トヨタ第二の創業(2)初心に返る 研究に巨額予算、原価低減が鍵 トヨタ自動車特集—AI自動運転・コネクテッド・IT

TPSと原価低減も加速



100年に1度の大変革期に立ち向かうトヨタ自動車。技術開発への投資に力を注ぐ一方で、肥大化するコストや無駄を抑えるため「トヨタの真骨頂はTPS(トヨタ生産方式)と原価低減」と足元を見つめ直し、初心に帰る姿勢も忘れていない。豊田章男社長は、過去のトヨタと未来のトヨタの両方の姿をしっかりと見据え、交通事故死傷者ゼロを目指した自動運転技術の研究開発に取り組んでいく構えだ。

■TPS(トヨタ生産方式)と原価低減が鍵

TPSとは「Toyota Production System」の略で、トヨタ自動車が生み出した工場における生産活動の運用方式の一つ。「リーン生産方式」、「JIT(ジャスト・イン・タイム)方式」ともいわれる。注文されたクルマをより早く届けるため、最も短い時間で効率的に造ることを目的に、自動化とJITで生産現場の「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的になくし良いものだけを効率良く造る、今や世界中で研究されている生産管理システムだ。

このTPSの基本の一つに「原価主義より原価低減」というものがある。原価に適正利潤を上乗せして販売価格を決めるのではなく、「販売価格は市場すなわちお客さまが決める」という大前提のもと、「自分たちにできることは原価を下げること」という考え方だ。

この基本に立ち返り、あらゆる職場で固定費の抜本的な見直しを掲げ、日々の業務から大きなイベント、プロジェクトに至るまで、一つひとつの費用を精査し、自分たちの行動の「何がムダか」を考え、地道な原価低減に徹底的に取り組みはじめた。その成果は、過去最高となる2兆4939億円の当期純利益を生み出した2018年3月期決算に表れている。

■研究開発費、過去最高額相当の1兆800億円に

ムダやコストを抑える反面、次の時代へ向かうための研究開発や設備投資は怠らない。2019年3月期に予定している研究開発費は過去最高額相当の1兆800億円、設備投資は1兆3700億円を見込む。研究開発の主軸はやはり自動運転関連技術になるものと思われる。

トヨタの研究開発拠点は国内5カ所のほか、アメリカに2カ所、ヨーロッパに3カ所、中国3カ所、タイ・オーストラリアに各1カ所あり、さらに2015年にはAI(人工知能)技術に関する先端研究・商品企画を目的に米シリコンバレーにTRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)、2018年には自動運転技術の先行開発分野での技術開発を促進するため東京にTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート‐アドバンスト・デベロップメント)を設立している。

TRI-ADのオフィスイメージ=出典:トヨタ自動車プレスリリース

世界トップレベルのソフトウェア企業を目指すTRI-ADは、エンジニアの新規採用含め1000人規模の開発体制を目標としている。国内トップクラスのエンジニア集団を作り上げるところにトヨタの本気度がうかがえる。

TPSと原価低減というトヨタの礎を築いてきた生産管理システムと最高峰の技術開発チームの組み合わせが、これからの自動運転社会を勝ち抜く新しいトヨタ方式になるのかもしれない。

■自動運転実現でトヨタは何を目指すのか

トヨタの自動運転技術の商品開発全体の指針は「クルマとドライバーがパートナーとして協力し合うことで、より安全性を高めることができる」という考え方で、「Mobility Teammate Concept(MTC)」と呼んでいる。自動運転技術開発における究極の目標は、クルマを自動化させることではなく、自動化を広めることで安全で便利、そして楽しい移動を誰もが享受できる社会をつくり出すこととしている。

短期的には自動運転機能を備えた2つのシステムを市場に送り出すことに取り組んでおり、1つは2020年の実用化を目指す「Highway Teammate」(ハイウェイ チームメイト)。運転者の監視の下、高速道路への合流やレーンチェンジ、車線・車間維持、分流など高速道路で自動運転をできるようにする。

もう1つは2020 年代前半の実用化を目指す「Urban Teammate」(アーバン チームメイト)で、同様の機能を一般道で利用可能にする。車両周辺の人や自転車などを検知可能にするほか、地図データや交差点・交通信号の視覚データを利用し、その地域の交通規制に従って走行するように開発している。

なお、一部報道によると、トヨタは取引先に2023年度を目処に運転の主体が完全にシステム側となる「自動運転レベル4(高度運転自動化)」の技術を確立する方針を伝えているというが、正確な導入時期については世界の法規やインフラ整備の状況などを見ながら慎重に判断していくようだ。

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