全国的な猛暑が続く2023年8月、自動運転業界も変わらず熱いニュースが飛び交った。米国や中国、そしてエストニア企業の活躍が目立つ内容だ。一方、自動運転実装に影を落とすような事案も散見される。過渡期特有の事案とも言えるが、その内容は――。
さまざまなニュースが飛び交った8月。10大ニュースを1つずつ振り返っていこう。
記事の目次
- ■Uberの自動運転車、「ながらスマホ」での死亡事故で有罪判決(2023年8月4日付)
- ■ソフトバンクGの命運握るArm、まさかの売上減!なのに株式価値は3.7兆円に上昇(2023年8月8日付)
- ■トヨタ、中国で自動運転タクシーを本格量産へ Pony.aiと合弁設立(2023年8月10日付)
- ■Uberのライバルが宣言!2023年後半にデリバリー自動運転化 北欧エストニアで(2023年8月12日付)
- ■セブンイレブンの自動運転ロボ、L.A.で襲撃される(2023年8月15日付)
- ■テキサス州で「郵便」が自動運転化!食料品デリバリーも実現へ(2023年8月16日付)
- ■イギリスで「空飛ぶクルマ」が墜落!丸紅の提携先、無人飛行中に(2023年8月17日付)
- ■Googleの自動運転タクシー、「24時間営業」解禁でマネタイズに道筋(2023年8月17日付)
- ■SoftBank子会社、自動運転バスの累計乗車「10万人突破」目前(2023年8月18日付)
- ■「中国のGoogle」が新自動運転ブランド!独自充電網も開発か(2023年8月22日付)
- ■【まとめ】自動運転モビリティの社会的立ち位置確立も重要に
■Uberの自動運転車、「ながらスマホ」での死亡事故で有罪判決(2023年8月4日付)
自動運転実証中の米Uberの車両が2018年、米アリゾナ州で走行中に道路横断者と接触し死亡させた事故で、テストドライバーに過失致死の有罪判決が下された。ドライバーには、執行猶予付きの3年間の懲役刑が課されたようだ。
事故は2018年3月、Uberの車両が自動運転レベル3に向けた公道テストを行っている際、自転車を押して道路を横断中の女性をはねたもの。当時、テストドライバーはスマートフォンを操作しており、周囲の状況監視義務を怠っていた。
自動運転実証における公道実証は、システムの精度が高まれば高まるほどセーフティドライバーによる手動介入が減少する。ドライバー側としては、ついつい気を緩めてしまう場面が増加するとも言える。
だからこそセーフティドライバーにはプロとしての高い意識が求められるのだ。こうした事故は、軽微なものも含めれば今後世界各地で発生する可能性がある。間違ってもアルバイトレベルの条件でドライバーを採用することがないよう、注意が必要だ。
【参考】詳しくは「Uberの自動運転車、「ながらスマホ」での死亡事故で有罪判決」を参照。
■ソフトバンクGの命運握るArm、まさかの売上減!なのに株式価値は3.7兆円に上昇(2023年8月8日付)
大型上場を控えた英Armの2023年4〜6月期の売り上げが前年同期比10%減と落ち込んだ一方、株式価値は3.7兆円まで上昇しているという。ソフトバンクグループの決算説明会で明かされた内容だ。
Armは8月下旬に米ナスダックに上場申請したことが報じられており、早ければ9月中に再上場を果たすことになる。2023年最大のIPO案件として注目されており、また投資面で苦境に立たされているソフトバンクグループの起爆剤としても存在感を高めている。
世界的な半導体需要は、波はあるものの中長期的に見れば底堅く、先端半導体の開発・製造に向けた投資意欲も根強い。半導体設計で気を吐くArmとしても、新たな需要をしっかりと取り込み、さらなる躍進につなげていきたいところだ。
【参考】詳しくは「ソフトバンクGの命運握るArm、まさかの売上減!なのに株式価値は3.7兆円に上昇」を参照。
■トヨタ、中国で自動運転タクシーを本格量産へ Pony.aiと合弁設立(2023年8月10日付)
トヨタの中国統括企業と広汽トヨタ、そしてPony.aiが自動運転タクシー量産に向け合弁を設立すると発表した。自動運転に適したトヨタブランドのBEVをPony.aiに提供し、自動運転車の量産化を推進していく。
総投資額は10億元(約198億円)以上を見込んでおり、中国トヨタは高度な自動運転技術の大規模商用化を推進することをはじめ、大衆化についても協議を進めていくという。
中国では百度を筆頭にWeRideやAutoXといった開発企業が自動運転タクシーの量産化・商用化を推し進めており、Pony.aiも後れを取らぬよう追随していく構えだ。
日本の自動車メーカー関連では、日産の現地子会社が「日産モビリティサービス有限公司」を設立し、自動運転タクシー事業の展開を含め中国におけるモビリティサービスへの投資を加速させている。
自動運転の実用化で先行する中国を舞台に、水面下における日本企業の競争も激化し始めているようだ。
【参考】詳しくは「トヨタ、中国で自動運転タクシーを本格量産へ Pony.aiと合弁設立」を参照。
■Uberのライバルが宣言!2023年後半にデリバリー自動運転化 北欧エストニアで(2023年8月12日付)
フードデリバリー事業などを手掛けるBoltと、自動配送ロボット開発を手掛けるStarship Technologiesがパートナーシップを結んだ。世界進出を加速するエストニア企業同士の強力タッグだ。
Boltは世界45カ国、500都市でフードデリバリーや配車サービスなどを展開している。一方のStarship Technologiesは、これまでに累計500万回の無人配達を達成している同分野のリーディング企業だ。
まずはエストニア国内でサービス展開を進める計画のようだが、近い将来世界展開を加速させる可能性も高い。Uberが自動運転開発各社と提携を進めるように、配車プラットフォーマーと自動運転の相性は高く、普及が一気に進むポテンシャルを有する。
世界で活躍する2社のパートナーシップだけに、今後の動向に要注目だ。
【参考】詳しくは「Uberのライバルが宣言!2023年後半にデリバリー自動運転化 北欧エストニアで」を参照。
■セブンイレブンの自動運転ロボ、L.A.で襲撃される(2023年8月15日付)
米7-Elevenが実用化に取り組む自動配送ロボットが襲撃を受ける様子がSNSで拡散され、話題となっているようだ。
動画では、歩道を走行中のロボットを引き倒したり、ふたをこじ開けて中身を強奪したりする様子が収められている。サイレンが鳴っていてもお構いなしだ。ロボットは、おそらくServe Robotics製のものとみられる。
れっきとした犯罪行為であり、その後犯人たちは捕まったのか?など気になるところだが、ロボットサービスにおけるセキュリティ機能や社会的対策なども気になるところだ。
多くのモデルは、サイレンなどの警告や通報システムなどを備えているが、そもそも治安が悪ければ動画のような行為が平気で行われる。通行人も見て見ぬふりとなるのは致し方ないところだろう。
自動運転タクシーに対してもいたずらする行為などが散見されるが、こうした事案がエスカレートすれば重大事件に発展しかねない。
こと犯罪行為に対しては、「無人」がネックとなりうるのだ。無人モビリティの普及においては、何らかの社会的抑止力・対策も必要になってきそうだ。
【参考】詳しくは「セブンイレブンの自動運転ロボ、L.A.で襲撃される」を参照。
■テキサス州で「郵便」が自動運転化!食料品デリバリーも実現へ(2023年8月16日付)
エストニアのClevonが米PostNet Northlakeと提携し、テキサス州で自動運転ロボットを活用した郵便物の配送を開始する。
Clevonは米Nuroのような車道走行タイプの小型自動運転車両の開発を進めている。「Clevon1」は、長さ2500×幅115×高さ1550ミリの車体プラットフォームに自動運転システムを搭載し、荷台部分のモジュールを乗せ換えることでさまざまな用途に活用できるモデルだ。最高時速は18マイル(約29キロ)と低速設計されている。
ロボット大国エストニアでは、配送ロボットとスマートロッカーを組み合わせ、荷物の受け渡しも自動化する取り組みも進められている。
エストニア企業関連では、同国のAuve Tech製自動運転シャトル「MiCa」をソフトバンク子会社のBOLDLYが日本に導入するなど、その技術は世界に広がり始めている。自動運転・ロボット分野で躍進するエストニア企業の動向に注目だ。
【参考】詳しくは「テキサス州で「郵便」が自動運転化!食料品デリバリーも実現へ」を参照。
■イギリスで「空飛ぶクルマ」が墜落!丸紅の提携先、無人飛行中に(2023年8月17日付)
空飛ぶクルマ開発企業の英Vertical Aerospaceの無人実証機が、試験飛行中に墜落したようだ。大阪・関西万博での飛行も視野に入れている同社の事故は、実用化に向け少なからぬ影響を与える可能性がありそうだ。
ブルームバーグが報じたところによると、同社が開発を進める5人乗りeVTOL「VX4」が8月9日、英国内の空港でモーターに不具合が生じた場合を想定した試験飛行中に墜落したという。けが人などは出ていないようだが機体は損壊しており、規制当局の調査が終わるまで飛行試験は中止となる。
さまざまな事態を想定した飛行試験の一過程のようだが、飛行継続が困難となった際には安全に不時着する技術が必須となる。
万が一、人的被害が出た場合、世界における社会受容性は大きく低下し、実用化を推進している国や自治体なども慎重な対応を迫られることになる。機器やシステムに不具合が生じた場合でも、安全に着陸できる技術だけは絶対に譲れないところだ。
【参考】詳しくは「イギリスで「空飛ぶクルマ」が墜落!丸紅の提携先、無人飛行中に」を参照。
■Googleの自動運転タクシー、「24時間営業」解禁でマネタイズに道筋(2023年8月17日付)
米カリフォルニア州サンフランシスコで、無人自動運転車の24時間営業が可能になるようだ。カリフォルニア公共事業委員会(CPUC)が、Google系WaymoとGM傘下のCruiseの2社に新たな権限として付与したことを発表した。
両社はそれぞれドライバーレスの自動運転サービス許可を取得済みだが、Cruiseは運行時間に制約があり、Waymoは無人走行での有料サービス許可を持っていなかったようだ。それぞれが運行条件の緩和・拡大案を申請し、CPUCに認められた。
商用化がすでに始まっている自動運転サービスだが、無人化の恩恵を最大限発揮して利益率を高めるには、営業時間の延長は欠かせない。人件費をカットしながら24時間営業を行うのは1つの理想と言える。
技術・サービスともにまだまだ進化の過程にある自動運転。サービス部門でいち早く黒字化を達成する企業はどこか……といった点も、近い将来注目を集めそうだ。
【参考】詳しくは「Googleの自動運転タクシー、「24時間営業」解禁でマネタイズに道筋」を参照。
■SoftBank子会社、自動運転バスの累計乗車「10万人突破」目前(2023年8月18日付)
国内各地で自動運転バスの定常運行を手掛けるBOLDLYの累計乗車人数が、まもなく10万人を突破する見通しだ。
自動運転ラボの集計によると、8月16日時点で定常運行を行っている4地域の累計乗車人数は8万5,568人となっている。参考までに、7月13日時点では8万3,762人だったため、約1カ月間で1,800人増加したことになる。単純計算だと、あと8カ月ほどで10万人の大台を突破することになる。
運行本数や運行箇所などがさらに増えれば、年度内の10万人達成も夢ではない。国内自動運転サービスのトップランナーとして気を吐くBOLDLY。さらなる快進撃に期待したい。
【参考】詳しくは「SoftBank子会社、自動運転バスの累計乗車「10万人突破」目前」を参照。
■「中国のGoogle」が新自動運転ブランド!独自充電網も開発か(2023年8月22日付)
中国の百度が、Geelyと新たなプレミアムインテリジェントテクノロジーブランド「JI YUE」を立ち上げた。次世代モビリティを意識した新ブランドだ。
主力モデルとなる「JI YUE 01」は、インテリジェントモビリティの概念を再定義することを目的としており、自動運転モビリティに求められる消費者の好みに応えるという。初モデルは2023年第4四半期に初納入する予定だ。
実際にどこまでの自動運転機能が搭載されるのかは不明だが、百度アポロの高度なシステムが統合されるものと思われる。
百度とGeelyは、これまでに合弁Jidu Automobileを設立しているほか、Geelyはボルボ・カーズとの合弁Lynk & Coをはじめ、LIVAN AutoやZEEKRといった新ブランドを次々と立ち上げている。
世界最大のEV(電気自動車)市場となった中国では、新興EVメーカー勢の台頭も著しく、競争はまだまだ激化の一途をたどりそうだ。
【参考】詳しくは「「中国のGoogle」が新自動運転ブランド!独自充電網も開発か」を参照。
■【まとめ】自動運転モビリティの社会的立ち位置確立も重要に
米国や中国では、自動運転サービス実装に向けた新たな取り組みが続々と誕生しているようだ。エストニア企業の躍進も注目に値する。
一方、空飛ぶクルマの墜落や自動走行ロボットに対する襲撃など、過渡期特有の事案も目立つようになってきた。日本では強盗目的の襲撃はそうそう起こらないだろうが、いたずら目的の事案が懸念される。
自動運転モビリティが世に出回り始めたことで、残念ながらこうした事案も一時的に増加する可能性が高い。セキュリティ対策などは言うまでもないが、自動運転モビリティが社会的な立ち位置を早期に確立し、普通に受け入れられる環境づくりなども重要となりそうだ。
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大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)