「AI自動運転×中国」による天変地異!スタートアップも続々、実用化目前

百度やWeRide、Pony.ai、AutoX…



連日のように世界各地の自動運転関連ニュースが飛び交っているが、最近際立って目を引くのが中国関連のニュースだ。自動運転ラボが開設された約2年前は、米ウェイモを中心にアメリカ勢が圧倒的な地位を誇っていた印象が強いが、この2年で中国勢が急激に台頭し、自動運転サービスの実用化を目前に控えた企業が目白押しの状況となっている。


今回は、中国の各企業の取り組みを中心にその動向に迫ってみよう。

記事の目次

■中国大手企業の動き
百度自動運転タクシー実用化はすぐ目の前に 量産体制も構築

中国自動運転業界の代表格である百度(バイドゥ)は、自動運転車向けのソフトウェアプラットフォームをオープンソース化するプロジェクト「Project Apollo=アポロ計画」を2017年に発表し、世界各国の企業を交えながら開発を推進している。

着々と成果も出始めており、第一汽車集団有限公司(FAW)と共同で開発した自動運転レベル4車両は公道試験運用の段階に入り、車両を量産する工場も建設したようだ。過去の発表では、2020年末ごろから量産に乗り出すこととしている。

このほか、アポロによるバレーパーキングやV2X技術、金龍客車が設計したレベル4の自動運転ミニバスなども公表されており、核技術は実用化目前の段階に達しているようだ。



テンセント:地道に自動運転開発継続か

テンセントは、2017年に中国の北京市に自動運転技術開発施設を設立したほか、2018年には北京市の高速道路で自動運転車のプロトタイプの試験走行を実施している。

2019年7月には、独BMWの自動運転開発を支援するためのコンピューティングセンターを中国国内に開設することも発表している。

取り組みに関する情報発信が単発でその後の動向がつかみにくく、百度に比べ遅れをとっている感は否めないが、地道に開発は継続しているようだ。2019年末には本社を構える深圳の臨海地の土地(島)を購入したことが報じられており、インフラや通信なども交えた一大開発に着手する可能性もありそうだ。

【参考】テンセントについては「BMWとテンセント、中国で自動運転の開発支援センターを開設へ」も参照。

アリババ:出資先スタートアップが躍進

スタートアップへの出資が目立つアリババは、自動運転やV2Iなど各方面に高い技術を有するスタートアップの活躍が際立っている印象だ。2019年2月には、傘下の物流会社「菜鳥網絡(Cainiao Network)」が、成都市で自動運転パークの稼働を開始している。

テンセント同様アリババ本体の情報に乏しいが、自動運転やコネクテッドサービス向けのOS「AliOS」の今後の展開をはじめ、AutoXやBanma、Xiaopeng Motorsなど技術開発が進む各出資先のサービスなどをどのように体系的なものに構築していくかが問われそうだ。

滴滴出行(ディディチューシン):自動運転開発を大幅強化

タクシー配車アプリで日本でもなじみが深くなったDiDiは、本業の配車サービスから自動運転部門を分社化し、自動運転ビジネスに本格着手する構えだ。

新会社は自動運転に関連する研究開発やアプリケーション、ビジネス開発などに注力する予定で、自動車メーカーらとの協力体制を深めながら自動運転技術の推進を積極的に模索していくこととしている。

配車サービスのシステムや地盤はすでに確立しているため、自動運転車両の開発・量産が進めば、自動運転タクシー業界の風雲児的存在になりそうだ。

■中国のスタートアップ・ベンチャーの動き
WeRide:設立2年余りでロボタクシー事業実現か

WeRideは、バイドゥで自動運転の研究に携わっていたトニー・ハン氏が2017年に設立したスタートアップで、自動運転レベル4の開発を主体にロボタクシー事業の実現に取り組む最注目企業だ。

プレAラウンドの資金調達で5700万ドル(約62億円)を集めたほか、2018年10月には、ルノー・日産自動車・三菱自動車の戦略的ベンチャーキャピタルファンド「アライアンス・ベンチャーズ」が同社に3000万ドル(約34億円)を出資するなど、資金調達も上々に進んでいる。

2017年6月に公道走行試験に着手して以来実証を重ね、2018年11月には広州公共交通グループが運営する広州公交集団白雲公司(Baiyun Taxi)と提携し、広州でロボタクシーの試運転を開始。これまでに、総走行距離80万キロ、デモ体験者は1万人を超えている。

2019年8月には、Baiyunとジョイントベンチャー「WeRide RoboTaxi」の設立を発表しており、ロボタクシー事業の本格実施に向けたカウントダウンが始まったイメージだ。

Banma Network Technology:アリババ系コネクテッドサービス提供

Banmaは、「Internet Car(コネクテッドカー)」の開発プロジェクトに向け、アリババグループと上海汽車集団が戦略協定のもと2015年に10億元(約150億円)を投資して設立したスタートアップ。アリババが開発したOS「AliOS」をベースにしたコネクテッドシステム「Banmaオペレーションシステム」を開発している。

2017年にグループPSA (旧PSA・プジョーシトロエン)と東風汽車の合弁「神龍汽車(DPCA)」と、また2018年に独自動車部品大手のボッシュとそれぞれ提携を結ぶなどネットワークを強化しており、BanmaオペレーションシステムはこれまでにRoewe、MG、Maxus、Dongfeng Citroen、フォード、Qorosなどの自動車メーカーに展開されている。

最初の資金調達ラウンドで16億元(約260億円)を集め、2018年11月にコネクテッドサービスの本格的普及に着手しており、中国内における同サービスの一大勢力となっているようだ。

HUMAN HORIZONS:V2I技術で高度自動運転実現へ

2017年創業のEVスタートアップで、スマートカーをモバイルセンサーやデータソースとして機能させる新しいデジタル情報プラットフォーム「Human Oriented Architecture(HOA)」などの開発を進めるほか、自動運転をはじめとしたスマートシティの確立にも力を入れている。

2018年10月には3スマート戦略を発表し、「新しいスマート車両の開発・製造」「車両やそれに伴うネットワークと資源のシェア」「コネクテッドカーと先進の自動運転システム」「スマート輸送アプリケーション」「スマートシティ開発」の5分野に注力することとしている。

2019年1月には、自動運転レベル4~5に向けたV2I(路車間通信システム)「オープンアーバンロードテストプロジェクト」技術により、世界初の協調インテリジェント交通システム(C-ITS)の提供を開始したほか、同年11月には、5Gドライバーレス交通管理モデルが上海の張江ハイテクパークのAI分野で実装されたという。

車両本体の開発においては、車両内の3つの座席位置にハンドル移動させることができる再構成可能なコックピット電動ステアリング装置「RE.CESS」や、GPSナビゲーションテクノロジー、V2V通信テクノロジー、ワイヤレス通信、リモートセンシングテクノロジーを統合することでリアルタイムの交通情報分析を可能にする「C-V2Xシステム」などをコンセプトモデルとして発表している。

革新的な車両開発とともにV2X技術も磨いており、今後注目度が急上昇する可能性が高い一社だ。

Pony.ai:カリフォルニア州でロボタクシーのライドシェアリングサービス開始

2016年に米カリフォルニア州で設立された自動運転スタートアップPony.ai(小馬智行)は、2017年に広州に中国本社を設立し、同国内で初めて客が搭乗可能な自動運転タクシーの実証実験を開始したと言われている。

2018年7月には、資金調達シリーズAラウンドの総額が2億1400万ドル(約240億円)に達したことを発表。2019年8月には、安全なモビリティサービスの提供に向けトヨタ自動車と自動運転技術の開発などで協業することを発表した。

2019年11月には、韓国ヒュンダイとカリフォルニア州の公道でロボタクシーのライドシェアリングサービス「BotRide」を開始することも発表している。

Momenta:AI技術で自動運転を可能にするソフトウエアプロバイダー

2016年創業のスタートアップで、ディープラーニング技術を武器に自動運転のインテリジェントシステムの構築を目指すMomenta。2018年10月に総額10億ドル(約1150億円)の資金調達を発表するなどユニコーン企業入りを果たしている。

これまでに、アフターマーケット向けのADAS(先進運転支援システム)「AutoRing」や、カメラやレーダーセンサーなど手ごろな低価格センサーと高解度マップを組み合わせたレベル3プリインストール・ソリューション「Mpilot」、レベル4自動駐車を可能とする「Momenta Valet Parking」、レベル4自動運転ソリューション「Momenta L4 Urban Autonomous Driving」などを発表している。

PerceptIn:自動運転マイクロモビリティ事業化へ 日本にも進出

2016年に米国シリコンバレーで創業し、現在は香港に本社を構えるPerceptIn。IoTグレードのロボットから低速自動運転に至るまでの視覚認識ソリューションをはじめ、安価な自律走行ソリューションを提供している。

2019年8月には日本法人 PerceptIn Japanを設立し、日本国内における自動運転マイクロモビリティの事業化に取り組んでおり、これまでに福岡県福岡市や奈良県奈良市などで実証を行っている。

2019年11月には半導体商社の株式会社マクニカとの協業も発表しており、事業化に向けた動きが加速しそうだ。

AutoX:カリフォルニア州でロボタクシー許可申請 上海でも実証

香港と米カリフォルニア州に本拠を構えるAutoXも、自動運転業界の有力株だ。ロボタクシーの開発と配送を担う自動運転車の開発を進めている。

2018年にカリフォルニア州サンノゼで自動運転車による食料品配達サービス試験運用を実施しているほか、2019年9月には、完全自動運転の「ロボタクシー」の実証実験を上海市嘉定区で行うことを発表している。年末にはロボタクシー約100台を投入する計画だ。

また、2019年12月付のロイター通信によると、カリフォルニア州の当局に補助運転手なしの許可申請をこのほど行ったことも報じられている。

中国と米国を股に掛けた精力的な事業活動には今後要注目だ。

SenseTime:AI認識技術で自動運転の画像認識分野に進出

自撮りアプリ「SNOW」の開発などで知られるSenseTime(商湯科技開発)も、ディープラーニングを応用したAI認識技術を武器に自動運転分野での活躍が期待される香港のスタートアップだ。

同社は2016年に日本法人を設立し、2017年10月からホンダと自動運転アルゴリズムの共同研究を進めている。歩行者の検出では、性別や年代をはじめ、鞄の有無まで識別できるという。また、自動車では車種や色などの属性を認識する機能も搭載しているという。

2019年9月には、商船三井とともに新たな船舶画像認識・記録システムの実証実験を開始したことも発表している。このほか、茨城県では自動車教習所の跡地を活用し、「AI・自動運転パーク」を開設している。

Qianxun Spatial Intelligence:高精度位置情報サービスを提供

中国国内トップとも言われる高精度位置情報サービスを提供するQianxun SI(千尋位置)は、アリババグループなどが2015年に設立した。2019年11月には、資金調達シリーズAラウンドで10億元(約150億円)を調達している。

2018年9月には、米クアルコムなどと共同開発した業界初となる量産車向けの高精度位置情報車載通信モジュールを公開したほか、2019年6月にはHUMAN HORIZONSと戦略的提携を結び、自動運転やコネクテッド技術、高精度測位の分野で開発を進めていく方針だ。

Neolix:自動運転物流ロボットの量産開始

物流分野では、Neolix(新石器)が自動運転レベル4技術を搭載した自動運転物流ロボットの大量生産を開始することが2019年6月までに明らかになっている。

ロボットは京東商城(JD.com)や華為技術(ファーウェイ)などに納品される予定で、初年の納品台数は1000台程度となる見込みという。

【参考】Neolixについては「レベル4級の自動運転物流ロボ、中国Neolix社が大量生産へ」も参照。

Hesai Photonics Technology:レーザー光の相互干渉を防ぐLiDARなどを製造

上海に本社を置くHesai Photonics Technologyは、開発するセンサーラインナップの一つに自動運転向けのLiDARを有している。2013年に米シリコンバレーで中国に拠点を移し、200mまで検出可能なLiDARなどを販売している。

レーザー光の相互干渉を防ぐ性能を有するLiDAR製品を展開していることでも知られる。高い角度分解能なども特徴だ。

【参考】関連記事としては「京都の光響、中国Hesai Photonics製LiDARの販売開始 「自動運転の目」であるコアセンサー」も参照。

RoboSense:深センに本社を置く2014年設立のLiDAR企業

中国・深センでLiDARを開発する企業がRoboSense社だ。設立は2014年で、現在は中国国内では北京と上海、中国国外ではドイツやアメリカに視点を設けており、「MEMSソリッドステートLiDARシステム」と「Mechanical LiDARシステム」などが主力の製品だ。

既に自動運転機能を搭載した物流向け車両やバスなどで使用実績がある。

Benewake:ソリッド・ステート型のLiDARを製造

Benewake社はソリッド・ステート型のLiDARを製造しており、北京に本社を置いている。自動運転やドローン向けを想定して製造されており、同社の製品は実際に自動運転車の衝突回避などに役立てられている。

短距離センサー、中距離センサー、長距離センサーという形でそれぞれ製品を展開しており、長距離センサーでは最大180mまで計測が可能だ。

■中国のシリコンバレー「深圳」がイノベーションの中心地に

北京、上海、広州とともに中国4大都市に数えられる深圳(しんせん)。近年はハイテク産業の進出が著しく、テンセントやファーウェイなども同市に本社を構える。

経済特区に指定されているほか、隣接する香港やマカオなどとともに「粤港澳大湾区」という一大ベイエリアの形成を目指す国家プロジェクトも進められている。次世代に向けたさまざまな実証実験を行いやすい背景からスタートアップも次々と集積し、中国のシリコンバレーとしての地位を確固たるものにしている。

近々では、テンセントが臨海地の土地(島)を購入し、一大開発を行うのではないかとする憶測も流れている。すでに過密状態の北京や上海などと比べ開発の余地がまだ残されている証左と言え、すでに確立した都市機能と、次世代のスマートシティの融合を図るイノベーションの拠点としても注目度が高い。

■中国における政策・法律面の動向は?

中国において自動運転に関して明確に定めた法律はなく、政府が各企業に対し個別に公道走行のライセンスを付与したり、政府の方針のもと各省や直轄市などが独自規制を敷くのが一般的だ。

例えば、百度(バイドゥ)は中国国内13都市における実証実験などを重ね、2019年7月には本拠である北京市内で自動運転レベル4相当の走行を許可する「T4」ライセンスが付与された。北京市は2019年12月にも客が搭乗可能な自動運転タクシーの走行試験可能地域として新たに40平方キロメートルを追加したことを発表している。

また、上海市は2018年3月に自動運転車などが公道走行試験を行うための条件や申請の流れなどをまとめた「ICV路上走行試験管理弁法」を発表している。こうした許認可のもと各社が実証する流れだ。許認可の仕組みなどは異なるものの、日本とほぼ同様といえるだろう。

一方、中国政府は世界一の経済大国の地位を確立するため、さまざまな分野でデジタル化やネットワーク化、スマート化を推進する「中国製造2025」(2015年)や「自動運転技術に関するロードマップ」(2016年)、「自動車産業の中長期発展計画」(2017年)、「コネクテッド車ネットワーク構築の国家基準」(2017年)、「知能自動車創新発展戦略」(2018年)、「知能自動車路上試験の国家標準」(2018年)など、自動運転やAI、ロボティクス技術の開発などを推進する施策や基準を次々と打ち出している。

2017年には、国家プロジェクトとしてスマートシティ構想を打ち出し、上海や北京、重慶など主要6都市近郊で一から次世代都市を構築する取り組みを進めている。

信号機や建物など街を構成するインフラの至るところにセンサーを設置し、歩行者や障害物、路面状況などを自動車に送信するインフラ協調型のまちを作る計画で、上海郊外の安亭地区では、関連企業の集積地とともに人が住んでいない地域に試験区域を整備し、5キロ平方メートルのテストコースを設けているようだ。

また、北京の南西に位置する雄安新区では、2000平方キロメートルに及ぶ開発面積を予定しているという。これは東京都に匹敵する面積だ。

本来、こうした一大開発や大きなイノベーションにはハレーションが伴うが、強大な権限を持つ政府の意向が絶対的な中国では皆が同じ方向を向くことになる。民主主義の観点から言えば疑問符が付くかもしれないが、国際競争をリードするために有効な体制の一つと言えるだろう。

【参考】北京市でのライセンス許可については「特区内でOK!中国政府、初の自動運転「T4」認可を百度に付与 レベル4相当」も参照。

■【まとめ】2020年に複数社が自動運転サービス実用化か

大手では、百度に比べテンセントやアリババの動向が大人しい印象だが、見方を変えればまだまだ飛躍のポテンシャルを温存しているとも見れそうだ。

スタートアップ勢では、このほかにも上海蔚来汽車(NIO/ニューヨーク株式市場に上場済み)などEV開発を手掛ける企業も多い。

アメリカと中国を股に掛ける企業も目立つ。中国出身のエンジニアがシリコンバレーで創業し、拠点を設けつつ本国に本社を構えるパターンが多いようだ。貿易摩擦の懸念は残るものの、両国の先端技術を柔軟に取り入れながら双方の市場をにらむ手法としては非常に有効だ。

いずれにしろ、創業から実用化までのプロセスが平均して短い印象で、このスピード感は他国企業を圧倒している。その背景には、資金調達しやすい環境や政府の方針、開発ブームなどがありそうだ。

実際の技術水準はふたを開けてみないとわからないが、ほぼ間違いなく2020年中に複数社が自動運転サービスを実用化する見込みで、開発の勢いはますます加速する可能性がある。本年の中国の動向には最注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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