすることなく運行することができる。自動車に大きなイノベーションをもたらす技術となりそうだ。
■自動化の観点
カーシェアや自動運転で大活躍?
手間いらずのワイヤレス給電は、カーシェアサービスにおいても非常に有用なものとなりそうだ。不特定多数の乗り手が代わる代わる運転するカーシェアにEVを導入した場合、乗り終わったら次のドライバーのために充電ケーブルを挿すなどの所作が必要になるが、ワイヤレス給電であれば所定の駐車場に停めておくだけ、つまり従来通りの使い方で充電することができる。
ワイヤレス給電は、充電における無人化技術と言い換えることもできそうだ。充電ケーブルのコネクターを挿し抜きする必要がある従来の充電作業は人の手を要するが、ワイヤレス給電であれば所定の位置に停車すればよいだけだ。
こうした技術は、無人走行する自動運転車との相性も抜群に良い。ドライバー不在の自律走行を可能にする自動運転車だが、多くの場合充電の際に人の手が必要となる。
しかし、ワイヤレス給電技術があれば充電も無人化できる。無人走行でバッテリー残量が減った自動運転車は、所定の駐停車場所まで戻れば、人の手を介することなく充電でき、再びサービスに赴くことができる。
自動運転車は、核となる「運転」の自動化・無人化に留まらず、こうした各要素においても自動化・無人化を達成してこそその本質に近づくことができるのだ。
自動運転車におけるワイヤレス充電は、ダイヘンと大阪府堺市が2019年に自動走行・自動充電のデモンストレーションを行っている。ワイヤレス充電システムによる自動充電機能を備えた自動運転車両の走行デモは世界初という。
ティアフォーの自動運転システムを搭載したタジマモーターコーポレーション製の超小型モビリティを使用し、特設した走行レーンを時速10キロ以下で周回した後、充電ポイントに駐車して自動充電を行う内容だ。
海外では、WiTricityが2023年2月、中国のバスメーカーYutong(宇通客車)と提携し、自動運転eバスにワイヤレス充電機能を提供すると発表した。10人乗りの自動運転ミニバスにWiTricity Haloソリューションを導入した。
同社によると、自動運転EVバスへのワイヤレス充電商用化は初という。
運転操作以外の部分をいかに自動化・無人化していくか
自動運転車を本当の意味で自動化・無人化するには、ワイヤレス給電・充電システムが必要であることがわかった。
同様の観点で見れば、SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)化なども必須と言える。ソフトウェアのかたまりとなる自動運転車は日常的なソフトウェア更新が欠かせないが、その都度工場などに入庫するのは現実的ではない。
可能な限りOTA(無線通信によるアップデート)で対応し、ソフトウェアの種類によるが自動更新される状況が望ましい。
運転操作以外の部分をいかに自動化・無人化していくか……という観点が、近未来の自動運転車の課題となりそうだ。
■【まとめ】ワイヤレス給電がモビリティ業界にイノベーションを起こす
ワイヤレス給電は、モビリティ業界にイノベーションを起こすポテンシャルを有していることがわかった。
現在一息ついているEV販売も、バッテリー技術の向上などとともに近い将来再び大きなブームを巻き起こすものと思われる。自動運転サービスも世界各地で産声を上げ始めており、充電関連のイノベーションに寄せられる期待はより大きなものへと変わっていく。
ワイヤレス給電の普及期はどのタイミングで始まるのか、今後の動向とさらなる技術向上に注目だ。
【参考】SDVについては「SDV(ソフトウェア定義型自動車)の意味は?自動運転化の「最低条件」」も参照。