
米ニュージャージー州で、自動運転車にはカメラとそれ以外の2つの異なるセンシングシステムの搭載を義務付ける法案が提出され、波紋を広げている。テスラ型のカメラビジョンのみによるE2E自動運転に待ったをかける格好となったためだ。
こうした動きは今後広がることになるのか。同州の取り組みを交えつつ、E2Eを取り巻く最新動向に迫る。
【参考】関連記事としては「自動運転開発における「ルールベース」「E2Eモデル」を解説!開発事業者の動向やトレンドも」も参照。
記事の目次
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■ニュージャージー州の法案の概要
カメラによるメインシステムとは別のサブシステムを要求
法案「Establishes fully autonomous vehicle pilot program/完全自動運転車のパイロットプログラム確立(1677号)」は、ニュージャージー州の民主党系上院議員が2026年1月に提出したもので、上院運輸委員会での議論を経て代替案を加えた形で5月に上院予算歳出委員会に付託されている。
その中身は、州内で完全自動運転車を試験する者が、閉鎖型試験場および公道試験場を含む場所で完全自動運転車を運転できるようにする3年間のパイロットプログラムを確立するためのものとなっている。
試験者が運輸省からパイロットプログラムへの参加を承認され、かつ同法案の規定を遵守しない限り、州内で試験・運転できないこととしている。セーフティドライバーが運転席に座った状態での実質レベル2実証は除外されている。
試験内容の四半期ごとの報告やデータ記録保持、完全自動運転車であることを示す標識装着など、全般的には一般的な規定となっている。
一方、無人の自動運転車を走行するには、「提案された運用設計領域内で完全自律走行車の試験を最低5万マイル実施し、自律走行車メーカーの安全性の主張を裏付ける評価を当局に提出すること」「運転席に人間が物理的に座っている状態で、運用設計領域全体にわたって州内の公道で必要な最低走行距離5万マイルを重大な事故なく完了したこと、または、完全自動運転車が5万マイルの要件を完了する間に重大な事故に関与した場合、その重大な事故について過失がなかったこと」などの証明が必要となる。
そして、本題となるのが以下の文言だ。「カメラシステムと、カメラシステムが故障した場合に障害物を検知および追跡できる2つの異なるセンシング方式を含む衝突回避システムを備え、自動運転システムが障害物を回避しつつ車両を最小限のリスク状態にすることができるようにし、これらのシステムは歩行者検知、自動緊急ブレーキ、および車線維持支援システムを備えるものとする」
カメラによる自動運転システムと、それとは別に歩行者検知や自動緊急ブレーキ、車線維持支援が可能な二つの異なるセンシング方式を用いたシステムを備え、カメラによるメインシステムが故障した際も障害物を回避しながら車両を最小限のリスク状態にすることができることを求めているのだ。
万が一の際、車両を安全な状態で停車するMRM(ミニマムリスクマヌーバー)が求められるのは当然だが、その際はカメラ以外のセンシング方式で行わなければならない――とする内容になっている。冗長性を高める意味合いと思われる。カメラ以外によるサブシステムが求められているのだ。
▼法案「1677号」はこちら
https://legiscan.com/NJ/text/S1677/2026
反響もさまざま
この動きを報じた自動運転ラボの第一報に対し、NewsPicksではさまざまな意見が寄せられた。
- 重要なのは特定センサーの搭載を一律に義務付けることではなく、実環境で必要な安全性能や故障時の継続性を基準に評価すること
- 技術者目線では、これは当然の措置とも言える。通常の天候や環境ならカメラだけである程度成り立つので、それで十分と勘違いしてしまうかも知れないが、自動車の走行環境は急な豪雨や霧、降雪、逆光などカメラでは見えない状況も少なからずある。
- 背景にはディープブルー(民主党)州とトランプ政権(レッド・共和党)の争いが色濃く反映されている。
- 技術方式を法律で固定すると、かえって将来の技術革新を妨げる可能性もある
カメラビジョンの有用性を認めつつも、複数センサーを用いて冗長性を高めることの必要性に同意する意見が多い。カメラだけでも安全性を担保できる、逆にカメラだけでは不十分とするそれぞれのエビデンスも揃っていないのが現状で、この段階で複数センサーを義務付けることに懐疑的な見方もあるようだ。
▼NewsPicksのコメント欄
https://newspicks.com/news/17123050/?ref=search
■E2Eの現況
社会実装済みの自動運転車の大半はマルチセンサー

現在、社会実装済みの自動運転システムの大半は、LiDARやカメラ、ミリ波レーダーなどの異なるセンサーを複数駆使して自律走行を実現している。Waymoの自動運転タクシーが最たる例で、同社の車両のルーフ上には大きなLiDARが据え付けられ、常に360度センシングを行っている。いわゆるルールベースのアプローチだ。
一定エリア内において高精度3次元地図を完備し、あらゆるセンサーを駆使して安全性を高め自律走行を実現する。レベル4向けの自動運転技術と言える。
自動車メーカーによる既存ADASも、カメラやミリ波レーダー、超音波ソナーを併用する例は少なくない。特性が異なる複数のセンサーを用いて効果的に安全性を高めている。
カメラのみにこだわるテスラ型E2Eやマルチ型E2Eが台頭
複数センサーを活用するのはスタンダードと言える技術だが、これに異を唱えるのがテスラだ。テスラは、人間の目にほど近いセンサーであるカメラのみで自動運転は確立できる――というスタンスを鮮明にしている。過去、ミリ波レーダーなどを使用していたこともあったが、現行車種はカメラのみで徹底している。
この考え方は、E2E開発勢の中で一定勢力を誇る。センサーによる認知から判断、車両制御までをAIが一気通貫で行うE2Eにおいては、複数センサーを使用するよりカメラのみの方が当然負荷が小さく、効果的にデータ処理を行うことができる。LiDARなどの他のセンサーは、負荷を高めるだけの存在……といったイメージだ。
AI技術さえ向上すれば、人間の目・脳と同様の認識・判断能力を発揮できるはず――という考え方が根底にある。テスラや日本のTuringが代表例で、中国XpengもLiDARの使用をやめ、カメラのみのピュアビジョンへのシフトを進めているようだ。

英WayveもカメラのみのE2E開発を進めているが、日産との提携では、次世代のLiDARを活用した日産のGround Truth Perception技術を組み合わせることとしている。前方LiDARがAI Driverのシーン認識や意思決定を補完するという。
一方、E2Eによるレベル2++の技術を持つ中国ファーウェイは、LiDAR開発にも力を入れており、マルチセンサー化には意欲的な様子だ。
E2Eだからと言って、一律にカメラのみに依存しているわけではないが、効果的にE2Eモデルを実現するにはカメラに特化した方が良い――といった感じだろうか。
ルールベースでは不可能なレベル5相当の「どこでも自動運転」を実現するアプローチがE2Eだが、できるだけシンプルな構成で自律走行を可能にした方が、汎用性が広がる。余計な手間暇を加える余地をなくす考え方だ。
いずれにしろ、E2Eの主力センサーがカメラであることは揺るぎない事実だ。選択肢はいろいろあるが、カメラビジョン特化型の開発を進めるE2E開発事業者は少なくない――ということだ。
仮にニュージャージー州で同法案が成立すれば、こうしたカメラ特化型E2E企業は北米を網羅することが不可能になってしまう。
カメラ単独禁止はイノベーションを阻害する?
では、このニュージャージー州の動きは今後広がる可能性があるのか。おそらく「否」だ。フェールセーフ的意味合いで冗長性を求める動きは広がるかもしれないが、マルチセンサー化を義務付ける必要性は乏しく感じる。
カメラ単独を禁止してしまうと、有力開発勢の取り組みを停滞させ、イノベーション阻害に繋がっていく恐れがある。E2E=カメラ単独ではないにしろ、カメラビジョンが主力となっている限り、そこに無駄にメスを入れる必要はない。カメラ単独であるならば、マルチセンサーに匹敵するだけの安全性・冗長性を求めればよい話だ。
■【まとめ】規制は先行例に左右される面も
こうした議論が拡大するか否かについては、先行例に左右される面もある。E2E先行勢の自動運転があまりにも稚拙であれば、高い安全性・冗長性の証明を求める動きが活発化する可能性も考えられる。
AI主導型のE2Eでそれをいかに証明するか……を考えると、その性質上意外と難しいのではないだろうか。今後主流になっていくものと思われるE2Eモデルだが、並行して規制の在り方に関する議論も本格化することになりそうだ。
【参考】関連記事としては「テスラの「カメラのみ自動運転」、全米で禁止か」も参照。













