国交省が国際ライドシェア報告書を公表 ウーバーなどの普及状況も調査 解禁議論進むか

「非営利型」「営利型」「相乗りサービス」に分類



国土交通政策研究所は2018年7月2日までに、ライドシェアビジネスの国際動向をまとめた報告書を公表した。アジア11カ国・地域や欧米など各国の状況、日本の課題などが全116ページにわたって掲載されている。


相次ぐ新規参入と規制の間で揺れ動きつつも拡大を続けるライドシェア事業。日本では例外を除き原則禁止されている状況だが、今後どう変わっていくのか。このレポートを参考にすることで、将来の動向が見えてきそうだ。

■調査で定義したライドシェアの3大分類とは?

報告書では、ドライバーがアプリなどを用いた仲介により他人を無償またはガソリン代などコストの範囲で自分の車に同乗させることを「非営利型ライドシェア」、コスト以上の有償で運送することを「営利型ライドシェア」、一つの運送サービスを複数のグループで共有することを「相乗りサービス」と定義している。

アジア11カ国・地域、米国、イギリス、フランスを対象に、インターネット情報や統計データ、各種法令、論文などの文献調査に現地調査を加え、各国の交通事情や仲介ビジネスの動向と影響、法規制、社会的課題、仲介ビジネスによる社会経済的効果について調査している。

■アジア(日本含まず):営利型禁止は「香港」「タイ」「韓国」「台湾」「ミャンマー」

11カ国・地域すべてで営利型ライドシェアの仲介事業者が何らかの形で事業を展開しているが、営利型ライドシェアを一定の規制の下で制度化している国はインドネシア、中国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、シンガポールの6カ国で、営利型ライドシェアを認めていない国・地域は香港、タイ、韓国、台湾、ミャンマーとなっている。


シンガポールは、社会イノベーションに対して寛容であるためライドシェア参入のハードルは低く、米ライドシェア大手のUber(ウーバー)が2013年に同社初のアジア拠点となる営業を開始したほか、東南アジア大手のGrab(グラブ)も8カ月遅れで参入している。

営利型ライドシェアはハイヤー事業と同等に位置付けられており、事業者登録やハイヤー用運転免許の取得などが必要。タクシー事業者とライドシェア事業者の提携も進んでいる。

一方、インドネシアやベトナムなどでは、ライドシェア事業者の参入により利益が減少したなどとしてタクシー業界が抗議活動を展開。既存業界との区別を明確にするため、インドネシアや中国、フィリピンでは営利型ライドシェアを新たな交通サービス事業者に位置づけて規制をかけている。

台湾、韓国、香港、タイは営利型ライドシェアを容認しない方針で、違法営業の摘発を強化している。


■欧州:ハイヤー資格を前提とした「ハイヤー制度」としてのライドシェア

ヨーロッパでは一般ドライバーによるライドシェアを禁止し、営利型ライドシェアをハイヤー資格を有するドライバーを前提とした既存のハイヤー制度に位置づける国が多い。欧州司法裁判所は2017年12月、ウーバーの仲介サービスを運輸サービスとして各国で規制すべきとの判断を下しており、イギリスのロンドン交通局も2017年9月に、ウーバーの事業者免許の更新をしない判断を出した(ウーバーは控訴中)。フランスではBlaBlaCarが長距離に特化した非営利型ライドシェアサービスを展開している。

■米国:ライドシェア発祥の地、自動車依存度が高く瞬く間に普及

ライドシェアが誕生した米国は、自動車への依存率が高く、同方向への複数の通勤者らが自動車を相乗りするカープールが浸透していたこともあり、2009年に創業したウーバーやLyft(リフト)などは瞬く間に普及した。

米国における規制は、連邦政府ではなく州や市など地方政府単位で行われている。タクシーとハイヤーは法的に明確に区別されており、ハイヤーは事前予約による運営に限定されている。営利型ライドシェアの仲介事業者は、タクシーやハイヤーとは異なるTransportation Network Companies(TNC)として法的に位置づけられることが多い。2017年6月時点で、50州のうち48州とワシントンD.C.でTNCが制度化されている。

ここ数年で貨物運搬シェアも注目を浴びるようになっており、EC大手の米アマゾンは宅配サービス強化のため一般人が配達を請け負うAmazon Flexを展開し、Googleも宅配事業に参入。ウーバーやリフトも貨物運送サービスを開始した。

このほか、サンフランシスコに本社をおくGrabr社が2017年7月に270万ドル(約2億9000万円)の資金調達に成功している。同社は旅行者のスーツケースの空きスペースに注目し、品物が欲しい買い物客と買い物を代行して配達する旅行者を仲介するサービスを提供している。

■日本:対価が実費の範囲内なら「非営利型」で適法という見解

日本における旅客自動車運送事業は明確に道路運送法で定義されており、事業経営には国土交通大臣の許可が必要で、ドライバーにも一定の要件が規定されている。対価が実費の範囲内であれば非営利型とみなされ、長距離ライドシェアマッチングサービスを行う notteco(ノッテコ)社は道路運送法の対象とならない旨関係省庁から確認を得ている。

また、過疎地域での輸送や福祉輸送などの必要がある場合は、例外として市町村やNPOなどが自家用車を使用して有償で運送できる自家用有償旅客運送登録制度が存在する。この場合も受け取れる対価は実費の範囲内とされている。2016年5月、京都府京丹後市においてNPO法人がウーバーのアプリを用いて自家用車で地元住民を運ぶ「ささえあい交通」を開始している。2016年8月には北海道中頓別町においても「なかとんべつライドシェア(相乗り)事業実証実験」が行われている。

2016年5月に国家戦略特別区域法の一部が改正され、バス・タクシーなどが不足している地域における観光客などの移動のため、認定区域において自家用車による有償運送の活用を拡大することが可能となった。兵庫県養父市が認定を受け、2018年5月から一部地域で自家用車を使った有料のライドシェアサービスが始まっている。

【参考】鹿児島件の与論島でのライドシェアの取り組みについては「タクシー8台の与論島でライドシェア実験 モビリティベンチャーが協力|自動運転ラボ 」も参照。また東京都内でタクシーの相乗りマッチングアプリを手掛ける企業も存在する。詳しくは「nearMe.でタクシー相乗りマッチング 元楽天の起業家が新アプリ ライドシェアがNGなら…|自動運転ラボ」も参照。

■シェアリングエコノミーの代表格としての世界が注目するライドシェア

営利型ライドシェアについては、本調査の対象国・地域では一般ドライバーがサービスを提供しているのは米国のカリフォルニア州などでのウーバーXやリフトのみで、それ以外の国・地域では職業運転免許や営業許可などの一定の資格を持つドライバーがサービス提供する形をとっている。

非営利型ライドシェアは通勤など近距離を対象とした米Carmaや旅行など長距離を目的とした仏BlaBlaCarなどが代表に挙げられる。

アジアでは、公共交通が未整備であり、大規模な公共投資を要せず市民の移動手段を確保できるとして営利型ライドシェアを制度化した国も存在した。

法制度に関しては、欧米の多くの国がタクシーとハイヤーを異なるサービスとして明確に区別しており、ライドシェアはハイヤーに含めるかTNCとして別途制度化している。一方、アジアではタクシーとハイヤーが区別されていない場合が多く、ライドシェア導入当初は混乱がうかがえるものの新たなサービスとして位置付けられ、車両やドライバーへ一定の規制をかけている場合が多い。

国土交通政策研究所の報告書で明らかになった世界のライドシェアの「今」。シェアリングエコノミーの代表格の一つとも言えるこの枠組みに注目が集まる中、世界の動向に今後も注目していきたい。


関連記事