トヨタの自動運転領域における投資まとめ

未来創生ファンドやトヨタAIベンチャーズが積極投資





2019年3月期の決算発表を行う豊田章男社長=出典:トヨタ自動車公式動画

国内で初めて売上高が30兆円を超えたトヨタ自動車。2018年度の新車販売台数も過去最高を記録し、一見順風満帆に思えるが、10年先を見通せないのが今の自動車業界。変革のはざまにある業界において、トヨタは未来に向けどのように取り組んでいるのか。

その一つのカギとなるのが「投資」だ。今回は、投資の観点からトヨタの成長戦略にアプローチしてみた。







記事の目次

■トヨタ自動車による投資

トヨタ自動車本体からの出資は、具体的な協業が明らかになっている企業へ行われているようだ。

Uber Technologies:ライドシェア領域における自動運転技術の導入へ

トヨタ自動車とUber Technologies(ウーバー)は2016年5月、ライドシェア領域における協業を検討する旨の覚書締結を発表し、トヨタファイナンシャルサービス(TFS)および未来創生ファンドから同社に戦略的出資を行うこととしている。

2018年8月には協業を拡大し、トヨタのガーディアンシステムを同社の自動運転キットと融合させたライドシェア専用車両をライドシェアネットワークに導入することが発表され、合わせてトヨタ自動車から5億ドル(約550億円)出資することも公表されている。

さらに、2019年4月にはトヨタ自動車、デンソー、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが計10億ドル(約1100億円)の追加出資を発表し、トヨタ自動車は共同開発推進に向け、出資に加え今後3年間で最大3億ドル(約330億円)の開発費負担を行うこととしている。

【参考】Uberへの出資については「トヨタやソフトバンク、米ウーバーの自動運転部門に1120億円出資」も参照。

ALBERT:ビッグデータ分析技術で提携

トヨタ自動車とビッグデータ分析などを手掛けるALBERT(アルベルト)は2018年5月、自動運転技術の先行開発分野におけるビッグデータ分析において業務提携し、第三者割当増資によってトヨタがアルベルトに約4億円出資することで合意したと発表している。

■未来創生ファンドによる投資

未来創生ファンドは、投資運用企業のスパークス・グループとトヨタ自動車、三井住友銀行が総額約135億円を出資し、2015年に運用を開始したファンドだ。

1号ファンドではAI技術とロボティクス、水素社会実現に資する技術を中核技術と位置づけ、それらの分野の革新技術を持つ企業やプロジェクトを対象に投資している。

また、2018年7月にスタートした2号ファンドでは、新たに電動化と新素材を加えた5分野で世界の未公開ベンチャー企業を投資対象に据え、革新的な技術やビジネスモデルで世界をリードする有望企業の成長を後押ししている。

Kymeta:衛星通信アンテナを開発

米ワシントン州で2012年に設立されたスタートアップで、自動車をはじめ船舶や航空機、列車などの移動体向けの衛星通信アンテナの開発を手掛けている。

トヨタは2013年9月から、同社と大量のデータを車両に衛星配信することを想定した車載用平面アンテナの共同研究を開始しており、自動車向けアンテナの開発・試験における独占権を得て同社に試験車を貸与し、走行評価を実施している。2016年には、未来創生ファンドから同社へ500万ドル(約550億円)を出資した。

ティアフォー:自動運転ソフトウェアを開発

自動運転技術の開発スタートアップ企業であるティアフォーに10億円規模の出資が行われたことを2018年5月に日経新聞が報じている。

同社は、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」を武器に世界で活躍しており、2017年12月に遠隔制御型自動運転システムの公道実験を国内で初めて実施し、自動運転レベル4(高度運転自動化)の無人運転に成功した。

近距離移動を目的とする完全自動運転の小型電気自動車 (EV) の開発など、自動運転技術の開発と実証実験を推進しており、2018年12月にはAutowareの標準化を推進する国際業界団体「The Autoware Foundation(AWF)」の設立を発表するなど、海外展開を本格的させている。

Getaround:C2Cカーシェア事業展開

米カリフォルニア州に本拠を置く2009年設立のスタートアップで、C2C型などのカーシェア事業を手掛ける。

2016年に未来創生ファンドから戦略的出資が行われ、トヨタが開発したドアロックの開閉やエンジン始動を実現する為のデバイス「スマートキーボックス(SKB)」の実証プログラムを共同で実施したほか、コネクテッドカー事業におけるプラットフォーム開発でも協業している。

2017年には、総額4500万ドル(約50億円)の資金調達Cラウンドにトヨタ自動車も参加したようだ。

WHILL:パーソナルモビリティ開発

2012年に設立され、日本や米シリコンバレーを拠点に電動車いすなどのパーソナルモビリティの開発・販売を手がけるスタートアップ。2016年に実施した総額1750万ドル(約20億円)の資金調達に未来創生ファンドが参加している。

この資金調達により、同社は海外での販売拡大やシェアリングなどの事業開発、自動走行などの機能開発、これらに伴う新たな従業員の雇用などを進めていくこととしている。

Kyoto Robotics:物流向けソリューション開発

滋賀県に本社を構える、物流向けソリューション開発などを手掛ける企業。2017年から従来のFA(ファクトリーオートメーション)向け3次元ロボットビジョンセンサー事業に加え、物流向けに知能ピッキングロボットの開発販売も開始している。

2019年に発表された総額8億円の資金調達に未来創生ファンドが参加しており、同社は研究開発のみならず、販売も加速させていく考えだ。

ArchiTek:AIと画像処理を極小LSIチップで行う半導体開発

2011年に設立された、情報通信機器などの回路部品やプロトタイプ開発を行う研究開発ベンチャー。世界に先駆けてAIと画像処理をわずか5ミリ四方のLSIチップで行う半導体の回路設計業務に移行し、AIによる画像認識や自動運転技術に欠かせない自己位置推定と環境地図作成を同時に行うSLAMの実現を目指している。

未来創生ファンドからの投資は2018年3月に発表されており、指先サイズのプログラマブルなサンプルチップの製造と当該回路上で動くアルゴリズムの開発強化に充当する予定としている。

JapanTaxi:タクシー配車アプリ開発

日本交通のグループ会社で、国内最大のタクシー配車アプリ「全国タクシー」を開発・運営している。未来創生ファンドは2017年6月、2018年2月の2度出資している。

10億5000万円が投資された2度目の発表時、同社はさらなるアプリ機能の改善や、アプリを使用した顧客の乗車体験の拡充やタクシー事業者のデジタライゼーションの促進に向け、ソフト・ハード両面から統合的に構築しているプラットフォームを強化していくこととしている。

Joby Aviation:電動垂直離着陸機を開発

米カリフォルニア州を拠点とするスタートアップ。NASAとの共同研究などを経てeVTOL(電動垂直離着陸機)の試作品を製造し、飛行試験も行っている。

2018年に資金調達BラウンドでトヨタAIベンチャーズや未来創生ファンド、米インテルなどから総額1億ドル(約110億円)を調達したほか、2017年には米軍からも出資を受けているという。

同社はBラウンドの資金で、eVTOL技術を利用した旅客機の試作や検証を促進していくこととしている。

フィーチャ:画像認識ソフトウェア開発

独自開発した機械学習技術を用いて、高精度かつ現実的な実装性能を合わせ持つ画像認識ソフトウェアを提供するベンチャー。2005年に創業している。未来創生ファンドからの出資は2018年1月に発表された。

同社が開発する画像認識ソフトウェアは、機械学習アルゴリズムに基づき、ドライブレコーダーなどの車載用カメラから撮影された画像より人、車体、標識などの対象物を、同時に高精度かつ高速で検出することが可能といい、自動運転社会に向かう自動車業界において、高度なアルゴリズムを更に発展させ、画像認識市場のリーディングカンパニーを目指すとしている。

未来創生ファンドはこのほか、高速画像処理プラットフォームを中心とした研究開発を手掛けるエクスビジョンや、自動車の車内監視用センサーを開発する Guardian Optical technologies、自動運転に応用可能な双方向通信を可能にするクラウドシステムを提供するアプトポッドなど、国内外に広い投資実績を有している。

■トヨタAIベンチャーズによる投資

Toyota AI Ventures(TAIV/トヨタAIベンチャーズ)は、米国でAI(人工知能)の研究開発などを手掛けるToyota Research Institute(TRI)が1億ドル(約110億円)のファンドとして2017年に設立したベンチャーキャピタルファンド。AIやロボティクス、自動運転・モビリティサービス、データ・クラウド技術の4分野で、有望なベンチャー企業への投資を行っている。TRIが実施済みの3社に対する投資も引き継いでいる。

2018年7月には、ベンチャー企業支援に関するグローバルプログラム「Call for Innovation」を新たに立ち上げ、重要な技術課題を特定し、ベンチャー企業によるソリューションを募集することでさらなるイノベーション促進を目指すこととしている。

プログラムでは、有望なベンチャー企業に対して50万ドル(約5500万円)から200万ドル(約2億2000万円)をTAIVから投資するほか、TRIとの実証プロジェクトの実施を検討していく。

また、2019年5月には、総額1億ドル(約110億円)の2号ファンドの設立も発表している。

Nauto:AIアルゴリズム開発

2016年にNauto(ナウト)が実施した総額1200万ドルの資金調達Aラウンドに、出資元の一つとしてTRIが参加しており、続く2017年実施のBラウンドにおいても出資している。

Nautoは米カリフォルニア州シリコンバレーを本拠とするIT企業で、画像認識技術やAIアルゴリズムの開発を手掛けるスタートアップ。

AI搭載のセンサーを組み合わせたデバイスをフロントガラス裏に取り付け、車内外のさまざまな視覚情報を入手することで有益なデータや知見を提供するシステムなど、事故防止に向けドライバーの運転行動や道路環境をモニタリングし、運転行動の向上などにつなげるシステムを企業向けに提供している。

SLAMcore:地図情報・位置情報生成アルゴリズム開発

SLAMcoreは、自動運転車やドローン技術向けの周辺地図情報、位置情報を生成するためのアルゴリズムを開発する英国企業。情報の生成に必要な電力量を極力抑えることで、エネルギーを走行や飛行に最大限使えるようなシステム開発を行っている。

TRIは2017年3月、同社の資金調達に出資元の一つとして参加している。

Blackmore:ドップラー・LiDAR開発

米モンタナ州に本拠を置くスタートアップ。小型で信頼性の高いLiDAR(ライダー)やソフトウェアなどの開発を手掛けている。ドップラー効果による周波数の変移を観測することで、観測対象の相対的な移動速度や変位を観測することができるLiDAR技術などを研究しているようだ。

Boxbot:ラストワンマイル向け技術開発

EV開発の米Teslaとライドシェア大手の米Uber出身のエンジニアが2016年に米カリフォルニア州で設立したスタートアップで、自動運転技術とロボット工学を活用した物流・配送におけるラストワンマイルを実現する技術・サービスの開発を手掛けている。

2018年に実施した750万ドル(約8億3000万円)の資金調達ラウンドにTAIVが参加している。

Connected Signals:交通信号データ収集・予測アルゴリズムを開発

2010年に米オレゴン州に設立された、交通信号データ収集・予測を手掛けるスタートアップ。車載向けリアルタイム信号予測アルゴリズムなどの開発を進めているようで、TAIVのほか、電気機器メーカーのオムロン系ベンチャーキャピタルも出資している。

Joby Aviation:電動垂直離着陸機を開発

米カリフォルニア州を拠点とするスタートアップ。NASAとの共同研究などを経てeVTOL(電動垂直離着陸機)の試作品を製造し、飛行試験も行っている。

2018年に資金調達Bラウンドで未来創生ファンドとともにTAIVが出資している。

May Mobility:自動運転シャトルバスの開発・実用化を進めるスタートアップ

米ミシガン州で2017年に設立されたスタートアップ。自動運転シャトルバスの開発を手掛けており、2018年には独自開発した自動運転レベル4のEVバスで同州デトロイトにおいて社員向けの送迎サービスを開始している。

TAIVをはじめBMW系ベンチャーキャピタルなどから累計1160万ドル(約13億円)の資金を調達しており、バスの量産化を図るとともに事業拡大に向け動きを加速しているようだ。

Metawave:AIイメージングレーダーの開発スタートアップ

2017年に米カリフォルニア州で設立されたスタートアップ。AIを活用したを活用した革新的なイメージングレーダーの開発などを手掛けており、レーダーの検知範囲の拡大、認識性能の向上、小型化を実現するためのコア技術を持っているという。

TAIVのほか自動車部品大手のデンソーも2018年に出資しており、同社の最先端技術を生かしミリ波レーダー開発を加速させる方針だ。

Realtime Robotics:ルート計算プロセッサー開発スタートアップ

米マサチューセッツ州を本拠とするスタートアップで、ロボティクス開発における障害物回避軌道の超高速計算・ルート作成の技術開発などを手掛ける。

超高速、低消費電力、低価格で最適なルート計算を可能にするプロセッサーの開発を加速し、大手グローバル企業との提携によって産業用ロボットや自動運転技術への応用を進めていくこととしている。

■トヨタファイナンシャルサービスによる投資

トヨタグループで自動車販売金融サービスなどを展開する金融会社の統括会社「トヨタファイナンシャルサービス(TFS)」も自動運転関連企業に出資している。

MaaS Global:MaaSプラットフォームサービス開発

フィンランドで、新たに開発したスマホアプリ(Whim)を通じて、タクシーやレンタカー、電車・バスなどの公共交通機関、その他さまざまな移動手段を組み合わせ、予約・決済機能を含めた効率的な移動を提供するマルチモーダルサービスを展開する企業。「MaaS(Mobility as a Service)」という言葉の生みの親として近年急速に認知度が高まっている。

TFSは、新バリューチェーンとしてマルチモーダルビジネスの知見を習得し、収集データの分析に基づきトヨタ顧客へより良いサービスの提供、カスタマーリテンションの向上に繋げていくことを検討しており、2017年6月にあいおいニッセイ同和損害保険とともに戦略的出資を行うことを発表している。

【参考】MaaS Globalについては「MaaSアプリ「Whim」とは? 仕組みやサービス内容を紹介」も参照。

Uber Technologies:ライドシェア領域への自動運転技術導入へ

トヨタ自動車とライドシェア大手の米Uberがライドシェア領域における協業を検討する旨の覚書を締結したことに伴い、未来創生ファンドとTFSが同社へ戦略的出資を行うことが2016年8月に発表されている。

なお、TFSは、東南アジアのライドシェア大手Grabにトヨタ自動車が出資した際にも参加している。

■【まとめ】将来のイノベーションの種育成に向け、ますます投資は加速

このほか、当然といえば当然の話だが、オンデマンドモビリティサービスなどを手掛ける事業会社「MONET Technologies」をソフトバンクと設立した際や、サブスクリプションサービスを手掛ける「KINTO」を設立した際にもトヨタ自動車やTFSなどが出資している。

自動車業界において新たな事業が続々とスタートする大変革の時代を迎え、自ら着手する事業や他社との協業を深める事業、先行投資を進める事業など、さまざまな手法でアプローチする姿がうかがえる。

未来創生ファンドやTAIVが出資したスタートアップの成長は未知数であり、失敗に終わるケースも当然出てくるだろうが、成功した際の見返りは想像以上に大きくなり得る。自動運転技術をはじめ新たなモビリティサービスの創出など自動車業界の将来そのものが未知数であるため、世界に多大な影響を及ぼすイノベーションが生まれる可能性は決して低いものではないからだ。

どのような花を咲かせるかはわからずとも、さまざまな可能性の芽を育て大きくしていくことは、トヨタのような業界最大手には必須のことであり、責務でもある。加速し続けるトヨタグループの投資は、まだまだ最高速度を更新しそうだ。







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