章男氏の”疑問”から誕生した「トヨタコネクティッド社」の全容

スマートシティ構想で大躍進も





トヨタ自動車がコネクテッドサービス「T-Connect」の本格運用を開始してまもなく丸2年を迎える。車載通信機(DCM)の搭載も進み、コネクテッドサービスの普及が広がりを見せている。

このコネクテッドサービスの展開において、トヨタグループ内で中核をなすのがトヨタコネクティッド株式会社だ。







普段はあまり表に出てくることのない企業だが、トヨタが推進するコネクテッド戦略をはじめ、スマートシティ構想などでも今後存在感を増すことが予想される。

今回は、同社の取り組みについて深掘りしていこう。

■トヨタコネクティッドの沿革
豊田章男氏の疑問をきっかけに事業スタート

トヨタコネクティッドの設立は2000年だが、組織としての歴史はもう少し前にさかのぼる。そのルーツは、現社長の豊田章男氏が営業本部課長だった際、「工場を6時間で出た車がなぜ販売店で何週間も滞留するのか」という疑問に端を発するという。

この疑問をきっかけに販売店における業務改善活動に取り組んだ結果、画像システム「GAZOO」が誕生し、販売店に設置された端末で全国の販売店が取り扱う新車や中古車を閲覧できるようになった。後にインターネットサイト「GAZOO.com」の開設につながり、2000年に顧客向けITを推進する戦略ビジネスユニットとして「ガズーメディアサービス株式会社」が設立された。これが前身となる。

2002年には、ガズー社がトヨタのテレマティクス事業を統合し、テレマティクスサービス「G-BOOK」を世に送り出した。

その後、2003年にデジタルメディアサービス株式会社、2008年にトヨタメディアサービス株式会社と時代に合わせて社名変更し、2012年にはタイでスマートフォン向けのテレマティクスサービス「T-Connect」の提供を開始した。

トヨタ自動車の豊田章男社長=出典:トヨタ自動車ニュースリリース

2013年に超小型EVシェアリングサービス「Ha:mo(ハーモ)」のシステム運用、2014年にテレマティクスサービス「T-Connect」の本格運用、2016年にMSPF(モビリティサービス・プラットフォーム)の運用をそれぞれ開始し、2017年に現社名となるトヨタコネクティッドに変更した。

海外事業体としては、北米をはじめ中国の北京と広州、タイ、インド、ドバイ、イギリスに拠点を構えている。

事業領域は、コネクテッドプラットフォームをはじめ計8つの領域に分けられている。以下、一つひとつの領域を見ていこう。

■コネクテッドプラットフォーム

トヨタがこれまでライドシェアなどのモビリティサービス事業者と提携する際に開発を進めてきた車両管理システムや、リースプログラムといった個別の機能を包括したプラットフォームがMSPFだ。

モビリティサービス向けにさまざまな機能を提供するオープンプラットフォームとして活用が進められており、コネクテッドカーから収集した車両ビッグデータを安全かつセキュアに管理するほか、車両ビッグデータを有効活用できるように車両管理や認証機能などさまざまなAPIが用意されている。

保険会社やカーシェア、レンタカー、タクシー、ロジスティクス、リテール、自治体に至るまで、サービスを提供する企業らは、このプラットフォームを介してトヨタやレクサスの車両情報と連携したサービスを提供することが可能で、トヨタのAutono-MaaS専用EV「e-Palette(イーパレット)」などのモビリティサービスをはじめ、テレマティクス保険やフリート向け車両管理、フレキシブルリースなど、さまざまなサービス事業者との連携に活用していく方針だ。

トヨタは2019年12月、あいおいニッセイ同和損害保険と共同で、コネクテッドカーから取得できる走行データを活用して事故時の運転軌跡や運転挙動といった運転状況を可視化するとともに、AIを活用した事故検知を実現する事故対応サービス「テレマティクス損害サービスシステム」の開発を発表している。

今後、こうした取り組みが飛躍的に進展することが予想されるが、この基盤となるのがMSPFなのだ。

2016年に発表された時点のモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)の概念図=出典:トヨタ自動車ニュースリリース

また、MSPFの一機能として、「スマートキー・ボックス(SKB)」や車両運行管理を支援するテレマティクスサービス「TransLog」も展開している。

SKBは、カーシェアなどにおいて安全かつ手軽にドアロックの開閉やエンジン始動を行うことができる車載専用端末で、車内に設置するだけで車両貸し出しに必要な鍵の受け渡しをスマートフォンで行うことが可能になる。

トヨタが展開するカーシェアサービス「TOYOTA SHARE」や無人貸し渡しレンタカーサービス「チョクノリ!」などですでに導入されている。

■ビッグデータ

テレマティクスサービスを通じて収集された、車両の位置や速度、走行状況などの情報を含むビッグデータを基に生成した交通情報を提供する「ビッグデータ交通情報サービス」は、主要道路にとどまらず幹線道路や市道レベルに至るまで、交通状況をリアルタイムに把握することを可能にする。

全国の主要道路に設置されているVICS(Vehicle Information and Communication System)の上位互換的システムで、企業や自治体が利用できるプラットフォームとしても提供しており、企業や自治体が所有する各種情報を地図上に付与することで、交通流改善や地図情報の提供、防災対策などに活用できるという。

このほか、T-ConnectやG-BOOKなどを搭載したトヨタ車から得られるプローブ情報を基に、直近約24時間の通行実績情報を地図上に表示した「通れた道マップ」も提供している。

通行実績情報は常時更新され、最新3時間ごとの情報をパソコンやスマートフォンから閲覧することができる。災害時に有用なサービスだ。

■モビリティサービス

トヨタコネクティッドは超小型EVシェアリングサービス「Ha:mo」のシステムやスマホアプリを開発し、運用している。Ha:moはスマートフォンアプリで予約し、好きなステーションで乗って好きなステーションで返すことができるワンウェイ方式を導入しており、公共交通を組み合わせたルート候補(パーク&ライド)の案内や、渋滞状況や駐車場の満空状態を考慮したルートの探索など、交通手段に応じた目的地までの案内を行うナビ機能も提供している。

現在愛知県豊田市や東京都、沖縄県、タイのバンコク、島根県萩市・出雲市で運用されており、沖縄ではトヨタコネクティッドがサービスの企画運用も行っている。

また、海外では米国ハワイ州のトヨタ販売店Servcoが実施しているステーション型カーシェアサービス「Hui」でもMSPFが活用されている。

【参考】超小型モビリティについては「超小型モビリティが、高齢者の移動に革新をもたらす」も参照。

■テレマティクスサービス

テレマティクスサービス「T-Connect」は、トヨタが展開するコネクテッドサービスの代名詞だ。2002年のG-BOOK開始後サービスを拡張し、2014年からT-Connectとしてサービスを提供している。2018年には新型クラウンとカローラスポーツに車載通信機(DCM)を標準搭載し、コネクテッド事業を本格スタートさせた。

T-Connectでは、ドライブをサポートするオペレーターサービスをはじめ、AI音声エージェント機能やヘルプネット、eケア、マイカーSecurityなどさまざまなサービスを提供している。

また、レクサス車のオーナーには、T-Connectのサービスに加えオーナー専用コールセンター「レクサスオーナーズデスク」や事故や故障などのトラブルに対応する「レクサス緊急サポート24」などが追加された「G-Link」を提供している。

■PHV・EV充電サービス

トヨタは2011年、プリウスPHVの車両発売に合わせ、EV/PHV向けの充電スタンド「G-StationII」の販売も開始した。これまでにトヨタ自動車販売店やショッピングモールなど全国約4300拠点に設置されており、設置者は管理システム「G-Station Manager」によって利用履歴の閲覧やスタンドの稼働監視などを行うことができる。

このほか、全国の充電スタンドを検索するスマホアプリ「充電まっぷ」も運用しており、異なるメーカーやブランドの充電スタンドを含め現在位置やキーワードから検索することができる。

■デジタルマーケティング

WEBサイトの企画開発から運用、データ分析、セキュリティマネジメントに至るまで、すべてのプロセスを一貫してサポートするマーケティングソリューションサービスも行っている。

トヨタコネクティッドが保有するビッグデータを活用し、ユーザーの行動履歴分析によるカスタマージャーニーの作成や、デジタル顧客情報の可視化によるマーケティング・プラットフォームの構築、マーケティングオートメーションツールの導入支援など、一人ひとりの趣味嗜好に合ったコミュニケーション施策を実現するさまざまなソリューションやサービスを提供しているという。

■リアルコミュニケーション

リアルコミュニケーションの分野では、イベントプロモーションやEコマースサイト「GAZOO Shopping」の運営、海外赴任者やその家族向けに日本の商品を販売するECサイト「GAZOO e-Support」の運営などを手掛けている。

■IT改善ソリューション

トヨタ車のオーナーと販売店、メーカーを強固につなぎ、長期的な信頼関係を構築するCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)として、販売店顧客向けサービス支援「e-CRB」を導入している。

来店客のフォローから商談、納車後のCR(コミュニティ・リレーションズ)活動やアフターサービスに至るまで、高効率で高品質なディーラーオペレーションを実現する支援サービスで、現在8カ国10ディストリビューターに導入されており、日本ではe-CRBと既存のDMSを融合したものを改善モデル店で展開している。

このほか、新型システム台車(ICS)や販売物流統合管理システム「SLIM」、効率的な米生産をサポートするクラウドサービス「豊作計画」なども運営しているようだ。

■スマートシティ構想を視野にNTTデータと業務提携

トヨタは2020年1月、あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ(Woven City/ウーブン・シティ)」のプロジェクト概要を発表したが、このスマートシティ構想においてトヨタコネクティッドの存在感が一段と増すことになりそうだ。

2020年3月、トヨタとNTTはスマートシティビジネスの事業化に向け長期的かつ継続的な協業関係を構築することを目的に業務資本提携に関する合意書を締結したと発表した。

一方、トヨタコネクティッドも2020年4月、NTTデータとスマートシティ構想を視野に入れたモビリティサービス・プラットフォームの機能強化やコネクテッドカーの世界展開に向け業務提携を開始したと発表した。

トヨタとNTTはスマートシティ実現のコア基盤となる「スマートシティプラットフォーム」を共同で構築・運営していくとしており、この部分で大きな役割を担うのがトヨタコネクティッドとNTTデータだ。

スマートシティにおいては、多方面から収集した情報・データをどのようにサービスに生かしていくかがカギを握る。このデータの扱いを専門分野とする両社が協働することによってソフトウェア開発や運用、サービスに磨きがかかり、新たな市場を創出していくものと思われる。

【参考】NTTデータとの提携については「トヨタコネクティッドとNTTデータ、モビリティサービス領域で提携」も参照。

■【まとめ】スマートシティ構想で存在感増すコネクテッド技術やビッグデータ分析

コネクテッドサービス「T-Connect」の運用をはじめ、モビリティのサービス化やビッグデータの創出・分析など、より大きな視点でモビリティと社会を結び付ける役割を担っているようだ。

個々のユーザーに利便性を提供するコネクテッドサービスは、収集・分析した情報を社会に還元し、社会全体の利便性を高めていく。その成果は、トヨタが2021年にも着工するウーブン・シティにおいて大きく発揮されることになる。

また、ウーブン・シティの取り組みは、MaaSや自動運転技術などと同調しながら他の地域へと波及していく可能性を秘めている。スマートシティ構想における今後の同社の活躍に期待したい。

【参考】関連記事としては「【保存版】トヨタ×自動運転の全てが分かる4万字解説」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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