「雪道の自動運転」で日本が世界をリード!実証続々

BOLDLY、北海道舞台に次々実証



北海道上士幌町にて筆者撮影

ソフトバンク子会社で国内各地で自動運転バスの実証を進めるBOLDLY株式会社(本社:東京都港区/代表取締役社長兼CEO:佐治友基)が、北海道で雪道走行の実証を重ねている。2022年12月に定常運行を開始した上士幌町に続き、2023年3月6〜10⽇には東川町でも自動運転バスの走行実証を行っている。

自動運転の課題の1つとして「全天候への対応」が挙げられるが、その中でも「雪」は厄介だ。降雪時に視界が遮られるだけでなく、降り積もった雪が道路の景色や形状を大きく変えてしまうためだ。


積雪地域における自動運転をBOLDLYはどのように克服していくのか。同社の取り組みに迫る。

■BOLDLYの取り組み
上士幌町では冬期定常運行を開始

BOLDLYは2017年、旧社名のSBドライブ時代に北海道上士幌町で自動運転バスの実証に着手した。同町で開催された「Japan Innovation Challenge 2017」の一環で、町役場周辺で一般試乗会を実施した。仕様車両は仏Navya製「ARMA」だ。

その後も自動運転バスを活用した貨客混載の実証などを重ね、2021年12月に冬季運行の実証にも着手した。雪や氷点下の環境において、除雪や凍結防止など一定の道路環境整備を行った上でハンドルがない自動運転バスを運行するのは国内初の取り組みという。

実証では、積雪による周辺環境の変化や、ぼたん雪などの降雪がセンサーに与える影響、氷点下における車両の走破性や路面凍結対策の有効性などを確認するとしている。


具体的には、自動運転バスのルート上において上士幌町が路肩白線まで除雪し、走行路を確保する。また、動作保証条件が氷点下10度以上(マイナス10度以上)のARMAが、12月の平均気温氷点下4.8度の同町でしっかり動作するか、基本的な性能などについても確認している。

2022年12月には、同町で定常運行を開始した。2023年度にもレベル4へ移行する計画で、1周約3.5キロの雪道を連日走行している。

【参考】上士幌町における取り組みについては「アイスバーン問題なし!冬の北海道で自動運転バスがデビュー」も参照。

上士幌町のノウハウをもとに東川町でも雪道実証に着手
出典:BOLDLYプレスリリース

北海道東川町では、2023年3月6〜10日の期間、町役場や道の駅などを巡る1周約2.6キロのルートで試運行を実施した。上士幌町における運行で得たノウハウをもとに、降雪量や気温など気象条件が異なる東川町において、道路脇の雪山を想定したルート設定など雪道における走行に必要なオペレーションを検証し、降雪地域でも安定した運行を実現するための体制構築を目指すとしている。

出典:BOLDLYプレスリリース

同年2月に実施した試験走行では、積雪時の道路環境を整備した後の運行において、信号がある交差点を除いた区間で車内のオペレーターがコントローラーを一切操作しない無介入の自律走行を達成したという。

気温が上昇し雪どけが始まる3月には、融雪により大きな水たまりができたり路面が滑りやすくなったり、路肩に除雪した雪山が車道に崩れ落ちたりするといった環境変化があったという。試運行では、こうした環境下でも安定走行するため環境変化に応じて道路環境を整備していくとしている。

普遍性・汎用性のあるノウハウを蓄積

BOLDLYにおける雪道自動運転実証の特徴として、「普遍性」や「汎用性」、「応用力」を挙げることができる。自動運転サービスの運行管理を軸とした事業展開を行っている同社は、自動運転システムそのものの開発を行っていない。他社製の自動運転車を導入し、さまざまな環境下で持続的にサービス提供可能な仕組みやシステムの構築を担っているのだ。

自動運転システム開発事業者であれば、雪道における自動運転実証の主眼は「自動運転システムそのものの改善」であり、センサーによる認識精度の向上やオブジェクトとしての雪に対する判断能力の改善などを図っていくものと思われるが、同社のアプローチは異なる。

現状の自動運転システムにおいて、雪道を運行するためにはどのような環境整備などが必要かを第三者目線で見極めているのだ。

同社が使用しているARMAは「自動運転車」としてパッケージ化されており、自動運転システムやセンサー構成などのカスタマイズ性は低いものと思われる。Navyaがどこまで認めているかは不明だが、下手にいじれば補償外となり、利用不可とされる可能性もある。

言わば、与えられた自動運転システムはそのままに、第三者として雪道を克服するための手法や課題を追求し、ノウハウを蓄積しているのだ。

こうした取り組みによって蓄積された知見は、他の自動運転車にも応用できる点が多い。自動運転業界で共有可能なこうした知見は、さまざまな自動運転車にも応用可能な汎用性・普遍性を持つのだ。

雪道に対応した自動運転システム開発事業者は少数ながらそれほど珍しい存在ではないが、こうした第三者目線で雪道対応を進める事業者は世界的にも少ないものと思われる。

近い将来、BOLDLYの雪道に関する知見が世界をリードする――といったことも考えられそうだ。

着実に経験を積み重ねる上士幌町での実証
北海道上士幌町にて筆者撮影

余談だが、筆者は2023年2月、上士幌町で運行中のARMAに一般乗車してきた。晴天に恵まれ、発着場の交通ターミナルでは小さな子どもを連れた親子が乗車前に記念撮影するなど、すでに地元に親しまれている印象だ。

車内にはスタッフ2人が乗っており、発車時に「雪の影響で急ブレーキがかかるかもしれません」と告げられた。ゆっくりとスタートし、公共施設の敷地内(エントランス)などをスムーズに通過して公道へ。

交差点やカーブなど全体として円滑に走行していたが、アナウンス通り急停止する場面が何度かあった。乗車している感じでは特に障害物は見当たらず、センサーが何を検知して停止判断を下したのかは不明だ。また、バス停付近に雪山が堆積していて降車し辛い場所では、じっくりと停止場所を見極めるかのように調整しているような感を受けた。

路面は、雪で覆われているところや、道路が顔を出し区画線を確認できる場所などさまざまあったが、特に区別なくしっかりと走行していた。着実に一歩ずつ前進しているようだ。

北海道上士幌町にて筆者撮影
■積雪地域における自動運転開発

世界では全天候型自動運転システムの開発なども

雪道に対応した自動運転システムの開発関連では、国内では自動車制御ソフトウェア開発などを手掛けるヴィッツが北海道大学などとともに研究を進めている。三菱重工は、スペインのApplus+ IDIADAなどとともにさまざまな自然環境を自由に生成できる屋内型の環境試験装置の共同開発を進めているようだ。

海外では、フィンランドのスタートアップSensible 4が全天候型の自動運転システムの開発を進めているほか、ロシアのYandexも積雪地域における自動運転実証を盛んに行っている。

【参考】三菱重工の取り組みについては「雪でも霧でも自在に作成!三菱重工が「自動運転試験装置」開発へ」も参照。

【参考】Sensible 4の取り組みについては「Sensible 4の自動運転ソフト、トヨタ車に搭載しノルウェーで長期実証!」も参照。

■【まとめ】雪対応の運行ノウハウ、今後の成果に期待

積雪地域における自動運転では、降雪時におけるセンサーの認識精度の向上や積雪によって刻々と変化する道路環境への対応、厳しい氷点下における機器類の稼働、氷雪路面における制動など解決すべき課題は多い。

自動運転の運行管理スペシャリストとしての地位を確立しつつあるBOLDLYは、こうした雪に対応する運行ノウハウをどのように成果に結び付けていくのか。今後の取り組みにいっそうの期待が寄せられるところだ。

【参考】関連記事としては「「豪雪地帯」で自動運転!北海道岩見沢市で次世代バス実証」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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