自動運転領域への投資に積極的な世界のVCまとめ トヨタ系VCもスタートアップに積極投資

AI、LiDAR、マッピング技術開発などへも



ベンチャーキャピタル(VC)やM&A市場のデータ分析を得意とする米調査会社PitchBook(ピッチブック)は2019年8月、主要なVCによる自動運転領域への投資動向についてまとめたレポートを発表した。


トヨタ自動車系の「Toyota AI Ventures」をはじめとする各ベンチャーキャピタルが、どのような自動運転領域のスタートアップやベンチャーを支援しているかが一目瞭然となる興味深いレポートだ。

今回は、投資件数でランキング化された11のベンチャーキャピタルとそれぞれの主な投資先について取り上げてみた。

【参考】ピッチブックの最新レポートについては「自動運転領域へのVC投資、世界で年間100億ドル突破!トヨタAIベンチャーズ、案件数で3位」も参照。

■1位:Trucks Venture Capital(アメリカ

Trucks Venture Capitalは、米カリフォルニア州サンフランシスコに本拠を置くベンチャーキャピタルで、2015年に設立された。投資件数40件のうち、自動運転をはじめとしたモビリティ関連企業への投資は17を数える。


2013年に700万ドル(約7億円)を投資したEDGE CASE RESEARCHは、カーネギーメロン大学の研究者らによって2013年に設立された米スタートアップで、エッジケース(限界ぎりぎりで発生し得る特別な状況)においてAI(人工知能)が判断不能に陥るような異常な状況をあらかじめシミュレーションプラットフォームに組み込むことで自動運転の安全性を高めるソフトウェア開発などを手掛けているようだ。

このほか、2017年に459万ドル(約5億ドル)を投資したBEAR FLAG ROBOTICSは、カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くロボットトラクター開発を手掛けるスタートアップをはじめ、コネクテッドカー向けの自己修復プラットフォームの開発を手掛けるイスラエルのテルアビブ発の「Aurora Labs」、米ゼネラルモーターズ(GM)の子会社となった米Cruise Automation、自動運転シャトルの実用化を進める米May Mobility、AI搭載型通信ドライブレコーダーなどを製品化し、日本にも拠点を構える米Nauto、米自動車部品大手のAptivに買収された自動運転ソフトフェア開発を手掛けるnuTonomy、垂直離着陸(VTOL)のエアモビリティの開発を進める米SkyRyseなど、投資分野・対象は多岐に及んでいる。

■2位:New Enterprise Associates(アメリカ)

New Enterprise Associates は、1977年に米メリーランド州で設立されたベンチャーキャピタル。投資件数2199件のうち、自動運転関連は13件を数える。

2014年に米配車サービス大手のUber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)に出資している。同社はライドシェア事業のほか、自動運転開発やエアモビリティ開発なども進めており、2019年5月にはニューヨーク証券取引所への上場を果たしている。

このほか、ホログラフィーを用いたAR(拡張現実)技術を開発するスイスのスタートアップWayRayには、最新の取引で8000万ドル(約85億円)を出資。2015年設立で自動運転開発を手掛ける米Drive.aiには、2017年に7700万ドル(約81億円)を出資しているが、同社は2019年6月までに米アップルに買収されることが報じられている。

■3位:Maniv Mobility(イスラエル)

Maniv Mobilityは、イスラエルのテルアビブに拠点を置く1997年設立のベンチャーキャピタル。イスラエル国内スタートアップを中心に投資しており、投資件数37のうち自動運転関連は12件となっている。

2018年に自動運転のシミュレーションプラットフォームを手がけるイスラエルのスタートアップ・Cognataに1850万ドル(約20億ドル)出資。同社はマップや衛星画像からのデータをもとに実際の都市の詳細なデジタル地図を自動生成し、歩行者などの動的レイヤーを載せた仮想空間を作製する技術を持っており、独アウディの子会社などと提携を結んでいる。

また、LiDAR(ライダー)開発を手掛ける2009年設立のOryx Visionに5000万ドル(約55億円)、世界初の超高解像度4Dイメージングレーダーを開発するArbe Roboticsに1000万ドル(約11億円)、コネクテッドカーや自動運転車向けのクラウド型サイバーセキュリティ・プラットフォームを開発するUpstreamに900万ドル(約10億円)など各イスラエル企業に出資しているほか、Drive.aiやNauto、Aurora Labsなどにも出資している。

■3位:Toyota AI Ventures(日本)

Toyota AI Venturesは、トヨタ自動車系のベンチャーキャピタルとして2017年に設立された。投資件数23件のうち、自動運転関連はManiv Mobilityと同数の12件となっている。

2018年には、自動運転ソフトウェアを開発する米シリコンバレーのApex.AIに1550万ドル(約17億円)を出資している。同社は、「Autoware(オートウェア)」の開発を手掛ける名古屋大学発スタートアップのティアフォーとも提携している。

また、AIを活用した革新的なイメージングレーダーの開発を手掛ける米Metawaveに1000万ドル(約11億円)、EV開発の米テスラやウーバー出身のエンジニアが設立し、自動運転技術とロボット工学を活用した物流・配送におけるラストワンマイルを実現する技術・サービスの開発を手掛ける米Boxbotに750万ドル(約8億円)をそれぞれ出資しているほか、ロボティクス開発における障害物回避軌道の超高速計算・ルート作成の技術開発などを手掛ける米Realtime Robotics、LiDARやソフトウェアなどの開発を進める米Blackmore、May Mobility、Nautoなどが出資先に名を連ねている。

なお、Blackmoreは2019年5月までに、自動運転開発を手掛ける有力スタートアップの米Aurora Innovation(オーロラ・イノベーション)に買収されている。

■5位:Y Combinator(アメリカ)

Y Combinatorは、カリフォルニア州マウンテンビューに拠点を置くアクセラレーター企業で、2005年に設立された。投資件数は2730に上り、このうち自動運転関連は10件となっている。

May MobilityやWayRayのほか、遠隔操作技術などを活用した完全無人による長距離自動運転トラックの開発を手掛ける2015年設立の米Starsky Roboticsに1650万ドル(約17億円)、2018年2月に試験車両による米西海岸から東海岸までの2400マイル(約3900キロ)に及ぶ大陸横断を果たすなど自動運転トラックの開発を進める米Embark Trucks(エンバーク・トラックス)に3000万ドル(33億円)、自動運転やロボティクス、ドローン向けのAI開発などを手掛ける米Scale Labsに1億ドル(約110億円)をそれぞれ出資している。

■6位:Motus Ventures(アメリカ)

Motus Venturesは、輸送やスマートインフラストラクチャー分野を中心に投資するベンチャーキャピタルで、2012年に米カリフォルニア州で設立された。投資件数は30件で、このうち自動運転関連は9件となっている。

2012年にカリフォルニア州に設立され、LiDARやAIソフトウェア、半導体センサーの開発などを手掛けるスタートアップQuanergy Systemsに1億7500万ドル(約185億円)を出資。ルノー・日産をはじめ独メルセデス・ベンツ、英ジャガー、韓国ヒュンダイなどがパートナー企業に名を連ねる有力スタートアップだ。

このほか、AI技術を駆使して3Dエッジマッピングテクノロジープラットフォームの開発を手掛ける米Civil Mapsに940万ドル(約10億円)、カーネギーメロン大学のロボティクス研究所の博士らが立ち上げ、完全自動運転のトラック開発を進めるLocomationに550万ドル(約6億円)、自動運転シャトルの開発を進め、2017年にシェアリングプラットフォームの開発を手掛けるRidecellに買収されたAuroに2000万ドル(約22億円)をそれぞれ出資している。

■6位:Plug and Play Tech Center(アメリカ)

Plug and Play Tech Centerは、カリフォルニア州で2006年に設立されたグローバルアクセラレータ兼ベンチャーキャピタル。投資件数は2484件に上り、このうち自動運転関連は9件となっている。

2017年に1億7000万ドル(約185億円)の巨額出資を実施した米Innoviz Technologiesは、LiDARベースのリモートセンシングセンサーやシステムを開発しており、自動運転向けの3Dリモートセンシングシステムを提供している。

自動運転車向けの認識技術を開発する米DeepScaleには、2016年に75万ドル(約8000万円)を出資したほか、グーグルやアップル、中国の検索サイト大手・百度などで開発経験を持つジェームス・ウ氏が2016年に創業した米DeepMapに6000万ドル(約65億円)、自動運転車やロボット工学、ドローン向けの最先端のセンサー技術を開発する米Lunewaveに500万ドル(約5億5000万円)、米Microsoftの主要なサイバーセキュリティ製品の責任者などを務めていたAmit Rosenzweig氏が創業し、自動運転向けの遠隔操作システム開発を手掛けるイスラエルのOttopiaに300万ドル(約3億3000万円)を出資している。

また、ラストワンマイル向けの宅配ロボを開発し、カリフォルニア州のパシフィック大学構内などで実証を進めている米Robby Technologiesなどにも出資している。

■6位:Robert Bosch Venture Capital(ドイツ

独自動車部品大手ボッシュ・グループ傘下のベンチャーキャピタル「ロバート・ボッシュ・ベンチャー・キャピタルGmbH」で、2007年に設立された。投資件数は91件で、このうち自動運転関連は9件となっている。

自動運転レベル4に対応した自動運転ソフトウェア「aiDrive」などの開発を進めるハンガリーのAImotiveには、2015年から3度にわたって出資しており、2018年には2270万ドル(約25億円)を出資している。

このほか、ディープラーニング技術を駆使したAIベースの管理プラットフォーム開発などを手掛けるイスラエルのALLEGRO.AIや、ソリッドステートタイプのLiDAR開発を進める中国のAbax Sensing、米DeepMapなどに出資している。

■6位:Sequoia Capital China(中国)

Sequoia Capital Chinaは、1972年設立の米Sequoia Capitalの中国拠点。投資件数は472件で、このうち自動運転関連は9件となっている。

中国初となる自動運転タクシーの実証実験に着手したPony.aiや、自動運転EVを開発するNIO、ディープラーニングのアルゴリズムを構築し、自動運転車の頭脳となる自動運転システムの開発を進めるMomentaなど、中国国内の有力スタートアップをしっかりと抑えている。

最新の出資では、Pony.aiに5000万ドル(約55億円)、Momentaに2100万ドル(約23億円)をそれぞれ出資している。Pony.aiは2019年8月にトヨタ自動車と自動運転技術の開発などで協業することを発表しており、今後の展開に高い注目が寄せられている。

このほか、自動運転開発の中国PlusAI、豪シドニーに本拠を置くLiDAR開発のBarajaなどにも出資しているようだ。

■6位:IDG Capital(中国)

IDG Capitalは、中国北京を拠点とする1992年設立のベンチャーキャピタル。投資件数は774件で、このうち自動運転関連は9件となっている。

Pony.aiやNIOのほか、自動運転タクシーの開発を進める米ZOOXに5億ドル(約550億円)出資している。同社は高評価が集まる一方、2018年にCEOの電撃解任が発表され、投資家からの注目をいっそう集める結果になっているようだ。

このほか、自動運転EV開発のXiaopeng(Xpeng/小鵬汽車)や高精度地図開発技術を持つKUANDENG TECHNOLOGY(寛櫈科技)などにも出資している。

■6位:Intel Capital(アメリカ)

Intel Capitalは、米インテル社のコーポレートベンチャーキャピタル部門で1991年に設立された。AIや自律テクノロジー、データセンターやクラウド、5G、次世代コンピューティングといった革新的分野への投資が多い。投資件数は1800件で、このうち自動運転関連は9件となっている。

LiDAR開発を手掛ける米AEyeや自動運転用のコンピュータービジョンシステムを強化するAIプラットフォームの開発を手掛ける米Mighty AIなどのほか、日本のロボットベンチャー・ZMPにも2014年に1350万ドル(約15億円)の出資を行っている。

■【まとめ】技術が技術を生む 日本国内の投資活発化に期待

トヨタ系やボッシュ系は当然として、自動運転領域に高い関心を寄せるベンチャーキャピタルが多いことがよくわかる。AIやLiDAR開発などが根強い人気を誇っており、こうした高度なAI技術や認識技術をもとにした高精細地図開発へ投資が行われるなど、実現した技術がより高度な技術を生みだす形で自動運転関連分野が盛り上がっていく姿が見て取れる。

エンジニアによる高度な技術や奇抜な発想も、資金なしでは到底実現できない。ベンチャーキャピタルによる出資をもとにアイディアを具体化・実現化することで、世の中にイノベーションを起こしていくのだ。

開発促進に向け、日本においてもこうした投資がより活発化することを願いたい。


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