車両から集めたデータを使ったビジネスモデルが昨今注目を集めつつある。自動車がネットワークとつながる時代になり、車載センサーなどから集めた情報をクラウドなどに集積していけば、そのデータの二次利用で新たな付加価値を生み出すことが可能になってくるからだ。
こうした事業に取り組んでいるのが、900万ダウンロードの実績を有するタクシー配車アプリの最大手JapanTaxiだ。タクシーが取得する道沿いの情報や花粉の飛散状況などのデータの活用に向け「JapanTaxi Data Platform」を立ち上げ、将来は自動運転タクシーにセンサーを搭載することも視野に入れる。
そこで今回はこうしたデータ活用ビジネスに取り組むJapanTaxiと、そのデータの保存に欠かせない車載ストレージを販売する米半導体メモリー大手ウエスタンデジタルとの対談の模様をお届けする。
JapanTaxi側からは最高技術責任者(CTO)の岩田和宏氏、ウエスタンデジタル側からは車載用ストレージ部門のマーケティングディレクターであるラッセル・ルーベン氏にご登場いただく。
記事の目次
【ラッセル・ルーベン氏プロフィール】ウエスタンデジタルのオートモーティブ向け組み込みストレージを統括する製品マーケティングディレクター。日本のみならずワールドワイドの自動車市場に注力した製品開発と展開、およびGTM戦略の責任者。
【岩田和宏氏プロフィール】いわた・かずひろ 東京工業大学大学院を卒業後、大手セキュリティ会社で画像センサーの開発に携わる。外資系ベンチャー、スマホ系ベンチャー、mixi、ストリートアカデミーCTOとして活躍後、JapanTaxiに入社。現在は配車アプリなどの開発を統括し、JapanTaxiの車載広告タブレットを展開する株式会社IRISの取締役CTOも兼務している。
■JapanTaxi:全国7万台のタクシー活用し、データビジネスを展開
自動運転ラボ 本日は宜しくお願い致します。まず早速ですが、JapanTaxiさんのデータ活用・解析などに関する取り組み内容をご紹介いただけますか?
岩田氏 我々の事業はタクシー配車アプリ「JapanTaxi」アプリが基盤となっています。現在は全国約900社のタクシー会社と連携しており、加盟タクシー車両は約7万台に上ります。タクシー会社には、アプリ導入だけでなく、マルチ決済に対応する決済機とデジタルサイネージを兼ね備えた「JapanTaxiタブレット」や、タクシー専用の「JapanTaxiドライブレコーダー」など、様々なソリューションを提供しています。
こういったハードウェアを提供するだけでなく、今後タクシー会社の新たな収益源を作っていくことを目的に、タブレットを活用した見守りサービスや、ドライブレコーダー画像の解析など、新たなデータビジネスの創出に取り組んでいます。
【参考】関連記事としては「【インタビュー】JapanTaxiの自動運転時代の戦い方とは 岩田和宏CTOに聞く」「JapanTaxi、モビリティ研究開発部を発足 タクシーから得るデータを有効活用」も参照。
■ウエスタンデジタル:車載ストレージ領域に注力、3D NAND製品も
自動運転ラボ では次にウエスタンデジタルさんの自動車に関する取り組みをご紹介お願いします。
ルーベン氏 ウエスタンデジタルは2002年に車載用ハードディスクを作りまして、2015年から車載用フラッシュストレージも作っています。車載用フラッシュストレージに関して言えば、まずナビゲーション用の地図データなどを保存する需要が増え、最近では自動運転関連のニーズも増えてきました。
コネクテッドカーの開発にも各メーカーが力を入れる中、1台の自動車に搭載するストレージの必要容量は2022年には1TB(テラバイト)を超えると言われていましたが、もう少し早くなるのではないかと思います。今後もウエスタンデジタルとしてはこうしたニーズに対応するため、車載用ストレージの開発に力を入れていく方針です。
ちなみに弊社が昨年10月に発表した「iNAND AT EU312」や今年5月に発表した「iNAND AT EM132」では、ストレージ容量を飛躍的に増やすことやデータの書き込み速度の高速化が可能な「3D NAND」という技術を初めて採用しました。
【参考】関連記事としては「自動運転やコネクテッドカー、革新の鍵は「車載グレードの大容量ストレージ」だ 性能・信頼性の向上も必須」も参照。
■事故の記録でも自動運転車の走行でも、ストレージの信頼性が重要
自動運転ラボ ドライブレコーダーの中にも当然ストレージが使われていますが、ウエスタンデジタルさんが関わられている部分はありますか?
ルーベン氏 現在のドライブレコーダーでは量販店などで手に入るSDカードなどがストレージとして使われていることが多いです。ただこれらの民生品は写真画像の記録用として作られているため、ドライブレコーダーによるビデオ映像の記録にどれくらい耐久性があるかという視点で考えたとき、懸念もあります。
そこで弊社はビデオ映像を長時間録画することに適した産業用SDカードも製造し、ドライブレコーダー向けに出荷しています。
岩田氏 ドライブレコーダーのメーカーさんと設計の段階で打ち合わせをするようなこともあるのですか?
ルーベン氏 はい、弊社の技術スタッフとメーカー様で効率の良いデータの書き込み方などについて打ち合わせし、耐久性を高める工夫などをしています。肝心なときにSDカードが壊れ、必要な映像が残っていないという状況は避けなければなりません。
岩田氏 JapanTaxiもタクシー会社さん向けに2013年よりドライブレコーダーを数万台出荷していますが、2~3年後に「映像が録画されてない」というクレームが来ることが多かったですね。その多くの原因がSDカードの故障でした。
自動運転ラボ 自動運転の時代にはカメラで撮影した映像を使って無人運転を実現しますから、その映像データの解析を下支えするストレージの故障は交通事故に直結します。こうしたことからも、より高い耐久性がストレージに求められてくる時代になりそうですね。
ルーベン氏 おっしゃる通りです。弊社としては次世代モビリティが普及する時代を見据え、不具合や故障が許されない環境を前提に、信頼性の高いストレージ製品を作ることに力を入れています。
【参考】関連記事としては「【インタビュー】「大容量×信頼性」、車載業界屈指の半導体メーカーが見据える自動運転の未来」も参照。
■ドラレコカメラを活用して「みまもり社会」づくり
自動運転ラボ タクシーでデータを集めてビジネスを展開されているJapanTaxiさんから見て、車載ストレージに求める要件はありますか?
岩田氏 まず容量は当然たくさんあればあるほど有り難いです。一例を挙げると、事件の捜査をしている警察署からの要請で「何月何日の映像はあるか」と問い合わせが来るときがありますが、容量が多ければ多いほど過去の映像が残されているということになり、協力しやすくなります。あとは、その記録したデータを確実に保持できる耐久性はやはり重要だと思います。
自動運転ラボ ドライブレコーダーの画像が警察の捜査に使われるというのは知らなかったですね。
岩田氏 実は私がタクシーのドライブレコーダーのネットワーク化を目指した理由としては、ネットワークにつながった「防犯カメラ」としてドライブレコーダーを活用し、社会を見守る仕組みを作りたいという想いがありました。
さきほど申し上げたように、防犯カメラの映像が犯罪の検挙につながる事例は多いのですが、現在は捜査している警察官が足を使ってハードディスクなどをチェックして回っている状態です。もしタクシーのドライブレコーダーの映像をアプリで簡単にクラウドからチェックできれば警察の捜査も効率が良くなり、犯罪の検挙率の向上にもつながると思います。
ルーベン氏 刑事ドラマに出てきそうな取り組みですね。やはりタクシーは台数が多く密度が細かいので、プラットフォームとして強い部分ですよね。
岩田氏 そうですね、例えば夜の銀座などを見るとタクシーがすごく多いじゃないですか。そこはもっと活用できるのかなと思います。タクシーに360度カメラを装着した検証などにも取り組んでいます。
自動運転ラボ 「タクシーにカメラがついている」ということが一般的になれば犯罪自体の抑止にもつながりそうですね。ただ、日本だとプライバシーに厳しい事情などもあり、そことの線引きが難しそうですね。
岩田氏 おっしゃるように日本だとどうしても「監視社会」と捉えられてしまう事が多いのですが、タクシーが走っているだけで安心につながる「みまもり社会」が作れたらいいなと考えています。
■広告や不動産など、業界の垣根を越えデータ提供
ルーベン氏 ドライブレコーダーの映像から取れるデータは、ほかにどんな活用方法がありますか?
岩田氏 例えば「昨日まであった街路樹が無くなっている」などの情報は、自動運転で必要になる3D(3次元)マップを作る際に重要になります。このような情報をゼロから集めようとすると時間も人件費もかかりますが、タクシーは街中を24時間365日走っていますので、鮮度の高い情報を素早く集めることができます。
ルーベン氏 そうしたデータは御社が解析して活用できるような状態に加工してから提供するのですか?
岩田氏 弊社で分析もしますがそのまま利用したいというお客様もいます。基本的には弊社のAIチームが具体的なテーマに沿って画像からデータを抽出する方法を研究しています。
例えば道路際にある看板やサイネージボードなどのデータは広告代理店の方の参考になりますし、カーテンがかかっていない空き部屋の情報は不動産業界で活用できることもあります。あとは、路肩に停まっている大型観光バスが原因となる交通渋滞を自動で検知できないか、などですね。
ルーベン氏 渋滞情報はナビゲーションのマップデータを作っている会社さんでも活かせそうですね。
岩田氏 都内だったら渋滞予測精度はかなり高いと思います。
自動運転ラボ その技術は実際にユーザーに提供されているのですか?
岩田氏 今はまだB2B(企業間取引)的なサービスなのですが、商用化してコンシューマー向けに提供していきたいですね。ほかにはパーキングの空き情報を読み取って空車情報を会社に関係なく一元的に調べられるようなリアルタイムマップデータ事業にも取り組んでいます。
ルーベン氏 それは便利なサービスですね!こうしたデータを活用したサービスを下支えしていくためにも、弊社としては車載であることを考えて動作温度範囲の幅広さにも対応した上で、耐久性や信頼性が高いストレージ製品の開発に力を入れていれていきたいと思います。
自動運転ラボ 本日は対談どうも有り難う御座いました!
■【取材を終えて】安全・安全な自動車社会の実現に車載ストレージの力は不可欠
ドライブレコーダーで事故の瞬間を確実に記録・保存するためにも、JapanTaxiが構想する「みまもり社会」の実現のためにも、そして自動運転車が事故を起こさないためにも、信頼性の高い高品質な車載ストレージの必要性は今後ますます増す。
従来のタクシー配車事業に留まらずさまざまなアイデアを打ち出すJapanTaxiの事業展開と、ストレージ大手のウエスタンデジタルの製品開発の動向に、今後も注目していきたい。
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