トヨタ第二の創業(1)第11代社長、豊田章男62歳と夢の自動運転 トヨタ自動車特集—AI自動運転・コネクテッド・IT

モビリティ・カンパニーへ変革



「100年に1度の大変革期を勝ち抜く」―—。トヨタ自動車の2018年3月期決算発表の場で、豊田章男社長が力を込めた。章男社長が言う変革期とは何か。トヨタはこの100年に1度の戦いをどのように戦い抜くのか。

■塗り替えられる自動車史、IT企業が参入

1880年代に誕生したガソリン自動車。1世紀以上を経た現在も世界経済の主力を担う産業として大きな存在感を示しているが、21世紀に入るとその構造が変化してきた。従来の自動車メーカーと部品メーカーに加え、テクノロジー企業が台頭し始めたのだ。理由はもちろん自動運転技術の開発やライドシェアなどの新たなサービスの登場だ。

2009年に自動運転車の開発に着手した米Googleに代表されるように、それまでIT分野で名を馳せた大企業がこぞって自動運転分野に進出してきた。2018年5月にフォーブス誌が発表した「世界で最も価値ある100のブランド」ランキングにおいて、自動車メーカートップのトヨタは9位。そしてこれを上回る上位8社のうち、ランキング1位の米アップル社をはじめとする5社が自動運転に関わる事業を展開している。自動運転分野において、既存の自動車産業の垣根が無くなった証と言える。

また、自動車関連の新たなサービスとして急成長しているライドシェアでは、米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)や中国の滴滴出行(DiDi Chuxing:ディディチューシン)などが瞬く間にユニコーン企業(企業評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー)の上位に躍進し、世界進出の勢力図を競い合っている。

自動車の電動化も著しい。車載電池市場では電機メーカーのパナソニックなどが優位性を持ち、あらゆる情報とつながるコネクテッドカーの分野では通信事業者らが新サービスの展開を模索している。

従来の工業製品としての自動車製造技術のみならず、LiDARなどのセンサー類、AI(人工知能)、通信技術、ダイナミックマップなど、革新的な技術の融合なくして自動運転車は完成しない。この自動車から自動運転車への移り変わりが章男社長の言う「100年に1度の大変革期」であり、「ライバルも競争のルールも変わり、まさに未知の世界での生死を賭けた闘いが始まっている」との言葉が如実に現状を物語っている。

トヨタ自動車の豊田章男社長=出典:トヨタ自動車ニュースリリース
■戦いに勝つためにトヨタは何をするのか?

自動車を作る企業として世界をけん引するトヨタは、どのように自動運転社会に対応していくのか。

章男社長は「原価低減の力に磨きをかけて稼ぐ力を強化し、新技術や新分野への投資を拡大する」と話し、自社の開発力強化を図りながらも「グループはもちろん、同業他社や他業界も含めたアライアンスを強化する」と提携の道筋もしっかりと視野に収めている。新規性にあふれる技術開発競争で天下を取るのではなく、あくまで交通の安全や効率化など自動車・自動運転車に求められている本当に必要な技術やニーズを見極めるところから信頼性を築いていくスタンスだ。

執行部の体制にも早々に改革の手を加えており、自身と6人の副社長を中心とするマネジメントチームを編成したほか、社外取締役を含めさまざまな人材の登用を進めている。

それぞれの専門分野で培ったビジネスの知見や社外から見たトヨタの姿や世間とのギャップなどを経営に持ち込むことに期待し、カンパニープレジデントやグループ企業のトップを経験した副社長と各分野のエキスパートである社外取締役や役員が、社長目線で章男社長をナビゲートしながらより速くゴールを目指すという「ラリー方式」への転換を図るという。

「トヨタを『自動車をつくる会社』から、世界中の人々の移動に関わるあらゆるサービスを提供する『モビリティ・カンパニー』にモデルチェンジする」ことを決断した章男社長は、80年前に織機から自動車をつくる企業グループにモデルチェンジすることに挑戦した創業者の豊田喜一郎氏と現状を重ね合わせ、「今の状況は80年前と似ている。100年に1度の大変革の時代を100年に1度の大チャンスととらえ、これまでにないスピードとこれまでにない発想で、新しい未来を創造するためのチャレンジをしていく」と第二の創業とも言える決意を語った。

4回連載にわたって、トヨタ自動車の「今」と「未来」を探る。

>>トヨタ第二の創業 予告編(目次)

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