【2023年11月の自動運転ラボ10大ニュース】米Cruiseが無人タクシー中止 その余波は?

アイサンが自動運転バス広域展開へ



国内では、自動運転の社会実装に向けた取り組みが再加速し始めた。先行する米中に追い付くべく、国が取り組み促進に向けた動きを強めている印象だ。民間も、アイサンテクノロジーなどが自動運転バスの広域展開に向けた取り組みに本格着手している。


海外では、Waymo×Uberの取り組みをはじめAurora Innovationにも動きがあった一方、Cruiseが無人走行を中止する事態も発生している。

2023年11月の10大ニュースを通じて、自動運転業界の最新動向に触れていこう。

■ついにUberが自動運転タクシー展開!Google製車両を採用、業界の大本命に(2023年11月2日付)

配車サービス大手のUberが、アリゾナ州フェニックスでWaymoの自動運転タクシーの導入を開始した。WaymoのODD(運行設計領域)内でルート設定した場合、自動運転車がマッチングされる可能性があるという。

意図的に自動運転車を選択できる仕組みではなく、一般のギグワーカー同様に自動運転車が配備されているイメージだ。事前設定で自動運転車とマッチングされる可能性を高めることができるそうだが、基本的にはめぐり合わせだ。


導入後、問題なくスムーズに稼働すればカリフォルニア州などへのサービス拡大も予想される。自動運転タクシーとライドシェアの垣根が徐々になくなり始めたようだ。

自動運転レベル4、日本が国を挙げて「出遅れ解消」へ新組織立ち上げ(2023年11月3日付)

事業者や関係省庁間での情報共有促進に向け、自動運転開発・実装プロジェクト「RoAD to the L4」の下に「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」が設立された。

事業者からの事業概要やスケジュール説明、各関係省庁における課題の論点整理、事業の進捗状況や各関係省庁の許認可状況の共有などを図っていく計画だ。

直近の議題として、日本での自動運転タクシーサービス導入を目指すホンダ勢の取り組みをピックアップし、議論を進めているようだ。

ホンダ勢は2026年度初頭に東京都心部で数十台からサービスを開始し、最終的には500台規模のフリート運用を見込んでいる。お台場エリアから港区や中央区、千代田区へと徐々に拡大していく計画だ。

Cruiseの自動運転タクシーの問題が影響するのも避けられないものと思うが、技術の高度化とともに日本仕様への転換をしっかりと図り、早期実装に向け官民総出で取り組んでもらいたいところだ。

■京セラが車道実証!自律走行の「配送ロボ軍団」編成に挑戦(2023年11月3日付)

京セラコミュニケーションシステムが、車道を走行する自動配送ロボットの複数台同時遠隔監視・操作の実証を開始した。ミニカー規格の複数台のロボットを1人のオペレーターが遠隔監視・操作する国内初の公道実証だ。

自動運転タクシーや自動配送ロボットなどは、将来的に大規模フリート化して事業効率を高めていくことが求められる。1人のオペレーターが管理できる台数を増やしていくことが重要性を増していくのだ。

国内でミニカー規格の車道走行ロボットを取り扱う企業は非常に少なく、今のところほぼ京セラコミュニケーションシステムの独壇場だ。歩道走行タイプとは異なる需要を満たしつつ、さらには配送以外の用途への活用が見込まれる新たなソリューションとして注目だ。

■三菱重工、海外での「全自動運転列車」ビジネスが絶好調(2023年11月4日付)

三菱重工が米オーランド国際空港を運営するオーランド空港公団と、既存2路線のリプレイス工事とAPM(全自動無人運転車両システム)の運行・保守を受注した。同空港では2014年にもAPM新設工事などを受けており、信頼関係が高まっているようだ。

同社のAPMはこれまでに、米アトランタ国際空港やマイアミ国際空港、ワシントン・ダレス国際空港、シンガポールのチャンギ国際空港や韓国の仁川国際空港、香港国際空港、ドバイ国際空港などでも採用されている。

大量輸送が必要な空港周辺では、既存路線の新規格化などを進めやすい。APMをはじめとした新交通システムの世界的需要はまだまだ続きそうだ。

■目撃談相次ぐ!自動運転バス、Xboxのコントローラーで手動操作!?(2023年11月6日付)

自動運転車の手動運転装置として、Xboxのコントローラーが使われているようだ。BOLDLYが国内導入を進める自動運転バス「ARMA」が好例だ。

自動運転車は、いきなり遠隔監視のみの無人走行を実現することはできない。手動運転を交えた実証を通じて完成度を高め、安全性を確保してから無人に移行する。この実証期には、セーフティドライバーが運転席に座ってハンドルやペダルによる手動運転に備えるが、ARMAのように一般的な手動運転装置を備えないモデルもある。

こうしたモデルは車両制御が完全にコンピューター化されているため、その操作手法もアナログ的な要素に縛られることなく一からオリジナルを構築することができる。パソコンやテレビゲーム同様、マウスやキーボード、ゲームコントローラーなどで操作することもできるのだ。

ゲームコントローラーは直感的に操作可能で利便性が高く、採用例は少なくないようだ。従来のラジコンのコントローラーのようなものを採用する例もあるだろう。

とにかく、完全無人に向けた過程においては、自動運転専用モデルも遠隔操作含むさまざまな手動運転手法を必要とする。意外なところにゲームコントローラーの需要が眠っていたようだ。

■あの人材大手も!?自動運転「意外な参入企業」10社(2023年11月7日付)

異業種から自動運転分野に参入している企業10社をピックアップした記事だ。人材派遣グループや電力グループの関連企業、不動産、塗料、印刷、製紙……など、自動運転との関わりを想像しにくい企業も多い。一方、ガラスや照明など、従来の自動車産業と関わりを持ちつつも、自動運転向けに技術をブラッシュアップしている企業も多い。

主に開発面での参入を目論む企業がピックアップされているが、サービス面を含めればその裾野はまだまだ広がる。自動運転技術そのものがさまざまなモビリティなどに応用可能であり、アイディア次第で新規ビジネス創出を図ることができる。

技術の確立とともに応用が進み、新たなビジネス・サービスが生み出されていく時代はそう遠くない。ビジネスチャンスの宝庫としても自動運転の注目度は高いのだ。

■ゴミ収集車を自動運転化!石川県加賀市で来年実証スタート(2023年11月8日付)

デジタルカレッジKAGAが2024年にも自動運転ゴミ収集の実証に着手するという。地域課題を解決するプロジェクト「KAGA ecomobi(エコモビ)」として始動し、まずは協力会社の募集や自治体への提案を進めていく構えだ。

自動運転車が巡回してゴミを回収する仕組みと、高齢者の見守り機能を備えたインテリジェントゴミ箱を使用し、高齢社会における課題を解決していく取り組みだ。

エコモビで使用する車両は軽自動車規格の小型モデルで、視覚障がい者にも見やすい視認性に配慮した配色や降雪地帯・悪路を想定した足回り、サイネージの搭載が可能なボディなどを備える。インテリジェントゴミ箱は一定規格のサイズに統一することで自動搬送を容易にする。

計画では、2024年に加賀市内の設備を利用した実証を開始し、2028年ごろの限定的運用開始を目標に据えている。

こうしたゴミ収集の自動運転化は和歌山県橋本市も取り組んでいるほか、三菱ふそうが遠隔操作可能な塵芥車のコンセプトモデル、三菱電機がダストボックスとして活用可能な無人搬送ロボットをそれぞれ発表している。

人が住む地域では必須となるゴミ処理だが、その作業には多大な労力を要する。こうした分野への自動運転技術導入による恩恵は非常に大きく、今後開発が加速する可能性も高そうだ。

■米国初!トヨタ提携のAurora、自動運転トラック用「商用ルート」開設(2023年11月9日付)

米Aurora Innovationが、自動運転トラックによる輸送サービス「Aurora Horizon」の商用ルートを開設したようだ。商用化は2024年を予定しており、順次物流ネットワークを拡大していく方針だ。

商用ルートの第一弾はテキサス州のダラス‐ヒューストン間で、それぞれに商業用ターミナル「Aurora terminal」を設置し、自動運転トラックを走行する。幹線を中心に自動運転可能な物流網を徐々に拡大し、北米全域を網羅していく計画だ。

トラック関係ではボルボ トラックやPACCARなどとパートナーシップを結んでいるほか、自動運転開発に向けてはトヨタ勢とも手を組んでいる。トヨタ・シエナに自動運転システム「Aurora Driver」を統合し、移動サービス用途に展開していく予定で、こちらの進捗にも注目したいところだ。

■ついに「国産自動運転バス」が全国展開!アイサン、ティアフォー製を各地で(2023年11月11日付)

アイサンテクノロジー×ティアフォーによる国産自動運転バス実用化に向けた取り組みが本格化するようだ。アイサンテクノロジーが自動運転小型 EV バス「ティアフォーMinibus」を導入し、全国各地の自動運転プロジェクトへの投入を開始する。

ティアフォーMinibusは定員25人で航続距離150キロの小型EVバスに自動運転機能を備えたモビリティで、手動運転時は時速70キロ、自動運転時は時速35キロの走行が可能という。

両社は出資関係にあり、これまで数多くの自動運転実証を共にしている。また、アイサンテクノロジーは三菱商事とともに自動運転ワンストップサービスを提供する合弁A-Driveを設立するなど、同分野の事業を加速している。

2025年度に50カ所程度で自動運転サービスを実現する国の目標実現に向け心強い存在となりそうだ。

■自動運転タクシー、「Google一強時代」に逆戻り GMの全台リコールで(2023年11月14日付)

自動運転タクシーで人身事故を起こし、関係当局からカリフォルニア州での運行停止措置が下されたGM系Cruiseが、自動運転ソフトウェアのリコールを発表した。判明しているだけで3度目のリコールだ。

同社は11月22日現在、カリフォルニア州以外を含む全ての無人車両の走行を中止しているほか、カイル・ヴォグトCEO(最高経営責任者)が辞任を発表した。今後、同社の体制立て直しに時間を要することも想定される。

米国ではCruiseとWaymoが無人の自動運転タクシー事業で覇権を争っていたが、立て直しに時間がかかればWaymoの独壇場になるかもしれない。Motionalなどの第3勢力が追いつく可能性もある。

また、自動運転に対する社会受容性を左右することになれば、その影響はWaymoなどの他社に及び、慎重な開発を余儀なくされることも考えられる。

今回の事故・措置の影響がどこまで波及するのか、予断を許さないところだ。

■【まとめ】自動運転の広域展開に期待

Cruiseの件が業界にどのような影響を及ぼすかが気になるところだ。国内で自動運転タクシー実装を見込むホンダへの影響は避けられそうもない。

一方、自動運転バス実装に向けた取り組みを本格化し始めたアイサンテクノロジーの動向も注目に値する。広域展開を視野に入れた事業展開はこれまでBOLDLYが中心だったが、新たなプレイヤーが国産技術での台頭を目指すことになる。

1年の締めくくりとなる12月はどのようなニュースが飛び出すのか。引き続き注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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