自動運転車のデータ生成「1日767TB」説 そのワケは?(深掘り!自動運転×データ 第1回)

センサーなどから絶え間なく





実用化と普及が徐々に近づいてきた感を受ける自動運転車。LiDARやカメラなど各種センサーが目の役割を担い、AI(人工知能)が脳の役割を担う。必要な情報は5G(第5世代移動通信システム)をはじめとした通信システムでやり取りする。その過程で生み出されるデータ量は、想像を超えたものになるだろう。

米インテルの試算によると、自動運転車は1日当たり4テラバイトのデータを生み出すという。ネットに対応した航空機が5テラバイトということを踏まえると、いかに膨大な量かを察することができるだろう。

また、米調査会社のGartner(ガートナー)によると、自動運転化されたコネクテッドカー1台あたりのデータトラフィック量は、年間280ペタバイトを超えるという。1日に換算すると767テラバイト超という並外れた数字だ。

正確な値は実用化が進むまで定かにはならないが、膨大なデータ量に上ることだけは間違いのない事実だ。では、自動運転車においてどのようなデータが生成され、どのように活用されるのか。今回はデータに着目し、テラバイト級のデータ量の謎に迫ってみよう。

■LiDARによるデータ:無数の点群データによって遠方までの距離を高精度に測定

LiDARは、光を使ったリモートセンシング技術を用いて物体検知や対象物までの距離を計測するセンサー。ざっくりと説明すると、レーザー光を照射し、それが物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離や方向を測定する。技法はレーダーに類似しており、レーダーの電波を光に置き換えたようなイメージだ。

一本のレーザー光は「点」としてのデータを持ち帰ってくるが、このレーザー光を無数に発射することで無数の点が帰り、集合となって点群データを成す。いわば点描画が出来上がる。

一つひとつの点に対し、レーザーが発射されて帰還するまでの時間をもとに対象物までの距離が測定され、対象物までの距離や対象物の形状を把握できる仕組みだ。

こうしたデータはリアルタイムで次々と生成され、さまざまな情報と紐づけながら周囲の障害物までの距離や道路の形状などを測定・認識するほか、表面の反射率を計算することで道路上の白線なども認識できる。

カメラに比べ遠方までの距離測定に優れており、300メートルの範囲を測定できるLiDARも開発されているようだ。手動運転において視力が重要であることと同様、高速で移動する自動運転車においてもどこまで遠方を把握できるかは非常に重要なため、LiDARを標準装備とする開発メーカーが多い。

自動運転車の走行中は、このデータ生成を延々と繰り返すことになり、膨大な量のデータを蓄積・分析するシステムが求められることになる。

■カメラによるデータ:動画データの中から障害物や歩行者などを常に検知

デジタルカメラやスマートフォンなどでおなじみのカメラ。ドライブレコーダーやバックモニターなど、車載化も進んでいる。

このように普及が著しいカメラは自動運転においても活用されるが、スマートフォンなどにおける用途とは基本が異なる。スマートフォンなどでは「記録」を主目的に撮影が行われるが、自動運転においては「目」の役割を担うセンサーとして、周囲の状況把握に役立てられている。

走行中は常に撮影を続けるため、実質的に動画を撮り続けるのと同等のデータが生成される。このデータの中から、位置や色などをもとに物体を割り出したり、複数のカメラによる差異や遠近法などを用いて距離を導き出したりすることで周囲の障害物や他車、歩行者などを検知する仕組みだ。

米EV(電気自動車)大手のテスラなどは、LiDARを搭載せずカメラセンサーを主体とした自動運転システムの開発を進めている。LiDARに比べ比較的安価でシステムを構築できるメリットがあるが、多くはLiDARやカメラ、ミリ波レーダーなどを併用したシステムを採用しており、各センサーがそれぞれ役割を分担したり、補完し合いながら認識能力を高めている。

こうした各センサーからの総データ量は非常に膨大で、各データはその時その時の瞬時の判断に利用され、必要な情報以外はどんどん書き換えていく必要がある。すべてのデータを保存していては、メインとなる記憶装置やストレージ(補助記憶装置)の容量がもたないからだ。

自動運転には、処理速度が速いプロセッサーをはじめ、大容量かつ書き込み速度や読み込み速度が高性能で、耐久性にも優れた記憶装置などが強く求められるのはこのためである。

【参考】自動運転におけるカメラの役割については「自動運転で画像センサーが重要なワケ 仕組みや役割を解説」も参照。

■位置情報に関するデータ:衛星測位システムと1秒単位の更新が求められるダイナミックマップ

自動運転車の位置情報は、基本的にGPSなどのGNSS(全球測位衛星システム)により、人工衛星から発射される信号を用いて位置を測定する。国内では、これまで主流だったGPSに変わり日本独自の準天頂衛星システム「みちびき(QZSS)」の衛星測位システムサービスが始まり、今後、より安定的で誤差の少ない位置情報を得ることが可能になる。

こうした衛星システムと突合しながら使用される道路マップも進化している。カーナビに表示される従来の地図は平面的な2次元マップで、ドライバーが直接視野に入れることを主目的としているが、現在開発が進められている3D高精細地図データは、各車線や前方の曲率、勾配といった道路状の形状も網羅しており、ドライバーのみならずシステムがその情報を読み込むことでより安全で快適な自動運転を可能にする。

3D高精細地図は、日産自動車のインテリジェント高速道路ルート走行機能「プロパイロット2.0」に搭載されている。ゼンリンが開発した地図データで、システムが事前に道路形状を把握することで速度を制御することができるほか、レーンごとの走行ルートを計画することも可能としている。

【参考】プロパイロット2.0については「ゼンリンの3D高精度地図データ、日産の「プロパイロット2.0」が採用」も参照。

自動運転では、この3D高精細地図データに道路上の構造物や車線情報、路面情報、交通規制情報、落下物、故障車、信号現示情報などのさまざまな情報をリアルタイムで付加・更新するダイナミックマップを活用する。

更新頻度の低い情報から1秒単位の更新が求められる情報まであり、自動運転車は各種データを常に受信しながら走行する。場合によっては、自車が得た情報をクラウドにフィードバックし、よりリアルタイムで正確な情報に書き換えていくのだ。

【参考】ダイナミックマップについては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。

■乗った人に関するデータ:乗員データをもとに効率的で快適なドライブや移動サービスを提供

コネクテッドサービスが普及する今後、エンターテインメントをはじめさまざまなアプリケーションが車内で利用されるようになる。ドライバーの運転状況や車両のメンテナンス情報などの分析や通知機能などがすでに実用化されており、自動運転の導入を待たずしてすでにさまざまなデータのやり取りが行われている。

自動運転車においては、こうしたデータに加え、より快適で効率の良いドライブの提供を目的に、乗員の趣味や体格、年齢、目的地、乗車日時など趣向や動向をデータ化することも考えられる。乗員の好みに合った音楽を自動で流し、体格に合わせたシートポジションを自動で調整し、趣向に合った目的地を提案するなど、さまざまな機能・サービスが誕生しそうだ。

また、パーソナルスペースと化した車内を、娯楽やワークスペースなどに活用することも想定される。それぞれのケースに合わせたデータの提供や収集を行っていくことなども求められそうだ。

また、自動運転タクシーやバスなどにおいては、乗客のニーズをより的確に把握するため乗降データなどをビッグデータ化することも考えられる。こうしたデータをMaaS(Mobility as a Service)に活用することで、より効率的で効果的な移動サービスが実現するものと思われる。

■セキュリティに関するデータ:パソコンをはるかにしのぐセキュリティ機能で膨大なデータが必須に

自動運転において重要性を増すセキュリティ関連のデータも、膨大な量に上るだろう。悪意あるハッカーの侵入を防ぐサイバーセキュリティ面では、パソコンのセキュリティを上回る高度な対策が必要となる。

パソコンのセキュリティソフトは、バックグラウンドで常にメモリを独占し、定期的に更新されることでその役目を果たしているが、自動運転車の場合、通信プロトコルやソフトウェア、モバイルデバイス、アプリ、クラウド経由など、さまざまな侵入経路が想定される。自動運転車のハッキングは直ちに命に危険を及ぼすため、是が非でも防がなければならないのだ。このセキュリティに要するデータ量は、パソコンをはるかにしのぐものになるだろう。

また、過去に受けた攻撃などの履歴も蓄積し、検証・分析に向け共有を図る必要もある。

■ドラレコ的データ:イベントデータレコーダーなど記録装置の搭載義務化へ

自動運転車が事故を起こした際の責任の所在を明確にするため、設置が義務付けられるのが記録装置だ。事故が発生する前後において、車内外の様子を映し出して記録するドライブレコーダーをはじめ、自動運転システムの作動状況などを的確に把握するEDR(Event Data Recorder/イベントデータレコーダー)などの搭載が求められる。

走行中、常にデータを記録し続けるため、既存のドラレコ同様上書きを繰り返す仕組みが採用されそうだが、耐久性の高いストレージが求められることになる。

また、こうしたデータを遠隔でやり取りすることで、物流や商用サービスなどの稼働状況を把握することも可能となるため、取り扱うデータ量はさらに増えそうだ。

■V2Xによるデータ:障害物情報を後方車両に通信したり

自動運転社会では、上記に挙げたさまざまなデータが5G以外でもV2V(車車間通信)やV2I(路車間通信)によってやり取りされる。

道路上の障害物情報を後方車両に通信したり、交差点の情報をインフラから取得したりするなど、その都度さまざまなデータをやり取りし、自動運転の安全性を高めていく。

【参考】自動運転におけるデータ通信については「自動運転とデータ通信…V2IやV2V、5Gなどの基礎解説」も参照。

■【まとめ】自動車がハイテク機器に コンピュータ機器の重要性が増大

自動運転車が多くのデータを取り扱うことが分かった。機能の高度化が進めば進むほど、必要とするデータ量もさらに増えていくことだろう。

自動運転車が普及すると、製品としての自動車のイメージそのものが変わっていく。格付けは内燃機関の能力などではなく、搭載する自動運転システムをはじめとするコンピューター類の能力を重視する傾向が強まっていくはずだ。

将来の自動運転車は「自動車」のカテゴリーから「ハイテク機器」のカテゴリーに移行し、パソコンやスマートフォンなどと同様「データのかたまり」に近い産業製品になっていくイメージだ。

そう考えると、パソコン同様ストレージをはじめとした記録装置やメモリなど、データ処理や記録に関するコンピューター機器類の重要性が自動車分野においてもますます増していくことになるだろう。

>>特集目次

>>特集第1回:自動運転車のデータ生成「1日767TB」説 そのワケは?

>>特集第2回:桜前線も計測!”データ収集装置”としての自動運転車の有望性

>>特集第3回:自動運転車の最先端ストレージに求められる8つの性能

>>特集第4回:【対談】自動運転実現の鍵は「車載ストレージ」の進化にあり!

>>特集第5回:自動運転車と「情報銀行」の意外な関係性

>>特集第6回:自動運転の安全安心の鍵は「乗員のリアルタイムデータ」にあり

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