トヨタの運転支援技術「ガーディアン」とは? 自動運転機能なの?

他社システムへの提供視野に開発



出典:トヨタ自動車プレスリリース

2019年1月に米ラスベガスで開催されたCES 2019で、Toyota Research Institute(TRI)のギル・プラット最高経営責任者(CEO)が非常に興味深いスピーチを行った。同社が開発を進める安全運転支援システム「ガーディアン(Guardian)」に深く言及し、展望の一端を語ったのだ。

トヨタの自動運転開発に対するアプローチは、単に自律走行可能な車両を開発するのではなく、「ショーファー(自動運転)」と「ガーディアン(高度安全運転支援)」と名付けた2種類のモードに焦点をあて、ドライバーと機械が一体となるようなシステム開発をはじめ、交通環境との調和を含めた安全な運転環境の構築を目指している。


他社への提供も視野に入れているという「ガーディアン」についてその全貌を明らかにすべく、TRIの開発状況に迫ってみよう。

■ガーディアンってどんな技術?
トヨタの高度安全運転支援技術

ガーディアンは、ドライバーによる手動運転において自動運転車が人を守る度合いを示す高度安全運転支援技術を指す。例えば、ドライバーの運転ミスや道路上のクルマ、障害物、他者による交通ルールの無視といった外的な要因に対し、ガーディアンの能力が高ければ高いほど、さまざまな形態の衝突から保護されることになる。

具体例としては、ドライバーの注意が運転から逸れている場合や居眠りの可能性がある場合、これをシステムが検知し、警告を表示した後、カーブを安全に曲がれるようにブレーキやハンドル操作を制御する技術などがガーディアンに相当する。

トヨタ自動車は、このガーディアンの能力が最も高まった場合、ドライバーによる過失の有無にかかわらず、人が運転している車両は決して衝突することはなく、また他の車両やその他の原因によって発生する多くの衝突を避けるよう車両を動かすことが可能になると考えている。


運転手が車をコントロールする前提

ショーファーがドライバーを不要にする完全自動運転システムであることに対し、ガーディアンはドライバーが常にクルマをコントロールする前提で、ドライバーによる操作と協調させながら事故回避に繋げていく技術で、ドライバーの能力や動作をシステムに置き換えるのではなく、増大させるというアプローチで開発を進めている。

なお、ショーファーとガーディアンは技術的に明確な線引きをできるものではなく、あくまで自動運転に対するアプローチ方法として区別されている。自動運転を実現するために開発しているハードウェアやソフトウェア技術の多くはガーディアン・ショーファー両方に適用可能なものであり、実際それぞれに必要とされる周辺認識・制御技術は基本的に同じものという。必要な時にのみシステムが機能するガーディアンに対し、ショーファーは自動運転中は常に機能する。

■ガーディアンの開発状況
AI子会社の米TRIが開発を担当

ガーディアンの開発は、米国でAI(人工知能)などの研究開発を行うTRIが手掛けており、自動運転開発用のテスト施設やシミュレーターなどを駆使して研究を進めている。

2017年3月には、TRIが手掛けた初の自動運転実験車を公開。レクサスLS600hLのドライブ・バイ・ワイヤ技術のインターフェースを実装し、センサーの付け替えなど柔軟に改良を加えることが可能な実験車両で、高い演算能力を備え、マシンビジョンや機械学習能力を強化したモデルだ。


2018年1月には、米ラスベガスで開催されたCES 2018で次世代の自動運転実験車「Platform 3.0」を披露。米Luminar社製の200メートル先の監視が可能なLiDARシステムを搭載し、前方のみの認識が可能だった従来の実験車から外周360度の認識が可能な仕様に変更したほか、短距離LiDARを車両の下部の全周に配置し、低く小さい対象物も検知できるように改良した。

新型実験車の一部は、左右の座席両方にハンドルを備えた「デュアルコックピット・コントロール・レイアウト」として製作し、ガーディアンモードに基づいて実際のテストドライバーとバックアップ用の自動運転システム間の移行を効率的に行う方法についてテストを行っている。

最新の自動運転実験車「TRI-P4」で今後検証

2019年1月開催のCES 2019では、最新型の自動運転実験車「TRI-P4」を披露している。従来より二つのカメラを追加し、両サイドの認識性能を高めているほか、自動運転車用に設計された二つの画像センサーを前方と後方に追加している。レーダーシステムは車両周辺の近距離の視野を向上させるべく最適化したほか、8つのスキャニングヘッドを持つLiDAR(ライダー)システムは、前モデルである「Platform 3.0」で使用したものを踏襲した。

また、CES 2019では、TRIのギル・プラットCEOがガーディアンの開発進捗状況などについてスピーチしており、「今年ガーディアンに組み入れた最も重要な進歩は、人間と機械の間で調和的な車両制御を作りだしたこと」とし、ガーディアンが人間と機械のそれぞれの能力や強みを融合し、調和的な車両制御を作りだしたことを強調している。開発には、パイロットの意思が一秒あたり何千回という単位でフライトコントロールシステムに変換される戦闘機の飛行制御方法をヒントにしたと語っている。

開発にあたっては、ガーディアンの知能や能力をより拡充し、より過酷な形で試すことができるテストコースなどで継続的な改善を図っており、実際の事故データなどを交えながらドライバーを導く最適な方法を学び、極度の危険が伴う環境でどのように反応するのが適正かなど日々経験と知識を重ねており、ドライバーと自動運転システムがチームメイトとして互いのベストの能力を引き出すようなシームレスで調和的な運転システムの構築を目指すこととしている。

MaaS車両の「e-Palette」に標準装備へ

また、MaaS(Mobility as a Service)向けに開発する「e-Palette」にガーディアンを標準装備として組み込むことを計画していることに言及し、トヨタをはじめ他社製の自動運転システムによっても操作が可能で、自動運転システムを監視する手段としてガーディアンを追加できることを発表した。

これにより、各モビリティサービス会社がどのような自動運転システムを使用しても、そのシステムの障害に備えた予備システムとしてガーディアンを活用できることとなる。

これを象徴するように、2018年8月に発表した米ライドシェア大手の「Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)」との協業拡大発表の中で、開発する自動運転モビリティサービス専用車両にウーバーの自動運転キットとトヨタのガーディアンシステムを搭載することを発表している。

■トヨタの自動運転開発の展望
自動運転レベル3の実現、2020年に

トヨタ自動車は2015年に安全運転を支援する「Toyota Safety Sence」を導入し、2017年には高度運転支援技術「Lexus CoDrive」を導入。予防安全パッケージとして搭載車両を順次拡大している。

2020年には、自動車専用道路において自動運転レベル3相当を可能にする「Highway Teammate」の実現を目指している。高速道路における走行中に、システムが交通状況を評価して判断を下し、必要な操作を行うもので、高速道路への合流やレーンチェンジ、車線・車間維持、分流などが機能として含まれている。

2020年代前半には、一般道路での自動運転を可能にする「Urban Teammate」の実現を目指すこととしている。一般道路で「Highway Teammate」同様の機能を利用可能にするもので、車両周辺の人や自転車などを検知可能にするほか、地図データや交差点、交通信号の視覚データなどを利用し、その地域の交通規制に従って走行するように開発を進めている。

トヨタの開発方針、クルマと人が「チーム」に

自動運転におけるトヨタの開発指針は、人とクルマが同じ目的で、ある時は見守り、ある時は助け合う、気持ちが通ったパートナーのような関係を築くという「Mobility Teammate Concept(MTC)」という理念に込められている。

完全自動運転が実現するまでの間、安全運転のために人と機械が持っている異なるスキルを活用するアプローチで、インターネット接続されたシステムやクラウドベースの技術などにより、人と機械が責任を分かち合う知能化したクルマが、各ドライバーの運転経験を活用し、性能向上し続けていくことを意味している。

これがまさにガーディアンの神髄で、MTCは人とクルマの相互作用のみに着目しているのではなく、クルマと運転者の関係を越え、完全自動運転化された車両や歩行者、自転車、他の車両など、道路の他の利用者との相互作用も考慮したコンセプトとして、より広い意味での安全とコミュニケーションを展望している。

ガーディアンの量産車への搭載はいつ?

なお、安全運転支援システムとしてのガーディアンがどのタイミングで量産車に搭載されるかは明らかにされていないが、標準装備を予定しているe-Paletteは、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会で選手村での選手や大会関係者の移動を支援する運行システムとしてお披露目される予定となっている。

MaaS社会の到来を見据えた戦略を進めるトヨタ。今後、独自のプログラムやMaaS分野のさまざまな企業とパートナーシップを組むことで新たな市場や可能性を積極的に模索していくこととしている。

■他社へのガーディアン導入で脚光を浴びるか

ガーディアンはADAS(先進運転支援システム)の一種とも言えそうだが、その本質はADASを高度に進化させたものであり、運転そのものを楽しむドライバーに機械の介入を意識させないような包括的な安全システムとなりそうだ。

また、ガーディアンがトヨタ車のみならず、完全自動運転システムを搭載した他社メーカーの車両にも導入できる冗長システムであることが明らかとなり、他社メーカーやUberをはじめとするサービス事業者などへの波及が今後の見どころになりそうで、MaaS分野における展開にも注目が集まりそうだ。

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記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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