トヨタの先鋭部隊!次世代モビリティサービスに挑む組織は?

グループ7社をピックアップ



使用画像の出典:トヨタプレスリリース

自動運転をはじめとする次世代モビリティ開発や次世代モビリティサービスの実装に本腰を入れるトヨタグループ。「e-Palette(イー・パレット)」に代表される自動運転モビリティサービス車両の開発や、MaaSアプリ「my route(マイ・ルート)」の展開など、従来の自動車メーカーの垣根を超えた事業展開を加速している印象だ。

この記事では、トヨタグループにおいて次世代モビリティ・サービスの展開・実現に挑む各組織の取り組みについて解説していく。


■ウーブン・プラネット・ホールディングス
先端技術開発を担う国内拠点

自動運転ソフトウェアなど先端技術の開発を進める国内拠点TRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)の事業を拡大・発展するため2021年に設立されたウーブン・プラネット・ホールディングス。ウーブン・コアやウーブン・アルファといった事業会社が専門性あふれる事業展開を加速させている。

ウーブン・コアは、「Mobility Teammate Concept」に象徴される人を中心とした安全な自動運転を実現するための技術開発をはじめ、技術の実装や市場導入・普及を担っている。

ウーブン・アルファは、先進的なアイデアやイノベーションのもとプロトタイプ開発を手掛けており、「Arene(アリーン)」や「自動地図生成プラットフォーム(AMP)」、「Woven City(ウーブン・シティ)」をはじめとする革新的なプロジェクトを立ち上げ、その実現に取り組んでいる。

投資を担うウーブン・キャピタルは、モビリティプラットフォーム開発を手掛ける米Ridecellや配送ロボットの開発を進める米Nuro、自動運転車いすを開発する日本のWHILLなどに投資し、先端技術のさらなる進化を後押ししている。


また、ウーブン・プラネット・ホールディングスとしては、米配車サービス大手Lyftの自動運転開発部門「Level 5」や、マッピング技術を有する米CARMERA、自動車向けオペレーティングシステムを開発する米Renovo Motorsなどを買収している。

次世代モビリティサービスの象徴となる自動運転関連の国内拠点として、またモビリティカンパニーへの変革を進めるトヨタのパラダイムシフトを担う存在として、今後の動向に注目が集まる。

▼ウーブン・プラネット・ホールディングス公式サイト
https://www.woven-planet.global/jp

【参考】ウーブン・プラネット・ホールディングスについては「トヨタ子会社Woven Planet Groupの自動運転事業一覧」も参照。


■TRI(アメリカ
シリコンバレーを舞台にAI技術に磨きをかける主要拠点

Toyota Research Institute(TRI)は、自動運転技術をはじめとした最先端技術の研究開発を手掛ける研究所として2016年に米国に開設された。世界の最先端技術が集結するシリコンバレーを舞台に、高度安全運転支援技術「Guardian(ガーディアン)」や完全自動運転技術「Chauffeur(ショーファー)」といったトヨタの自動運転のベースとなる技術開発を主導している。

AI(人工知能)関連を中心に、スタンフォード大学やミシガン大学、マサチューセッツ工科大学、カーネギーメロン大学などとの共同研究も盛んで、2021年には次の5年間のフェーズで学術機関に7500万ドル(約100億円)以上の投資を行い、自動運転やロボット工学、機械支援認識など35の共同研究プロジェクトを進めていくと発表している。

2022年には、自動運転車によるドリフト走行の実証の様子を公開した。急ハンドルや急ブレーキを要する事態に陥った際、プロドライバーのように車両をコントロールする技術開発を進めているようだ。AIがプロドライバーの制御技術にどこまで近づき、安全性能を高められるか、要注目だ。

▼TRI公式サイト
https://www.tri.global/

■豊田中央研究所
トヨタの技術革新を長く担い続ける研究拠点

要素技術の革新に向け学術的研究をベースに先端技術の開発を担う豊田中央研究所。デンソーの開発部門(現デンソーウェーブ)と共同開発したQRコードをはじめ、移動通信用車載アンテナやナイトビュー向け歩行者検出技術、顔画像処理技術など、これまでの研究成果は多岐に及ぶ。

近年では、トヨタ紡織と共同開発した高耐衝撃プラスチックや、トヨタと共同開発した車載用イメージングレーザーレーダー「SPAD LiDAR」、トヨタやSOKENと共同開発した燃料電池内のミクロの水を高速かつ定量的に可視化する技術などもある。前者はクラウンに実装され、後者は新型MIRAIの開発を支えた放射光解析技術となっているようだ。

研究領域は、知能化や電動化、燃料電池、軽量化、パワートレーンなど自動車作りに直結する領域をはじめ、数理・データアナリティクスや量子デバイスコンピューティング、社会システム、ヒューマンサイエンスなど、データ分析や人間そのものの研究にも及ぶ。

社会システムでは、20~30年後の未来を見据え、あらゆるビックデータ解析を通して社会構造を紐解き、社会に求められる交通システムなどについて研究を進めている。

▼豊田中央研究所公式サイト
https://www.tytlabs.co.jp/

■トヨタコネクティッド
コネクティッドやデジタル分野で存在感を発揮

グループにおけるコネクティッドやデジタルマーケティングなどの分野で研究開発やサービス提供を担うトヨタコネクティッドも、年々その存在価値を高めている印象だ。

MaaS関連では、モビリティサービス向けにさまざまな機能を提供するオープンプラットフォーム「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」や、スマートフォンをデジタルキー化する「スマート・キー・ボックス(SKB)」、ビッグデータを解析して最適な車両運行管理を実現する「TransLog」、高精度な位置情報を活用して交通課題解決や最適な業務分析を実現する「Location Based Service(LBS)」、超小型EVシェアリングサービス「Ha:mo」のアプリ開発などを手掛けている。

コネクティッド事業では、「T-Connect」や「G-Link」といったトヨタやレクサスのコネクティッドサービスの開発・提供を行っている。

このほか、デジタルマーケティング事業としてトヨタグループの16サイトの管理運営、デジタルコミュニケーションと連動したイベントプロモーション、ECプラットフォームの提供なども行っている。

モビリティサービスの展開においては、各種データの収集や解析が重要性を増す。その核となるクラウドやコネクティッド技術を扱う同社は、トヨタグループにおけるモビリティサービス増強の1つのカギを握っていると言えそうだ。

▼トヨタコネクティッド公式サイト
https://www.toyotaconnected.co.jp/

【参考】トヨタコネクティッドについては「章男氏の”疑問”から誕生した「トヨタコネクティッド社」の全容」も参照。

■KINTO
サブスクに留まらないサービス展開に注目

マイカー所有の在り方を変えようとトヨタが2019年に開始したるサブスクリプションサービス「KINTO」。同名の企業が運営を担っており、2022年7月現在、取扱車種はウェブ手続きで15車種・モデル、販売店27車種・モデルとなっている。

トヨタが満を持して発売したBEV「bZ4X」も、国内個人向けはKINTO限定となっている。契約期間中の電池性能の保証など、利用期間を通じて寄り添ったサービスを提供する構えだ。

KINTOではこのほか、移動をテーマにユニークな体験プランや多彩なサービスを発見できるオンラインサイト「モビリティマーケット」なども行っている。

また、同社のグローバルサイトを見ると、サブスクサービス「KINTO One」「KINTO Flex」のほか、オンデマンドシャトルサービス「KINTO Ride」やマルチモビリティアプリ「KINTO Go」、通勤向けの相乗りサービス「KINTO Join」、カーシェアリングサービス「KINTO Share」といったサービスも展開しているようだ。

KINTOの海外展開はあまり知られていないが、日本含め30カ国でサービスを提供しており、海外の方が多様なモビリティサービスを実装している印象だ。今後、日本でもさらに多彩なサービス展開が期待できるかもしれない。

▼KINTO公式サイト
https://kinto-jp.com/

■トヨタモビリティサービス
法人向けサービスやMaaS向けサービスを提供

トヨタは2018年、子会社のトヨタフリートリースと孫会社のトヨタレンタリースを統合し、新たなモビリティサービスの創造・提供を担う新会社トヨタモビリティサービスを設立した。法人向けの各種ソリューションサービスや車載通信機器を活用したコネクティッドサービス、シェアリングをはじめとした新たなモビリティサービスの開発・提供などを行う。

モビリティサービスでは、リースやレンタカーに加え、トヨタのカーシェア「TOYOTA SHARE」やシェアサイクル「ちかチャリ」といったスポット利用が可能なサービスを提供している。

法人向けでは、車両管理システム「TOYOTA MOBILITY PORTAL」や運行管理システム「TransLogⅡ」、テレマティクスサービスなどのほか、社用車専用クラウドサービス 「Booking Car」などを手掛けている。Booking Carは社用車の利用オペレーションをデジタル化して稼働状況を把握可能にするソリューションで、社用車のプライベート利用なども可能にすることで、業務時間外に遊休資産となっている車両を有効活用することができる。

▼トヨタモビリティサービス公式サイト
https://t-mobility-s.co.jp/file/special/63601/486/html/index.html

■トヨタファイナンシャルサービス
決済サービスがMaaSで真価を発揮

トヨタにおける金融サービスを統括するトヨタファイナンシャルサービスは、2019年にトヨタ、トヨタファイナンスとともにスマートフォン決済アプリ「TOYOTA Wallet」を開発した。

スマートフォンとモバイルネットワークは、トヨタのコネクティッド戦略を実現する中核技術として重要な役割を果たしていくとしており、モビリティ社会の基盤づくりに貢献する決済プラットフォームとして大きな期待がかかる。

こうした決済機能が活躍する代表例が、MaaSアプリだ。トヨタファイナンシャルサービスが運営するマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」にも実装され、キャッシュレス決済を実現している。TOYOTA Walletは、トヨタレンタカーやTOYOTA SHARE、KINTO、MONET Technologiesなどグループ内外のさまざまなモビリティサービスと連携する予定という。

一方、2018年に実証を開始し、その後サービスを本格展開しているmy routeは、2022年7月現在、福岡県や神奈川県をはじめ9県でサービスを提供している。単一のMaaSアプリとしては国内最大規模だ。

電車やバス、タクシーなどの公共交通をはじめ、自社・他社問わずカーシェアヤレンタカー、サイクルシェアなど各エリアのさまざまなモビリティを網羅しているほか、デジタルチケットの発行や地域の観光情報の提供など機能を徐々に充実させている。

次世代モビリティサービスを象徴する未来のMaaSは、my routeのようなアプリで利用することが前提となる。アプリの機能や利便性向上がモビリティサービスの質の向上に直結すると言っても過言ではないだろう。

▼トヨタファイナンシャルサービス公式サイト
https://www.tfsc.jp/

■【まとめ】次世代モビリティサービスの実現にまい進

自動運転関連では、今後e-Paletteなどを活用した実証が進展するものと思われる。また、ソフトバンクとの合弁MONET Technologiesを通じたさまざまなモビリティサービスの実証・実装も大きく加速していく見込みだ。

変革の過程にあるトヨタは、今後どのような道を突き進んでいくのか。その答えは、グループ各社の取り組みの延長線上に存在する。引き続き今後の動向に注目したい。

>> 特集目次

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>> 「トヨタ×CASE」最新の取り組み&戦略まとめ 自動運転、コネクテッド…

>> トヨタのe-Palette(イーパレット)とは?多目的自動運転EV、MaaS向けなどに

>> トヨタの運転支援技術「ガーディアン」とは? 自動運転機能なの?

>> トヨタの自動運転システム「ショーファー」を徹底解剖!どんな技術?

>> トヨタの自動運転領域における投資まとめ

>> トヨタのAutono-MaaS事業とは? 自動運転車でモビリティサービス

>> 「トヨタ×オリンピック」!登場する自動運転技術や低速EV、ロボットまとめ

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記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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