あの人材大手も!?自動運転「意外な参入企業」10社

電力会社、繊維、さらには印刷会社も



実用化に向け黎明期を迎えた自動運転技術。社会実装・サービス化を通じて技術向上を加速するフェーズに突入し、開発競争もいっそう激化している。


自動運転分野が本格的に花を咲かせるのはもう少し先になりそうだが、新産業としての注目度は高く、異業種参入も相次いでいるようだ。

その中には、意外な企業も多く名を連ねている。各社は異業種からどのような形で自動運転分野に参入しているのか。10社をピックアップし、その取り組みを紹介する。

■異業種参入企業
パーソルグループ:ベンチ型自動運転モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE」を開発

人材派遣業を主力とするパーソルグループも自動運転分野に参入した。同グループ内でテクノロジーソリューション事業を手がけるパーソルクロステクノロジーがベンチ型自動運転モビリティ「PARTNER MOBILITY ONE」を開発し、「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」に出展している。

車両の設計開発を同社、車両開発の企画・統括を久留米工業大学、車体デザインをLe DESIGNがそれぞれ担い、2~3人が横並びで乗車する新たなモビリティスタイルを提案した。大型のテーマパークや公園、駅、医療機関などでの利用を想定して開発したもので、「同じ景色を同じ目線で楽しむ周遊の時間」をコンセプトに据えているようだ。


あらかじめルートを設定することで目的地まで自律走行することができ、アプリで呼び出すことも可能としている。XR(クロスリアリティ)やプロジェクションマッピングなどと連動した観光ガイドなども視野に入れているようだ。

【参考】パーソルクロステクノロジーの取り組みについては「人材大手パーソル、自動運転ビジネスに参入 「ベンチ型」を子会社が開発」も参照。

関西電力グループ:歩行空間共存型の低速モビリティ「iino」開発

関西電力では、ボトムアップ型のイノベーション・プロジェクトとして移動空間サービス事業化を目指す取り組みが立ち上がり、自動運転を前提とした低速・短距離専用の電動モビリティ「iino」の開発が進められている。2020年には同事業を担うゲキダンイイノ合同会社を設立し、各地で実証を進めている。

Iinoは人間の歩行速度の時速5キロで移動する歩行空間共存型のモビリティで、歩行者にストレスを与えることなく同じ空間をゆったりと移動する。

これまでに、神戸ウォーターフロントや神戸三宮の地下通路、東京都港区の商業施設・ウォーターズ竹芝、青森県十和田市の十和田湖観光交流センター、横浜都心臨海部などで実証が行われている。

神戸ウォーターフロントでは、搭載したせなーで人流データを収集・分析し、時間帯によって変化する人の流れに合わせて最適な台数・ルートを走行したという。

モデル「iino type-S712」は3人乗りで「遠隔操作型小型車」に分類され、自動運転配送ロボットなどと同様に歩道での走行を可能にしている。観光地や公園、イベントをはじめ、さまざまなシーンで新たな移動価値の創出に期待が寄せられるところだ。

【参考】ゲキダンイイノの取り組みについては「かつてない!?「立ち乗り型」自動運転モビリティに注目」も参照。

日本ペイント:自動運転用塗料「ターゲットラインペイント」を開発

塗料メーカー大手の日本ペイントホールディングスも、新たな視点で自動運転分野への参入を果たしている。グループ企業の日本ペイント・インダストリアルコーティングスが2022年4月、自動運転用塗料「ターゲットラインペイント」を発表した。

ターゲットラインペイントはアスファルトと同化した色のため肉眼ではほぼ見えないが、車載センサーのLiDARでは認識可能なため、人間のドライバーに影響を与えることなく自動運転車のみが把握可能な道路標示を道路・交通インフラに施すことができる。

自動運転車の走行ラインを示す仮想の車線リンクや自動運転車向けの指示をインフラに施すことができ、長崎県対馬市の実証をはじめ、神奈川中央交通と慶應義塾大学SFC研究所の取り組み、滋賀県大津市での実証、大阪市高速電気軌道による大阪・関西万博に向けた実証、西新宿エリアにおける東京都の事業などさまざまな場面に導入され、検証が進められている。

【参考】日本ペイントの取り組みについては「「人間には見えない塗料」で自動運転に参入!日本ペイントが発表」も参照。

小糸製作所:センサー搭載ランプの開発などに注力

自動車向けの照明部品のリーディングカンパニーである小糸製作所は、自動運転で活躍するセンサー搭載ランプの開発を進めている。

同社のセンサーライティングモジュールは、車両の四隅に設置されるランプにセンサーを統合したもので、最小限のセンサーで車両の周囲360度を監視するほか、歩行者や他の車両とのコミュニケーションも可能にしている。

2019年にADAS(先進運転支援システム)開発を手掛けるイスラエルのBrightWay Vision(BWV)の株式を取得したほか、ドイツのLiDAR開発企業Blickfeldとヘッドランプ内蔵型の小型LiDAR開発に向けた検討を開始したことも発表している。

2020年には米Cepton Technologiesの株式も取得し、LiDAR関連開発を加速している。

すでに「ひたちBRT中型自動運転バス」の実証や「しずおか自動運転 ShowCASE プロジェクト」などに参画しており、自動運転分野での飛躍に期待が寄せられるところだ。

【参考】小糸製作所の取り組みについては「小糸製作所、米Ceptonに追加出資!自動運転向けLiDAR、2023年量産化が目標」も参照。

日本電気硝子:センサーのカバーガラスやレンズアンテナで自動運転に寄与

ガラス業界も自動運転ビジネスを視野に収めている。日本電気硝子はセンサー用のカバーガラスの開発に磨きをかけているようだ。

同社は、イメージセンサー用のカバーガラスの開発で30年以上の実績を誇り、センサーを保護するだけでなく光をありのままに伝える高品位ガラスに関する技術を蓄積している。ミリ波レーダー用のガラスや、近年ではLiDAR向けのガラスやナイトビジョンシステムに搭載される赤外線透過レンズの開発なども進めているようだ。

2023年10月には、同社のレンズアンテナがバスの自動運転・隊列走行の実証に採用されたと発表している。車車間通信が重要となる隊列走行において、特殊ガラスを用いたレンズアンテナによって車両旋回時の通信の途切れなどの課題が解決され、より安定した情報伝達が可能になったという。

【参考】日本電気硝子の取り組みについては「自動運転バス、「ガラスのアンテナ」で通信環境を最強化!日本電気硝子が発表」も参照。

三井不動産:新たな都市空間やライフスタイル創造に向け自動運転に着目

千葉県柏市でスマートシティ開発やITS活用に力を入れる三井不動産は、東京大学との連携や自動運転開発企業の先進モビリティへの出資など、さまざまな面で自動運転開発・実用化に向けた取り組みに携わっている。

柏の葉キャンパスエリアでは、先進モビリティの自動運転システムを搭載した自動運転バスの運行実証や、屋外ロボット開発検証拠点「KOIL MOBILITY FIELD」の設営など社会実装を見据えたさまざまな取り組みが行われている。

また、愛知県名古屋市では、NTTコミュニケーションズとともにロボットを活用した無人パトロールおよびフードデリバリーの実証も行っている。

ディベロッパーとして、新たな都市空間やライフスタイルを創造する一環として、自動運転実用化にも注力しているようだ。

【参考】三井不動産の取り組みについては「自動運転も試せる!三井不動産、首都圏に検証フィールドを開設」も参照。

大日本印刷:印刷技術に留まらないソリューション展開で躍進

印刷業界では、大日本印刷の取り組みが先駆的だ。同社は自動運転モビリティ運行管理システムを開発し、三重県三重郡菰野町のリゾート施設における自動運転カートを活用した送迎サービスで活用されている。

また、半導体用フォトマスク(回路原版)の製造で培ってきた高精細パターン形成技術を生かしたナノインプリント関連の研究・開発にも注力している。ナノメートル単位の超微細な凹凸パターンを樹脂などに転写する技術で、自動運転分野への応用に向け関連技術や製品·サービスの開発に力を入れているという。

2022年11月には、大阪府堺市が実施した「自動運転などの最新技術を活用した実証実験(SMI都心ラインにかかる実証実験)」に参画し、NFCタグや「DNP MAPベース地域振興情報発信プラットフォーム」を活用したデジタルサイネージで各種情報を容易に取得できるソリューションを提供している。

MaaS関連の取り組みで、交通結節点において交通や周遊促進のシステムと連携した情報発信を行う拠点「DNPモビリティポート」の開発なども進めている。モビリティ分野における存在感をどんどん高めていきそうだ。

【参考】関連記事としては「「大日本印刷」と「モビリティ」の意外な関係」も参照。

廣瀬製紙:ミリ波吸収体を開発

高知県に本社を構える廣瀬製紙は、合成繊維の開発技術などを生かし、フレキシブル形状のミリ波吸収体を開発した。全入射角ミリ波吸収性能と曲面への対応性を兼ね備えており、ミリ波レーダーに活用することで、ミリ波吸収体が不要な電波を吸収し、精度向上などに資するという。

東レ:樹脂や繊維の技術をブラッシュアップ

繊維・樹脂をはじめとする化学製品の製造を手掛ける東レも、自動運転をはじめとしたCASEに対応すべくソリューションのブラッシュアップを図っている。

高周波ミリ波帯における誘電損失を低減する高性能PBT樹脂の開発をはじめ、世界最高レベルの薄膜・軽量ミリ波吸収フィルム、炭素繊維複合材料の放熱性を金属同等まで高める高熱伝導化技術、ガラス並みの透明性と太陽からの赤外線に対する世界最高レベルの遮熱性を備えた次世代モビリティ向け高遮熱フィルム、曲面ディスプレイに適用可能なメタルメッシュ型感光性導電材料など、さまざまなソリューションを開発している。

【参考】東レの取り組みについては「自動運転時代に流行る曲面ディスプレイに適用可!東レ、導電材料で発表」も参照。

ダイキン:フッ素技術で防汚や熱マネジメントに貢献

化学メーカーのダイキンも自動運転分野に意欲を示す一社だ。フッ素化学技術を生かし、外付けセンサーの防汚などに生かせないか研究を進めている。

外付けセンサーが重要となる自動運転では、表面が汚れにくく、また汚れても自動できれいにする技術が必須となる。こうした点に注目した研究開発が各所で進められているようだ。

同社はまた、放熱・遮熱・断熱といった熱マネジメント材料にも力を入れているという。こちらも、電子制御主体でコンピュータ化・電化が進む自動運転車に必須の技術となりそうだ。

■【まとめ】自動運転分野のビジネスはまだまだ広がる

従来の自動車分野に関わっていた企業も多いが、持ち前の技術を自動運転向けに進化させ、次世代モビリティの世界においてもシェアを獲得していく構えだ。

一方、パーソルや関西電力のように、イノベーション創出プログラムやテクノロジー開発から派生する形で自動運転開発に着手する例もみられる。

発想次第でまだまだ勝機が広がる自動運転分野。さらなる新規参入や斬新なアイデアの登場に引き続き注目したい。

【参考】関連記事としては「自動運転、主要企業の「子会社」まとめ(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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