トヨタWoven Cityが革新牽引【最前線「自動運転×スマートシティ」 第3回】

未完の実証都市で数々のプロジェクトが誕生?



出典:トヨタ自動車プレスリリース

まもなく着工を迎えるトヨタ主導の実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」。着工は2021年2月23日となる可能性が高く、その前後から徐々にまちの概要が明かされていくものと思われる。

Woven Cityでは自動運転関連の取り組みをはじめ、あらゆるモノがつながり生活の質を向上するスマートシティとしての取り組みも盛んに行われることが予想される。


Woven Cityでは実際どのような実証が行われるのか。計画概要に基づいて推測し、その将来像に迫ってみよう。

■Woven Cityの概要

Woven Cityは、静岡県裾野市に位置するトヨタ系列の工場跡地を活用し、自動運転をはじめAIやロボット、エネルギーなどさまざまな実証を行うことができる都市を構築していく一大プロジェクトだ。未来に向けた実証そのものが目的となるため、都市として完成することはない。未完の実証都市だ。

これまでに明らかにされた概要によると、150×150メートルの正方形の土地を1つの区画とし、そこに地上3本、地下1本の道を敷設する。地上の道は、自動運転専用の道と歩行者専用の道、歩行者とスモール・モビリティが混在する道で、地下はモノの移動を担う道となる予定だ。

イメージとしては、トヨタ公式の「Woven Cityイメージビデオ」が分かりやすい。地上の3本の道は、従来の車道や歩道などのように併設されたものではなく、それぞれが独立して編み込まれるように区画化されている。


まちのインフラは全て地下に設置し、住民は室内用ロボットなどの新技術を検証するほか、各種センサーのデータを活用し、AIによって健康状態のチェックなど生活の質を向上させていく。

住民は子育て世帯や高齢者など社会課題を抱える層を中心に、プロジェクトに参画する研究者らが随時生活する。

【参考】Woven Cityのイメージビデオについては「トヨタの自動運転、WovenCityのサンプル動画に密かに映ってる!」も参照。


e-Paletteが大活躍?
e-Paletteであらゆるモビリティサービスを実証

Woven Cityで活躍が予想される代表格は、Autono-MaaS専用EV(電気自動車)「e-Palette(イー・パレット)」だ。公式発表でもWoven Cityでの運行を計画していることが明かされている。

e-Paletteは、多目的利用が可能な自動運転機能を備えた車両で、人の移動や移動販売車、移動型ホテルなど、あらゆるケースでの利活用に期待が寄せられる。

将来的には、複数のサービス事業者による1台の車両の相互利用や、複数のサイズバリエーションをもつ車両による効率的かつ一貫した輸送システムといったサービスの最適化を目指すほか、サービス事業者のニーズに対応した内装を設定することで、移動中にサービスを提供してより有意義な移動時間へ変化させるなど、新たなモビリティサービスの創出に貢献することを想定している。

こうした自動運転モビリティを活用した新たなサービス実証に、Woven Cityはもってこいだ。自動運転車の走行環境が整っているほか、エリアにおける社会受容性も申し分ない。実証都市としてe-Paletteを活用した新たなサービスの可能性を探る企業の参加・協力も得やすく、道路上や公園など、あらゆるシーンであらゆるサービス実証を行うことができそうだ。

例えば、アパレル店が移動可能になれば、複数の店が公園に集まり、ファッションショー型のイベント販売を行うことも可能になる。移動するホテルや診療所、会議所、カラオケルーム、レストラン……など、さまざまな業種と自動運転がどのように結び付き、新たな価値を生み出していくか、可能性は無限大だ。

自動運転システムの検証も

e-Paletteの特徴の1つが、他社製自動運転システムの搭載を可能にしている点だ。開示された車両制御インターフェースを参照することで、他社はe-Paletteに搭載可能な自動運転キットを開発することができるのだ。

e-Paletteにはトヨタの自動運転システム「ガーディアン」が標準装備されており、これが他社製の自動運転システムを監視する役割を担うことで、有事の際に冗長システムとして機能させることも可能にしている。

自動運転開発を手掛ける企業側からみれば、このガーディアンをフェイルセーフとして、自社開発した自動運転システムを検証・実用化することができ、安全性に配慮しながらさまざまな走行実証やサービス実証を行うことが可能になる。

将来、自動運転システムはOSをはじめとするソフトウェアとセンサーシステムなどを主体とするハードウェアの概念が強まり、高い汎用性を備えた自動運転キットを柔軟に活用する時代が訪れる可能性がある。

自動運転サービスに着手する企業は、こうしたソフトウェアやハードウェアを組み合わせて自らが望む自動運転車両を構築できるようになる時代だ。

e-Paletteは、こうした未来を見越した取り組みを可能にするのかもしれない。

【参考】e-Paletteについては「トヨタの自動運転車e-Palette向けの「AMMS」「e-TAP」とは?」も参照。

あらゆる自動運転実証が可能に

e-Palette以外にも、さまざまなタイプの自動運転実証が行われる可能性は高い。例えば、埼玉県熊谷市が取り組んでいる自動運転バスの隊列走行など、新たなサービスの実証の場としても有用だ。

他所では着手しづらい実証も、Woven Cityならば可能になるはずだ。構想段階から抜けきれなかった水面下のプロジェクトがWoven Cityで突如顔を出すことも考えられそうだ。

■地下道でモノの移動?

計画では、敷設した地下道でモノの移動に取り組む方針が明かされている。地下道の規模など詳細は不明だが、宅配ロボットのような小型タイプは地上で、車道を走行する規模の大型タイプが地下となる可能性が高そうだ。

例えば、地下道がミドルマイルを担い、各ステーションにモノを移動し、そこからラストマイルを担う宅配ロボットが各戸へ……といった流れなども想定される。

天候の影響を受けない自動運転専用道となるため、実証・実用化のハードルは低く、どのような利活用がされるのか要注目だ。

■TRI-ADの取り組みも?

トヨタグループで最先端の研究開発を手掛けるTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)も、Woven Cityに大きく関わってくることになりそうだ。

同社は2021年1月、持株会社ウーブン・プラネット・ホールディングスと事業会社のウーブン・コアとウーブン・アルファの新体制に移行する予定で、ウーブン・コアはグループの自動運転技術の開発を引き続き担い、一方のウーブン・アルファはWoven City、Arene、AMP などの新領域に対する事業拡大の機会を探索し、革新的なプロジェクトを立ち上げ推進していく方針だ。

例えば、高精度地図の作成・共有を可能にするオープンなソフトウェアプラットフォーム「AMP」の実証をWoven Cityで行うことはもはや既定路線ではないかと思われる。

高精度3次元地図の作成はダイナミックマップ基盤などとともに各地で実施し、衛星や一般車両から得られる画像データなどをもとに地図情報を生成する技術などを検証しているが、さらなる技術の高度化や、こうした技術をサービスやビジネスに昇華させる取り組みの舞台としてWoven Cityは有用だ。

3Dマッピング技術は建設・建築業やAR(拡張現実)などさまざまな分野に活用可能なため、異業種との協業に向けた取り組みなども進展することも考えられる。

新領域に対する事業拡大の機会を探るウーブン・アルファの主戦場がWoven Cityとなる可能性も高く、引き続き同社の動向に注目だ。

■あらゆるモビリティの実証の場に?

e-Paletteに代表される自動運転車をはじめ、さまざまなモビリティの社会実装を模索する場としてもWoven Cityの活用が見込まれる。

トヨタは2020年12月、新型のFCV(燃料電池自動車)「MIRAI」の販売や、超小型EV「C+pod(シーポッド)」の法人向け販売を開始した。

トヨタは、EVをベースに据えた小型モビリティ戦略として、EVのシェアリングサービスをはじめ、クルマ以外の用途にも活用可能な電池パックの標準化など電池シェアリング、EVをハブに情報がつながるネットワーク化などを掲げている。

車道を走行する超小型モビリティや、歩道走行が想定される電動キックボードなどのパーソナルモビリティの類は電動ベースとなるが、新たな移動サービスの実現に向けては、充電ステーションなどのインフラ整備や明確な運用ルールなどが必要となる。

今後、既成概念を超えたモビリティサービスが登場する可能性もあり、こうした新たな技術やサービスの社会実装を見据えた取り組みも、Woven Cityならば可能になるものと思われる。

さらに、トヨタのMaaSアプリ「my route」を活用し、あらゆる移動サービスを円滑に結び付けていく取り組みなどにも期待したいところだ。

■自動運転時代の道路インフラを模索?

自動運転の安全性を高めるV2I(路車間通信システム)の実証をはじめ、自動運転時代の道路インフラの在り方を模索する取り組みにも期待したい。

多くの自動運転車は、道路インフラに設置された通信システムを活用し、周辺の道路交通に関するさまざまな情報をリアルタイムで入手しながら走行する。交差点の信号情報や歩行者情報、見通しの悪い走行先の情報などを事前に入手することで、安全かつ効率的な走行が実現可能になる。

こうしたV2Iに関するさまざまな取り組みが進められるとともに、既存の道路交通の仕組みを一から見直すような取り組みも行われるかもしれない。

例えば、車道が垂直に交わる従来の交差点は、各車道の走行を制御するとともに歩行者が安全に横断できるよう信号機が備えられているが、未来の道路においては、交差点の信号が撤廃され、自動運転車はV2IやV2V(車車間通信)によって協調走行し、歩行者は別途設けられた横断歩道を利用する可能性もある。

より効率的かつ安全な道路交通の正解は分からないが、分からないからこそ模索・検証することに意義が生まれる。

既存の道路環境では大掛かりな実証はできないが、インフラ作りから手掛けるWoven Cityであればこうした取り組みも可能ではないだろうか。

■スマートホーム作りも?

車両や道路インフラのセンサーをはじめ、まちの各所に設置されたセンサーをビッグデータ化し、生活に役立てる取り組みも進められる。

IoT技術により車両をはじめ住居もインターネット上で密接につながり、スマートホームを構築していくことが想定されるが、どのような情報が生活に利便性をもたらし、質を向上させるか……といったさまざまな検証が行われる見込みだ。

■【まとめ】トヨタ公式発表に注目

現状、あくまで推測しかできないが、まもなくプロジェクト参画企業なども公表され、具体的な取り組みが明かされていくものと思われる。

民間主導のスマートシティ・コネクテッドシティがどのように展開されていくのか、2021年は要注目の1年になりそうだ。

>>特集目次

>>第1回:技術の活用、医療や防犯でも!

>>第2回:官民連携で取り組み加速!

>>第3回:トヨタWoven Cityが革新牽引

>>第4回:海外でも大規模計画が続々

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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