混迷する世界経済の動向に揺れた2022年。自動運転業界も例外ではなく、事業停止を余儀なくされた企業も散見された。その一方、業界が活発であることを物語るように、自動運転サービスの拡大を図るなど攻めの姿勢を貫く企業も多かった。
自動運転技術の社会実装が深まり始めた2022年中 、世界ではどのような動きがあったのか。10大ニュースを振り返ってみよう。
記事の目次
- ■AutoXの自動運転タクシー、1,000台突破(2022年2月14日付)
- ■世界初「自動運転レベル4市販車」、中国・百度が発売へ(2022年6月16日付)
- ■米Cruise、自動運転事業に1日7億円超!妥当な先行投資?(2022年8月2日付)
- ■名称に「待った」!テスラの「完全自動運転」オプション(2022年9月3日付)
- ■未発売でもAppleが3位!米国での自動車購入意向調査(2022年9月7日付)
- ■実は役立たず?米Amazon、自動配送ロボの公開テスト中止(2022年10月21日付)
- ■時価総額3.4兆円!Mobileye上場38%高、Intel系自動運転企業(2022年11月1日付)
- ■自動運転業界、誰も予想してなかった「Argo AI閉鎖」の背景(2022年11月3日付)
- ■Google、「中国企業」に自動運転車の製造委託 相手はGeely(2022年11月23日付)
- ■Uberの自動運転タクシー、選ばれたのは「韓国製」車両(2022年12月9日付)
- ■【まとめ】自動運転業界は開発&社会実装フェーズへ移行
■AutoXの自動運転タクシー、1,000台突破(2022年2月14日付)
中国スタートアップのAutoXが、自社の自動運転タクシーが1,000台を超えたと発表した。世界最大級の自動運転フリートと思われる。
同社は北京、上海、深セン、広州、米国のシリコンバレーで自動運転タクシーの試験運用を行っている。深センでは無人タクシー向けのオペレーティングセンターを設置し、セーフティドライバー不在の無人タクシーサービスを一般市民向けに提供している。
同サービスで先行する米Waymoをはじめ、Cruiseや中国の百度、WeRide、Pony.aiなど各社がサービス実証を加速しており、特に中国では多くの都市でサービスが展開されている。
フリートの数を増やすことでより多くのデータを収集することができ、開発をいっそう加速することができる。とは言え、現時点ではまだビジネス的に成立しておらず、体力(資金)勝負となっている側面もありそうだ。
ドライバーレスのサービスも着実に増加しており、2023年中にどこまで進展するか、また米中以外でサービス実装がどこまで本格化するかなど、要注目だ。
【参考】詳しくは「AutoXの自動運転タクシー、1,000台突破 「世界最多」との報道も」を参照。
■世界初「自動運転レベル4市販車」、中国・百度が発売へ(2022年6月16日付)
中国百度と浙江吉利控股集団の合弁集度汽車(Jidu Auto)が、自動運転コンセプトカー「ROBO-01」を公開した。2022年10月までに月面探査プロジェクトとコラボした限定モデル「Lunar Edition」の予約販売を開始している。
価格は399,800元、もしくは55,000ドル(約750万円)となっている。2023年前半に納車を開始し、通常のバージョンの販売にも着手する見込みだ。
自動運転関連では、百度が進めるアポロプロジェクトの自動運転タクシー「Apollo Go」を応用した技術を搭載しているという。Nvidia Orin-Xを2個、LiDARをはじめとしたエクステリアセンサーを計31個搭載している。
どこまでの自動運転が可能かは不明で、公式サイトを見る限り「POINT TO POINT AUTOPILOT」というシステムの記載にとどまる。
自動駐車機能は実装されているようだが、おそらく当初はレベル4機能の実装を見送り、法規制やマッピング整備などを踏まえながらソフトウェアアップデートで徐々に機能拡大を図っていくものと思われる。
自家用車の領域でどこまでの自動運転機能が実装されていくのか、要注目だ。
【参考】詳しくは「世界初「自動運転レベル4市販車」、中国・百度が発売へ」を参照。
■米Cruise、自動運転事業に1日7億円超!妥当な先行投資?(2022年8月2日付)
米GM系Cruiseが2022年第2四半期(2022年4〜6月)に消費した金額が5億ドルに上ったという。日本円に換算すると、90日間で約670億円となり、一日あたり約7億4,000万円使った計算だ。
自動運転開発にはかくも膨大な資金が必要なのか――と感じてしまう額だ。同社は米カリフォルニア州サンフランシスコで自動運転タクシーサービスに着手しており、乗客から運賃を徴収しているが、現時点で開発費用を賄うことはまず不可能だろう。
支出の内訳が気になるところだ。サービスに伴う人件費をはじめとした支出と、継続的な研究開発関連の支出などが混在しているものと思われるが、サービス実装に伴う支出がどれほどの規模なのか、非常に気になるところではないだろうか。
他方、GMはCruiseの事業に対し、10年後までに年間500億ドル(約6兆6,000億円)の収益を実現する可能性があるとしている。
どの段階で収支が均衡し、そして自動運転サービスが利益を生み出すものへと変わっていくのか。社会実装が本格化する中、今後はこうした観点にもしっかりと注目していきたいところだ。
【参考】詳しくは「米Cruise、自動運転事業に1日7億円超!妥当な先行投資?」を参照。
■名称に「待った」!テスラの「完全自動運転」オプション(2022年9月3日付)
米テスラのADAS(先進運転支援システム)「オートパイロット」と「フルセルフドライビング(FSD)」の名称をめぐる問題は、政治の舞台にまで飛び火した。カリフォルニア州議会がADASにおける誇大宣伝を規制する法案を可決したのだ。
テスラを念頭に据えた措置とみられる。オートパイロットは自動操縦、FSDは完全自動運転をそれぞれ意味するが、両方とも現時点では運転支援にとどまる。利用者が機能を誤解し、危険な運転を行うことを危惧する声は多く、過去にはドイツの裁判所からも広告に「オートパイロット」などの表現を用いないよう命じられている。
日本では、「自動ブレーキ」という表現さえも誤解を招くおそれがあるため、自動車公正取引協議会がレベル2までの段階で「自動運転」という用語を使用することを禁止し、運転支援機能・技術であることが明確に分かる用語に言い換えることを指示している。
今後、高度なレベル2に相当するハンズオフ機能搭載車などが増えることが予想されるが、技術を過信・誤認する利用者が必ず出てくる。ADASと自動運転を明確に区別し、正しい理解が周知されるようさまざまな取り組みを行っていかなければならないのだ。
【参考】詳しくは「名称に「待った」!テスラの「完全自動運転」オプション」を参照。
■未発売でもAppleが3位!米国での自動車購入意向調査(2022年9月7日付)
米コンサルティング企業Strategic Visionが実施した将来の新車購入意向を探る調査で、正式に自動車製造を発表していないアップルが3位にランクインしたようだ。同社に対する高い期待の表れと言える。
1位がトヨタ、2位がホンダで、アップルは4位のテスラを抑えて3位となった。調査対象ブランドに新たにアップルを加えたことで、消費者の注目を集めた可能性もある。
品質に対する印象の項目では、アップルはトヨタやホンダの上をいく24%となったようだ。アップルブランドに対する絶大な信頼性もうかがえる。
アップルは2026年度を目標にレベル3車両を開発・発売する計画であることが米メディアに報じられている。一般ユーザーがアップルカーを手にするのはもう少し先のこととなりそうだが、それまでにどのような情報が明かされていくのか、またどの段階で公式発表がなされるのか、引き続き注目したい。
【参考】詳しくは「未発売でもAppleが3位!米国での自動車購入意向調査」を参照。
■実は役立たず?米Amazon、自動配送ロボの公開テスト中止(2022年10月21日付)
米メディアによると、小型の自動運転配送ロボット「Scout(スカウト)」の開発を進めていたアマゾンが、同事業を停止したようだ。
顧客ニーズに合っていない部分があるため実証を中止し、Scout開発チームは解散し大半のスタッフが社内の別部門へ移ることになったという。
一時的な業績悪化が一因となっている面もありそうだが、同社は自動運転配送ロボットの分野に積極投資する世界有数の企業であるため、他社への影響が懸念されるところだ。
日本でも、2023年度に自動運転配送ロボットが解禁・制度化される見込みだ。費用対効果と需要を満たす使い方と満たさない使い方それぞれを見極め、継続性のあるサービスにしっかりと昇華させていきたいところだ。
【参考】詳しくは「実は役立たず?米Amazon、自動配送ロボの公開テスト中止」を参照。
■時価総額3.4兆円!Mobileye上場38%高、Intel系自動運転企業(2022年11月1日付)
インテル傘下のモービルアイが米ナスダック市場に上場した。インテルに買収された2017年以来の再上場で、終値ベースの時価総額は230億ドル(約3兆4,000億円)となった。
初日(2022年10月26日)の終値は28.97ドルだったが、その後じわりじわりと上昇し、2022年12月15日時点での終値は34.50ドルを記録している。上々の滑り出しと言えそうだ。
同社はマシンビジョン技術をベースとしたADASソリューションで名を挙げ、近年は自動運転にも対応した高性能なSoCも事業の柱に成長している。
自動運転技術の開発にも積極的で、自国イスラエルをはじめドバイやドイツ、日本など世界各地でサービス展開するビジョンを掲げている。
ADASやSoC事業がしっかりと足元を支え、その上で相乗効果を発揮する形で自動運転開発を進める理想の事業形態と言える。
2023年中に世界の複数地域で自動運転サービスを開始する予定で、来年はより大きな注目を集める年となりそうだ。
【参考】詳しくは「時価総額3.4兆円!Mobileye上場38%高、Intel系自動運転企業」を参照。
■自動運転業界、誰も予想してなかった「Argo AI閉鎖」の背景(2022年11月3日付)
自動運転開発を進めてきた有力スタートアップの米Argo AIが事業を停止し、業界に激震が走った。出資者のフォードとフォルクスワーゲンがともに投資を引き上げたためだ。
2016年創業の同社は、設立間もなくフォードから巨額の投資を受け、その後もフォードと提携を結ぶフォルクスワーゲンからも投資を受けるなど順風満帆に思えた。事業としては、自動運転タクシーのサービス実証やモノの配送実証などを米国内各地で展開していた。
自動運転サービスは米中を中心に社会実装が始まっているが、収益化はまだ先の話で、今しばらくは体力勝負が続くものと見られる。その意味では、スタートアップ各社は開発能力とともに資金集めの能力も求められることになる。
開発企業の淘汰が本格化し始める今後は、収益化に向けた明確な道筋を示すことができるかどうか――といった観点もより重要性を増しそうだ。
【参考】詳しくは「自動運転業界、誰も予想してなかった「Argo AI閉鎖」の背景」を参照。
■Google、「中国企業」に自動運転車の製造委託 相手はGeely(2022年11月23日付)
自動運転開発の雄Waymoが、自動運転車の製造で中国浙江吉利控股集団(Geely)とパートナーシップを結んだ。
米中間の経済的摩擦が気になるところだが、もっと気になるのは車両の仕様だ。Waymoはこれまで既存の乗用車をベースに自動運転化していたが、GeelyのプレミアムEV(電気自動車)ブランド「Zeekr」が製造する車両は、ハンドルなどを備えない自動運転仕様の車両となる。
本格的な自動運転時代を見据え、Waymoも一段階ギアを上げるつもりなのかもしれない。アリゾナ州でのサービスに続き、カリフォルニア州サンフランシスコでもサービスを開始した。今後、ロサンゼルスにも拡大するほか、ニューヨークなどでも実証に着手している。
Waymoのパートナーシップは、ステランティス(旧FCA)、ルノー・日産・三菱アライアンス、ボルボ・カーズ、ジャガー・ランドローバー、ダイムラートラック、そして今回のGeelyと着実に拡大している。
将来的にはグローバル路線に進む可能性が高く、今後どのような戦略で自動運転サービスのビジネス化を進めていくのか、2023年の動向にも要注目だ。
【参考】詳しくは「Google、「中国企業」に自動運転車の製造委託 相手はGeely」を参照。
■Uberの自動運転タクシー、選ばれたのは「韓国製」車両(2022年12月9日付)
米配車サービス大手のUber Technologiesが、自社プラットフォームにおいて自動運転タクシーサービスの導入を開始した。採用されたのは、韓国・現代(ヒョンデ)と米Aptivの合弁Motionalの自動運転車で、ヒョンデのEV「IONIQ 5」がベースとなっている。
サービスエリアは、Motionalが早くから実証を進めているネバダ州ラスベガスだ。当面はセーフティドライバーが同乗するが、2023年中に無人サービスへと移行する計画という。
配車プラットフォーマーと自動運転サービスの相性は良く、今後、米国ナンバーワンのネットワークを誇るUberは続々と自動運転サービスを各地に導入していく可能性が高い。
同社はトヨタ・Aurora Innovationともパートナーシップを結んでおり、Aurora Innovationの自動運転システムを搭載したトヨタ車の導入が見込まれているが、もたもたしているとMotionalなどの先行勢に大きなシェアを奪われることになりかねない。
各社の今後の動向に要注目だ。
【参考】詳しくは「Uberの自動運転タクシー、選ばれたのは「韓国製」車両」を参照。
■【まとめ】自動運転業界は開発&社会実装フェーズへ移行
AutoXや百度、Cruiseなどのように攻めの姿勢を崩さない企業が活躍する一方、Argo AIやアマゾンのScout事業のように事業停止に陥るケースもあった。
世界経済の影響ももちろんあるが、自動運転開発における資金面の問題が浮上しつつあるように思える。純粋な開発フェーズから開発&社会実装フェーズを迎え、より多くの資金が必要になってきている感を受ける。
将来、どのようなビジネスモデルで収益を上げられるのか――といった明確なビジョンが求められることになるが、これは自動運転開発が今まさに次のフェーズに移行し始めたことを意味し、着実に前進している証左と言える。
2023年には自動運転サービスが世界各地に飛び火し、道路交通に関する制度や受容性も少しずつ変化していくことが想定される。米国、中国に次ぐ自動運転大国が頭角を現すのか、引き続き業界の動向に注目だ。
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大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)