NTTと東大発ベンチャー、除雪車の自動運転に挑戦 まず遠隔操作実証に成功

約400キロ離れた宮城〜千葉間で遠隔操作



出典:NTTコミュニケーションズ・プレスリリース

約400キロ離れた場所から除雪車を遠隔操作する実証実験が、2023年11月26日までに実施された。この実証を行ったのは、NTTコミュニケーションズと、東京大学発スタートアップのARAVだ。

両社は、建機遠隔操作システムに加えて、高精度な位置情報把握システムや低遅延での映像伝送などを組み合わせた実証を行うことにより、将来的には除雪車の自動運転実現を目指す。


■宮城県仙台市と千葉県柏市を遠隔でつなぐ

少子高齢化などにより、豪雪地域における除雪作業員の担い手不足や経験のある作業員の高齢化が深刻な問題になっている。これを解決するため、NTTコミュニケーションズは2022年度に自治体と連携し、5G通信で伝送されるカメラ映像を確認しながら除雪車を遠隔操作する実証実験を行った。その結果、将来の自動運転を見据えた場合には操作の安全性向上と、より詳細な操作データの収集が必要という課題が出てきた。

そこで、NTTコミュニケーションズの各種ソリューションとARAVの建機遠隔操作システムを組み合わせ、除雪車の自動運転実現に向けた技術検証を行うに至ったという。

実証では、コックピットを宮城県仙台市のNTTドコモ東北ビル13階の5Gオープンラボに配置した。除雪車は、千葉県柏市の柏の葉スマートシティ「イノベーションキャンパス地区」内のKOIL MOBILITY FIELDに配置した。この2カ所は、直線距離にして約400キロ離れている。そして、宮城のコックピットから、千葉の除雪車のハンドルやアクセルなどを遠隔操作した。

出典:NTTコミュニケーションズ・プレスリリース
■今回の実証で得られた3つの成果

今回の実証では、3つの成果を得ることができたという。


1つ目は、導入障壁の低減および低遅延な映像伝送を実現したことだ。映像伝送にはソリトンシステムズが開発した映像伝送システムの最新モデル「Zao SDK」を使用した。モバイル回線に最適化した独自の技術を車両搭載用に小型化した機材へ組み込み、無線環境においても低遅延での映像伝送を実現した。光回線を引くことができない場所にも導入できるため、場所の選択肢の幅が広がる。その結果、導入障壁を低減するだけでなく、低遅延により安全性の向上が期待できる。

2つ目は安心安全な通信環境を実現したことで、インターネットを経由することなく通信処理を行うことができるサービス「docomo MEC」を活用することで、外部からの乗っ取り被害の防止と高精彩映像のリアルタイムな伝送が可能になったという。

最後は、高精度な位置情報測位と除雪作業のデータ化を実現したということだ。RTK測位技術を活用した高精度位置情報測位サービス「Mobile GNSS」で得たセンチメートル精度の正確な位置情報を使用し、ゲートウェイサービス「IoT Connect Gateway」やIoTプラットフォーム「Things Cloud」を用いて除雪車の位置データや操作データの蓄積及び可視化を実施した。それにより操作のフィードバックによる操作性向上だけでなく、自動運転の実現に向け必要な機械学習用のデータ収集も行うことができた。

Things Cloud画面イメージ=出典:NTTコミュニケーションズ・プレスリリース
■これまでの除雪自動化関連の取り組み

除雪車の自動運転化については、これまでも国や各企業が取り組んでいる。


2023年2月には、NTTドコモ東北支社とNTTコミュニケーションズは、福島県昭和村で5Gを活用した除雪車両の遠隔運転を成功させた。また同時期に、帆船型ドローンの製造販売などを手掛けるエバーブルーテクノロジーズが、小型除雪ドローンの商品化に先立ち、無人化した除雪機による実証実験を北海道滝川市で行った

NEXCO中日本とNECは、除雪車の梯団走行について自動運転化に向けた技術開発に着手したことを2023年7月に発表している。2024年度内の自律走行技術および梯団走行時における車間距離の保持技術の完成を目指しているという。

政府としての取り組みもある。国土交通省北陸地方整備局は、2021年12月から新潟県で除雪作業を自動化した除雪トラックを試行的に導入している。国交省網走開発建設部では、ロータリ除雪車の投雪作業自動化について、2022年度から特定の国道に実働配備しているようだ。

■除雪の自動化が豪雪地帯を救う一手となるか

NTTコミュニケーションズとARAVは、除雪作業のユースケースにおける必要な技術的要素や学習データなどをより向上させ、自動運転実現に向けて取り組むことで、除雪分野の課題解決に貢献していくとしている。

豪雪地帯においての除雪作業については、人材不足のほか作業中の事故などの問題もあり、改善が必要に迫られている状況にある。自動化がもっとも早急に必要とされている分野と言えるかもしれない。今後の技術開発と実用化に引き続き注目していきたい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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