ライドシェアの法律・制度の世界動向(2023年最新版)

TNC型とPHV型に大別、日本導入の焦点はPHV型か



ライドシェア導入の可否をめぐる議論が国内で過熱し始めた。業界団体や一部の与野党議員から強い反発を受けるのは必至で、どういった結論を迎えるかは不透明な状況だ。







世界においても各国で賛否を巻き起こし、規制を設けた上で導入を許可するケースや全面禁止するケースなど対応が分かれているようだ。

議論を深化させる上で欠かせない世界各国の対応は、どうなっているのだろうか。ライドシェアの実情に迫っていく。

■ライドシェアのタイプ
ライドシェアの定義はあいまい?

一口にライドシェアと言ってもさまざまなサービス形態が存在し、必ずしも議論の主流となっているマイカーを活用したフレキシブルな有料移動サービスのみを指すわけではない。公的機関含め、情報を取り扱うものによってライドシェアと定義されている中身が異なるため、正確な情報が非常につかみにくい。

また、各国の対応そのものも変化し続けているため、最新かつ正確な海外の情報をつかみきることは正直なところ困難だ。情報が錯綜しているのだ。

よって、ここではUber Japanが規制改革推進会議で提示した資料や過去の情報などをもとに、各国の状況について紹介していく。

▼諸外国におけるライドシェア法制と安全確保へ䛾取り組み|Uber Japan|第1回 地域産業活性化ワーキング・グループ|規制改革推進会議
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_05local/231106/local03_02.pdf

TNC型とPHV型の区別

Uber Japanは、ライドシェアに関する議論を進める内閣府の規制改革推進会議の地域産業活性化ワーキング・グループで、「諸外国におけるライドシェア法制と安全確保への取り組み」と題したレポートを2023年11月6日に提出した。

レポートによると、G20主要国におけるライドシェア導入・制度化の状況については、米国やカナダ、ブラジル、メキシコ、インドがTNC型、中国、オーストラリア、英国、フランス、ドイツ、ロシアがPHV型を導入しているという。韓国、イタリアは未導入だ。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)

TNC(Transportation Network Company)型は、Uberのような配車プラットフォーマーが各ドライバーの管理や運行管理を行うもので、ドライバーに課される要件は基本的にプラットフォーマーが定める。上記のTNC型を導入している国は、この運用ルールについて法制化しており、プラットフォーマーに対して規制をかけるほか、ドライバーに対して一定の規制をかける場合もある。

一方のPHV(Private Hire Vehicle)型は、個人タクシーの派生形のようなもので、ドライバーに対し登録や車両・運行管理を国が義務付けているという。ドライバーがライドシェアを行うためには、国の要件を満たし、かつ登録しなければならない。プラットフォームに関係なく、各ドライバーに対し規制当局が規制をかける形式だ。

簡易版個人タクシーのようなイメージだろうか。一般的には、流し営業やタクシープールの利用などはできず、アプリによる予約・配車要請に応じて運行することになる。

大雑把に解釈すると、多くの人がイメージするライドシェアはTNC型で、一定の規制はあるものの、ドライバーはプラットフォーマーに登録することでサービスを提供することが可能になる。

一方、PHV型は国による登録・許可などが必要なため、TNC型に比べ厳格に管理されることになる。PHV型も本質的にライドシェアに含まれるが、これを除外して論じているケースも多く、故に正確な情報をつかみきれないのだ。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■TNC型を導入している国の事例
米カリフォルニア州

米国ではライドシェアに関する規制権限は州が有しており、州ごとに中身が異なる。Uber発祥の地であるカリフォルニア州では2010年ごろにライドシェアサービスがスタートし、州当局はライドシェア事業者を従来のタクシーと区別し、TNCとして新たに制度化し、規制を設けつつも営業を認めている。

もともと通勤用のカープールが普及していたこともあり、営利型ライドシェアは抵抗なく受け入れられたという。

プラットフォーム事業者はカリフォルニア州公益事業委員会の許可を要する。ドライバーは、1年以上の運転経験のある普通運転免許を有する21歳以上で、過去3年以内に免許停止になった人や7年以内に重大な交通違反を起こした人は不適格となる。

車両については、ドライバーが登録時に州認定施設で車両点検を受けなければならず、その後も登録後1年間または5万マイル運行ごとに点検を受けなければならない。

こうしたドライバーの確認・管理はTNCが行い、安全運転・ハラスメント防止などに関する研修を実施することが義務付けられている。犯罪歴を網羅的に確認することも求められている。

Uberは、交通安全の専門家と共同開発した独自研修を実施しており、乗客から危険運転などに関する通報があった場合には、運転手のアカウント停止など適切な措置を取ることとしている。運転手が新たに犯罪を起こした場合は、これを検知してアカウントを停止する仕組みなども導入している。

このほか、24時間のうち累計12時間稼働すると6時間連続した休息を取らなければならない規定や、運行記録の保管義務がある。保険関係では、プラットフォーム事業者に対し、ドライバーと対人・対物の最低補償額をカバーする保険の付与が義務づけられているという。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
中国

Didi Chuxing(滴滴出行)を筆頭とする配車サービスが大きく拡大した中国では、2016年に「インターネット予約旅客運送サービス管理暫行弁法」が施行され、ライドシェアも法制化されたという。

プラットフォーマーは、インターネット予約旅客運送経営許可書を取得した上で、運送契約主体としての責任を負い、運行安全の確保や乗客の合法的権益を保護する義務を負う。

ドライバーは、運転する車両に相応しい免許を持ち、3年以上の運転経験があることや、交通事故や危険運転、飲酒運転などの歴がないこと、また規定された期間において免許が一定点数以上減点を受けていないことなどが求められる。

使用する車両は、累計走行距離60万キロ以下で使用期間8年以下でなければならず、運転記録機能付のGPSや緊急警報装置の設置、地域当局が個別に定めた安全機能を備える必要がある。

プラットフォーマーは、車両が規定の許可を受けており、適切な保険が付保されていることや技術・安全基準を満たしているかを確認する義務を負う。

このほか、プラットフォーマーとドライバー双方には、関連する国家運営サービス基準を遵守する義務があるという。例として、途中で乗客を降車させることや故意に迂回すること、規制に違反して料金請求すること、サービス品質に関する苦情を理由に乗客に報復することなどを禁じている。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■PHV型を導入している国の事例
英国:ロンドン

ロンドンでは、ライドシェア導入以前からPHV型の「ミニキャブ」サービスやタクシーアプリによる配車サービスが普及していたという。当局は2016年、タクシーとのイコールフッティングを目的にPHV規制を強化している。

プラットフォーマーは、ロンドン交通局が発行するPHV事業者ライセンスが必要で、運送契約の主体として乗客・第三者の安全な輸送に責任を持たなければならない。

ドライバーは3年以上の運転経験がある21歳以上の普通免許所有者で、安全運転や交通関連法規に関する理解度試験や、運転技能を見る実技試験に合格する必要がある。その上で、ロンドン交通局が発行するPHVライセンスを取得する。申請時に、犯罪歴や健康状態などがチェックされる。また、ライセンスは3年ごとに更新しなければならない。

保険関連では、個人事業主となるドライバーは一定以上の内容がカバーされる業務用保険に加入しなければならず、プラットフォーマーはそれを確認する義務を負う。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
シンガポール

タクシー不足が慢性化しているシンガポールでは、ライドシェア事業者の進出に対し、乗客の安全確保やタクシー事業者との平等確保を目的に、2014年から19年にかけてライドシェアに一定の規制を課した。その一方、タクシー業界に対し規制緩和を伴う法律改正を行なったという。

プラットフォーマーは、800台以上の車両を抱える際には当局が発行する配車事業者ライセンスを取得しなければならない。

ドライバーは、普通免許取得後1年以上が経過した30歳以上で、運転技術やルート選択に関する特別講習の受講や試験に合格する必要がある。危険運転を含む違反行為は点数制で記録され、一定点数を超えると業務用のライセンスが停止される。また、ライセンス取得時に犯罪歴の確認が行われ、過去に特定の犯罪を起こした人は取得不可となる。

プラットフォーマーには一定の情報記録・保管義務が課されるほか、ドライバーは対人・対物補償を含む適切な保険に加入しなければならない。

出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
出典:内閣府公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
■ライドシェアが禁止されている国
TNC導入先進国は意外と少ない?

ライドシェア禁止とされる国・地域は、日本のほか韓国、台湾、香港、イスラエル、EU諸国の大半などがよく挙げられているが、これはTNC型のドライバー本位の自由なライドシェアを対象としたもので、PHV型のライドシェアは除外されているものと思われる。

TNC型を導入する先進国は思いのほか少ない印象だ。一方で、PHV型を認める国は意外と多い。

日本におけるライドシェアの現状

日本では、マイカーを有償運送に用いることは道路運送法第78条により一部例外を除いて禁止されている。例外は、緊急を要する災害時や公共の福祉目的で市町村や特定非営利活動法人などが国土交通大臣の許可のもとサービスを提供する場合が相当する。

つまり、平時においては一般ドライバーがマイカーを用いて営利目的で有償運送を行うことは厳格に禁止されているのだ。

個人タクシーの要件についても、二種運転免許の保持をはじめ、法人タクシーでの10年以上の運転歴や申請日以前10年間無事故無違反であることが課せられるなど厳格に定められており、PHV型に適するような緩和要件もない。

国土交通大臣の許可を得ずマイカーで有償運送を行うことは、いわゆる「白タク」とみなされ、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処される。

自家用有償旅客運送を制度化

一方、公共交通空白地域や障がい者などの福祉輸送を行う目的など地域の移動ニーズに適切に対応するため、自家用有償旅客運送制度が設けられている。地域における関係者の協議を経て、合意のもと自家用車を用いた有償運送を行う仕組みだ。

公共交通の不足解消や福祉といった目的と地域の合意形成が必須とされるため、この場合においても個人が勝手にマイカーを用いて有償運送を行うことはできない。
地域における関係者協議を経て、管轄運輸支局などに申請し登録を行う。登録には、主に以下を定める必要がある。

  • ①運行形態(路線や区域)
  • ②旅客の範囲
  • ③使用する自動車
  • ④運行管理・整備管理の体制
  • ⑤運転者の資格要件
  • ⑥旅客から収受する対価

ドライバーは、2種運転免許保有者、または1種運転免許保有者で自家用有償旅客運送の種類に応じた大臣認定講習を受講した者に限られる。

対価については、旅客運送に要する燃料費や人件費などの実費の範囲内であると認められる範囲内で設定することができる。

【参考】家用有償旅客運送制度については「「日本はライドシェア禁止」は嘘だった!」も参照。

■【まとめ】日本が導入する場合はPHV型?

先進国においては、自由にマイカーを使用してサービスを提供するTNC型は思いのほか導入されていないことが分かった。その一方、国に登録するPHV型の導入を図るケースは徐々に広がっている印象だ。

仮に日本で導入される場合を推測すると、TNC型は不可で、PHV型に落ち着く可能性が高そうだ。その上で、運行エリアや時間帯などの個別要件が上乗せされるのではないだろうか。

なお、ライドシェア推進論者はTNC型に加えPHVをライドシェアに含んで論じることが多い。一方、ライドシェア反対論者はPHVを除外して論じることが多い。それ故情報が錯綜しているのだ。政府答弁もあいまいな印象が強い。

TNC、PHV以外にも、同一目的地に向け純粋な相乗りを行うカープール型なども存在する。公的機関は、まずライドシェアの定義・対象を明確にした上で正確な情報を発表し、公正な議論を進めてもらいたい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】ライドシェアについては「ライドシェアとは?解禁時期は?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)









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