新型コロナウイルスの蔓延を機に注目度が高まっているコンタクトレス配送(非接触配送)。自動運転技術を活用し、配送に人の手を介さないことで人と人との直接的な接触機会を減らし、感染拡大を図るものだ。
米国や中国などで導入が進むほか、日本国内においても成長戦略を議論する「未来投資会議」で議題に上がり、早期実現に向けた取り組みが加速している。早ければ、2020年中にも公道実証環境が整うことになる。
社会実装待ったなしの自動運転配送サービスだが、実現に向けどのようなデータが必要になるのか。また、どのようなデータを収集し、事業をより効果的なものに変えていくべきか。今回は、自動運転配送サービスに関わる各種データを解説していく。
記事の目次
■歩道マッピングデータ
自動運転による宅配車両は、乗用車のように道路上を走行する車両と、歩道などを低速で走行することを想定した小型ロボットタイプに大別できる。
前者は、一般的な自動運転車が使用する高精度3次元地図やダイナミックマップを活用するが、後者は新たに歩道のマッピングを行い、地図データを生成する必要がある。
車道に比べ歩道は複雑な環境が多く、街路樹や花壇、電柱、進入禁止のポールなど、障害物となり得るさまざまなモノが存在するほか、路面店の看板などの動的情報も少なくない。
また、配送ロボットはホイールが小さめでパワーも低いケースが想定されるため、細かな段差や勾配、路面のくぼみなど、可能な限りデータ化しておく必要もありそうだ。
最終的には、ダイナミックマップにおける動的情報、準動的情報、準静的情報、静的情報のように、更新頻度別にリアルタイムで情報をレイヤーするマップシステムの開発が望まれる。歩道版ダイナミックマップだ。走行中のロボットに搭載されたLiDAR(ライダー)やカメラのデータを収集し、リアルタイムでマップを更新していくことも考えられる。
こうした歩道マッピングデータの構築において、高速道路の高精度3次元地図を作製したダイナミックマップ基盤のような業界連携企業・組織体の結成を目指す動きは今のところ見られない。レベル4自動運転移動サービスのように、サービスを展開するエリアごとにマッピングを図ることになりそうだが、場合によっては、自動運転向けのマッピングデータを商品化するビジネスも出てきそうだ。
車道のマッピング関連データはダイナミックマップ基盤以外でも商品化され始めており、自動運転開発を手掛けるZMPが2020年7月に首都高速道路全線(約327キロ)走行時のカメラ映像・LiDARデータ・車両情報などで構成される自動運転AI用データセットの販売開始を発表している。
歩道データは広範かつエリア特性が強いため、今後エリア別のデータセットを作製・販売する動きが出てきてもおかしくなさそうだ。
【参考】ダイナミックマップについては「自動運転に必須の3Dマップ、どんなデータが集積されている?(深掘り!自動運転×データ 第23回)」も参照。
自動運転に必須の3Dマップ、どんなデータが集積されている?(深掘り!自動運転×データ 第23回) https://t.co/lBJm56pVyz @jidountenlab #自動運転 #3Dマップ #データ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) May 21, 2020
■駐停車可能エリア・スペース情報
道路上を走行する自動運転配送車の場合、有人配送車両と同様に駐停車可能なスペースが絶対的に必要となる。オフィス街などビルが立ち並ぶエリアでは専用の駐停車場や荷物の積み下ろしスペースなどが設けられている場合もあるが、市街地や地方都市の商業エリアなどではスペースを探す必要がある。
有人の場合、ドライバーが駐停車するスペースを柔軟に確保するが、無人の配送車両はそうはいかない。こうした際に重宝しそうなのが、駐停車可能スペースの情報だ。
無人配送サービス導入初期は、安全面からエリア内に所定の駐停車スペースを設け、荷物の受け渡しを行うことになる可能性が高いが、サービスの高度化を図るためには、受取人の移動を最小限にしなければならない。そのためには、有人配送のドライバーのように柔軟に車両を駐停車するスペースを見つける仕組みが必要となる。同様に、歩道を走行する配送ロボットも、通行人の邪魔にならない場所に駐停車する必要がある。
マッピングの際に道路幅や通行量などもデータ化し、停めやすい場所や、駐停車を避けなければならない場所などをデータベース化するのが理想だが、運用しながらこうしたデータを収集・蓄積していくのも重要だ。
駐停車禁止エリアではないものの、込み入った市街地で道幅が狭い道路はなるべく停車を避けるなど、一定の駐停車ルールのもと安全や円滑な交通の確保、そして利用者の利便性を両立させる運用が求められることになりそうだ。
■住所データ
宅配に必須となるのが、届け先の住所データだ。受取人の個人情報は必ずしも必要ではないが、どこに配達しなければならないのか、マップと住所を番地まで正確に突合する必要がある。
所定の届け先までたどり着けば、後はスマートフォンや暗証番号などで荷物を受け渡しするのみのため、「場所」に関するデータがとにかく重要となる。導入初期は各住所をもとに最寄りの受け渡しスポットや指定受け渡しスポットまで配達することなども考えられる。
■各宅配業者とのデータ連携
自動運転配送は、ヤマト運輸や佐川急便といった宅配業者が個別に事業化するとは限らない。特定のエリアにおいて各宅配業者と提携し、一括して小型の配送ロボットでラストワンマイルを担うビジネスが登場する可能性もある。
各宅配業者の配送ステーションや自前の配送ステーションに送られてきた荷物を、小型ロボットで各戸へ届けるシステムだ。マッピングデータや住所データなどエリア特有の情報を要する小型配送ロボットは、こうしたローカルビジネスが成立しやすいと考えられる。
その際、各宅配業者とデータ連携をする必要がある。各社がどのような形式で宅配情報をデータ化しているかは分からないが、フレキシブルに対応可能なデータフォーマットやAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を活用するなどし、データ共有を図ることが望まれる。
■地域の小売業データ
宅配コストを大幅に引き下げる可能性がある自動運転配送サービスは、宅配業者のみならず各エリア内の小売業者も取引先になり得る。
スーパーやドラッグストア、コンビニなど、日常的な買い物もインターネット上で注文し、最寄り店舗から届けてもらう小売宅配需要が伸びる可能性が高い。送料が安くなればなるほど通販の敷居は下がり、歯ブラシ1本から配達を頼む客が増えるからだ。エリア内のスーパーなどから配送する場合、配達時間も短いため生鮮食品など取り扱い可能な商品も増加するだろう。小型配送ロボットにおけるローカルビジネスが本領発揮する部分でもある。
こうしたケースでは、各小売店に関するデータや取引データなども蓄積される。どういった商品がどの時間帯に多く注文されるかなど、あらゆるデータを分析することで新たなマーケティングの機会を得ることができる。
自動運転配送サービスがもたらす小売革命は、ローカルでも真価を発揮するのだ。
【参考】自動運転による小売革命については「送料が10分の1に…大本命!「自動運転×小売」の衝撃 世界の取り組み状況まとめ(特集:自動運転が巻き起こす小売革命 第1回)」も参照。
【解説】送料が10分の1に…大本命!「自動運転×小売」の衝撃 生鮮食品が宅配で? https://t.co/3Xe0ED7bsL @jidountenlab #自動運転 #小売 #特集
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 28, 2019
■ルート最適化やフリートマネジメントに関わるデータ
自動運転配送サービスでは、配送元と配送先を結ぶルートを最適化するシステムやフリートマネジメントもコア技術となる。車道を走行する自動運転配送車両は複数の荷物を扱うケースが一般的となるため、効率的に配送先を回るルーティングが求められる。
一方、1カ所から数カ所を巡ることが想定される小型配送ロボットは、複数台のロボットをいかに効率的に回転させるかといったフリートマネジメントが強く求められる。
曜日や時間帯、配送元などのデータを蓄積するとともに、車道や歩道の混雑状況や通行止め情報なども加味し、最適なルーティングとフリートマネジメントを構築していくことが重要となる。
■不在データ
有人の宅配において問題視されている再配達問題は、自動運転配送においても当然解決すべき課題となる。配送ロボットが配達先に到着後、誰も荷物を受け取らなければロボットも待ちぼうけとなり、大きなタイムロスとなる。
スマートフォンなどを介して配送の注文を受けるためリアルタイムで連絡を取りやすく、有人配送に比べれば受取人不在は減少するものと思われるが、決してゼロにはならないはずだ。こうした不在データを蓄積し、受取人別で不在になりやすい時間帯などをデータ化していくことも、配送効率化に向けた取り組みとして有用である。
なお、理想論として「宅配ロッカー」と連動したシステムの構築が挙げられる。自宅前、あるいは所定の宅配ロッカーに配送ロボットが人の手を介さずに荷物を預けるシステムだ。このシステムが確立されれば再配達問題は解消され、各ロボットも予定通りに配達に回ることが可能になるだろう。
■【まとめ】無人配送市場はデータとともに肥大化
従来人が担っていたタスクを無人化・ロボット化するということは、図らずともタスクそのものがデジタル化・データ化されることになる。宅配にまつわるあらゆる情報のデジタル化が進行することで、各情報が蓄積・解析すべきデータと化し、有効活用されていくことになるのだ。
また、歩道版高精度3次元マップやダイナミックマップの構築をはじめ、ルーティングやフリートマネジメントを図るシステム開発などが新たに商機を迎える可能性があり、新たな市場を形成していくことも想定される。
国内においては開発プレーヤーが少ないのが現状だが、大手宅配事業者と連携したローカルビジネスの可能性なども踏まえると、新規参入の余地は想像以上に大きいのかもしれない。
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