「トヨタ×CASE」最新の取り組み&戦略まとめ 自動運転、コネクテッド…

Woven City構築など各領域で取り組み加速



自動車業界でCASEの波がスタンダードとなりつつある。C(コネクテッド)、A(自動運転)、S(シェアリング・サービス)、E(電動化)の頭文字をとった造語で、それぞれの領域が研究開発の柱となり、これらの技術やサービスが融合して未来のモビリティ業界を形成する。


日本が世界に誇る自動車メーカーのトヨタも早くからCASEを意識した事業展開を進め、自動車製造企業からモビリティカンパニーへの進化を図っている。

そこで今回は、トヨタのCASE各領域における最新の動向をまとめてみた。

■C(コネクテッド)
2018年にコネクテッドサービスを本格展開

トヨタのコネクテッドサービスは、モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)を根幹とする。トヨタ自動車とトヨタコネクティッドが構築したモビリティサービス向けのさまざまな機能を提供するオープンプラットフォームであり、情報インフラだ。

コネクテッドカーから収集された車両ビッグデータを有効活用できるよう、車両管理や認証機能などさまざまなAPIが用意されており、カーシェアや保険会社など、サービス提供企業がこのプラットフォームを介してトヨタやレクサスの車両情報と連携したサービスを提供することを可能にしている。


このMSPFの活用をベースにトヨタが発表したコネクテッド戦略は、「すべてのクルマをコネクテッド化」「ビッグデータの活用」「新たなモビリティサービスの創出」という3つの柱を軸に据えており、1つ目の一般乗用車向けの本格的なコネクテッドサービスは、2018年発売の新型クラウンと新型車カローラスポーツから車載通信機(DCM)を標準装備とし、さまざまなサービスを展開している。

【参考】トヨタのコネクテッド戦略については「【決算深読み】トヨタのコネクテッド戦略「3つの顔」とは?」も参照。

コネクテッド・シティ「Woven City」着工へ

トヨタは2020年1月開催のCES2020で、「コネクテッド・シティ」プロジェクトの概要を発表した。静岡県裾野市に位置する東富士工場の跡地を利用し、約70.8万平方メートルのエリアであらゆるモノやサービスがつながる実証都市を作り上げていくというプロジェクトだ。

実証都市は「Woven City(ウーブン・シティ)」と命名し、2021年2月23日(※「富士山の日」に合わせてこの日にした)に鍬入れ式が行われる予定となっており、関心のある企業の参加のもと、自動運転やMaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI技術などを導入・検証できるまちを形成する。実際に2000人規模が住めるまちとし、段階的に拡大していく方針のようだ。


従来の道路・区画は、スピードが速い自動運転モビリティ用の道、歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナード、歩道がある縦長の公園のような道の3種類に分けられ、3×3のブロックとなってそれぞれ公園や中庭などの空間を形作るという。

ちなみにWoven Cityのプロジェクトは、TRI-ADの再編により誕生したWoven Planet Groupの事業会社であるWoven Alphaが担う。同社の代表取締役は、トヨタ社長の豊田章男氏の息子である豊田大輔氏で、公式サイトでは大輔氏について「Woven Cityのプロジェクトを通じて、幸せがあふれる街づくりに向けた挑戦を続けている」と説明されている。

【参考】ウーブン・シティについては「トヨタWoven Cityが革新牽引【最前線「自動運転×スマートシティ」 第3回】」も参照。

NTTと業務資本提携に合意

トヨタとNTTは2020年3月、スマートシティの実現を目的に業務資本提携に合意したと発表した。両社はこれまでもコネクテッドカー分野で協業を行ってきたが、協力関係をいっそう強化し、一体となってスマートシティ実現のコア基盤となる「スマートシティプラットフォーム」を共同で構築・運営していく構えだ。

同プラットフォームは、スマートシティにおいてヒト・クルマ・イエ、住民・企業・自治体などに係る生活やビジネス、インフラ・公共サービスなどすべての領域へ価値提供を行う基盤となるもので、先行ケースとして、ウーブン・シティや東京都港区品川エリアのNTT街区で実装する方針としている。

また、合わせてトヨタ系のトヨタコネクティッドとNTT系のNTTデータの両社も業務提携を交わし、MSPFのさらなる機能やサービスの拡張、コネクテッドカーの海外展開などに向け、協業を加速させている。

【参考】トヨタとNTTの取り組みについては「トヨタ自動車とNTT、スマートシティで協業 Woven Cityの取り組みを世界へ」も参照。

AGLやAECCの設立に寄与

国際的な活動しては、コネクテッドカー向けのオープンプラットフォームを開発する「Automotive Grade Linux(AGL)」の設立や、コネクテッド社会に対応した基盤づくりを進める「Automotive Edge Computing Consortium(AECC)」の設立などに関わり、技術やシステムの開発・標準化などの取り組みを進めている。

■A(自動運転)
ガーディアンとショーファー

トヨタの自動運転開発は、ドライバーによる手動運転を前提に、ドライバーによる運転操作と協調させながら正確に車両を制御することでさまざまな事故を防止する「ガーディアン」と、基本的にドライバーを必要とせず、システムがドライバーに代わって運転タスクを担う全自動運転システム「ショーファー」という2つの概念に基づいて進められている。

ショーファーは一般的な概念における自動運転そのものに該当するのに対し、ガーディアンはドライバーの運転能力を拡充・強化することで安全性を向上させるように設計されている。トヨタや他社が開発した自動運転レベル4~5の自動運転システムと組み合わせ、安全性と品質を向上させることも可能にし、ショーファー型システムのバックアップとしても機能するとしている。

MaaS向けの自動運転EV「e-Palette

トヨタはMaaS向けの自動運転EVとして、CES2018で「e-Palette(イー・パレット)」を発表し、技術開発に取り組んできた。

2020年12月には実用化に向けて進化したe-Paletteがオンラインで公開され、トヨタの「モビリティサービスプラットフォーム」を軸にした新たな運行管理システムとして、配車システム「AMMS」と、サポートシステム「e-TAP」も合わせて紹介された。

公式サイトでは、AMMSは「必要な時に、必要な場所へ、必要な台数だけ、e-Paletteを配車するシステム」、e-TAPは「『目で見る管理』を導入し、運行に関わるスタッフをサポートするシステム」と説明されている。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転車e-Palette向けの「AMMS」「e-TAP」とは?」も参照。

自動運転モビリティサービス「Autono-MaaS」実現へ

トヨタは「Autono-MaaS」と銘打ち、さまざまなモビリティサービスの創出と自動運転を実現する取り組みも加速させている。

協業を進める米配車サービス大手のUberは、トヨタのミニバン「シエナ」をベースとした車両にガーディアンシステムとUberの自動運転システムを連携させた自動運転ライドシェア車両を2021年にも導入する方針だ。このほか、短中距離のライドシェアサービス向けに小型のMaaS EVの開発も進められているようだ。

ベースとなるレベル2、レベル3の量産車両に自動運転システムとなる「ADS(Automated Driving System)」を搭載することでレベル4のMaaS専用車両に昇華するというコンセプトのもと開発を進めており、その際に使用される自動運転ソフトは、第三者が提供するものも利用できるが、車両側に搭載されているガーディアンシステムが周辺状況を二重で監視することで、車両の総合的な安全性を高めることを目指すとしている。

新たな自動運転コンセプトカー「LQ」

トヨタが2019年10月に公表した最新の自動運転コンセプトカー「LQ」は、米国でAIや自動運転・ロボティクスなどの研究開発を行うTRI(Toyota Research Institute)と共同開発したAIエージェントや自動運転機能を搭載した、将来の自家用車向け自動運転車だ。

レベル4相当の自動運転機能やパナソニックと共同開発した無人自動バレーパーキングシステム、AIエージェント「YUI」の搭載などが目玉で、東京モーターショー2019でお披露目された。

【参考】LQについては「トヨタ「LQ」を徹底解説!自動運転時代の愛車に」も参照。

ADASでは新型レクサスLSが高度なレベル2を実現

2020年初冬の発売を予定している新型レクサスLSには、ハンズフリー運転を可能にする最新のADAS(先進運転支援システム)「Lexus Teammate」が搭載される。

高速道路におけるハンズフリー運転を実現する「Advanced Drive」や最新の高度駐車支援技術「Advanced Park」が目玉で、ディープラーニングを中心としたAI技術も取り入れられているほか、外部センサーにLiDAR(ライダー)が採用されるとする一部報道もあり、その仕様に高い注目が集まりそうだ。

高精度3次元地図の作製・更新技術開発も

トヨタグループは、自動運転をサポートする情報インフラ「高精度3次元地図」の開発にも力を入れている。TRI-AD(※現在は「Woven Planet Group」に再編)は2019年2月、高解像度マップに特化したストリートインテリジェンスプラットフォーム開発を手掛ける米CARMERAとともに、高精度地図の自動生成に向けた実証実験を行うことを発表している。

TRI-ADは2020年3月、専用の計測車両を使用せずに衛星や一般車両から得られる画像データなどを元に自動運転用地図情報を生成する技術や、TRI-ADの自動地図生成プラットフォーム「AMP(Automated Mapping Platform)」上の車両データのデータ形式を変換してアルゴリズムを補正することにより、他社のプラットフォームで活用する技術などの検証結果を発表し、これらの技術を活用することで自動運転用地図の更新期間の短縮やエリアの拡大、作成・維持コストの大幅な削減が期待できるとした。

同年4月からは、AMPを用いて、車両センサーで収集したデータから道路上の変化した個所を検出することで、ダイナミックマップ基盤のHDマップを効率的に更新する技術について新たに検証を進めている。

【参考】TRI-ADの取り組みについては「トヨタTRI-AD、効率的な自動運転用HDマップの更新に向けて実証実験」も参照。

TRI-ADの新体制移行で開発力を強化

ここまでの説明でも何度か登場したTRI-ADだが、事業の一層の拡大・発展に向け、2021年1月にWoven Planet Groupに再編された。持株会社ウーブン・プラネット・ホールディングスのもと、自動運転技術の開発や実装、市場導入を担う事業会社ウーブン・コアと、既存の事業領域を超えた新たな価値を創造するウーブン・アルファがWoven Cityや先進技術・サービスの開発にあたる。

■S(シェアリング・サービス)
モネ・テクノロジーズがモビリティサービスの可能性を拡大

シェアリング・サービス関連では、2018年にソフトバンクと設立したMONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)がさまざまなサービスの創出や実装を目指し横の連携を進めている。

業界・業種の垣根を越えてモビリティイノベーションを実現する「MONETコンソーシアム」には2020年8月現在、幅広い業種や研究機関など606社が加盟している。

ヘルスケア大手のフィリップスジャパンが長野県伊那市と「医療×MaaS」の実証を行う例や、三菱地所がオンデマンド通勤シャトルの実証を行う例など具体的な取り組みも進められており、今後も多くの企業や自治体などの参加のもと、モビリティサービスの可能性をどんどん広げていきそうだ。

カーシェアやサブスク、MaaSアプリも展開

モビリティカンパニー化に向け、トヨタ自らが手掛けるサービスも加速している。2019年7月にサブスクリプションサービス「KINTO ONE」の全国サービスを開始したほか、同年10月にはカーシェアリングサービス「TOYOTA SHARE」も全国展開を開始した。

また、2018年10月に福岡県で開始したマルチモーダルモビリティサービス「my route(マイルート)」は、北九州市、熊本県水俣市、神奈川県横浜市にエリアを拡大している。今後も宮崎県宮崎市や日南市をはじめ順次全国展開を進めていく予定だ。

配車サービス大手に加え自動運転タクシー開発企業にも出資

トヨタはこれまで米Uberや中国のDidi Chuxing(滴滴出行)、東南アジアのGrabといった配車サービス大手に出資・協業を進め、自動運転開発やライドシェア向けプラットフォームの開発面などで協調体制をとってきたが、ここにきて新たな動きを見せ始めている。

2019年8月、自動運転タクシーの開発を手掛ける中国スタートアップのPony.aiとモビリティサービスの提供に向け提携を交わしたのだ。翌2020年2月には、同社がトヨタから4億ドル(約440億円)の出資を受けたと発表しており、提携度合いを増している感がある。

世界では、自動運転タクシーで先行する米WaymoとFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)やボルボ・カーズのように、車両の共有やウェイモの自動運転システムを自社プラットフォームに搭載するための戦略的提携が増加傾向にある。

トヨタの思惑は明かされていないが、将来の自動運転移動サービスの実現に向けた布石となることはほぼ間違いないものと思われ、今後の動向に注目したい。

■E(電動化)
パナソニックらとの連携強化

電動化に向け、トヨタは2019年7月には中国のCATL(寧徳時代新能源科技)と新エネルギー車(NEV)用電池の安定供給と発展進化に向け包括的パートナーシップを締結した。

2020年4月には、パナソニックと車載用角形電池事業に関する合弁会社「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ」を設立したほか、中国BYD(比亜迪股份)ともEVの研究開発を進める合弁「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー」を広東省深センに設立するなど、他社との連携を強化している。

2017年発表の計画では、新車から排出される走行時のCO2排出量を2050年までに2010年比で90%削減する長期的な目標を掲げており、そのマイルストーンとして、2030年の新車販売においてHVとPHVで450万台以上、EVとFCVで100万台以上の達成を目指している。

今のところ目標を上回るスピードで電動化が進んでおり、2020年に中国を皮切りにEVを本格投入し、グローバルにEV車種を増加して2020年代の前半には10車種以上で展開する方針を打ち出している。

EV市販モデル「UX300e」を公開

トヨタ・レクサスは2019年11月、中国で開催された広州モーターショーでレクサス初のEV市販モデル「UX300e」を世界初公開した。中国や欧州などを皮切りに2020年以降に順次発売し、日本では2021年前半を予定しているという。航続距離は400キロ。

2020年8月には、レクサス「RZ450e」の商標登録申請がオーストラリアで行われていたことを自動車関連メディアのResponseなどが報じている。UX300e同様車名の「e」はEVを指すものと思われ、すでに次の展開が水面下で進んでいるようだ。

ハイブリッドシステムに定評のあるトヨタが本格的に純EVを手掛ける意味は大きい。トヨタブランドにおける展開もそう遠くない将来始まりそうだ。

東京2020オリンピック・パラリンピック向けのEVも

残念ながら延期となったが、トヨタはワールドワイドパートナーを務める東京2020オリンピック・パラリンピックでさまざまな電動モビリティを披露する予定だった。

燃料電池車(FCV)「MIRAI」や「プリウスPHV」などをはじめ、大会専用車の「APM」や東京2020専用仕様の「e-Palette」、パーソナルモビリティなど、幅広いラインアップを用意している。改めて2021年の大会に注目だ。

【参考】東京2020で活用されるロボットについては「「トヨタ×オリンピック」!登場する自動運転技術や低速EV、ロボットまとめ」も参照。

■【まとめ】2021年はトヨタ・イヤーに

トヨタの最新技術がお披露目される予定だった東京2020オリンピック・パラリンピックが延期となったのは残念でならないが、逆に言えばさらに開発期間として1年間の猶予ができたということでもあり、よりブラッシュアップされた技術が披露されることになりそうだ。

2021年はウーブン・シティの建設も始まるほか、UX300eの国内発売、トヨタ×Uberの自動運転ライドシェア車両の導入なども予定されており、大きな話題が飛び交う1年になりそうだ。

(初稿公開日:2020年8月27日/最終更新日:2021年2月18日)

【参考】関連記事としては「【保存版】トヨタ×自動運転の全てが分かる4万字解説」も参照。

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記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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