日本、米国とも政治のトップが変わる選挙が行われた2024年。米国では、トランプ氏が再び国のかじ取りを行う。テスラCEOのイーロン・マスク氏との蜜月ぶりも話題となり、テスラに風が吹くような自動運転施策を実行する可能性も高そうだ。
開発企業では、先頭を走るグーグル系Waymoが3都市目となるロサンゼルスで正式にサービスインした。2025年にはオースティンとアトランタにも拡大する計画だ。一方、アップルが正式に自動運転開発を中止するなど、進む企業と退く企業がはっきりと分かれ始めてきた印象だ。
日本では、自動運転分野における取り組みは乏しかったもののトヨタのADASに注目が集まった。半導体の共同開発など、日本のリーダーとして、業界のけん引役としてその活躍に期待が高まるところだ。
2024年にはどのような出来事が起こったのか。10大ニュースを一つずつ振り返っていこう。
記事の目次
- ■自動運転、トヨタ・日産・ホンダらが「一時休戦」!半導体SoCを共同開発(2024年1月5日付)
- ■カナダで「自動運転禁止」州が誕生 レベル3以上で懲役刑も(2024年4月23日付)
- ■大幅短縮!自動運転の審査期間、平均11カ月を「2カ月」に ついに国も本腰?(2024年5月21日付)
- ■自動運転化、エヌビディアは「だれが勝っても」儲かる説(2024年6月7日付)
- ■米政府、「中国製」自動運転ソフトの搭載禁止へ 車内の盗聴など不安視(2024年8月9日付)
- ■第6世代のGoogleタクシー、トヨタ採用されず!中国製Zeekrを起用(2024年9月9日付)
- ■Apple、自動運転開発を「正式に終了」 10年で数十億ドルを投資か(2024年10月18日付)
- ■トヨタ・レクサス、完成度が高すぎて「ほぼ自動運転じゃん!」と話題に(2024年10月16日付)
- ■中国企業、日本で「自動運転車の工場」建設 年産1万台へ、年内開業(2024年11月6日付)
- ■トランプ氏、自動運転車の「規制緩和」示唆 テスラに恩返しか(2024年11月25日付)
- ■【まとめ】米国・中国の関係が激変?日本は自動運転実用化が一気に加速?
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■自動運転、トヨタ・日産・ホンダらが「一時休戦」!半導体SoCを共同開発(2024年1月5日付)
トヨタをはじめとした自動車メーカーやサプライヤーが、高性能デジタル半導体の開発に向け「自動車用先端SoC技術研究組合を設立した。チップレット技術による自動車向けSoCを研究開発し、2030年以降にも量産車へ実装していく目標を掲げている。
組合は、トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダ、デンソー、パナソニックオートモーティブシステムズ、ソシオネクスト、日本ケイデンス・デザイン・システムズ、日本シノプシス、ミライズテクノロジーズ、ルネサスエレクトロニクスの12社。その後、スズキと日立Astemoも参画した。
高度な演算処理能力を持つSoC開発には最先端の半導体技術が必要で、チップレットと呼ばれる種類の異なる半導体を組み合わせる技術を適用し、自動車用 SoCの研究開発を進めていく。
半導体分野で後れを取りがちな日本だが、この分野を一時的に協調領域化し、業界一丸となって研究を加速していくということだ。ラピダス含め、同分野での復権なるか、その成果に期待したい。
【参考】詳しくは「自動運転、トヨタ・日産・ホンダらが「一時休戦」!半導体SoCを共同開発」を参照。
自動運転、トヨタ・日産・ホンダらが「一時休戦」!半導体SoCを共同開発
■カナダで「自動運転禁止」州が誕生 レベル3以上で懲役刑も(2024年4月23日付)
カナダのブリティッシュ・コロンビア州が、自動運転車の走行を禁じる自動車法改正を行った――とする記事だ。記事によると、自動運転レベル3以上の車両に罰金が科されるという。
改正法の中身を見ると、レベル3~5の自動運転車両に対し、別段の定めがない限り高速道路での運転や運転許可をしてはならないとされている。
一方、議会の副知事は、レベル3~5の自動運転車両が高速道路で走行できるようにすることや、ゼロ・エミッション車に限り走行できるよう規定すること、使用または運転に関する禁止、制限、権限、義務、要件、条件、または基準を確立することについて、規制を制定することができるとされている。
いまいち詳細がわからないが、恐らくこれまで自動運転に関する規制がなかったため、勝手に走行できないよう規制を設けたのではないかと思われる。安全性を証明することを前提に、実証や走行を許可していくのではないだろうか。
自動運転車に対する規制は、インドなどでも動きがあった。同国の道路交通大臣が自動運転解禁を行わない方針を表明したのだ。
世界の情勢とは別に、今後こうした動きも強まっていくのか。世界各国の動向にも注目したいところだ。
【参考】詳しくは「カナダで「自動運転禁止」州が誕生 レベル3以上で懲役刑も」を参照。
■大幅短縮!自動運転の審査期間、平均11カ月を「2カ月」に ついに国も本腰?(2024年5月21日付)
国土交通省や経済産業省、警察庁は、自動運転審査に必要な手続きの透明性・公平性確保に向け、審査機関の大幅短縮に取り組むことが発表された。自動運転レベル4審査にかかる期間について、これまでの平均約11カ月から2カ月への短縮を目指すとしている。
自動運転の審査は、安全性確保に向けた要件が専門的であり、行政手続きが長期化する傾向にあった。開発事業者だけでなくレベル4サービス導入を目指す自治体にとっても大きな負担になっているという。
この審査の複雑さは、新規参入の障害やサービス実装の遅れに直結するため、国によるサポート体制の構築や審査内容・手続き・様式などの明確化、過去の審査事例の公表・共有などを図り、改善を進めていくこととした。
国は、2024年度中に全都道府県で1カ所以上の自動運転計画や運行を目指し、2025年度に 50カ所程度、2027年度に100カ所以上のサービス実装実現を目標に据えている。
まさに今加速期を迎えているのだ。温度差はあれ、意欲的な自治体はすでに大きく動き出しており、2024年度中に一般車道におけるレベル4が誕生する見込みだ。
先行事例が増えれば、それだけ他の地域も導入しやすくなる。2025年にどこまでの動きが出てくるのか必見だ。
【参考】詳しくは「大幅短縮!自動運転の審査期間、平均11カ月を「2カ月」に ついに国も本腰?」を参照。
■自動運転化、エヌビディアは「だれが勝っても」儲かる説(2024年6月7日付)
インテルに代わり、半導体業界の覇者となった米NVIDIA。その勢いは留まるところを知らず、時価総額は3兆4,000億ドル(約510兆円)と世界2位の規模に達している(2024年12月時点)。約40兆円のトヨタの10倍超の水準だ。
自動運転分野では、自動車メーカーや新興開発企業の多くがNVIDIAのSoCを採用している。ほぼすべての企業といっても間違いではないほどの圧倒的シェアだ。
その理由は、圧倒的な処理能力だ。同社の自動運転向けソリューション「NVIDIA DRIVE」は、コンピュータビジョンをはじめAIによる高負荷に耐えられる能力を誇る。数年おきに更新される次世代ソリューションへのアップデートも容易なため、顧客の囲い込みも万全だ。
ライバル筆頭はインテル系モービルアイだが、親会社のインテルが覇気を失う中、どこまで気を吐くことができるか注目が集まるところだ。テスラやWaymoなどチップの独自開発を進める企業も少なくないが、脅威と呼べるものではない。
NVIDIAの現在の業績における自動車・ロボットセグメントの割合はまだまだ微小だが、自家用車の高機能化やクラウド需要などにより、今後右肩上がりに伸びていくことが予想される。NVIDIAの成長はまだまだ続くことになりそうだ。
【参考】詳しくは「自動運転化、エヌビディアは「だれが勝っても」儲かる説」を参照。
■米政府、「中国製」自動運転ソフトの搭載禁止へ 車内の盗聴など不安視(2024年8月9日付)
中国製ソフトウェアが搭載された自動運転車やコネクテッドカーの持ち込みを禁止する方針を表明している米政府。9月には、米商務省が中国とロシアの企業が関連するコネクテッドカーについて、特定のハードウェアとソフトウェアを搭載したものやそれらの部品販売・輸入を禁止する規則制定案を公告した。
コネクテッドカーの通信機能による情報収集を懸念する内容で、外国の敵対的脅威から守るための規則案となっている。常時通信を行う自動運転車も事実上対象となる。公道を走行しない農業用車両などは除外されている。
まず懸念されるのは、百度やWeRide、Pony.aiなど米国で公道実証を重ねる中国企業の行方だ。米国からの撤退を余儀なくされるのか、何らかの回避手段が用意されているのかなど非常に気になるところだ。
一方、こうした規制が実施されれば、中国も同様の規制を敷く可能性が考えられる。GMやフォードなど、中国法人を設立している企業にも影響が出るものと思われる。
両国の板挟みとなる日本にもどの程度影響が及ぶのか、またトランプ新政権への移行で両国の関係に変化はあるのか。要注目の一件だ。
【参考】詳しくは「米政府、「中国製」自動運転ソフトの搭載禁止へ 車内の盗聴など不安視」を参照。
■第6世代のGoogleタクシー、トヨタ採用されず!中国製Zeekrを起用(2024年9月9日付)
グーグル系Waymoが、第6世代の自動運転システム「Waymo Driver」の概要を発表した。ティザー画像には、中国の自動車メーカー・吉利汽車(Geely)系列のZeekrの新車両が映し出された。Waymoの自動運転タクシーの3代目にどの車両が採用されることになるか注目が集まっている。
Waymoの自動運転タクシー1代目はPacifica(クライスラー)ハイブリッドモデルで、2代目はBEVのI-PACE(ジャガー)が採用されている。この2代目からWaymoは100%のBEVシフトを敷いている。
そして3代目だ。WaymoとZeekrは2021年、自動運転配車サービス向けに特別設計された新型BEVモデルにWaymo Driverを統合するパートナーシップを結んでおり、今回の発表でこの計画が着実に進められていることが判明した。
その一方、Waymoは2024年10月、韓国ヒョンデと複数年にわたる戦略的パートナーシップを結んだと発表した。ヒョンデのBEV・IONIQ 5にWaymo Driverを統合し、2025 年後半までに路上テストを実施して徐々にWaymoOneのフリートに追加していく計画だ。
米中間の経済摩擦を背景に、Zeekr車両導入には大きなリスクやコスト増が懸念されるためと思われる。今のところWaymoはZeekrとの提携解消を発表していないが、3代目の行方は怪しくなってきたようだ。
【参考】詳しくは「第6世代のGoogleタクシー、トヨタ採用されず!中国製Zeekrを起用」を参照。
■Apple、自動運転開発を「正式に終了」 10年で数十億ドルを投資か(2024年10月18日付)
約10年間にわたり秘密裏に進めてきたアップルの自動運転開発プロジェクトが、ついに正式に幕を閉じたようだ。カリフォルニア州道路管理局(DMV)の公道走行ライセンス保持者一覧から、アップルの名前が消えた。
アップル自らが自動運転開発を公表することはなかったが、公道実証や企業買収などさまざまな面からたびたび情報が漏れだし、世間の注目を集めた。「アップルカー」の実現を期待するアップルファンの声も多かったようだ。資金は数千億円が費やされたとされる。
このアップルの件からは、二つのことが読み取れる。一つ目は、自動運転市場の魅力だ。数々のコンピュータ機器・デバイスで成功を収めてきたアップルが目を付け黙々と自社開発をするほどの魅力がそこにあるのだ。アップルとしては、無人化を前提とした各種車内サービスやiPhoneなどとの連動を想定していたのかもしれない。また、車両をコンピュータ機器に見立てた構想があったかもしれない。真意は不明だが、さまざまな可能性がそこに眠っているのだ。
二つ目は、開発・実用化の難しさだ。巨額の資本を蓄えるアップルでさえも断念せざるを得ないのが自動運転開発――と見ることもできる。自動運転システム開発の難しさか、ハード(車両)含めたコストの問題かなどアップルがプロジェクトを断念した理由は不明だが、いずれにしろ収益を生み出すまでに相当な体力が必要となる。
今後も、自動運転開発に新規参入する企業もあれば消えゆく企業、統合・買収される企業などさまざまな動きが出ることになる。2025年も業界の動向に逐一注視したい。
【参考】詳しくは「Apple、自動運転開発を「正式に終了」 10年で数十億ドルを投資か」を参照。
■トヨタ・レクサス、完成度が高すぎて「ほぼ自動運転じゃん!」と話題に(2024年10月16日付)
SNSで、トヨタ(レクサス)のADAS(先進運転支援システム)を称賛する声が多く上がっているようだ。
トヨタのADASは、ハンズオフ運転を可能にする機能「Advanced Drive」を筆頭に、標準化が進むToyota Safety Senseまで各車が充実している。
レクサス車ではLexus Safety System +のクオリティが高い。全車速追従機能付のアダプティブクルーズコントロール(レーダークルーズコントロール)とレーンキープアシスト(レーントレーシングアシスト)の組み合わせで、非常に快適なドライブができるという。
車両の縦方向と横方向の制御を支援するこの二つの機能は、自動運転においても基礎中の基礎となる。近年、自動運転に関する話題が乏しいトヨタだが、やはり基本的技術の水準は高いのだ。
今のところレベル3に向けた取り組みも耳にしない。自家用車の領域においては、レベル2、レベル2+のスタンダード化でドライバーを支援していく戦略を採用しているのかもしれない。
全方位戦略が称賛されるトヨタ。今後、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)の波とともにどのように次世代モビリティへとシフトしていくのか、要注目だ。
【参考】詳しくは「トヨタ・レクサス、完成度が高すぎて「ほぼ自動運転じゃん!」と話題に」を参照。
■中国企業、日本で「自動運転車の工場」建設 年産1万台へ、年内開業(2024年11月6日付)
システムインテグレーターのTISと自動運転開発などを手掛ける中国PIX Movingの日本法人が合弁を立ち上げ、神奈川県に自動運転EVの組立工場を設立すると発表した。
TISとPIXの日本法人は、MaaS用自動運転EVやロボットの開発・製造を主要事業とするPIX JV及び組立工場を設立し、MaaSやスマートシティ領域における両社のビジネス拡大を図っていく。
PIX Movingは、スケートボード型のEVシャシーやMaaS向けロボット、自動運転バス「RoboBus」、有人運転EV商用車の開発・製造などを手掛けている。モジュール化により汎用性を高め、さまざまな自動運転サービスに対応可能なソリューションづくりを進めているようだ。
日本国内に製造工場を開くのは非常に興味深い動きだ。国内市場向けと考えれば、円安を背景とした昨今の流れと一致するが、海外展開(輸出)を見据えている可能性もある。日本法人製のソフトウェア・ハードウェアに置き換えれば、米国輸出も容易になるかもしれないためだ。
また、見方を変えれば、海外自動運転開発企業の本格日本進出を示唆する動きともとれる。WeRideやPony.aiのように海外展開に力を入れる企業にとって、日本は有力な市場だ。
今後、海外勢が日本に本格進出する日は訪れるのか。こういった観点からも注目したい。
【参考】詳しくは「中国企業、日本で「自動運転車の工場」建設 年産1万台へ、年内開業」を参照。
■トランプ氏、自動運転車の「規制緩和」示唆 テスラに恩返しか(2024年11月25日付)
次期米大統領にドナルド・トランプ氏が再登板する。トランプ氏の選挙戦をさまざまな面から支えたイーロン・マスク氏がその勝利に大きく貢献したとされており、トランプ氏はマスク氏を米連邦政府に新設された「政府効率化省」のトップに据えるなど大きな信頼を得たようだ。
そんなマスク氏への配慮かどうかは不明だが、トランプ氏は自動運転に関する規制緩和を進める方針を表明したという。連邦政府として自動運転に関するガイドラインを制定し、各州における実用化、ひいては広域展開を容易にするものとなる可能性が高い。
現状、米国では各州が自動運転に関するルールを制定し独自運用しており、開発各社が広域展開を図るためには各州の規制に応じた許認可が必要となる。Waymoのようにエリア拡大を図る企業はもとより、テスラのFSDのように特に走行エリアを設けないタイプの自動運転でも大きな足かせとなっている。
車両や自動運転システムの要件など、連邦政府としてどこまでの統一ルールを制定し、どこまで各州の自治を認めるのか。いずれにしろ、米国の自動運転市場がさらに加速していく可能性が高そうだ。
【参考】詳しくは「トランプ氏、自動運転車の「規制緩和」示唆 テスラに恩返しか」を参照。
■【まとめ】米国・中国の関係が激変?日本は自動運転実用化が一気に加速?
2025年。米国では、政権交代の影響がどのように表れてくるのか、テスラの動向も含め要注目だ。中国勢も海外展開など勢いを増している。両国間の関係にも注目したいところだ。
日本では、一般車道におけるレベル4が複数サービスインする可能性が高い。高速道路におけるレベルトラック実用化に向けた取り組みも加速するものと思われる。どこまでの動きが出るのか、大ブレイクと呼べるほどの動きになるか要注目だ。また、トヨタのWoven Cityもオープンする予定だ。自動運転分野で大人しいトヨタがそろそろ本領を発揮するのか、こちらの動向にもしっかりと注目していきたい。
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大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)