自動運転で必須とされる基幹技術の1つに、通信技術がある。車両に搭載されたセンサーが取得した情報やクラウドに収集されたデータ、インフラからのデータなどを高度な通信技術によってリアルタイムで送受信し、より安全な走行を実現するのだ。
常時大量のデータを生み出す自動運転車が送受信するデータ量は桁違いで、こうしたデータの通信には高速大容量、低遅延性が強く求められる。
今回は、データ通信の進化に取り組む実証に焦点を当て、紹介していく。
記事の目次
- ■セルラーV2Xの共同実証実験:NTTドコモなど
- ■5GとMECを活用した協調運転支援の実証実験:NTTドコモと東京大学
- ■愛知県自動運転実証推進事業:アイサンテクノロジーやティアフォー、KDDIなど
- ■超短遅延技術を活用した遠隔自動運転デモ実証:ソリトンシステムズ
- ■5G活用でInvisible-to-Visibleを実証:日産とNTTドコモ
- ■住宅地における路車間通信実証実験:まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム
- ■トラック隊列走行実証実験:トラックメーカー各社、ソフトバンクなど
- ■5Gを活用したコネクテッドカーや遠隔自動運転の実証実験:ソフトバンクなど
- ■ダイナミックマップ生成に向けたデータ収集・配信実証実験:KDDI、ゼンリンなど
- ■電柱を活用した路車間通信の実証実験:関西電力やパナソニックなど
- ■【まとめ】遠隔運転やコネクテッドサービスを支える通信技術、今後も取り組みは加速
■セルラーV2Xの共同実証実験:NTTドコモなど
NTTドコモとコンチネンタル・オートモーティブ・ジャパン、エリクソン、日産、沖電気工業、Qualcomm Technologiesは2018年12月、セルラーV2Xの実証実験に日本で初めて成功したと発表した。
セルラーV2Xは、車車間通信(V2V)、路車間通信(V2I)、歩行者と車間(V2P)の直接通信と、車から基地局を経由して行う通信(V2N)で構成され、ドコモのLTE-Advanced商用網を利用して、追い越し禁止警告や急ブレーキ警告、ハザード警告、交差点通過アシスト、歩行者警告の5種類のユースケースを想定した走行シナリオを設定し、日本国内のテストコースなど複数の実験場所において移動環境での通信性能評価実験を実施した。
直接通信では、見通し環境で中央値20ミリ秒の通信遅延および最大伝送距離1.2キロを達成し、LTE-Advancedを用いた車と基地局間では中央値50ミリ秒の通信遅延を達成した。
緊急性を要する通信に適した直接通信と、広域での情報収集と配信に適したLTE-Advancedネットワークを用いた通信の双方を使用し、互いの特性を補完出来るセルラーV2Xの有効性が確認された形だ。この結果をもとに、ドコモはコネクテッドカー社会の実現などに向け5Gを含むITSの高度化に取り組んでいることとしている。
■5GとMECを活用した協調運転支援の実証実験:NTTドコモと東京大学
NTTドコモと東京大学大学院情報学環中尾研究室は2018年11月、5Gとマルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)を活用した協調運転支援の実証実験に成功したと発表した。
V2VやV2Iなど幅広い運転に関わる情報を低遅延かつ高信頼性のネットワークを介して情報共有するシステムにおいては、通信遅延が安全な運転に支障を来す可能性が高い。そこで、無線区間において約1ミリ秒の伝送遅延を実現する環境構築に向け、5GとMECを活用した実証を行った。MECは、移動通信網において利用者により近い位置にサーバーやストレージを配備する仕組みを指す。
実証では、3台のラジコンカーと位置検出機器、位置情報・制御情報を伝送するMEC、5G通信環境、ラジコンカー制御環境を用いて、ラジコンカーが接触することなく安定走行する協調運転支援の確立に取り組んだ。引き続き、実用化に向けさらに制御の難易度の高い環境で評価すべく継続的に検証を進めていく方針としている。
■愛知県自動運転実証推進事業:アイサンテクノロジーやティアフォー、KDDIなど
2015年に国家戦略特区指定され、2016年度に本格的な自動運転実証に着手した愛知県では、2018年度に国内初となる一般公道における遠隔型自動運転の実証実験を成功させるなど、社会実装に向けた取り組みを推進している。
2018年11月、アイサンテクノロジーやティアフォー、KDDI、損害保険ジャパン日本興亜(現:損害保険ジャパン)、名古屋大学らが、豊橋総合動植物公園で運転席無人の自動運転車両2台を同時に遠隔監視・操作する実証を行った。2019年2月には、一宮市内の公道で4G、5Gを活用した同実証も実施している。
2019年度も商用5G活用による遠隔監視や道路に設置した路側カメラによる遠隔監視などを行ったほか、2020年度も引き続き実証を積み重ねていく方針だ。
【参考】愛知県の取り組みについては「2020年度も「進化する愛知」!今年度の自動運転プロジェクト、詳細明らかに」も参照。
2020年度も「進化する愛知」!今年度の自動運転プロジェクト、詳細明らかに https://t.co/M3I29lCAHU @jidountenlab #自動運転 #2020年度 #プロジェクト
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) June 22, 2020
■超短遅延技術を活用した遠隔自動運転デモ実証:ソリトンシステムズ
ITセキュリティや映像コミュニケーション事業などを手掛けるソリトンシステムズは2018年11月、インターネットITS協議会の定期イベントにおいて、東京の会場からリモート操作で名古屋地区の自動車を実用スピードで遠隔運転するデモンストレーションを実施した。
同社が開発した「Glass to Glass」で遅延時間を最小40ミリ秒台まで短縮可能な超短遅延技術を適用し、運転視界内の死角を除去する画像処理や自動車の揺れの伝達などの諸方式を組み込み、実用的な自動車走行スピードで安全なリモート運転操作が可能であることを実証した。
【参考】ソリトンの取り組みについては「ソリトン社が遠隔運転デモ 名古屋→東京、自動運転車両から映像を0.04秒台で伝送・表示」も参照。
超速!名古屋→東京、自動運転車両から映像を0.04秒台で伝送 ソリトン社、遠隔運転のデモに成功 自動車イノベーション支える期待の技術 https://t.co/npEO1MLNHb @jidountenlab #超速 #遠隔運転 #映像 #電送
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 11, 2018
■5G活用でInvisible-to-Visibleを実証:日産とNTTドコモ
日産とNTTドコモは2019年3月、5Gを活用した「Invisible-to-Visible(I2V)」技術を走行中の車両で活用する実証実験を開始したと発表した。
I2Vは、リアル(現実)とバーチャル(仮想)の世界を融合し、見えないものを可視化する未来のコネクテッド技術。車内外のセンサーが収集した情報とクラウド上のデータを統合することで、建物の裏側や濃霧による視界不良時など、通常見えない視野を映し出す。
AR(拡張現実)によって車室内に3Dアバターを登場させる技術なども想定しており、実証実験では、車内のユーザーと遠隔地にいるユーザーが互いにリアルな存在感や同乗感覚を得るために必要なユーザーインタフェースやインタラクティブなコミュニケーションの有用性などについて研究するとともに、車外から車内へのアバターの伝送や、車内の状況を車外で確認する俯瞰映像の伝送をリアルタイムで行うため、ドコモの5G通信を活用する。
【参考】日産とドコモの取り組みについては「遠方の知人とも「ドライブ」が可能な技術、日産とNTTドコモが実験 VRやARも駆使」も参照。
遠方の知人とも「ドライブ」が可能な技術、日産とNTTドコモが実験 VRやARも駆使 https://t.co/Wu9s24x111 @jidountenlab #日産 #NTTドコモ #VR #AR
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 18, 2019
■住宅地における路車間通信実証実験:まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム
自動運転技術を活用し近隣移動をサポートするサービスの社会実装を目指し日本総合研究所らが立ち上げた「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」は2020年3月、神戸市内の住宅地において路車間通信(V2I)の実証実験を行った。
IHI、あいおいニッセイ同和損害保険、沖電気工業、名古屋大学、日本自動車研究所、日本総合研究所が参加。住宅地における移動サービス向けの運行設計領域に関する研究の一環で、自動運転車が交差点で右折や合流をする際、死角からの飛び出しなどに備えたり、発進・停止や加減速のタイミングを最適化させたりするための車載センサーと道路側センサーの協調による仕組みを検証した。
道路側センサーには、交差点付近の電柱や信号柱にLiDAR(ライダー)を設置し、センサーが取得した交差点付近の交通参加者情報を通信機器を通じて実証車両に送信し、通過車両に不快感を与えない実証車両の挙動の検証や道路側センサーのセンシング精度の評価、交差点の特性に応じたリスク評価などを行った。
【参考】まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアムの取り組みについては「住宅地で実施!自動運転車での路車間通信実証、沖電気やIHIなどが参加」も参照。
住宅地で実施!自動運転車での路車間通信実証、沖電気やIHIなどが参加 https://t.co/n7yXx5oV6E @jidountenlab #自動運転 #住宅地 #実証実験
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) March 20, 2020
■トラック隊列走行実証実験:トラックメーカー各社、ソフトバンクなど
データ通信領域の実証では、トラックの隊列走行確立に向けた実証にも熱が入る。隊列走行は、通信やセンサーなどによって物理的に牽引することなく後続車両が先行車両に追従することを可能にする電子連結システムを活用し、少ないドライバーでより多くのトラックの移動を実現する取り組みだ。
2018年1月に後続車両有人による隊列走行の公道実証に着手し、同年11月に上信越自動車道、12月に新東名高速道路で技術検証を行っている。協調型車間距離維持支援システム(CACC)や車線維持支援システム(LKA)などを活用し、通信で先行車の制御情報を受信して車間距離を一定に保つとともに、LKAにより道路の白線をカメラで認識しステアリングを自動制御することで、安定した追従走行の実現に向け検証を重ねた。
2019年1月には、新東名高速道路で後続車両無人システムの実証に着手し、最大3台のトラックが時速70キロで車間距離約10メートルの車群を組んで走行した。2019年度も継続し、4台の後続車有人システムなども含め実証を行っている。
2020年7月には、日本自動車工業会が大型車メーカー4社(いすゞ、日野、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックス)で構成する大型車特別委員会の活動を通じ、トラックの隊列走行などの取り組みを官民一体となって進めていくこととし、後続車有人隊列走行を可能とする協調技術(ACC+LKA)の商品展開を図っていくことなどを発表している。
一方、ソフトバンクは2019年6月、5Gの新たな無線方式「5G-NR」の無線伝送技術に基づく車両間通信を活用したトラック隊列走行の実証実験を行い、車間距離自動制御を行うことに世界で初めて成功したと発表した。
2020年2月には、Wireless City Planningとともに同様の実証を実施した。新東名高速道路の試験区間を時速約80キロで走行する3台のトラック車両間で5Gの車両間通信を活用して位置情報や速度情報、操舵情報などを共有し、目標車間距離10メートルでのCACCに加え、リアルタイムで後続車両の自動操舵制御を実施し、安定した隊列維持に成功したという。
■5Gを活用したコネクテッドカーや遠隔自動運転の実証実験:ソフトバンクなど
ソフトバンクは2018年12月、5Gを活用したコネクテッドカーの開発向け検証環境を世界で初めて構築し、商用化に向けた検証を同年11月から開始したと発表した。
2019年11月には、本田技研と取り組んでいる5Gを活用したコネクテッドカー技術の共同研究の一環として商用レベルの環境において5Gコネクテッドカーの技術検証を行い、無線検証やユースケースの検証などのさまざまな条件で安定した通信が行えることを確認した。
また同月、スバルと5GやセルラーV2通信システムを活用したユースケースの共同研究を開始したことも発表している。
2020年3月には、Wireless City Planningと日本信号とともに5Gを活用した遠隔運転車両へ交差点から危険情報を提供する応用事例に関するフィールド実証実験や、車両の遠隔運転の応用事例に関するフィールド実証実験を北九州学術研究都市で実施したと発表している。
大容量・低遅延が特徴の5Gを活用した通信技術は、自動運転をはじめ各種コネクテッドサービスにも活用できる必須技術で、今後もさまざまな取り組みが進められる見込みだ。
【参考】ソフトバンクなどの取り組みについては「ソフトバンク、5G-NRでトラック隊列走行に成功 後続は自動運転」も参照。
ソフトバンク、5G-NRでトラック隊列走行に成功 後続は自動運転 https://t.co/Lpn7CNfaLS @jidountenlab #自動運転 #ソフトバンク #トラック #隊列走行
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 1, 2020
■ダイナミックマップ生成に向けたデータ収集・配信実証実験:KDDI、ゼンリンなど
KDDIとゼンリン、富士通は2018年1月から、ダイナミックマップ生成に必須となる大容量データの情報収集と自動運転車へのマップ配信技術の実証実験を開始した。
実証では、動的情報との連携や逐次・差分更新を可能とする高精度地図データの提供および提供プラットフォーム「ZGM Auto」の検証を行うとともに、車載カメラやセンサーのデータを確実かつ効率的にアップロードするための車載通信モジュールとネットワークの検証や、逐次アップデートが必要な動的情報や地図データの差分情報などを必要とする対象車輌に確実かつセキュアに配信する方式と最適なネットワークの検証などを行った。
■電柱を活用した路車間通信の実証実験:関西電力やパナソニックなど
関西電力とパナソニック、ゼロ・サム、トヨタIT開発センターは2019年1月、自動運転社会を見据えた路車間通信に関する技術実証を滋賀県大津市で行った。
信号機がなく見通しの悪い交差点において、電柱に設置した情報通信機器を活用した路車間通信による安全運転支援や、将来の自動運転支援を見据えた有効性を確認するもので、公道の電柱を活用した路車間通信の技術実証としては国内初の取り組みだという。
具体的には、ITS搭載車に対する歩行者など動的情報の提供や、ITS非搭載車に対する情報掲示板を活用した情報提供、路車間通信による大容量データの送受信などについて検証した。
【参考】関西電力などの取り組みについては「関西電力やトヨタITC、電柱使う路車間通信の実証実験 全国初、自動運転社会見据え」も参照。
■【まとめ】遠隔運転やコネクテッドサービスを支える通信技術、今後も取り組みは加速
間もなく社会実装が本格化する見込みの自動運転移動サービスは、基本的に遠隔監視・遠隔操作システムが採用される。途切れることなく確実にデータを送受信することができる環境が必須で、商用化が始まった5Gの活用に向けた取り組みなど、ますます加速していくものと思われる。
一般乗用車においてもコネクテッドサービスの浸透が進んでいる段階で、サービスの進化にはより多くのデータ通信が必要となるため、こちらも通信技術の進化が欠かせないものになっていく。
5Gや各種無線などさまざまな通信方式を複合的に活用する自動運転やコネクテッドカーにおいて、社会実装の土台となる通信技術の存在感や重要性はますます高まっていきそうだ。
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