トヨタ第二の創業(4)虎視眈々…全世界に広がる研究開発拠点 トヨタ自動車特集—AI自動運転・コネクテッド・IT

気鋭のエンジニア集う8拠点



トヨタ自動車の先進技術を支えるR&D(研究開発)拠点。世界各地にさまざまなR&D拠点が設けられているが、その中でも自動運転技術に携わる拠点は日本国内に2カ所、北米に5カ所、欧州に1カ所ある。

それぞれの拠点がどのような研究を行い、どのような役割を担っているのか。また、大学との連携・共同開発はどのようになっているのか。エンジニアらが活躍する舞台となる拠点を紹介していこう。

記事の目次

■日本:トヨタ全社・全部門を統括する「トヨタ自動車」本社など
トヨタ自動車

先進技術開発カンパニーで、トヨタ全社・全部門において関係する技術の調査、開発、試験を調整するとともに、全ての組織のリソースと作業を統括し、世界規模で社内の自動運転技術開発の取り組みを主導している。

豊田中央研究所

幅広い分野での研究を手掛けており、世界の技術動向調査や新たな科学分野への挑戦を通じて、新事業につながる将来ビジョンを提示し、科学技術と産業の発展に寄与している。

■北米:自動運転開発の最前線でAI研究や実用化プロジェクト推進
TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)

トヨタの研究体制強化を目指し、①クルマの安全性の向上②運転できない人の車の利用③屋外モビリティ開発技術を生かした屋内モビリティへの取り組み④AI(人工知能)およびマシンラーニング(機械学習)の技術を利用した科学研究・発見の強化―の4つの目標・課題に取り組んでいる。

TRIで開発された自動運転技術が搭載された車両=出典:トヨタ社プレスリリース
トヨタ・モーター・ノース・アメリカ リサーチ&デベロップメント(TMNA R&D)

北米におけるエンジニアリングおよび研究・開発活動の原動力となっており、主に車両開発、先進技術研究・車両の評価と衝突安全性の3つの分野に取り組んでいる。

トヨタ先進安全技術研究センター(CSRC:Toyota Collaborative Safety Research Center)

大学や病院、研究機関、連邦機関との連携のもと、先端安全技術の開発と実用化を目的とした安全研究プロジェクトに焦点を当てた研究を行っている。研究分野には、予防安全・衝突安全の統合、安全にかかわる人間の経験に関する調査、ドライバーの状態検知とビッグデータ、安全性分析が含まれる。

トヨタコネクティッド

シームレスなコンテンツ連動型サービスの提供、顧客・ディーラー・販売代理店・およびパートナーに向けた最先端のデータ分析による製品開発サポートの提供という2つの主要分野に取り組んでいる。また、AIやロボット工学に関する研究やTRIの支援などを含む、トヨタの業務全般にわたるさまざまなデータやコンピュータサイエンスサービスも提供している。テキサス州のほか日本にも拠点を置いている。

トヨタIT開発センター(Toyota Info Technology Center)

次世代モビリティ社会研究、クラウドインフラアーキテクチャー、インテリジェントコンピューティング、ネットワーク、システム&ソフトウェアの5部門で構成されており、次世代クラウドプラットフォーム研究、AIを用いた分散処理・解析基盤研究、車用通信ネットワークの知能化研究などのプロジェクトに取り組んでいる。カリフォルニア州と日本に本社を置く。

■欧州:コンピュータービジョンなどの分野で欧州専門家と協力も
欧州トヨタ自動運転車研究所(TRACE)

欧州の専門家と自動運転車のコンピュータビジョンの分野で協力しており、ルーヴェン・カトリック大学、ケンブリッジ大学、チェコ工科大学プラハ校、マックス・プランク大学ザールブリュッケン校、スイス連邦工科大学チューリッヒ校と提携。物体検知、強力で精密なトラッキング、全体状況分割および分類にかかる最先端のラーニングアルゴリズムの研究などに取り組んでいる。

■米TRIの連携機関と内容…自己認識やロボット工学や屋内モビリティも
マサチューセッツ工科大学

共同研究センターで自動運転から自己認識にいたるまで幅広い分野のプロジェクトに取り組んでいる。

スタンフォード大学

人とコンピュータのインタラクションや人間とロボットのインタラクションの研究プロジェクトに従事しインパクトのあるアプローチ、アルゴリズム、データの開発に重点を置いている。

ミシガン大学

運転の安全性向上、パートナーロボット工学と屋内モビリティ、自動運転、学生の学習と多様性に焦点を当てた研究を行っている。

■米CSRCの連携機関と内容…自動運転の安全度向上に向けたプロジェクトも
フィラデルフィア小児病院、バージニア大学、オハイオ州立大学

大人と子供を被験者として、テストコース上で事故回避行動や緊急ブレーキに対する主要な乗員の反応を定量測定するプロジェクトを進めている。

バージニア工科大学

2025年の統合安全システム(ISS)導入後の残留安全問題を推定するための調査研究を行っている。ISSには、予防安全システムと衝突安全システムが含まれる。

ミシガン大学、交通研究所

自動緊急ブレーキや回避行動が作動した場合において、緊急事態をほとんど意識していなかった成人乗員の運動学的調査をテストコース上で行っている。

アイオワ大学

運転者と歩行者、自転車の双方のシミュレーター調査により、歩行者と自転車利用者を検出して照らし出すアダプティブヘッドライトシステムの反応特性と、推定される負傷・死亡件数の低減効果を測定する研究を行っている。

TASI-インディアナ大学パデュー大学インディナポリス校

テストコース上で車両の道路逸脱時の警報、補助および制御システムの評価を行なうためのテストシナリオ、手法を開発するプロジェクトを進めている。

マサチューセッツ工科大学、高齢化研究所

車両、歩行者、交通標識など視覚センサーから得られた車両環境の全方位認識に基づき、ディープラーニングの開発を行っている。

ウィスコンシン大学

交差点での運転者同士のコミュニケーションの理論的および数学的構造を提供するプロジェクトを進めている。

カリフォルニア大学サンディエゴ校

自動運転と人による運転の切り替えに関する計算予測モデルを提供するプロジェクトに取り組んでいる。

アイオワ大学—ナショナル・アドバンスド・ドライビング・シミュレーター

自動運転と人による運転の切り替えが必要な際に有用な運転者の行動データ一式を提供するためのプロジェクトを進めている。

■エンジニアの力の結集、そしてトヨタのさらなる進化に期待

トヨタは研究所や大学との連携のほかにも、TRI内に企業ベンチャーキャピタル組織「Toyota AI Ventures」を設立し、AIを中心とした自動運転技術関連企業への投資も積極的に行っている。

世界各国の優秀なエンジニアや研究者の力を借りながらトヨタは自動運転を実現させていく。エンジニアの力の結集が肝であり、それがトヨタの技術開発を支え、クルマを進化させ、安全で楽しいモビリティライフを届けてくれるのだ。

ここまで4回連載にわたってトヨタ自動車の自動運転・コネクテッドカー戦略を戦略を紹介してきた。100年に1度の勝ち抜きという豊田章男社長の覚悟と、初心に戻って研究開発に力を入れていくためのコスト削減、広がる提携網…。どれもトヨタが第二の創業を勝ち抜くために章男社長が掴んだパーツであると言えよう。

IT企業の参入で競争が激化する自動車業界。トヨタがさらなる進化する未来に期待したい。(終わり)

>>トヨタ第二の創業 予告編(目次)

>>トヨタ第二の創業(1)第11代社長、豊田章男65歳と夢の自動運転

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