自動運転時代はクラウドサービス企業の成長期(深掘り!自動運転×データ 第12回)

AWS、GCP、Azure…注目の自動運転向けサービスは?



膨大なデータが生成され、さまざまな用途で活用される自動運転時代。各車両に大容量・高速処理が可能なストレージなどの機器を搭載する必要があるが、必要に応じてデータやソフトウェアを各ユーザーに提供可能なクラウドサービスの活用に注目が集まっている。

現時点では自動運転開発者がクラウドサービスを利用しているが、将来的には自動運転サービスの運用においても有効活用されることに期待が持たれる。

現在提供されている大手クラウドサービスの内容を踏まえながら、自動運転とクラウドの関係を紐解いていこう。

■自動運転実現には「クラウド」が不可欠

クラウドはインターネット上に存在し、各ユーザーがインターネットを介してアクセスすることで、クラウド内のソフトウェアやストレージなどを使用できるサービスを提供している。

従来、データを保存するストレージやソフトウェアなどは端末機器に備え、各端末機器がそれぞれ処理を行っていたが、クラウド上のデータスペースやソフトウェアを利用することによって各端末機器の導入コストを下げることが可能になる。

また、高性能なAI(人工知能)や特殊なプログラムなど、各端末に導入するには高コストなものも効率的に使用できるほか、プラットフォーム化されたクラウドを利用して各ユーザーがデータを共有することなども容易にしている。

自動運転では、各車両に搭載されたカメラなどのセンサーが取得した膨大な量の画像データを収集・分析し、必要に応じて情報を共有する仕組みや、センターからリアルタイムの交通情報などを各自動運転車に送信する仕組みなどが必要になるが、クラウドを活用することによって各自動運転車の負担を軽減しながら効率的なデータ処理を行うことが可能になる。

自動運転の開発段階でもクラウドサービスは有効に機能しており、開発者はクラウド上に用意された専門的な各種ソフトウェアやデータベースなどを効果的に利用し、安価で開発速度を速めることができるようになった。

一台一台がスーパーコンピュータと化す自動運転車を効率よく開発・運用するためには、クラウドサービスの利用が最も適しているのだ。

■Amazon(AWS):自動運転開発を支援するサービス一式を提供

アマゾンの「AWS(アマゾンウェブサービス)」は、ストレージやデータベース、ネットワーク、コンテンツ配信、IoT、機械学習、分析、管理など、多様なサービスを提供している。

自動運転分野では、ADAS(先進運転支援システム)をはじめ自動運転開発や展開を支援するサービス一式を提供しており、AWSによるほぼ無制限のストレージとコンピューティング性能、「Apache MXNet」や「TensorFlow」「PyTorch」などの深層学習フレームワークのサポートにより、アルゴリズムのトレーニングやテストを加速する。

「AWS Greengrass」では、機械学習推論機能を用いてエッジコンピューティングを実行し、車両内でローカルルールやローカルイベントをリアルタイムに処理するだけでなく、データをクラウドに転送するコストを最小限に抑えることもできる。

■Google(GCP):Cloud TPUで圧倒的なパフォーマンスを提供

自動運転業界をリードするWaymo(ウェイモ)を抱えるグーグルは、「GCP(グーグルクラウドプラットフォーム)」を提供している。

GCPでは、AIワークロード用に「Cloud TPU」をカスタム構築しており、1つのポッドで100ペタフロップス以上のパフォーマンスを発揮するという。ワークロードの種類を問わず可能な限り効率的で安価に実行できる世界クラスのAIインフラストラクチャにより、膨大な計算処理と大量のデータが伴う自動運転の各シミュレーション・モデル検証を効率的に行うことが可能になる。

同社は、クラウドでのモビリティ革命を目指し米GM Cruiseと提携するほか、国内では東京に続き2019年に大阪リージョンの運用を開始している。

■Microsoft(Azure):自動運転ソリューションも豊富に提供

マイクロソフトのクラウドサービス「Azure(アジュール)」には、お気に入りのツールやフレームワークを使ってアプリケーションを自在に構築、デプロイ、管理することができる豊富なサービスが用意されている。

自動運転分野では、自動運転ソリューションとして①データの取り込みとストレージ②ビッグコンピューティングサービス③自動運転プラットフォームのテストと評価④自動運転ソリューションの検証――といった各機能が用意されている。

安全性の高いインフラストラクチャを使用し、車両エンジニアリングのあらゆる側面を効率よく大規模にシミュレートすることが可能で、アジュールのデータ分析ツールや機械学習ツールを使用して既存のシミュレーションを強化することで製品を最適化することができる。

また、GPUなどの高度なハードウェアと、数十億マイルを超える走行をシミュレートした自動運転ソフトウェアを使用し、センサーのパフォーマンスを迅速にテストすることも可能だ。

自動車の技術開発を手掛ける欧州のFEVは、アジュールを使用することで従来のローカルハードウェアで何時間もかかっていたデータ処理が、クラウド内のFEVソフトウェアによって自動的に数分以内に実行することが可能になったという。

また、自動運転シュミレーションシステムを開発しているイスラエルのスタートアップ企業Cognataもアジュールを利用しており、その技術に注目が集まっている。

■IBM(IBM Cloud):拡張知能「ワトソン」自動運転開発を支援

IBMもクラウドサービス「IBM Cloud」を提供しており、特に「Augmented Intelligence(拡張知能)」と称するシステム「Watson(ワトソン)」が好評で、広い分野で導入が進んでいる。

ワトソンは自然言語処理や画像認識、機械学習などに利用可能で、AIモデルの構築とトレーニング、データの準備と分析を行うオールインワンの統合環境を備えた「Watson Studio」をはじめ、デバイスの登録や制御、迅速な可視化、データ・ストレージ向けのクラウド・ホスト・サービスを活用できる「Watson IoT Platform」、機械学習を使用し画像コンテンツのタグ付けや分類、検索が可能な「Watson Visual Recognition」などさまざまなサービスを提供している。

米ローカルモーターズが開発を進める自動運転電動ミニバス「Olli」などもワトソンを利用しているようだ。

【参考】ローカルモーターズについては「米軍に供給した自動運転技術、自動運転シャトルバスOlliが提供受ける」も参照。

■【まとめ】自動運転クラウドサービス全盛へ 将来的にはエッジAIと作業分担も

グーグルやマイクロソフトなどのクラウドを利用して開発された自動運転車は、実用化後も基本的にクラウドサービスを活用して効率的な運用を図っていくことになる。クラウドサービス提供企業にとって、自動運転はビッグビジネスとなるのだ。

その一方で、エッジAI技術にも大きな注目が集まっている。高速処理が必要な場面において、通信速度などを理由にクラウドでは対応できないケースでは、これまでクラウドに任せていた情報処理をエッジ(端末機器)側で担うことで通信遅延のないリアルタイムな処理が可能となる。

完全自動運転の実現に向けては車載ストレージの高性能化ともセットにして考える必要がある。5G通信が何らかの理由で遮断もしくは通信速度が著しく低下したとき、自動運転車はクラウドに頼らずに安全な走行を維持する必要があり、その際には車載ストレージが特に重要な役割を果たす。

いずれにしろ、クラウドなしで各自動運転車が独立して運用されるケースは考えにくい。クラウド業界にはしばらく明るい展望が広がりそうだ。

>>特集目次

>>【特別対談】「大容量×信頼性」、車載業界屈指の半導体メーカーが見据える自動運転の未来

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>>特集第2回:桜前線も計測!"データ収集装置"としての自動運転車の有望性

>>特集第3回:自動運転車の最先端ストレージに求められる8つの性能

>>特集第4回:【対談】自動運転実現の鍵は「車載ストレージ」の進化にあり!

>>特集第5回:自動運転車と「情報銀行」の意外な関係性

>>特集第6回:自動運転の安全安心の鍵は「乗員のリアルタイムデータ」にあり

>>特集第7回:【対談】車載ストレージ、タクシーのデータビジネス下支え!

>>特集第8回:自動運転、車載機器の最重要5パーツをピックアップ!

>>特集第9回:AI自動運転用地図データ、どこまで作製は進んでいる?

>>特集第10回:自動運転車、ハッカーからどう守る?

>>特集第11回:改ざん阻止!自動運転業界がブロックチェーン導入を歓迎すべき理由

>>特集第12回:自動運転時代はクラウドサービス企業の成長期

>>特集第13回:自動運転、画像データ解析の主力企業は?

>>特集第14回:自動運転、音声データ解析の主力企業は?

>>特集第15回:日本、自動運転レベル4はいつから?ODD拡大ではデータの網羅性も鍵

>>特集第16回:日本、自動運転タクシーはいつ実現?リアルタイムデータ解析で安全走行

>>特集第17回:【対談】自動運転、ODM企業向け「リファレンス」の確立が鍵

>>特集第18回:パートナーとしての自動運転車 様々な「データ」を教えてくれる?

>>特集第19回:自動運転車の各活用方法とデータ解析による進化の方向性

>>特集第20回:自律航行ドローン、安全飛行のために検知すべきデータや技術は?

>>特集第21回:自動運転車、AIの「性格」も選べるように?人の運転データを学習

>>特集第22回:【対談】2020年代は「タクシー×データ」で革新が起きる!

>>自動運転白書第1弾:自動運転領域に参入している日本企業など一覧

>>特集第23回:自動運転に必須の3Dマップ、どんなデータが集積されている?

>>特集第24回:解禁されたレベル3、自動運行装置の作動データの保存ルールは?

>>自動運転白書第2弾:自動運転関連の実証実験等に参加している日本企業一覧

>>特集第25回:自動運転、企業の垣根を越えて共有させるべきデータ群は?

>>自動運転白書第3弾:自動運転業界における国内の主要人物一覧

>>特集第26回:コロナで早期実現!?自動運転宅配サービスに必要なデータは?

>>特集第27回:自動運転業界、「データセット公開」に乗り出す企業たち

>>特集第28回:自動運転と「データ通信」の実証実験、過去の事例まとめ

>>特集第29回:自動車ビッグデータの活用に取り組む「AECC」とは?

>>特集第30回:「次世代タイヤ」から得られるデータとは?

>>特集第31回:自動運転におけるデータ処理は「クラウド側」「エッジ側」の2パターン

>>特集第32回:自動車×ビッグデータ、自動運転領域を含めた活用事例まとめ

>>特集第33回:自動運転の「脳」には、車両周辺はどうデータ化されて見えている?

>>特集第34回:自動バレーパーキングの仕組みや、やり取りされるデータは?

>>特集第35回:検証用に車載用フラッシュストレージを提供!Western Digitalがキャンペーンプログラム

>>特集第36回:自動運転、「心臓部」であるストレージに信頼性・堅牢性が必要な理由は?

>>特集第37回:自動運転レベル3の「罠」、解決の鍵はドラレコにあり?

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>>特集第39回:e.MMCとは?車載ストレージ関連知識

>>特集第40回:AEC-Q100とは?車載ストレージ関連知識

>>特集第41回:自動運転で使う高精度3D地図データ、その作製方法は?

>>特集第42回:ADASで必要とされるデータは?車載ストレージ選びも鍵

>>特集第43回:V2X通信でやり取りされるデータの種類は?

>>特集第44回:未来のメータークラスターはこう変わる!

>>特集第45回:自動運転の実証実験で活用されるデータ通信規格「ローカル5G」とは?

>>特集第46回:ドライブレコーダーが収集してきたデータ、今後収集するデータ

>>自動運転バス×データを考える BOLDLYとWestern Digitalが対談

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