コロナ禍が起きてから約半年が過ぎ、最初の秋を迎えつつある2020年9月。自動運転分野では米NVIDIAによる英ARMの買収や米Luminarの上場など、ビッグニュースが飛び交っている。国内では、トヨタ系の新ファンド誕生をはじめ、MaaS関連の取り組みが多くピックアップされている。
紅葉が徐々に深まっていくように、社会実装期を迎えた自動運転も徐々に深まりを見せている2020年9月に10大ニュースを振り返っていこう。
記事の目次
- ■東京メトロのMaaSアプリ「my!アプリ」が登場!リアルタイムの運行情報など確認可能に(2020年9月3日付)
- ■「世界で戦う土俵ができた」…自動運転OS開発のティアフォー、SOMPOから追加出資で累計175億円の資金調達(2020年9月3日付)
- ■注目度が急上昇!「MaaS×不動産」最新のビジネス事例まとめ(2020年9月4日付)
- ■年内上場へ!LiDAR企業の米Luminarとは?「自動運転の目」を開発(2020年9月5日付)
- ■中型自動運転バス、実証中に柵の支柱と接触 産総研が発表、ケガ人なし(2020年9月5日付)
- ■自動運転宅配ロボットのNuro、コロナ禍でビジネス規模300%成長(2020年9月7日付)
- ■いまMaaSが最も熱い都市は「横浜」!?トヨタも独自アプリ展開、市のプロジェクトも(2020年9月7日付)
- ■自動運転ベンチャーに資金調達の大チャンス!トヨタが8億ドル規模「Woven Capital」発表(2020年9月16日付)
- ■観光型MaaS「Izuko」、実証フェーズ3で機能・サービス大幅拡充(2020年9月17日付)
- ■自動運転の「欧州vs米国」に影響?英Arm、ソフトバンクGからNVIDIAへ(2020年9月19日付)
- ■【まとめ】サービス実用化に向けた資金調達も活発に
■東京メトロのMaaSアプリ「my!アプリ」が登場!リアルタイムの運行情報など確認可能に(2020年9月3日付)
東京メトロが既存のアプリをリニューアルし、MaaS機能を実装した「東京メトロmy!アプリ」を公開した。東京における大都市型MaaSの取り組み「my! 東京MaaS」の一環だ。
第1弾として、鉄道・バス・タクシー・シェアサイクルを含むマルチモーダルな経路検索に対応するほか、タクシーアプリ「JapanTaxi」「S.RIDE」やシェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」「bike share service」と連携し、経路検索の結果を引き継いで各アプリを起動するなど、スムーズな移動体験を実現する。
また、新アプリ公開を機に「混雑見える化」の取り組みも拡大し、東京メトロ全9路線について、列車内の混雑状況を全342区間で、改札口の混雑状況を同社が管理する全171駅においてアプリで確認できるようになる。
地下鉄系では、大阪メトロ(大阪市高速電気軌道)も中期経営計画において先駆的な都市型MaaSの構築を盛り込むなど動きが活発化している。都市型MaaSに欠かせない地下鉄の取り組みに期待だ。
【参考】詳しくは「東京メトロのMaaSアプリ「my!アプリ」が登場!リアルタイムの運行情報など確認可能に」を参照。
■「世界で戦う土俵ができた」…自動運転OS開発のティアフォー、SOMPOから追加出資で累計175億円の資金調達(2020年9月3日付)
自動運転OS「Autoware」の開発や普及に取り組むティアフォーがSOMPOホールディングスと資本提携を交わし、累計資金調達額が175億円に達したことを発表した。
両社はこれまで、自動運転システムの遠隔監視・操作を支援するコネクテッドサポートセンターや、インシュアテックソリューション「Level IV Discovery」の共同開発などに取り組んできた。2019年6月には、損保ジャパンを引受先とする第三者割当増資も実施している。
記事では、ティアフォー創業者兼CTOの加藤真平氏にオンラインインタビューし、資本提携の背景やねらい、今後の取り組みなどについて話を伺っている。
「自動運転の民主化」を旗印に掲げ、世界を股に自動運転の社会実装を推進するティアフォー。今回の提携を機に同社の取り組みはますます加速しそうだ。
【参考】詳しくは「「世界で戦う土俵ができた」…自動運転OS開発のティアフォー、SOMPOから追加出資で累計175億円の資金調達」を参照。
■注目度が急上昇!「MaaS×不動産」最新のビジネス事例まとめ(2020年9月4日付)
MaaSの社会実装を目指す取り組みが各地で進められる中、モビリティにさまざまなサービスを組み合わせて価値を高める取り組みも進展している。その急先鋒の1つである不動産にスポットを当て、MaaS×不動産の取り組みを紹介する記事だ。
都心における開発エリアやリゾート地、自社マンション、郊外のニュータウンなどでMaaS導入の効果を探る取り組みをはじめ、不動産サブスクリプションサービスと組み合わせる取り組みなども登場しているようだ。
移動が欠かせない社会生活において、自宅を含め移動先となる各種不動産の組み合わせは非常に相性が良い。不動産を動産化する活動などとともに今後の進化に要注目だ。
【参考】詳しくは「注目度が急上昇!「MaaS×不動産」最新のビジネス事例まとめ」を参照。
■年内上場へ!LiDAR企業の米Luminarとは?「自動運転の目」を開発(2020年9月5日付)
LiDAR開発を手掛ける米スタートアップのLuminar(ルミナー)が、特別買収目的会社(SPAC)との合併によって米ナスダック市場に上場する見通しのようだ。トヨタなども出資する同社の汎用向け高性能LiDARは、自動運転レベル3の実用化によって大幅な需要増が見込まれるため、大きな期待と注目が集まるところだ。
投資会社の米The Gores GroupのGores Metropoulosと合併し、ナスダックへ上場する。株式市場で上場企業や商品を識別するため付けられるティッカーシンボルは「LAZR」。合併後の会社は約29億ドル(約3200億円)の企業価値と約34億ドル(約3700億円)の株式価値を持つという。
LiDAR関連では、大御所の米Velodyne Lidar(ベロダインライダー)も2020年7月に米Graf Industrial Corp.と合併交渉を進めていることを発表している。Grafは9月の株主会議で合併を承認し、ニューヨーク証券取引所からナスダックに移転上場する方針のようだ。
LiDAR開発を先導し続けるベロダインと、開発競争を勝ち抜いてきたルミナーの上場。特にスタートアップの上場はLiDARが開発段階から本格的な市場化へステップアップしたことを意味する。LiDARは新興勢力が多い開発分野でもあり、他社の動向にも注目だ。
【参考】詳しくは「年内上場へ!LiDAR企業の米Luminarとは?「自動運転の目」を開発」を参照。
■中型自動運転バス、実証中に柵の支柱と接触 産総研が発表、ケガ人なし(2020年9月5日付)
産業技術総合研究所らが滋賀県大津市内で実証中の自動運転バスが歩道の柵に接触する事案が発生した。自動運転で旋回中、曲がり切れないと判断したドライバーが手動運転に切り替えた後に発生したもので、ボディから張り出したセンサー部分が接触した。けが人などは出ていない。
バスは一定レベルの自律走行が可能なシステムを搭載しているが、セーフティドライバーが常時監視する自動運転レベル2として乗客を乗せて運行実証を行っていた。現場は旋回しにくい形状をした丁字路で、転回の完了前に歩道柵との間隔が狭いと判断したドライバーが手動運転に切り替え、自らの操作により接触回避できると判断して微速前進したが結果として接触した。
ドライバーの判断ミスが主要因で、産総研は対策として「注意箇所」区間を設定し、当該区間を手動運転に切り替えることとしている。
非常に軽微な案件だが、こうした軽微なものも含めインシデントとして積極的に情報を公開・共有することで各社の自動運転システムの安全向上につなげることができる。各社の取り組みに引き続き期待したい。
【参考】詳しくは「中型自動運転バス、実証中に柵の支柱と接触 産総研が発表、ケガ人なし」を参照。
■自動運転宅配ロボットのNuro、コロナ禍でビジネス規模300%成長(2020年9月7日付)
コロナ禍で各種ロボット技術の社会実装への関心が高まる中、宅配ロボット開発を手掛ける米スタートアップNuro(ニューロ)がビジネスを急拡大しているようだ。
同社はこれまで、スーパーマーケット大手のウォルマートやクローガー、宅配ピザチェーンのドミノ・ピザなどとパートナーシップを結び、実証や研究などを行ってきた。
コロナ禍となった2020年に入っても、4月にカリフォルニア州から公道走行許可を受け、5月には薬局チェーン大手のCVS Pharmacyと提携しパイロットプラグラムに着手している。コンタクトレス配送を武器に、コロナ患者収容施設などで医薬品の非接触配送なども行っている。
こうしたさまざまな取り組みは、コロナ収束後も実績として残り、ビジネス拡大に貢献することは間違いない。社会の一員としての使命を果たし、社会に必要な存在として認められていく好例だ。
【参考】詳しくは「自動運転宅配ロボットのNuro、コロナ禍でビジネス規模300%成長」を参照。
■いまMaaSが最も熱い都市は「横浜」!?トヨタも独自アプリ展開、市のプロジェクトも(2020年9月7日付)
日産のお膝元として、日産×DeNAの自動運転サービス「Easy Ride」の実証が行われている神奈川県横浜市。自治体として次世代技術の導入に意欲的で、現在はMaaSの取り組みも盛んに行われている。
記事では、東急電鉄と市が進める郊外型MaaS実証実験や、MONET Technologiesのオンデマンドバスの実証実験、NTTドコモらが取り組むAI運行バスの実証実験、トヨタが主導するMaaS「my route」の導入などに触れ、横浜における各種MaaSの取り組みが中核都市のひな型になる可能性に言及している。
横浜自体が大都市だが、その中でも郊外などのエリア分けは可能だ。また、東京からのアクセスや観光地としての特徴を生かしたMaaS展開なども考えられる。大都市型、郊外型、観光型などさまざまな特性を生かすことができる「横浜型MaaS」が、国内政令指定都市など地域の中核都市におけるMaaS実装の参考になる可能性は十分考えられそうだ。
【参考】詳しくは「いまMaaSが最も熱い都市は「横浜」!?トヨタも独自アプリ展開、市のプロジェクトも」を参照。
■自動運転ベンチャーに資金調達の大チャンス!トヨタが8億ドル規模「Woven Capital」発表(2020年9月16日付)
国内外の自動運転関連ベンチャー・スタートアップに朗報だ。TRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)が運用総額8億ドル(約880億円)のグローバル投資ファンド「Woven Capital, L.P(ウーブン・キャピタル)」の設立を発表した。投資を通じて新体制移行後の新事業開発力を強化する構えだ。
同社は2021年1月、自動運転技術の開発、実装、市場導入を担うウーブン・コアと事業領域を超えた新たな価値の創造を図るウーブン・アルファを事業会社とする持株会社ウーブン・プラネット・ホールディングスの新体制へ移行する予定で、革新的なテクノロジーやビジネスモデルを開発している成長段階の企業に投資することで、対象企業とともに自社の事業やサービスの成長をサポートしていく。
トヨタ関連ではこのほか、アーリーステージの企業を投資対象とする「Toyota AI Ventures(TAIV)」やトヨタが出資する未来創生ファンドなどがある。ウーブン・キャピタルはTAIVの投資先をはじめ、他のVCファンドにも投資していく方針としている。
【参考】詳しくは「自動運転ベンチャーに資金調達の大チャンス!トヨタが8億ドル規模「Woven Capital」発表」を参照。
■観光型MaaS「Izuko」、実証フェーズ3で機能・サービス大幅拡充(2020年9月17日付)
東急やJR東日本らが取り組む観光型MaaS「Izuko」の実証実験が新たなフェーズに突入するようだ。11月からサービスエリアの拡大や商品数の拡充、機能改善を実施し、社会実装に向けた取り組みを進めていく。
Izukoは2019年4~6月をフェーズ1、2019年12月~2020年3月をフェーズ2とし、交通デジタルフリーパスや観光施設のデジタルパスの商品化をはじめ、鉄道や路線バス、レンタカー、観光施設などの予約や決済を行うMaaSアプリの開発・普及を進めてきた。
2020年11月から2021年3月予定のフェーズ3では、デジタルフリーパスやデジタルパスの増加やサービスエリアの拡大などを図るほか、連携アカウントや決済手段なども拡充する。
アプリのダウンロード数なども好調なようだ。明確にフェーズ分けし、利用者の声を反映しながら課題解決やサービス拡充を図っていくのは、MaaSならではの進化の形態なのかもしれない。
【参考】詳しくは「観光型MaaS「Izuko」、実証フェーズ3で機能・サービス大幅拡充」を参照。
■自動運転の「欧州vs米国」に影響?英Arm、ソフトバンクGからNVIDIAへ(2020年9月19日付)
半導体業界を揺るがすビッグニュースが飛び込んできた。ソフトバンクグループが傘下の英半導体大手Arm(アーム)を米大手のNVIDIA(エヌビディア)に売却することを発表したのだ。
ソフトバンクグループは2016年、ARMを総額約240億ポンド(約3.3兆円)で買収し、日本企業による過去最大の買収案件として大きな話題となったのも記憶に新しいところだ。一方、同年NVIDIA株も約3000億円分取得しており、こちらは2018年度に売却している。
今回の売却にあたっては、Arm単独での再上場とNVIDIAとの組み合わせについて検討した結果、後者のほうがArmの可能性をより引き出すと判断した。世界で最も普及しているコンピューティングプラットフォームを提供するArmと、AIコンピューティングの第一人者であるNVIDIAが組み合わさることで、世界をリードするコンピューティングカンパニーが誕生するとしている。
NVIDIAの企業価値は、2020年夏にライバルの米インテルや韓国サムスン電子を抜き、1位の台湾TSMC(台湾積体電路製造)と肩を並べている。ARM買収によってさらに価値が向上すれば、名実ともに業界のリーディングカンパニーとなりそうだ。
自動運転分野への注力も際立っており、2020年代にさらなる飛躍を遂げるか大きな注目が集まる。
【参考】詳しくは「自動運転の「欧州vs米国」に影響?英Arm、ソフトバンクGからNVIDIAへ」を参照。
■【まとめ】サービス実用化に向けた資金調達も活発に
NVIDIAによるARM買収はまさしくビッグニュースで、半導体業界の地図が大きく塗り替えられる可能性が高い。Luminarの上場もLiDAR市場の本格化を予見させるものであり、引き続き注目を集めそうだ。
国内でも、ティアフォーの資本提携やウーブン・キャピタルの設立など、自動運転分野で活発に資金が動いているのがよくわかる。技術の社会実装期を迎え、研究開発における資金調達に加えサービス実用化に向けた資金調達も今後ますます活発化しそうだ。
今後もコロナ禍の暗い空気を吹き飛ばすようなビッグなニュースに期待したい。
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大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)