国内ではライドシェアをめぐる議論が過熱の一途をたどっている。徐々に議論の中身が明らかになり始めており、今後数カ月間は目を離せない状況となりそうだ。自動運転関連では、大本命のトヨタに動きがあったようだ。
2024年2月の10大ニュースを振り返り、モビリティ業界の最新動向をおさらいしていこう。
記事の目次
- ■タクシー会社限定ライドシェア、UberとDiDi「裏方役」で苦渋の参入(2024年2月2日付)
- ■良品計画が自動運転バス!ただし「反テスラ」的な誘導式で走行(2024年2月5日付)
- ■米ロボマート、「自動運転コンビニ」をトヨタより先に展開へ(2024年2月6日付)
- ■Googleの自動運転部門、インターンにも年収2,000万円提示(2024年2月7日付)
- ■ソフトバンクG決算、Armに劣らず「自動倉庫」投資も好調 5四半期ぶりの黒字(2024年2月8日付)
- ■テスラの自動運転技術、米国人の62%が懸念 大規模リコール後(2024年2月14日付)
- ■Google自動運転車への襲撃、セブンイレブンも過去に類似の被害(2024年2月17日付)
- ■やはりトヨタが大本命!ついに「自動運転レベル4」、お台場で展開か(2024年2月19日付)
- ■中国人白タク、撲滅へ!ライドシェア解禁に合わせ取締り強化(2024年2月20日付)
- ■ライドシェア運転手、配車拒否ならタクシー会社が「指導」 国の想定案判明(2024年2月20日付)
- ■【まとめ】ライドシェア議論は延長必至?
■タクシー会社限定ライドシェア、UberとDiDi「裏方役」で苦渋の参入(2024年2月2日付)
国内で配車アプリを展開するUberとDiDiが、2024年4月開始予定の自家用車活用事業への参入を発表した。ただ、同事業においてはタクシー事業者の協力が必要不可欠となるため、従来と変わらずタクシーを配車する形式で参入することになりそうだ。
両社が自家用車活用事業参入に対するメリットはあまり感じられないが、その先には現在議論が進められている本格ライドシェアが待っている。新法のもと、タクシー事業者以外の参入を可能にする内容となる見込みで、この新制度が実現すればタクシーをはじめとした移動サービスを取り巻く環境が大きく変わる。
関係業界の反発は必至の情勢で、制定まで紆余曲折が予想される。どのような経緯をたどり、どのような結論を迎えることになるのか、要注目だ。
【参考】詳しくは「タクシー会社限定ライドシェア、UberとDiDi「裏方役」で苦渋の参入」を参照。
■良品計画が自動運転バス!ただし「反テスラ」的な誘導式で走行(2024年2月5日付)
良品計画が自動運転モビリティ「GACHA」のリニューアルを発表した。従来モデルから小型を図った電磁誘導式の自動運転車で、札幌国際芸術祭2024の中でお披露目された。
同社はフィンランドの自動運転開発スタートアップ・Sensible4と提携し、全天候型の自動運転シャトルとしてGACHAをデザインした。2022年に日本に持ち寄り、千葉県内で運行実証を行っている。
ただ、Sensible4は2023年に破産申請しているため、新モデルの自動運転システムや権利関係など詳細は不明だ。良品計画が権利を引き継ぎ、開発や実装を進めていくのかもしれない。
電磁誘導式のため柔軟な自律走行の点では制限があるものの、さまざまな天候に対応しやすい利点もある。乗車定員4人の軽自動車サイズの新モデルを今後どのように展開していくのか、また自動運転開発の面で他社との新たな協業があるのかなど、今後の動向に注目したい。
【参考】詳しくは「良品計画が自動運転バス!ただし「反テスラ」的な誘導式で走行」を参照。
■米ロボマート、「自動運転コンビニ」をトヨタより先に展開へ(2024年2月6日付)
自動運転コンビニ事業がついに本格化するかもしれない。同事業の開発を手掛ける米Robomartとスマートモビリティ開発を手掛ける中国のPIX Movingが提携し、自動運転型小売店のフリートを強化すると発表した。無人販売サービスはカリフォルニア州で開始する予定という。
両社が導入するにはおそらくミニカー規格の小型モデルだ。Robomartはこれまでに乗用バンタイプをベースにした「OASIS」やオリジナルのバス型モデル「HAVEN」を発表しているが、小型モデルの導入により新たな展開に乗り出すのかもしれない。
ただ、両社とも2024年2月時点でカリフォルニア州DMV(道路管理局)から公道における自動運転走行許可を取得していないのが気がかりだ。公園内など、公道外での運用を計画しているのか、あるいはこれからライセンスを取得し、実証を本格化させるのか。
ロードマップは不明だが、大きく前進し始めたことは間違いない。どのような戦略のもと事業を推し進めていくのか、要注目だ。
【参考】詳しくは「米ロボマート、「自動運転コンビニ」をトヨタより先に展開へ」を参照。
■Googleの自動運転部門、インターンにも年収2,000万円提示(2024年2月7日付)
Waymoが、10万5,000〜12万5,000ドル(約1,600〜1,900万円)という好待遇でインターンを募集しているという。物価の違いや為替変動などを考慮しても、日本の感覚からすればとんでもない額だ。
若く優秀な才能を早期に囲い込む狙いもあるのだろうが、それにしても…といった印象だ。Waymoの正社員は幾らもらっているのだろうか。
公式サイトを見ると、機械学習アクセラレータ アーキテクトの中途採用では、18万7,000~23万3,000ドル(2,800~3,500万円)、知覚(パーセプション)ディレクターは32万0,000~39万8,000ドル(4,800~6,000万円)となっている。
もちろんこうした職種には相応の技術・能力が求められ、広く門戸が開かれているわけではないだろうが、業界の先頭を走り続けるためにはいかに優秀なエンジニアが必要かを示す数字と言える。競合他社はどのような待遇を用意し、また日常的にどのような争奪戦が繰り広げられているのか、非常に興味深いところだ。
【参考】詳しくは「Googleの自動運転部門、インターンにも年収2,000万円提示」を参照。
■ソフトバンクG決算、Armに劣らず「自動倉庫」投資も好調 5四半期ぶりの黒字(2024年2月8日付)
ソフトバンクグループの2024年3月期第3四半期の連結決算において、ビジョンファンド事業が大きく改善した。前年同期の7,300億円の赤字から6,007億円の黒字に転換した。
中でも注目なのが「自動倉庫」関連投資の成績で、投資先のAutoStore HoldingsとSymboticの価値がそれぞれ大幅に上昇しているという。
一時の巨額損失を経て投資を再開し、優良案件の発掘に注力しているというソフトバンクグループ。投資先となる最先端分野は浮き沈み・当たりはずれも大きくなりがちだが、ロジスティクス関連、特に倉庫の自動化はサービス実装が軌道に乗っている分野のため、堅実な成長が見込める。
将来的には、公道における自動運転技術などと組み合わせ、ロジスティクス全体の無人化・自動化を図る取り組みに発展していくことにも期待したいところだ。
【参考】詳しくは「ソフトバンクG決算、Armに劣らず「自動倉庫」投資も好調 5四半期ぶりの黒字」を参照。
■テスラの自動運転技術、米国人の62%が懸念 大規模リコール後(2024年2月14日付)
米フォーブスアドバイザーが実施した自動運転やADASに対する消費者意識調査によると、62%がテスラの技術に不安を示し、自動運転に対しても46%が不安に感じているという。
テスラに関しては、ADAS機能を過信・誤認した事故が相次ぐほか、大規模リコールが行われたこともあり信頼度が低下しているようだ。自動運転に対しては、34%が信頼、どちらでもないが20%という結果にいなっている。
アンケート結果(数字)そのものはともかく、フォーブスアドバイザーによる分析が恣意的に「反自動運転」を助長するようなものとなっているため冷静な見方が必要だが、テスラに対するイメージのように何らかの事案をきっかけに世論が簡単に傾くのは事実だ。
自動運転も、開発サイドが事故や事案を軽視して対応を誤れば、イメージはどんどん悪くなる。ある意味Cruiseがその例に当たる。開発を加速するためには公道実証においても攻めの姿勢が必要不可欠だが、各事案に対し誠実な対応をおろそかにすれば逆風が吹き始める。
日本も気を付けなければならないところだろう。
【参考】詳しくは「テスラの自動運転技術、米国人の62%が懸念 大規模リコール後」を参照。
■Google自動運転車への襲撃、セブンイレブンも過去に類似の被害(2024年2月17日付)
中国における旧暦の正月「春節」を迎え、米サンフランシスコの中華街で自動運転車を巻き込んだ事件が発生した。Waymoの自動運転タクシーが群衆に襲撃されたのだ。
米サンフランシスコの中華街で襲撃された。春節ムードの中で群衆が興奮し、車両の破壊行為に及んだ。最終的には車両は炎上し、このニュースは波紋を広げた。
お祝いムードで道路上にも人が溢れ、クルマはたびたび停止を求められる状況下、現場に居合わせた無人のWaymo車がやり玉となったようだ。
道が空くのを待っていたWaymo車に対し、群衆の1人がボンネットに飛び乗ってフロントガラスを破壊すると、周囲の人も次々と破壊行為に参加し、あげく車内に花火が投げ込まれ炎上した。
自動運転に恨みを抱いた犯行…というより、悪質な酔っ払いによる犯行のように感じられる。抵抗できない無人車両がたまたまそこにいたから軽いノリで…といった印象だ。
真相は不明だが、今のところ逮捕者は出ていない。おそらく車載カメラに犯人の顔ははっきり映っているものと思われるが、こういった行為を厳しく取り締まらないと模倣犯が出てくる恐れもあり、開発各社の公道実証やサービスを停滞させることになる。
車両炎上まではいかずとも、日本でも類似した犯罪行為が発生する可能性は十分考えられる。他人事ではないのだ。
【参考】詳しくは「Google自動運転車への襲撃、セブンイレブンも過去に類似の被害」を参照。
■やはりトヨタが大本命!ついに「自動運転レベル4」、お台場で展開か(2024年2月19日付)
トヨタが東京都内のお台場エリアで2024年7月にも自動運転のサービス実証に着手するという。建設中の「TOYOTA ARENA TOKYO」を起点に当面はレベル2運行を行い、安全性や収益性などの検証を進めるという。
詳細は不明だが、同アリーナは2025年秋に開業予定のため、これに合わせてレベル4実現を図っていくことも考えられる。
May Mobilityの自動運転システムも使用することが報じられており、e-Paletteにこだわらずさまざまなモビリティを導入することも想定される。
自動車メーカーでは、ホンダが自動運転タクシー実装計画を具体化しており、ついにトヨタも……といった感だ。こうした報道を受け、日産もEasy Ride実用化に向けた取り組みを加速するのか、各社の動向に注目したい。
【参考】詳しくは「やはりトヨタが大本命!ついに「自動運転レベル4」、お台場で展開か」を参照。
■中国人白タク、撲滅へ!ライドシェア解禁に合わせ取締り強化(2024年2月20日付)
移動サービスの需給を満たすため、タクシーの規制緩和や自家用車活用事業、ライドシェア導入に向けた議論などさまざまな取り組みが進められているが、サービスの健全かつ安全な提供を目指し、白タク行為の取り締まりも強化されているようだ。
配車アプリの普及などを背景に事前予約やキャッシュレス決済が進み利便性が増す一方、車内で金銭のやり取りなどが行われなくなったため白タクの取り締まりが難しくなっているという。
そこで警察庁や国土交通省は、仲介行為を行うアプリ事業者に対しても違法行為を停止するよう行政指導や共犯規定を駆使した取り締り強化に乗り出した。
ライドシェアが浸透している中国からの観光客などは、自家用車による白タクサービス提供に違和感をおぼえず、日本では違法行為にあたるといった認識そのものが欠けているケースもある。
啓発や周知徹底などとともに、制度改革中の議論において国際的スタンダードの在り方を見定めていく必要もありそうだ。
【参考】詳しくは「中国人白タク、撲滅へ!ライドシェア解禁に合わせ取締り強化」を参照。
■ライドシェア運転手、配車拒否ならタクシー会社が「指導」 国の想定案判明(2024年2月20日付)
2024年4月開始予定の自家用車活用事業の方針・考え方が徐々に明らかになってきた。タクシー事業者のもと自家用車を用いてサービスを提供する一般ドライバーにも、一定の義務が課されることになりそうだ。
一般ドライバーには基本的に出社という概念がないため、運行前点検などは遠隔で行う。乗務中は、複数の配車依頼に対しどの依頼を受けるかドライバーが選択・判断することができるが、合理的な理由なく配車依頼を承諾しない場合などはタクシー事業者が指導を行う。最悪、契約終了となることも想定している。
今後、一般ドライバーとタクシー事業者の関係(雇用・請負・委託など)なども整理され、3月までに公表されるものと思われる。
自家用車活用事業はどのようなものとなるのか。6月をめどに議論を進めるライドシェア事業との兼ね合いを含め要注目だ。
【参考】詳しくは「ライドシェア運転手、配車拒否ならタクシー会社が「指導」 国の想定案判明」を参照。
■【まとめ】ライドシェア議論は延長必至?
ライドシェアをめぐる議論は間違いない紛糾するため、結論に達するまで長引く可能性が考えられる。半ば強行的に新サービスへの道を開くことができるのか、あるいは反対勢力が勝利するのか。その動向には注視が必要だ。
自動運転関連では、トヨタや良品計画に動きがあった。大本命と言えるトヨタが業界に与える影響は大きく、トヨタをはじめとした各社が今後どのように事業を進めていくのか注目だ。また、良品計画のような異業種からの参入も興味深い。物販や新たなライフスタイルの提案など、持ち味を生かした事業とモビリティとの融合に期待したい。
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大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)