自動運転OS、デファクトスタンダードの座を巡る激戦の構図

離合集散繰り返し、淘汰・統合へ?





独VWと米フォード、米GMとホンダ、独BMWと独ダイムラーなど、自動車メーカー大手同士の提携が近年相次いでいる。その背景にあるのは、自動運転やMaaS(Mobility as a Service)といった今後の自動車業界を大きく変えていく技術やサービスの開発だ。







将来技術にはIT企業やスタートアップら異業種参入も盛んで、未来の主導権をめぐりさまざまな攻防が繰り広げられている。とりわけ、自動運転の核となる「OS(Operating System)」をめぐる競争は今後激化の一途をたどるものと思われる。

パソコンにおけるMicrosoftの「Windows」とAppleの「macOS」、スマートフォンにおけるGoogleの「Android」とAppleの「iOS」のように、自動運転においても将来的にはOSが統廃合を繰り返し、2、3種類に収束する可能性が高い。つまり、各社が独自開発を進めている自動運転システムも、近い将来淘汰が始まり、勝ち組と負け組に分かれ始めるのだ。

IT企業躍進の脅威の下、今までライバルだった自動車メーカーが手を組み始め、開発力の強化とシェアの拡大を図っているのがまさに今の段階だ。

そこで今回は、自動運転開発において一定のグループ化が図られている陣営や開発プロジェクトなどに着目し、将来の自動運転OSをめぐる現代界における構図をあらわにしようと思う。将来のデファクト・スタンダード(事実上の標準)となるのはどこか。

■トヨタ・ソフトバンク陣営

トヨタ自動車の自動運転開発に対するアプローチは他社と少々異なる。単に自律走行可能な車両を開発するのではなく、「ショーファー(自動運転)」と「ガーディアン(高度安全運転支援)」と名付けた2種類のモードに焦点をあて、ドライバーと機械が一体となるようなシステム開発をはじめ、交通環境との調和を含めた安全な運転環境の構築を目指している。

プラットフォーム面では、MaaS専用次世代EV「e-Palette(イーパレット)」において、多様なモビリティサービスとの接続機能を備えた統一プラットフォーム「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」を最大限生かす仕様が発表されている。

トヨタは、イーパレットの活用を通じて、これまで培ってきた車両制御インターフェースを自動運転キット開発会社に開示するとしており、開発企業はMSPF上で公開されたAPI(Application Program Interface:プログラミングの際に使用する関数)から開発に必要な車両状態や車両制御などを取得することができ、自動運転制御ソフトウェアやセンサー類など自社開発したキットを搭載することが可能になる。

自動運転技術を一つのソフトウェアに見立て、その上位にあるプラットフォームの有効活用を図るようなイメージで、コネクテッド技術やMaaSサービスなどを含めた将来の自動運転社会における真のOSの一つの在り方が示されているようにも感じる。

また現時点では自動運転OS・ソフトウェアの開発とは直接は結びつかないかもしれないが、トヨタは2018年、ソフトバンクとともに合弁会社「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」を設立するなど急接近しており、将来的にソフトバンクがトヨタの自動運転技術の開発に何らかの形で一枚噛んでくる可能性は十分に考えられる。

米ライドシェア大手のUber(ウーバー)をはじめ、世界各国のライドシェア事業者などに対してトヨタとソフトバンクがともに出資・提携している例は少なくなく、こうした企業に対し、ライドシェアの自動運転タクシー化に向けて共同でシステムを提供していくことも予想される。

■VW・フォード陣営

世界最大手グループの一角・フォルクスワーゲンググループは、自社内・グループ内における開発を強化する一方で、他社との提携も目立ってきた。

グループ内においては、コネクテッド技術や自動運転などの専門家を集約した新たな組織「Car.Software」の立ち上げを2019年6月に発表するなど、自律した技術開発への取り組みをいっそう強化している。

一方、2018年6月には米フォードと商用車の共同開発に向け提携を交わし、2019年7月にはこの提携を拡大することを発表した。

共同開発する対象車種を拡大するほか、自動運転分野においてもフォード傘下の自動運転開発企業「アルゴAI(Argo AI)」にフォルクスワーゲンが新たに出資することなども盛り込まれている。

このほか、フォルクスワーゲンは2017年に米インテル傘下のモービルアイと自動運転車に関する技術開発において提携を結んでおり、自動運転車の配車サービスを2022年からイスラエルでスタートすることも発表している。モービルアイの技術やインテルが持つクラウド技術などを活用することで、自動運転技術の普遍性を高めることもできるだろう。

欧米を代表する巨大メーカー同士の提携が、近い将来自動運転を取り巻く業界図を大きく塗り替える可能性は決して低いものではないはずだ。

■BMW・ダイムラー陣営

モビリティサービス分野における共同事業化に続き、自動運転分野での開発においても戦略的長期提携を結んだ独BMWとダイムラーの動向にも注目だ。

BMWは、インテルやモービルアイとともに自動運転プラットフォームの開発連合を組織し、米国の自動車部品大手デルファイやカナダのマグナインターナショナルなども参加。一方のダイムラーは独自動車部品メーカーのBOSCH(ボッシュ)などと手を組み、自動運転システム確立に向けたソフトウェアやアルゴリズムの共同開発を進めている。

ともに高い技術開発力を持ち、ネットワーク拡大を進める両社が手を組むことで、他陣営を脅かす存在に急浮上する可能性も否定できないだろう。

【参考】BMW・ダイムラーの提携については「BMWとダイムラーが長期提携、自動運転や自動駐車など共同開発」も参照。

■GM・ホンダ陣営

傘下に収めた米Cruise Automation(クルーズ・オートメーション)とともに自動運転開発を進める米GM(ゼネラル・モーターズ)。2018年10月には、自動運転技術を搭載した無人ライドシェアサービス用の車両開発に向け本田技研工業株式会社(ホンダ)と提携することが発表され、横のつながりを拡大する動きが顕著になってきた。

クルーズが開発する自動運転技術は実用化の域に達しているとも言われており、予定通りであれば2019年内に自動運転タクシー事業に着手する見込みとなっている。

自動車世界販売台数トップ10の常連であるGMとホンダの販売台数を合わせると約1300万台規模となり、世界シェアは飛躍的に高まる。自動車メーカーによる自動運転の早期実現によって先行し、シェアを拡大していく可能性もあるだろう。

■百度:アポロ計画

国策のもと自動運転開発を精力的に進める中国。その中で、目玉というべきプロジェクトが「Project Apollo(阿波羅)=アポロ計画」だ。百度(バイドゥ)主導のもと2017年4月に発表された自動運転車向けのソフトウェアプラットフォームをオープンソース化するプロジェクトで、パートナー企業には世界各国の有力企業が名を連ねている。

2019年7月現在、独BMWやダイムラー、日本のホンダ、スウェーデンのボルボ、米フォード、韓国の現代、英ジャガーランドローバーなどの海外自動車メーカーや、独ボッシュ、コンチネンタル、ZF、仏ヴァレオ、米エヌビディア、マイクロソフト、インテル、ベロダインライダーといった部品大手やテクノロジー企業など145社・団体などがパートナーに名を連ねている。

なお、トヨタ自動車も参加したとする一部報道も流れているが、今のところ公式発表は出されていない。

参加企業は、「アポロ」と名付けられたプラットフォームを活用することで、HDマップサービスや自動運転シミュレーションエンジン、深層学習アルゴリズムなどのリソース共有を行うことができ、開発スピードを早めることが可能となる。

現在オープンソースとして公開しているのは、ソフトウェアプラットフォームのほか、ハードウェア開発プラットフォームやクラウドサービスプラットフォーム、ターンキーソリューションなど。短期間のうちにバージョンアップを重ねており、2019年7月時点でアポロ5.0がリリースされている。

これまでに、米フォードがアポロ計画で開発を進めていたテスト車両の改造を完了し、北京で自動運転レベル4に対応した自律走行車両を共同で実証試験を行う2年間のプロジェクトに着手することを2018年10月に発表したほか、ボルボ・カーと共同で完全自動運転EV(電気自動車)の開発に乗り出すことも2018年11月に発表されるなど、取り組みは着実に成果を上げているようだ。

【参考】アポロ計画については「中国・百度(baidu)の自動運転戦略まとめ アポロ計画を推進」も参照。トヨタのアポロ計画参加報道については「トヨタ、中国・百度が主導する自動運転連合「アポロ計画」に参加か」も参照。

■Google(Waymo)

いち早く自動運転開発に本格着手し、2018年12月に自動運転タクシーの実用化にこぎつけるなど自動運転分野で先頭を走る米グーグル系の自動運転開発企業ウェイモ。近年は自動車大手との提携も進んでおり、同社の自動運転技術のOS化に注目が集まるところだ。

同社は2016年5月、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と自動運転開発に向け協業を進める提携を交わし、ウェイモの自動運転技術を導入するための専用車両をFCAが設計・開発し、約100台を提供。その後も、2018年に英ジャガー・ランドローバー、FCAとそれぞれ提携し、合わせて8万台余りの車両をウェイモが購入する方針が発表されている。

2019年1月には、完成車メーカーから購入した自動車を自社の自動運転技術を搭載した商用車に改造する工場建設を発表している。現状は車両側に一定の規格が必要と思われるが、応用が進めば、どのような車両にも自動運転技術を搭載することができる、いわば自動運転技術のOS化につながる重要な取り組みと言えるだろう。

このほか、同社は2019年6月にも日産自動車、仏ルノーと無人モビリティサービスに関する独占契約を締結したことを発表している。日本とフランスにおいて無人運転の乗客・配送向けサービスの提供を実現するため、3社でまず市場分析や共同調査を進めて可能性を探るといった内容だが、着々とグループ化が進められているような印象も強い。

【参考】FCAとの提携については「FCAの自動運転戦略まとめ ウェイモとの協業の行方は? 開発状況は?」も参照。日産、ルノーとの提携については「日産とルノー、自動運転分野でグーグル系ウェイモと独占契約」も参照。

■テスラ

米電気自動車(EV)大手テスラは、運転支援システム「オートパイロット」を独自に進化させ、将来的に完全自動運転を実現させる見通しとみられる。

現時点におけるオートパイロットは、同一車線内でハンドル操作や加速、ブレーキ操作を自動で行うというもので、「ナビゲート・オン・オートパイロット」という機能では、ほかの車の走行状況を加味しながら車線変更を運転手に提案する。

テスラの自動運転機能については、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)のTwitterなどによる発言にも注目が集まるが、公式サイトでは継続的なオートパイロットのワイヤレスアップデートによって自動運転化を進めていく旨が説明されている。

マスク氏は同社が製造する車両を活用してロボットタクシー事業を展開することに意欲を示しており、同社がいずれ完成させる完全自動運転システムはこの事業でも大いに活躍するはずだ。

■ティアフォー・Autoware Foundaiton

Autoware Foundaitonは、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」の標準化を推進する国際業界団体。オートウェアの生みの親である加藤真平氏らが立ち上げた名古屋大学発のスタートアップである株式会社ティアフォーと、同社が提携する米シリコンバレーのApex.AI、英半導体大手Arm(アーム)の推進団体「Linaro」主導のもと、2018年12月10日付で設立された。

オートウェアは、ティアフォー設立前の2015年8月、名古屋大学や長崎大学、産業技術総合研究所らで取り組んだ「市街地の公道での自動運転」のために開発されたものだ。その後、自動運転用途としては世界初のオープンソースソフトウェアとして公開され、大学の研究開発から企業の製品開発まで幅広く利用されるようになった。

このオートウェアを、誰でも無償で使える自動運転OSとして国際的に一層普及させ、国や企業を問わず自動運転の早期実現が促されるよう参画企業が一丸となって実用化に取り組む団体が「Autoware Foundaiton」だ。

Autoware Foundaitonには2019年7月現在、トヨタ自動車の子会社で自動運転ソフトウェアの開発を手掛けるトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)や韓国の情報通信・家電メーカーLG、LiDAR(ライダー)開発大手の米Velodyne Lidar(ベロダイン)、英アーム、中国の情報通信メーカーHUAWEI(ファーウェイ)、ソフトウェア開発を手掛けるイーソル株式会社など14社がプレミアムメンバーとして名を連ねるほか、米インテルや日立、マクニカ、名古屋大学など18社・団体も会員となっている。

加藤氏は自動運転ラボの取材に「ソフトウェアの歴史上、オープンソースじゃないソフトウェアがオープンソースのソフトウェアにシェアで打ち勝ってきた例はほとんどない」と語っている。完成度・クオリティを高めるうえで、世界中であらゆる検証が行われるオープンソースの優位性が将来的なシェア獲得につながるという理論だ。

【参考】ティアフォーについては「ティアフォーの自動運転戦略まとめ Autowareとは?」も参照。加藤真平氏への取材詳細については「オープンソース「歴史上必ず勝る」…自動運転OSの第一人者・ティアフォー加藤真平氏」も参照。

■【まとめ】離合集散繰り返し淘汰・統合へ 自動運転OSめぐる攻防激化

自動運転をめぐっては、このほかにもプジョーやシトロエン、オペルなど仏自動車メーカーによる「Groupe PSA」や、仏政府のもと、PSAにヴァレオ、コンチネンタルなども加わった団体「VEDECOM」などさまざまな業界団体やつながりがある。また、半導体大手の米NVIDIA(エヌビディア)のように、強力な技術力をもって各社と連携する企業も、年々影響力を増して主導権争いに加わる可能性も考えられる。

ADAS(先進運転支援システム)のような自動運転レベル2以下においては独自開発技術で要件を満たすことができたが、レベル4以降の技術確立に向けては、より高度な技術と開発スピードが求められるため、自動車業界全体の力関係・ライバル関係を考慮しつつ各社が提携を模索している印象だ。

今後、しばらくの間は離合集散を繰り返し、実証・実用化を交えた過程で技術力や汎用性といった評価が固まり、主導権争いもどんどん絞られていくことになると想定される。

水面下の競争から各社が顔を出した今。自動運転業界のカオスマップはまさに混とんとしている状況だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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