改正道路交通法の施行を目前に控えた2023年3月。開発各社の取り組みはすでに勢いを増しているようで、自動配送ロボット開発スタートアップと自動車メーカーの提携などの動きがあった。
海外では、モービルアイがグローバル展開に向け着実に歩みを進める一方、世界経済の停滞の影響で事業継続に暗雲が立ち込める開発企業も出ているようだ。
2023年3月の10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。
記事の目次
- ■普及に弾み!公道走行の自動配送ロボ、東京海上が専門保険提供へ(2023年3月6日付)
- ■日本発の衝突回避システム、国際標準に 自動運転高度化の下地に(2023年3月6日付)
- ■完全自動運転EV、2030年に1万台製造!日本のTURINGが宣言(2023年3月7日付)
- ■自動運転トラック開発の米Embark、会社清算か 従業員70%解雇(2023年3月9日付)
- ■「雪道の自動運転」で日本が世界をリード!実証続々(2023年3月10日付)
- ■Googleの自動運転車、「地球40周」しても負傷者ゼロ!業界をリード(2023年3月11日付)
- ■2022年資金調達、「自動運転」が「EV」上回る!Cruiseが調達額トップ(2023年3月13日付)
- ■スズキ、自動運転配送ロボを共同開発!新興LOMBYとタッグ(2023年3月17日付)
- ■ついに4月「自動運転レベル4」解禁!進化した道交法、要点は?(2023年3月17日付)
- ■米Mobileye、上海に自動運転テスト施設!世界展開を加速(2023年3月21日付)
- ■【まとめ】2023年4月の各社の動向にも要注目
■普及に弾み!公道走行の自動配送ロボ、東京海上が専門保険提供へ(2023年3月6日付)
2023年4月に公道走行が解禁される自動走行ロボット。本格的な社会実装に向け、保険業界も動き出しているようだ。
自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会で東京海上日動火災保険が発表した資料によると、同社は自動配送ロボット向けの専用保険を2023年4月から提供開始するという。
機体の損傷に関する補償や賠償責任・費用損害に関する補償、配送物に関する補償などをパッケージ化しているほか、代替品レンタル費用補償や継搬費用補償などのオプションも用意しているようだ。
主に歩道を走行するロボットは、重大事故を起こしにくいものの歩行者との接触や障害物との接触などの心配は尽きない。また、いたずらや盗難にあう恐れもある。配送物を破損してしまうこともあるだろう。
こうしたさまざまなリスクは地道に1つずつ解消していかなければならないが、社会実装初期においては想定外の事態はつきもので、万が一の際は保険が強い味方となる。
車道を走行する自動運転同様、各社が保険商品をラインアップするものと思われる。保険業界の動向にも要注目だ。
【参考】詳しくは「普及に弾み!公道走行の自動配送ロボ、東京海上が専門保険提供へ」を参照。
■日本発の衝突回避システム、国際標準に 自動運転高度化の下地に(2023年3月6日付)
公益社団法人自動車技術会が提案していた「自動車運転の衝突を回避する制御システム」が、国際標準「ISO 23375」として発行されたようだ。緊急時に自動でハンドルを制御して安全運転を支援する「衝突回避横方向制御システム」で、自動運転やADAS(先進運転支援システム)の高度化に資する重要技術とされている。
同システムは、前方の障害物などに衝突する危機のある場面で、システムが自動的にハンドル操作回避を行うものと、ドライバーのハンドル操作を支援するものの2パターンがある。国際標準では、対象障害物の設定や作動速度の条件、システムの状態通知、回避要件など、衝突回避を行う際の機能要件や性能評価方法について規定している。
一般的に、急な飛び出しなど突発的な事象に対してはブレーキをかけて衝突を回避するが、それでは間に合わないと判断した場合、ハンドル操作で回避するほかない。しかし、ブレーキによる縦制御に比べ、ハンドルによる横制御は対向車両や後方車両などの影響が大きくなるためハードルが高い。
手動運転でもハードルが高い横方向の回避をどのように実現していくか。こうした開発を進める上でも、今回国際標準化された技術が貢献していくことになりそうだ。
【参考】詳しくは「日本発の衝突回避システム、国際標準に 自動運転高度化の下地に」を参照。
■完全自動運転EV、2030年に1万台製造!日本のTURINGが宣言(2023年3月7日付)
2030年に1万台の完全自動運転EV(電気自動車)の生産・販売を目標に掲げるスタートアップのTURING。2月に自社開発したAI(人工知能)自動運転システムとオリジナルエンブレムを搭載した第1号となる「THE FIRST TURING CAR」の納車を済ませ、3月にはAIデザインの「完全自動運転EV」コンセプトカーを発表した。
また、完全自動運転を実現するための「国産LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)」の開発に着手したことを発表するなど、その勢いはとどまるところを知らない。
シードラウンドで10億円の資金調達を行い、2023年中に100台規模の小規模生産工場を完成させる予定だ。自動運転関連では、1万時間の走行データ取得を目指す。
2025年に100台程度のパイロット生産を開始し、2027年に1万台規模のライン工場の製作に着手する。そして2030年に完全自動運転EVの1万台生産を達成し、上場する――という青写真を掲げている。
自動運転については、「AIは指数的に向上し続けており、悲観的に見積もっても2030年に完全自動運転は実現可能」と強気の姿勢を崩さない。
2023年中にはシリーズAの資金調達を実施する予定で、開発の手はますます加速することが予想される。すでに研究・試作車両などの受託開発を担う東京アールアンドデーとパートナーシップを結んでいるが、開発加速に向け、新たなパートナーの登場などにも注目したいところだ。
【参考】詳しくは「完全自動運転EV、2030年に1万台製造!日本のTURINGが宣言」を参照。
■自動運転トラック開発の米Embark、会社清算か 従業員70%解雇(2023年3月9日付)
自動運転トラック開発企業の米Embark Trucksが岐路に立たされているようだ。アレックス・ロドリゲスCEOが全従業員宛のメールで従業員の70%削減や一部オフィスの閉鎖などを告げた。
過去9カ月は同社にとって非常に厳しい環境で、新たな出資者獲得などさまざまな解決策を検討したが、現在の形を維持することは困難としている。
今後、解散に向け事業縮小を図っていくか、あるいは残された従業員と取締役会が緊密に連携し、資産の売却や事業再編、完全閉鎖を含む選択などについて評価していくという。
すでにナスダックに上場済みの同社だが、世界経済の低迷が資金繰りを悪化させたのは間違いない。このまま淘汰されることになるのか、救いの手が現れるのか、起死回生の一手はあるのか……など、今後の動向に注視したい。
【参考】詳しくは「自動運転トラック開発の米Embark、会社清算か 従業員70%解雇」を参照。
■「雪道の自動運転」で日本が世界をリード!実証続々(2023年3月10日付)
自動運転実証で多くの実績を誇るBOLDLYが、雪道における実証にも力を入れている。日本は、北海道や東北、日本海側など積雪地域は思いのほか多く、雪道における自動運転も避けては通れない。こうした領域に力を入れ、世界をリードするような技術やノウハウを蓄積するのも非常に有用だ。
BOLDLYは現在、北海道上士幌町や東川町で実証を行っている。上士幌町は2022年12月から冬期間における定常運行にも着手し、経験を積み重ねている。
雪は、降雪時にセンサーの検知に影響を及ぼすほか、道路や周辺の環境を一変させる。タイヤの摩擦なども変わる。センサーやマッピングなどに依存するだけでは自動運転は成立しにくいのだ。
世界でもこうした積雪環境における自動運転開発に力を入れる企業はあるが、運行管理を主体とするBOLDLYの取り組みは知見そのものを横展開することが可能だ。今後、どういった形で雪道における自動運転を実現していくのか、要注目だ。
【参考】詳しくは「「雪道の自動運転」で日本が世界をリード!実証続々」を参照。
■Googleの自動運転車、「地球40周」しても負傷者ゼロ!業界をリード(2023年3月11日付)
自動運転タクシーで世界をリードする米Waymoが、自動運転車による公道走行で100万マイル(約160万キロ)を達成した。
同社によると、この公道走行においてNHTSA(米運輸省道路交通安全局)に報告義務がある事故は2件で、負傷者はいなかったという。軽微な接触トラブルは18件発生したという。
世界各地で公道実証やサービス化が進む中、今後各社が発表するこうしたセーフティレポートへの注目度も高まりそうだ。自動運転車がどの程度事故を起こし、またどういった事故が多いのかなどが把握しやすくなる。
一方、自動運転車が原因不明で立ち往生するなど、事故に該当しないトラブルが多く報告されているのも事実だ。オペレーターの手動介入頻度など含め、こうしたレポートの公表義務化や国際標準化が進めば、各社の自動運転システムの比較も行いやすくなる。
自動運転に対する理解度を深めるためにも、積極的な情報開示を望みたいところだ。
【参考】詳しくは「Googleの自動運転車、「地球40周」しても負傷者ゼロ!業界をリード」を参照。
■2022年資金調達、「自動運転」が「EV」上回る!Cruiseが調達額トップ(2023年3月13日付)
インドのリサーチ企業Tracxnによると、オートテック分野において2022年中に行われた資金調達額で自動運転車がEVを上回ったという。
レポートによると、ビジネスモデル別の資金調達額は「自律走行車」が計26億ドル「電気自動車メーカー」が17億ドルとなっている。世界経済の低迷によりいずれも前年から数字を落としているものの、業界に対する投資意欲は依然盛んなようだ。
自律走行車カテゴリの企業別では、米Cruiseが14億ドルで1位となり、日本のティアフォーも8,800万ドルで6位に入っている。
金利政策などの影響は避けられないものの、2023年は株式市場などが再び上昇に転じる見方が強い。自動運転開発にはまだまだ膨大な資金が必要なため、市場が早期回復し、開発各社に潤沢な資金が回るよう期待したいところだ。
【参考】詳しくは「2022年資金調達、「自動運転」が「EV」上回る!Cruiseが調達額トップ」を参照。
■スズキ、自動運転配送ロボを共同開発!新興LOMBYとタッグ(2023年3月17日付)
自動配送ロボット分野に新たな有力勢が誕生したようだ。LOMBYとスズキが共同開発契約を交わし、電動車いすをベースとした宅配ロボットの開発・量産化に向けた取り組みを強化していくという。
LOMBYは、宅配バッグ「OKIPPA」のYperが自動配送ロボット開発事業を独立する形で設立したスタートアップで、遠隔操作や自動運転技術を搭載したロボットの開発を進めている。
両社の取り組みにおいては、電動車いすをベースにしている点が1つのポイントだ。自動配送ロボットは、歩道を走行する上で基本的に電動車いすと同一の規格があてはめられる。サイズや最高速度など、共有すべき点が多いのだ。
量産効果に加え、自動運転車いすの開発など技術を流用する形で新たなソリューションが誕生するかもしれず、こうした点にも注目していきたい。
また、ロボット開発スタートアップと自動車メーカーなどの提携にも注目だ。海外では米Nuroと中国BYD、国内ではティアフォーと川崎重工などの例があり、今後、量産化に向けこうした動きが加速する可能性もありそうだ。
【参考】詳しくは「スズキ、自動運転配送ロボを共同開発!新興LOMBYとタッグ」を参照。
■ついに4月「自動運転レベル4」解禁!進化した道交法、要点は?(2023年3月17日付)
自動運転レベル4や自動配送ロボットの公道走行を解禁する改正道路交通法が2023年4月1日に施行される。車道を走行する無人レベル4は許可制の「特定自動運行」として、歩道などを走行する自動配送ロボットは届出制の「遠隔操作型小型車」としてそれぞれ位置付けられ、本格実用化に向けた取り組みが容易になる。
法施行を契機に開発各社の取り組みが大きく加速していくことは間違いなく、現場におけるセーフティドライバーやオペレーターを廃した無人サービスが徐々に増加していくことが見込まれる。
日本はドイツなどとともに自動運転サービスの受け入れ面で先行することになり、今後海外勢の進出が相次ぐ可能性も考えられる。まずはこの1年でどのように自動運転分野における取り組みや構図が変わっていくのか、要注視だ。
【参考】詳しくは「ついに4月「自動運転レベル4」解禁!進化した道交法、要点は?」を参照。
■米Mobileye、上海に自動運転テスト施設!世界展開を加速(2023年3月21日付)
イスラエルのモービルアイが、上海郊外に自動運転専用のテストセンターを開設したようだ。自動運転サービスのグローバル展開を目指す同社にとっても、中国市場はやはり特別なようだ。
同社は中国で自動車メーカー12社に技術提供を行う契約を結んでいるようで、その中の1社Geelyとは、Zeekrブランドからレベル4市販車を早ければ2024年にも発売する計画を発表している。中国市場において、Geelyを皮切りに横展開を推し進めていく可能性もありそうだ。
ADASプロバイダーとしてすでに世界市場を席捲しているモービルアイだが、今後、高性能SoCや自動運転システム、そして自動運転サービスの分野でどのようにビジネスを拡大していくのか、要注目だ。
【参考】詳しくは「米Mobileye、上海に自動運転テスト施設!世界展開を加速」を参照。
■【まとめ】2023年4月の各社の動向にも要注目
LOMBYとスズキの提携は、いろいろな観点から今後も注目を集めることになりそうだ。海外では、中国やドイツなど各国に攻勢を仕掛けるモービルアイが話題に上がる機会がいっそう増えそうだ。日本での展開にも注目したい。
一方、Embark Trucksのように事業が行き詰まる企業がほかにも出てくるかもしれず、世界経済の動向とともに成り行きを見守りたいところだ。
来月、2023年4月はいよいよ国内で改正道路交通法が施行される。各社がどのように取り組みを加速させるのか、引き続き期待とともに注目したい。
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大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)