日本神話に「三種の神器」という宝器がある。これが転義され、1950年代には電気冷蔵庫、電気洗濯機、テレビが家電における三種の神器と呼ばれるようになり、急速な普及を見せた。2000年代には、デジタルカメラ、DVDレコーダー、薄型大型テレビが新・三種の神器となったようである。
では、自動車における三種の神器は何だろうか。近年では、ETCやカーナビに加え、ドライブレコーダーやADAS(先進運転支援システム)なども候補に挙がりそうだ。数年後には、バーチャルキーシステムも候補に挙がっているかもしれない。車載機器やシステムが多様化し、新たな神器が次々と求められる時代が到来しているようだ。
では、さらに将来の話となるが自動運転においてはどうか。今回は、自動運転車への搭載が求められる車載機器のベスト5を選定し、それぞれの役割について紹介していこう。
記事の目次
■センサー:LiDAR、カメラ、ミリ波レーダー
周囲の道路状況やクルマ、歩行者などを検知するカメラやLiDAR(ライダー)、ミリ波レーダーなどのセンサーは、自動運転において目の役割を担う重要な車載機器だ。
すでに普及が始まっているADAS(先進運転支援システム)においてカメラの搭載などは進んでいるが、本格的な自動運転車においては、遠方まで高精度な距離測定が可能なLiDARや物体の形状認識が得意なカメラなど、各センサーを複数搭載し、これらのデータを複合的に解析・処理する技術が求められる。
各センサーの開発は加速度的に進められており、高価と言われるLiDARも多くのスタートアップの参入などを背景に高機能化と低価格化が着実に進んでいる。
【参考】LiDARなどのセンサーについては「【最新版】自動運転の最重要コアセンサーまとめ LiDAR、ミリ波レーダ、カメラ」も参照。
自動運転の最重要コアセンサーまとめ LiDAR、ミリ波レーダ、カメラ https://t.co/nv22gd0lr8 @jidountenlabさんから
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■ストレージ:膨大なデータ処理の受け皿に
クルマのコネクテッド化と自動運転化により、各車両が取り扱う情報・データは膨大な量に膨れ上がるものとみられている。一説によると、1台のコネクテッド化された自動運転車が生成する1日のデータ量は767テラバイト超に上るという。
こうした膨大なデータを処理するためには、データの受け皿となる大容量のストレージがまず必須となる。また、蓄積したデータを瞬時に処理する能力や、幾度もの書き換えや過酷な車載環境にも耐えられる耐久性なども求められるだろう。
パソコンにおける主流がHDD(ハードディスクドライブ)からSSD(ソリッドステートドライブ)に置き換わり、大容量化・高性能化が進んでいるのと同様、自動運転においてもこうしたストレージの搭載と高品質化が強く求められることになるのだ。
自動運転分野に注目するメーカーの動きも活発化しており、米ウエスタンデジタルは新型の車載に適したフラッシュドライブなどを続々と投入している。
国内では、東芝メモリ(現キオクシア株式会社)とウエスタンデジタルが2019年5月、岩手県北上市で東芝メモリが建設を進める北上工場において両社共同で設備投資を実施すると発表した。3次元フラッシュメモリの共同開発や市場動向に合わせた共同設備投資など、それぞれの技術競争力強化に向けた取り組みを展開していくこととしている。
【参考】ウエスタンデジタルの取り組みについては「自動運転やコネクテッドカー、革新の鍵は「車載グレードの大容量ストレージ」だ 性能・信頼性の向上も必須」も参照。
自動運転やコネクテッドカー、革新の鍵は「車載グレードの大容量ストレージ」だ 2022年にはクルマ1台に2TB以上のストレージが必要に https://t.co/hGtV9lbRBN @jidountenlab #ウエスタンデジタル #自動運転 #コネクテッドカー
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■通信装置:自動運転車は多種多様な通信システムが混在
カーナビやETCなど、従来の自動車でもさまざまな通信が行われており、最近では、コネクテッドサービスの普及とともに「DCM(車載通信機)」の搭載が加速している。DCMは近い将来標準搭載化が進むものと思われる。
自動運転においては、多種多様な通信システムが混在することになる。車載機同士が直接通信を行い、周囲の自動車の位置や速度などの情報を入手し、必要に応じて運転支援を行う車車間通信(V2V)や、路側機と車載機との通信により、信号情報や交通規制情報、歩行者情報などを入手し、必要に応じて運転支援を行う路車間通信(V2I)、自動運転レベル4以上の無人自動運転で利用される遠隔操作システム、リアルタイムな更新が求められるダイナミックマップなど、あらゆる方法で情報をやり取りし、自動運転の質を高めていくのだ。
現在は専用周波数を用いた狭域無線通信が主流だが、将来的には移動通信システムを応用する可能性が高く、第5世代移動通信システム「5G」の導入に期待が高まっている。
今後、さまざまなサービスが展開されることが予測されるコネクテッドサービスをはじめ、OTA(Over The Air)技術を活用したサービスやソフトウェアの更新なども日常的なものになることが予想される。あらゆる無線通信に対応した機器の搭載は必須の状況だ。
【参考】データ通信については「自動運転とデータ通信…V2IやV2V、5Gなどの基礎解説」も参照。OTAについては「Over The Air(OTA)技術とは? 自動運転車やコネクテッドカーの鍵に」も参照。
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■IMU(方位測位):3次元の角速度と加速度を検出
IMU(inertial measurement unit/慣性計測装置)は、3次元の角速度と加速度を検出するセンサーで、自動運転(自動車)においては主に位置情報を補完する働きを担う。装置としては、INU(慣性航法ユニット)などがこれに当たる。
モノの動きは、その物体の回転量と移動量で把握することができ、ジャイロセンサーが回転を、加速センサーが移動をそれぞれ検出することで、その物体の動きを算出し、データ化することができる。自動運転においては、こうした技術を車両制御や位置情報に活用することでシステムの質を高める。
自動運転においては特に車両の位置情報は重要で、誤差を極限まで低減することが求められる。従来、GPSが主な役目を担っていたが、山間部やトンネルなど受信が困難な場所では測位不能に陥ることも多い。街中においても、カーナビ上で「隣の道路を走っている」ケースなどは、測位の大きな誤差からくるものである。
現在、日本の新しい衛星システム「みちびき(QZSS/準天頂衛星システム)」の実用化が始まっており、こうした誤差は低減されると期待されているが、数センチの誤差が事故を引き起こすことなども想定されるため、車両の位置情報をより正確に把握するためIMUやカメラなどを併用して補完することになるのだ。
自動運転に対応した製品の開発も進んでおり、セイコーエプソンが2018年4月、高性能な6軸センサーのIMUを発表するなど、高性能化が進んでいるようだ。
■GNSS/GPS:衛星信号を用いて位置測定
人工衛星から発射される信号を用いて位置測定などを行うGNSS(衛星測位システム)は、カーナビやスマートフォンでもおなじみの位置情報システムだ。
GNSSの中でも日本で最も利用されているのがGPS(全地球測位システム)で、自動運転においては、自車位置を特定するベース技術として活用される。
今後は、高精度測位を実現するQZSS(準天頂衛星システム)の導入が進み、センチメートル単位の測位技術と高精度三次元地図、カメラやLiDARなどのセンサーを組み合わせた自動運転技術が確立していくことが予想されている。
【参考】関連記事としては「豪州で豊田通商が重要実験…準天頂人工衛星使い自動運転実験!JAXAの「MADOCA」や高精度3D地図も活用」も参照。
■【まとめ】将来の車載機器には、自動運転システムに対するユーザビリティが求められる
従来の神器はあくまで「人が使用するもの」であったが、運転を担う主体が人からシステムに代わる自動運転においては、神器を扱う主体も人ではなくなり、システムにとって神器となる機器が選ばれるようだ。
各種センサーが搭載され、データであふれかえる自動運転車。これからの時代、車載機器には人間に対するユーザビリティだけでなく自動運転システムに対するユーザビリティも求められ、高性能化が図られていくことになりそうだ。
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