中国人白タク、撲滅へ!ライドシェア解禁に合わせ取締り強化

アプリ事業者への指導や取り締まりも強化



ライドシェア解禁に向けた議論が話題を呼んでいるが、これと並行してタクシー規制緩和に向けた取り組みも着々と進められている。すでに第二種免許取得に係る要件の緩和や白タク仲介アプリの取り締まり強化など動き出しているものもある。


特に、違法行為である白タク撲滅に向けた取り組みは必須だ。今回のライドシェア議論の引き金になったインバウンド需要とともに白タクも増加傾向にあり、こうした行為を議論中のライドシェアとしっかり切り分ける必要がある。

この記事では、白タクに関する動向をはじめ、交通課題解決に向け現在議論が進められている各施策について解説していく。

■白タク撲滅に向けた対策
白タクとは?

白タクは、タクシー営業許可を有しない個人が、白色のナンバープレートの自家用車などで営利輸送する違法行為を指す。

タクシー営業を行うには、道路運送法に基づく一般旅客自動車運送事業の許可を得なければならない(道路運送法第4条)。個人タクシーも同様だ。正式な許可を得ているタクシー車両には緑色のナンバーが付けられており、許可の有無は一目瞭然となる。


なお、白ナンバーの自家用自動車でも、「災害のため緊急を要するとき」「市町村、特定非営利活動法人その他国土交通省令で定める者が行う自家用有償旅客運送」「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」は有償でサービスを提供することができる。

余談だが、国は東京オリンピック・パラリンピック競技大会とラグビーワールドカップが開催される際、機運醸成を図るため特別仕様ナンバープレートの交付を行った。タクシー事業用の車両も申請可能で、事業用のプレートは大部分が白地で外側の縁のみ緑色となっていたため、同プレートを付けたタクシーが「白タク」と勘違いされることも多々あったようだ。

話を戻す。国土交通大臣の許可を受けずに一般旅客自動車運送事業を行った場合、つまり白タク行為を行った場合、「三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」の罰則が付される(同法第96条)。重たい罰則だ。

警察庁が都道府県警察からの報告を取りまとめたデータによると、白タク行為の検挙件数は2018年45件、2019年55件、2020年80件、2021年11件、2022年17件、2023年9件となっている。


具体例としては、「中国籍の男性が、成田国際空港において外国人観光客に声をかけ、有償で目的地まで運送」「日本人男性が都内のタクシー乗り場において不特定の者に声をかけ、有償で目的地まで運送」「ベトナム籍の男性が、SNSを通じてベトナム人客を募集し、有償で目的地まで運送」「中国籍の男性が、外国製配車アプリを通じて中国人観光客とマッチングし、来日後、有償で目的地まで運送」などが示されている。

白タクの横行は、それだけルール無用の交通参加者が増加することを意味する。交通や移動サービスの安全性を損なうほか、既存のタクシー業界やバス業界などが打撃を受け、持続可能な移動サービスを提供できなくなる恐れもある。

アプリ事業者への指導や取り締まりにも着手

近年特に問題視されているのが、外国人観光客を対象にした白タク行為だ。国際空港のクルマの乗降場には、白タク車両が相当数並んでいるという。

利用者(客)は、海外の旅行予約サイトや配車サービスサイトで白タクを予約・決済する手法がスタンダードで、送迎サービスが旅行プランに含まれており運賃の発生を特定できないケースや、車内において決済行為が行われないため証拠をつかみづらいケースが多い。

怪しい現場に踏み込んでも、「知人の送迎です」と言われれば摘発は困難という。

各国の法規制の違いも背景にある。例えば、中国では自家用車による有償ライドシェアが浸透しているため、中国人観光客は問題意識を持つことなく日本で白タクを利用することが多い。違法の認識や悪意もなく、単純に「安い」「中国人ドライバーだと安心」といった理由で白タクを利用するケースが後を絶たないのだ。

このため、警察庁と国土交通省は白タク行為について、その仲介行為を行うアプリ事業者に対しても違法な仲介行為を停止するよう行政指導や共犯規定を駆使した取り締り強化に乗り出した。取り締り困難な仲介行為がある場合は、その課題を分析した上で実効的な法制度の在り方について検討を行うとしている。

白タクとライドシェア

取り締りが強化された白タクだが、こうした自家用車を用いた輸送行為はライドシェアに近いものがある。例えば、白タクドライバーに交通違反や犯罪歴など最低限の確認を行い、プラットフォーム上でサービスを提供する形式をとれば、米国や東南アジア系のライドシェアサービスとなる。

国の指針のもとドライバーに一定の許認可を付し、管理や規制をもう一段階高めれば欧州などで多く見られるライドシェアサービスとなる。ドライバーや使用する車両に一定の要件を課し、一定の規制・管理下に置けばライドシェアとなるのだ。

現在日本で進められているライドシェア議論は、この一定の許認可や管理・規制をどのレベルで設定すれば、安全性を確保しつつ移動需要を満たすことができるか……といったものだ。また、タクシー事業者への配慮も考慮される。

ライドシェアに慎重な立場をとる国会議員は依然として多く、この設定水準を見誤れば新法制定は見送られることになりそうだ。

■タクシーの規制緩和関連

業界からの要望などを受け、警察庁は普通自動車第二種運転免許取得に要する期間短縮に向けた改正を行う。

教習受講者の1日あたりの最大教習時間を緩和し、最短5日と一時限で取得可能とする方向で検討を進める。

また、教習期間を半減するよう求める要望があることも踏まえ、二種免許取得に要する教習内容を抜本的に見直し、道路交通における安全性の確保を前提に教習の効率化を図っていく。

具体的には、一種免許取得時との重複の縮減その他教習科目の整理・統合・縮減を検討し、結論を得次第所要の改正を行うとしている。

さらに、二種免許取得に意欲があり、適性・運転技能を有する在留外国人がタクシードライバーとして活躍することを円滑にする観点から、試験問題例を20言語に翻訳するなど外国語による試験を実施することを可能にする。

一方、国土交通省もタクシー業務適正化特別措置法施行規則を見直し、大都市において実施されているタクシー乗務員向けの地理試験廃止を検討する。また、タクシー事業者がドライバーを新規に雇用した際に行う指導についても、10日間とする日数要件を撤廃する。

出典:国土交通省
■自家用車活用事業関連

タクシー供給不足の解消に向け、「自家用車活用事業」を可能とする制度を創設し、2024年4月から実施する。

タクシーが不足する地域や時期、時間帯を配車アプリや利用者ニーズに関わるデータなどを活用して特定し、その不足分に対してタクシー事業者が一般ドライバーを利用して運送サービスを提供できるようにする制度だ。

一般ドライバーの労働条件は雇用契約に限らず、委託や請負なども可能か検討を進める。一般ドライバーによるサービスはタクシー事業者のもと提供され、客との運送契約主体はタクシー事業者となり、事業者が運送責任を負う。

サービスは、運送引受け時に発着地や運賃が確定していることが前提で流し営業は原則禁止される。事実上配車アプリによる需要に対応する形となる。

自家用車と一般ドライバーを活用するためライドシェア解禁に向けた第一歩とも捉えられるが、あくまでタクシー事業者が主体となるため、やや趣が異なる。

同制度を利用する一般ドライバーは今後、二手に分かれるものと思われる。自由な働き方を求めるドライバーは、新たなライドシェア制度が創設された際にそちらに移行し、タクシーサービスを専業的に行いたいドライバーは正規タクシードライバーに転身する。

ライドシェアの入り口として、また正規タクシードライバーの確保に資する可能性があるという点で有効な事業となりそうだ。

【参考】自家用車活用事業に向けた動向については「GO、タクシー会社の「ライドシェア運転手」採用を支援」も参照。

■自家用有償旅客運送制度の改善

既存の自家用有償旅客運送制度も導入しやすいよう改善を図っていく。同制度は交通空白地有償運送と福祉有償運送のみが認められており、2023年末時点で交通空白地が670団体・4,304車両、福祉が2,470団体・14,456車両導入されている。

交通空白地の定義付けにおいて、数値やデータによる目安提示や、時間帯による空白地の概念導入を図る。

また、地域公共交通会議における議論がまとまらない場合、事業が前進せず課題を抱えたままの状態が続くため、首長による判断の権限を明確化していく。運送可能エリアにも柔軟性を持たせ、区域内の交通空白地から空白地外への運送(区域外運送)を原則可能とする。

このほか、ダイナミックプライシングの導入や、自治体から委託を受けた株式会社の参画、宿泊施設が所有する車両の利用明確化なども2023年度内に改善する。

■ライドシェア新法制定に向けた議論

自家用車活用事業の実施効果を検証しながら、タクシー事業以外の者がライドシェア事業を行うことを位置付ける法律制度について、2024年6月をめどに議論する。

プラットフォーマーなどライドシェア事業者による利用者への法的責任を明確化するとともに、ドライバーの事前・事後審査や事業者の保険加入義務、性犯罪対策、記録保持など徹底した安全規制や犯罪対策の導入、新たな働き方の尊重、副業・兼業推の推進、地域・時間帯・台数の不制限、自由度の高い料金規制などについて議論を進めていく。

本格的なライドシェア解禁は、この議論に左右されることになる。

【参考】ライドシェア規制については「ライドシェアの法律・制度の世界動向」も参照。

【参考】各国の状況については「ライドシェア制度、OECD諸国の34%が今も未整備 日本を含む13カ国」も参照。

■【まとめ】本丸のライドシェア議論の行く末に注目

改革の本丸となるライドシェア新法に対しては、規制が緩過ぎれば安全面を理由に慎重論者は反対し、逆に規制が厳し過ぎればドライバーは集まらず、交通課題解決に結びつかない。

2024年6月をめどに議論を進めるとしているが、結論に達するまで長期化する可能性も十分考えられる。どういった結末を迎えるのか、議論の行く末に要注目だ。

また、こうした事業が始まることにより、従来のタクシー利用においても配車アプリの普及が進みそうだ。取り組みが一息ついた感を受けるMaaSアプリとの連動など、日本ならではの発展を遂げるチャンスにもなり得るため、各プラットフォーマーの動向にも注目したいところだ。

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記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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