2022年資金調達、「自動運転」が「EV」上回る!Cruiseが調達額トップ

日本のティアフォーもランクイン



出典:GM Cruise公式サイト

欧州や中国などを中心にEV化の波が押し寄せているが、投資熱は自動運転の方が高いようだ。インドに拠点を構えるリサーチ系企業Tracxnが作成したレポート「オートテック カテゴリ別資金調達動向レポート」によると、2022年中に行われた資金調達額は、「自動運転車」が26億ドル(約3,500億円)となり、「EV」(電気自動車)の17億ドル(約2,300億円)を上回った。

同レポートは、国内外でメディア事業などを手掛けるイシンが日本語訳版をリリースしている。レポートのサマリー部分を参考に、2022年における自動運転分野の投資状況を見ていこう。


■2022年における自動運転分野の投資状況
「オートテック カテゴリ別資金調達動向レポート」の概要

オートテックは、「自動車=Automotive」と「テクノロジー=Technology」を組み合わせた造語だ。「Automation=自動化」が用いられ、自動化されたモビリティを指す場合もあるようだ。

Tracxnのレポート「オートテック カテゴリ別資金調達動向レポート」では、カテゴリが自律走行車、電動自動車メーカー、電動二輪車……などに区分けされており、オートテックは前者の意味で用いられている。

詳細は分からないが、イシンによると過去1年間の地域別・投資ラウンド別などの資金調達状況をはじめ、ビジネスモデル別の資金調達額ランキングや、自律走行車・空飛ぶクルマといったビジネスモデル別の詳細がまとめられているようだ。

「自律走行車」が計26億ドルでカテゴリー別トップに
出典:イシンプレスリリース

レポートによると、ビジネスモデル別の資金調達額は「自律走行車」が計26億ドルで1位となり、「電気自動車メーカー」17億ドル、「電動二輪車」15億ドルと続いている。


eVTOL(電動垂直離着陸機)メーカー」は11億ドルで6位、「自律走行型配送車両」が8億5,700万ドルで8位、「空飛ぶクルマ・ノンハイブリッドモデル」が7億4,300万ドルで9位となっている。

自律走行車は企業数146社で、総投資額は累計242億ドル、IPO3社、資金調達した企業72社、ユニコーン29社、買収件数16件という。なお、自律走行車の総計26億ドルは前年比62.9%減で、資金調達ラウンド数も前年比33.3%減の24となっている。

2022年は、紛争や金利政策などの影響で世界の市場環境が悪化し、全体として企業投資が停滞したため前年を大きく下回ったものとみられる。

Cruiseが14億ドルでトップ ティアフォーもランクイン
出典:イシンプレスリリース

企業別では、米CruiseがシリーズJで14億ドルを調達し、全体をけん引した。出資元は親会社のゼネラルモーターズ(GM)だ。続いて、中国MomentaがシリーズCで5億ドル、中国WeRideがシリーズDで4億ドル、英WayveがシリーズBで2億ドル、米Argo AIがシリーズEで9,730万ドル、日本のティアフォーがシリーズBで8,800万ドル、米Apex.AIがシリーズBで5,650万ドルとなっている。


Cruiseに関しては、ソフトバンクビジョンファンド(SVF)が保有していた同社株を売却する意向を示し、GMがSVF保有株を21億ドル(約2,500億円)で取得した上、さらに13億5,000万ドル(約1,600億円)の追加投資を行うことを2022年3月に発表していた。

MomentaのシリーズCは、最終的に10億ドルを超えており、上海汽車集団(SAIC)やGM、トヨタ、ボッシュなどが投資家に名を連ねている。

WeRideのシリーズDには、広州汽車集団(GAC)やボッシュなどが参加している。WeRideとボッシュはインテリジェントな運転ソフトウェアを共同開発し、中国市場向けにレベル2~4の開発を加速する戦略的パートナーシップを結んでいる。

【参考】WeRideについては「ボッシュ、中国の自動運転企業WeRideに出資!狙いは?」も参照。

WayveのシリーズBはEclipseが主導しており、マイクロソフトなどが参加している。Wayveはこの資金調達で開発チームを拡大し、乗用車と配送バン向けのレベル4+のプロトタイプを開発し、パートナー車両への展開を拡大してラストマイル配送パイロットを開始するとしている。

Argo AIは、2022年までに累計36億ドルを調達したが、開発の進捗状況などを憂慮したフォードとフォルクスワーゲングループが共に手を引いたため、2022年10月に事業を停止している。なお、米メディアによると、創業者のブライアン・サレスキー氏らは新会社設立に向け水面下で動き出しているようだ。

ティアフォーは2022年7月、SOMPOホールディングス、ヤマハ発動機、ブリヂストンの3社を引き受け先としたシリーズBで121億円の資金調達を実施したと発表している。

この増資により、自動運転機能のリファレンスデザインに立脚したプラットフォーム事業をいっそう加速させるとしている。同社は同年、商用ソフトウェアプラットフォーム「Pilot.Auto」と「Web.Auto」の提供を開始しており、「Shuttle Bus」や「Robo-Taxi」、「Delivery Robot」といったリファレンスデザインを活用することで効率的な開発・実用化を実現している。

【参考】ティアフォーについては「自動運転技術、仮想世界で「リアル」に実証!ティアフォーに注目」も参照。

自律走行型配送車両ではNuroが存在感

このほか、eVTOL(電動垂直離着陸機)メーカーでは米Wiskが4億5,000万ドル、自律走行型配送車両では米Nuroが6億ドルをそれぞれ調達し、各カテゴリでトップとなっている。

NuroのシリーズDはタイガー・グローバル・マネジメントが主導し、グーグルやクローガーなどが参加している。これまでの出資者にはウーブンキャピタルやSVFなども名を連ねており、注目は高まるばかりだ。

■【まとめ】体力試されるスタートアップ

投資意欲が減退する中、2022年も自動運転分野には多くの資金が集まったようだ。世界経済の動向はいまだ不透明だが、2023年中に好転するとみるアナリストも多く、今後の動向に注目が集まる。

一方、自動運転分野においては、本格的な収益化までの道のりはまだまだ遠く、スタートアップ各社は体力(開発資金)を試される場面が今後増加する可能性がある。Argo AIはその一例と言える。

単純な技術開発にとどまらず、明確なビジョンや収益モデルを提示して投資家やパートナー企業の信頼を獲得していくこともより重要性を増していくことになりそうだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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