MaaSアプリ「Whim」とは? 仕組みやサービス内容を紹介

フィンランド生まれ、日本進出の可能性も



MaaSに基づいたサービスが世界各地に拡大・浸透し始めている。日本でもソフトバンク株式会社とトヨタ自動車株式会社が2018年に共同設立した新会社「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」がMaaS分野での事業展開を模索するなど、近い将来各社が本腰を入れてサービス展開に乗り出すものと思われる。


このMaaSの発祥は、北欧フィンランドのスタートアップ「MaaS Global」社が手掛けるプラットフォームサービス「Whim(ウィム)」だ。人口約550万人の国で生まれたサービスが今、世界の移動サービスに革命を起こそうとしている。

Whimとはどういったものなのか。MaaSをおさらいしながら、その仕組みを紐解いてみよう。

■MaaSとは?

「Mobility as a Service」の略で、マースと読む。直訳すると「サービスとしてのモビリティ」で移動のサービス化を意味し、一般的には自動車や自転車、バス、電車など、全ての交通手段を単なる移動手段としてではなく一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念を指す。

それぞれが独立している自動車やバス、電車、飛行機などの各交通主体を、移動するためのサービス・コンテンツとして取りまとめ、統一されたプラットフォームに乗せることで、利用者に効率的な移動の選択肢を与え、予約や決済などを統一することで利便性をもたらす統合型移動サービスだ。


MaaSのコンセプトはフィンランドで生まれ、瞬く間に世界に広がっている。

■Whimの誕生
政府や交通事業者の協力のもと2016年にサービス開始

MaaSを世界で初めて都市交通に導入したWhimは2016年6月、Sampo Hietanen氏とKaj Pyyhtiä氏が創業したスタートアップ「MaaS Global」社がフィンランドの首都ヘルシンキで立ち上げたプラットフォームサービスだ。

公共交通が整備されているものの自家用車の増加などにより交通渋滞や環境悪化などが顕在化していたヘルシンキでは、Whimの登場以前から交通問題解決に向け取り組む動きがあり、運輸通信省の支援の下、主要大学やタクシー協会、民間企業など100以上の団体・組織が参画する産官学コンソーシアム「ITSフィンランド」などがMaaS実現に向けたプロジェクトを始動させ、実証実験やビジネス化に関する検討を進めていた。

この中で、ITSフィンランドのメンバーでMaaSコンセプトの生みの親であるSampo Hietanen氏が2015年にMaaS Global社の前身となる「MaaS Finland」社を設立し、世界初となるサービス・モビリティ・カンパニーが誕生し、事業が大きく前進することになる。


ヘルシンキのWhimユーザーの交通利用状況は、サービス開始前には公共交通が48%、自家用車が40%、自転車が9%の状況だったが、2016年のサービス開始後は、公共交通が74%と大きく伸びたほか、タクシーの利用が5%に増加した一方で、自家用車は20%に減少したという。

出資続々、日本企業も積極的に支援

世界の注目を集めることとなった同社は、フィンランド全体での運用のほか世界展開を見据えて出資を募り、2017年6月には、あいおいニッセイ同和損害保険とトヨタファイナンシャルサービスが次世代モビリティ事業への取り組みを加速させるため同社へ戦略的出資を行うことを発表。翌7月には、デンソーも出資を決定した。

両社はコネクテッドカーや自動運転技術、電動化の進展や、シェアリングエコノミーの進展により、「クルマの所有から利活用へ」といった顧客の消費行動の変化に適合した、より付加価値の高いサービスの提供を目指していくこととしており、あいおいニッセイ同和損害保険はMaaS Globalへ実務レベルの人員を派遣し、新モビリティサービスやマルチモーダルビジネスのノウハウを取得するとともに、派生する保険関連事業について研究開発を進める予定。

また、トヨタファイナンシャルサービスは新バリューチェーンとしてマルチモーダルビジネスの知見を習得し、収集データの分析に基づきトヨタ顧客へのより良いサービスの提供、カスタマーリテンションの向上に繋げていくことを検討している。

一方、コネクテッド分野の開発に力を入れるデンソーは、多様な移動手段を組み合わせてより高い利便性を追求し、人が中心の新しいモビリティ社会の実現を目指していくこととし、アライアンスの推進なども視野に入れているようだ。

世界展開への道 英国やオランダをはじめ、日本も視野に?

Whimは2017年にベルギーのアントワープで試験サービスを開始し、以後英国ウェストミッドランズ州のバーミンガム、オランダのアムステルダム、シンガポールなど、現地の提携企業とともにサービス範囲を拡大している。「BUSINESS INSIDER JAPAN」が報じたところによると、2019年には日本に進出する可能性もあるという。

スマートモビリティ社会へ 交通サービス一元化を図る法律制定

スマートモビリティシティを目指すフィンランドは、交通サービスに関する法律を制定し、2018年7月施行の「輸送サービスに関する法律」で、バスやタクシー、鉄道など種類別に存在していた輸送サービスに関する法律を一元化し、輸送サービスの規制を緩和。交通サービスを一つのサービスに一本化するため、各交通サービスのデジタル化を図るとともにデータの効率的な利用を促進し、ユーザー指向のモビリティサービスを実現していくこととしている。

施策の第1弾としては、データや情報システムの相互運用確保を義務づけるほか、経路や時刻表、予約システム、支払いなど交通関連の各種規定を一本化する。第2弾では、航空、海運、鉄道サービスとそれに携わる資格要件を緩和していく方針という。

■Whimの仕組み

Whimには、その地域の公共交通機関をはじめタクシーや鉄道、カーシェアリング、ライドシェアリング、レンタルサイクルといったあらゆる移動サービスが一元的に登録されており、アプリで目的地を設定すると、最適な移動手段や経路を自動で提案してくれる。もちろん、移動手段や経路を指定することも可能だ。

利用には、月額無料の「Whim To Go(ウィムトゥーゴー)」、月額数千円の「Whim urban(ウィムアーバン)」、月額数万円の「Whim Unlimited(ウィムアンリミテッド)」の3つの運賃体系をとっており、「Whim To Go」は公共交通機関やタクシー、レンタカーなどはその都度利用料金を支払う仕組みだ。

「Whim urban」は、公共交通機関に無料で乗ることができ、ヘルシンキではタクシーは5キロメートルまで10ユーロ(約1300円)、レンタカーは1日49ユーロ(約6300円)で借りることができる。「Whim Unlimited」では、基本的にほぼ全ての乗り物が無料で利用可能となる。

月額料金はサービス提供地域により異なり、例えばヘルシンキでは「Whim urban」が月額49ユーロ(約6300円)、「Whim Unlimited」が月額499ユーロ(約6万4000円)、バーミンガムでは「Whim urban」が月額99ポンド(約1万4000円)、「Whim Unlimited」が月額349ポンド(約5万円)となっている。

仮に日本で導入された場合、配車サービスアプリとして無料で利用できるほか、月額数千円で公共交通機関が無料、月額数万円でレンタカーなども含むあらゆる移動サービスが無料になり、かつさまざまな移動サービスが予約や決済を含めシームレスにつながるとすれば、料金設定次第で爆発的に普及する可能性も十分に考えられるだろう。

■日本国内のMaaS主導権争い、Whim進出で加速する可能性も

日本国内では、「Suica」などに代表される交通ICカードが普及しており、タクシー業界を中心に配車アプリなどのプラットフォーム化も大きく進み始めている。

東京などはJRをはじめ私鉄、地下鉄、タクシーなどさまざまな交通手段を乗り継いで移動するのが日常となっており、こうした場面で予約や決済が一元化された共通プラットフォームがあると非常に便利だ。

また、地方から東京へ出張するケースを考えると、どういった移動手段を乗り継いで目的地に到達するか、また手持ちの交通ICカードがどの移動サービスで利用できるのかなど、煩わしさを感じる地方在住者も多いのではないだろうか。こういった際にWhimのようなサービスは重宝されるのではないか。

国内では、JR東日本が中期経営ビジョン「変革2027」の中で移動のための情報・購入・決済をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を推進していく方針を打ち出しているほか、小田急電鉄なども移動とサービスを組み合わせたMaaSの取り組みとして、スマートフォンアプリから自動運転バスの予約やルート検索をできるようにする実証実験を行っている。

現時点で鉄道会社がリードしている感があるが、ソフトバンクやソニー、DeNAといったパートナーとともに自動車関連業界も動きを見せており、海外からは本家本元のWhim進出のうわさも出ている。Whimが引き金となり、MaaS実現に向けた動きが加速化する可能性もあるだろう。

主導権争いはしばらく続きそうだが、最終的にカギを握るのは決済や予約などを統括するプラットフォーマーの存在であり、多種多様な移動サービス事業者をどのようにつなぎ合わせることができるかが重要となる。

共通の目標に向け、移動サービス事業者らが広く手を結ぶ日はそう遠くないのかもしれない。


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